CRISIS CORE 〜FINAL FANTASY7〜

   

【The fragment of the memory 〜Cissnei〜】

 

 

 

 突然の敵の強襲をどうにか退けた都市のあちこちから、未だに炎と煙が燻り続けていた。
 そんななかを、シスネは一人の青年の姿を求めて走り抜けていく。
 彼の行き先は判っている。都市の要所要所に仕掛けられている監視カメラから、彼の行動の逐一は記録されている。
 だから、シスネの足は迷うことなく、ジュノン空港へと向かっていた。

 

 

 空港の一隅に、シスネの求める姿はあった。 青年は、足許に広がる大海原に視線を注いでいたが、それでも近づいてくる気配には気づいていたのだろう、不意に顔をこちらへ向けた。
 ソルジャー特有の蒼く光その目が、シスネの姿を映し出す。
 その双眸に宿る色があまりにも澄みきっていて、一瞬、シスネの顔が強張りを見せた。
 自分が感じてしまっている気まずさを青年に感じさせるわけにはいかず、咄嗟に表情をいつもの無表情に改めたが、
「ザックス」
青年にかける良い言葉が思い浮かばず、シスネは小さく青年の名を呼ぶことしかできなかった。
 いつもとはどこか雰囲気の異なるシスネに違和感を感じたのか、青年、ザックスは軽く首を傾げたが、それ以上何かを言及することもなく、ゆっくりとした足取りでシスネの許へ歩み寄り、
「俺はこれからミッドガルに戻るけど?」
いつもと変わらない飄々とした口調で、そう話しかけてきた。
 シスネがこのタイミングでこの場所に姿を現した以上、ザックスにはシスネが今回のバカンスで果たしていた役割について判ってしまっているだろう。それなのに、ザックスはそれに気づかないふりをしている。
 ザックスが望むのは、今までと変わらないやりとり。
 それを瞬時に理解したシスネは、それでもやや硬い表情を浮かべながら、言葉を返した。
「そう・・・・・・私たちはこの騒ぎの後始末よ」
言葉の合間に織り込まれた沈黙をどう捉えたのか、シスネの顔を見つめる双眸に何もかも判っているのだという理解の色が浮かんだ。
 それに居たたまれなさを覚えたシスネは、反射的に言葉を重ねていた。
「ザックス、休暇のことなんだけど、私、本当は・・・・・・」
それすらも判っているという風に苦笑を浮かべたザックスは、優しくシスネの言葉を遮る。
「気にすんなって。おまえはタークスだろ?それに、昔のことはもう忘れた」
さりげなく口にされた言葉に、シスネは言葉を喪ってしまった。

 タークス。

 その言葉がこんなにも自分の心を揺さぶるなんて、シスネは今まで想像したことなどなかった。

 今まで感じたことのない、冷たい凝りのようなものが胸を圧迫する。
 上手く呼吸が出来ず、目の前がくらくらし始める。

 突然の変調に、シスネが混乱し戸惑いを覚えている内に、ザックスは踵を返し、その場から去って行ってしまった。

 

 

 

 

 優しくて・・・。
 でも。
 ・・・冷たい。

 そんな言葉をついつい並べてしまうほど。
 彼のことが。

 ・・・好き。

 だった。

 ある日。
 彼は突然、姿を消した。

 あの日から。
 私の心は宙ぶらりんのまま。

 彼に。
 この想いを伝えていれば。
 何か、違っていたのかな。

 

 

 

 

 彼が、生きていた。彼が本当に生きていた。
 ザックスの姿を自分の目で認めた途端、シスネの心は激しく揺れた。その激しさは、タークスとしての自分など軽く消し飛んでしまうくらい強く、自分でも説明のできない衝動をかき立て、それはやがて行動へと繋がっていった。
 タークスとしてはあるまじき、背信行為。
 シスネがこれまで培ってきた『自分』というものに真っ向から対立する行い。
 それでも、シスネは後悔などしていなかった。いつかそれで自分の身が危うくなったとしても、それでもこの行為は自分にとって誇らしいものだった。

 それから彼は暫くの間、巧みに神羅カンパニーの追っ手をまきながら、逃走を続けた。それがあまりに見事すぎたのだろう、上層部はしびれを切らして、ターゲット捕獲に軍部を投入することを決定した。

 最悪だった。
 本当に最悪だった。
 ターゲットの生死は不問とされている以上、軍部が武力行使に遠慮などするはずがないのだから。

 タークスの面々も本格的にターゲット捕獲に向けて本腰をいれることを決定し、シスネも捜索に出るべくヘリの発着場へと足を運んだ。
 発着場ではすでにヘリが待機しており、シスネが乗り込めばすぐさま飛び立てるようになっていた。
 きゅっと唇を噛みしめ覚悟を決めたシスネが、ヘリへ乗り込もうと一歩踏み出した途端、背後から声がかかった。
「シスネ!」
それは、タークスの主任ツォンの声だった。
「軍も動き出した。やつらより先に確保しろ」
鉄面皮がトレードマークで冷静沈着と名高い鬼の主任だったが、今は違っていた。
 ターゲットを、ターゲットとしてではなく、ザックスとして認めているのが明らかなその顔。そして黒瞳には明らかな焦燥が宿っていた。
 ゆっくり背後を振り返り、それを認めたシスネの口元が微かに緩んだが、
「わかってるわ。軍は加減を知らないもの」
ラザード統括や英雄セフィロスが姿を消してからの軍部の暴走を、いやというほど知っているシスネの口調は苦い。軍部に発見されたが最後、ターゲットの死は確定的なものになってしまうことは、想像するまでもなかった。
「生きたままだ。必ずだぞ」
立場上、シスネよりもより様々なことを知っているツォンの言葉は重く、らしくない焦燥を滲ませた声音はシスネに切迫感を与える。
「おまえがザックスの命を救うんだ」
主任である以上自分が現場に出るわけにはいかず、ツォンはジレンマを覚えながらもシスネに全てを託すしかなかった。
「もちろん」
ツォンに言われるまでもなく、自分はそうするのだと心に誓いながら、シスネは再びヘリに向かって足を運び始める。
 自分の手に彼の命がかかっているのだということを肝に銘じながら、シスネはしっかりと足を踏み出した。

 

 

 ねえ、ザックス。

 私の本当の名前。
 まだ教えてないよ。

 だから。
 今度あった時には・・・。

 

 

END

 

 

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