CRISIS CORE 〜FINAL FANTASY7〜

   

【The fragment of the memory 〜Angeal〜】

 

 

 「セフィロスにでも預けてみるか」
ソルジャーとしての才能が豊かなのは間違いないのだが、何時までも子供めいて落ち着きのない後輩、ソルジャー・クラス2ndザックスの戦闘ぶりを見守っていたクラス1stであるアンジールはぼそっと呟いた。
 セフィロス。
 それはアンジールと同じくクラス1stの地位にある男の名であり、恐らくはソルジャーのなかで最強の称号を与えるのに相応しい人物だった。
 少なくとも、アンジール自身はそう思っていた。何せクラス1stである自分と親友が二人がかりで攻撃を加えても、多分に遊びののりでではあったが、難なくそれを振り払ってしまえるだけの実力はあるのだから。
 以前から、甘さや情の深さといった戦闘には無用の長物であるそれを割り切れず、時には私情を交えて指導してしまう自分よりも、冷徹な眼差しで任務を見据え、鋼の精神でそれを遂行してのけるセフィロスの方が、より後輩の才能を伸ばしてやれるだろうことは推測できていた。
 今もそうだ。
 ザックスは、自分という存在が傍らにいることに安心しているのか、どこか甘えを感じさせる態度で戦いに臨んでいた。
 本人にそう言えば、そんなことはないときっぱり否定されるだろう。だが、それでもアンジールにはザックスが自分に無意識のうちに甘えているのがよく判ってしまった。
 そろそろ次の段階へ押し上げてやらければならない時期に来ているのだと、胸に宿る一抹の寂しさを抱えながらもアンジールは嘆息混じりに自分をそう納得させるしかなかった。
 腰のパウチに入れてある携帯を取り出し、短縮番号を押す。数回のコールの後、涼やかな声音が電話に出た。
『オレだ』
少し横柄にも感じられる口ぶりだが、それを気にした風もなくアンジールは用件を口にする。
「手が空いていたら協力して欲しい」
それだけでセフィロスは用件の内容を察したのだろう、低い笑い声が響いてきた。
『今度は誰だ』
「・・・」
名前を口にするのが何故か躊躇われ、アンジールの返答には一拍間が空いてしまった。
「クラス2ndザックス、だ」
『ほお?例の・・・子犬のザックスか』
アンジールの躊躇いをどう思ったのか、セフィロスの口調に面白いという響きが宿った。
『オレの指導は手加減無しだが・・・。それでも良いんだな?』
おまえの秘蔵っ子を潰してしまうかもしれないぞと冗談交じりに口にされ、アンジールの表情が苦いモノに変わる。
 今までにもこうしてセフィロスに指導を任せることが何度かあったのだが、その何れもが半分失敗に終わってしまったことを思い出す。セフィロスのあまりの強さに自信を打ち砕かれ、使い物にならなくなってしまった者もいるのだ。ソルジャーに志願してくる以上、それなりに自分の強さに自信がある者ばかりであり、セフィロスの圧倒的なまでの強さは時として致命的な毒になるのだった。そして当の本人も口にしていたが、セフィロスの行う指導はかなり情け容赦なく、またかなりの技量が要求されるため、指導半ばにして脱落してしまう者も多かった。
 珍しく、アンジールは逡巡してしまった。その視線が無意識のうちに問題の後輩へと流れていく。
 周囲にいたモンスターをあらかた退治してしまったのだろう、ザックスはどこか暇そうに辺りを見回していたが、アンジールの視線が自分を捉えていることに気づきにかっと笑顔を見せた。
 その状況をわきまえない脳天気な様子に、軽い頭痛を覚えるアンジールだった。
『どうする?』
電話の向こう側で笑いを含んだ声音がアンジールに決断を促す。
「任せる」
声音に含まれる好奇心という色に心を決めたアンジールが端的に切り返せば、笑い声がさらに大きくなった。
『了解した』
それでは後でという言葉と共に通話が途切れる。
 これで肩の荷が半分だけ下りると、携帯を折りたたみパウチに戻しながら、アンジールは軽くため息をついた。

 

 

「アンジールは裏切り者になったということだ」
恐らく苦渋に満ちた決断だったのだろうと思いつつも、それでも何も告げずに自分の元を去っていってしまった友人に苦い気分を覚えたセフィロスは、しかしそんな心情を吐露することなく淡々と告げる。
  その言葉は傍らにいた若者をいたく刺激したようで、若者が強い調子でアンジールがそんなことをするはずはないと否定する。
 何をそんなにむきになるのかと視線をあげれば、翡翠の双眸が未だ幼さの漂う若者の顔を捉えた。
 セフィロスが軽く眉を顰める。目前に佇む若者に何か引っかかりを覚えたのだ。その正体を見極めるためにも、セフィロスは改めて若者に視線を据えた。
 セフィロスの鋭い視線を真正面から受け止めたザックスの表情が、一瞬で強張ったものになる。自分が噛みついた相手が憧れの英雄セフィロスその人であることに、今更ながらに気がついたのだ。
 二人の間に沈黙が落ちること数瞬。
 やがて若者の正体に合点がいったセフィロスの口元が微かに歪んだ。
「おまえが、ザックス・・・か」
以前アンジールが自分に託そうとしていた人間がいたことを思い出し、それが目の前にいる若者であることに納得する。
「何で、俺の名前・・・」
一介のソルジャーにすぎない自分の名前を知っているのかと、不審そうに尋ねてくるその様子に、アンジールの心配が何れにあるのか理解した。理解してしまったことに、セフィロスは今度こそはっきりと苦笑を浮かべ、
「覚えておこう」
短くそれだけ告げると、踵を返した。

 

 

 数日後、自分の指導担当がアンジールからセフィロスへ変わったことを告げられたザックスは、たっぷり数分間その場で硬直してしまった。

 

 

 

END

 

 

フラグメントシリーズTOPへ