〜FINAL FANTASY 7 Advent Children〜

 

【共 鳴】

   

 気がつけば、自分は此処に存在していた。
 一緒にいる二人の『兄弟』も、自分と同じように気がつけば、存在していた。
 何時から此処に存在しているのか、それは判らないけれど、何をしたいのかだけははっきりしていた。

 『母』に会うのだ。
 『母』に会って、しなければならないのだ。

 それは、抗いがたい本能的な衝動。
 それは、自分を突き動かす行動原理。

 それを為すためだけに、『彼』は自分という存在を此処に表出せしめたのだ。
 『彼』の強い意志が、自分たち三人を『ライフストリーム』という広大な泡沫より掬いとり創りあげたのだ。

 その『彼』の囁きはもの凄く遠いけれども、自分たちに『母』に会うための道標を提示してくれていた。

 そしてもうひとつ。
 『母』に会うことと同じくらい強く自分の心に宿る思い。

 それは遙か前方に見える街に居るであろう『兄』に会うこと。
 『兄』に会って、再び『リユニオン』に協力するよう促すこと。

 前回はその『兄』の干渉によって失敗したが、今度こそ成功させる。
 それには、何故か『裏切り者』の『兄』の協力が必要であることを、自分は知っていた。

 『兄弟』たちと『兄』が居るはずの街を一望できる丘に辿り着く。
 その丘に、見窄らしい大剣が一本、街を見下ろすように突き立てられている。

 それを見た瞬間、自分の心が暗黒に染まった。
 それを見た瞬間、虫ずが走る思いに囚われた。

 大剣が、自分たちと『兄』を隔てるものであることが、何故だか理解できた。

 強烈な悪寒。
 激烈な憎悪。

 だから、その思いのまま、大剣を蹴り飛ばす。

 ふと視線を投げると、遙か荒野の彼方に砂塵が巻き起こっているのが見えた。
 それがバイクを駆る『兄』であることが、なんの根拠もなく理解できた。
 顔も姿もまるで知らない『兄』。
 しかし何故だか脳裏にはその顔がくっきり浮かぶ。

 奔放に跳ねた豪奢な金髪。
 魔晄の色を帯びた蒼い瞳。
 そして端正なその容貌。

 その『兄』が、細身の身体に不似合いな大剣を振り上げ、自分めがけてそれを振り下ろす。

 一瞬浮かんだ幻覚に、自然と口元に笑みが浮かぶ。
 何故だかとても楽しい気分になっていた。

 『兄弟』たちに『兄』の存在を教える。
 自分の楽しい心境が伝染したのか、『兄弟』たちも楽しそうに口元を歪めた。
 『兄弟』たちのしたいことが理解できた。
 自分もちょうどそうしたかったところだったから、軽く首肯してみせる。
 その一瞬後には『兄弟』たちの姿は崖上から消え、ちょうど眼下を通り過ぎた『兄』のバイクを追随する形になった。

 『兄弟』のなかでは自分が一番外見上幼かったが、それは関係なかった。
 自分が『兄弟』のなかでもリーダーの立場にあるのは、ごく自然な成り行きだった。
 『兄弟』のなかで、自分が一番『彼』の意志を拾いやすく、また、一番『母』の存在を感じ取れるからだ。
 そして、恐らくこれが一番重要なのだろうが、自分が『兄弟』のなかでは一番『彼』に似ていた。

 眼下では、『兄』が『兄弟』たちに一方的に攻め立てられている。
 『兄弟』たちの強さはかなりのもののはずなのに、『兄』は倒れない。
 困惑しながらも、防戦一方でも、『兄』が倒れる気配は微塵もない。
 さすがに『彼』を斃した『兄』の強さは半端ではなく、紙一重のところで『兄弟』たちの攻撃をかわし続けていた。
 相変わらずのその強さに、自分はとても満足感を抱いていた。

 ふと、首を傾げたくなった。
 自分は『兄』のことを何も知らないはずなのにどうしてそう思うのかと、疑問が浮かぶ。
 しかしそれは次の瞬間にはどうでも良いことだということに気づき、忘れてしまうことにした。

 自分が此処にいるのは、『母』に会うため。
 それ以外はどうでも良いことなのだと、思い出す。

 冷静に『兄弟』たちと対峙していた『兄』の体勢が突然乱れる。
 『兄』の意識が一瞬己の左腕に逸れていた。
 その隙を逃す『兄弟』たちではない。
 次の瞬間には『兄』の手から剣が飛んでいた。

 『兄』に何が起きたのか。
 それが判った瞬間、自分は思わず歓喜の声を上げていた。

 『共鳴』、したのだ。
 『兄』は確かに、自分たちと『共鳴』してみせたのだ。

 勿論それは、『彼』とも『共鳴』してみせたということ。
 『兄』は自分たちの『兄』だという確かな証。

 身体の芯からぞくぞくして叫びたい心地になる。

 『兄弟』たちの興奮も最高潮に達してしまっていた。
 召喚したシャドウクリーパーの群れが、一斉に『兄』に襲いかかっていくのが見える。
 咄嗟に『兄弟』たちに干渉して、召喚を解いてしまう。
 あれしきの攻撃で『兄』が倒れることなどないとは思うが、それでも反射的にそうしてしまった。

 自分の心の奥底で、何かが呟くのが聞こえる。
 −楽しみは最後までとっておくべきだ−

 それに賛同するようにこっくり頷く自分がいた。

 蒼い瞳が自分の姿を捉えている。

 「そう、楽しみは最後までとっておくべきだよね。ねえ、兄さん」
 口元が笑みの形に歪んでいくのを感じた。

 

END

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