〜 ファイナルファンタジー7 〜
光の一切差し込まない深淵。
恐怖しか感じられないような暗黒の底。
そんな底知れぬ暗闇のなか、『それ』は存在していた。
過去も未来もなく、時間の流れすら感じられない深い深い闇のなか、『それ』はただひたすら『機会』を待っていた。
自分をこの暗闇から解き放ってくれる者の到来を。
自分に限りない満足感を与えてくれる者の到来を。
『それ』はただひたすら待ち望んでいた。
◇
トクン。
(トクン)
ここはどこだ。
(ここはどこだ)
トクン。
(トクン)
私は、何者だ。
(俺は、誰だ)
暗闇のなかに響き渡る鼓動、そして木霊する思念。
音も光も存在しない、ただひたすら闇に閉ざされた空間に、『彼』は存在していた。
トクン。
(トクン)
私はどうして、此処に・・・いる。
(俺は何故、こんなところに・・・いるんだ)
闇のなか、力強く響き渡るふたつの鼓動、 同じリズムを刻んでいたはずのその鼓動。
それが徐々にリズムを乱していく。
トクン。
(トクン)
私をこんなところへ追いやったのは誰だ。
(俺はどうしてこんなところに居るのだ)
闇のなか、ゆっくりとだが確実に思考を巡らすその思念、同じことを考えていたはずのその思念。
それが徐々に内容を異にしていく。
トクン。
(トクン)
私をこんな目にあわせたのは・・・誰だ。
(俺を止めようとしてくれたのは、誰だ)
一方は徐々に満ちてゆく怒りの炎に揺らいでいく。
一方は一切の感情を放棄して静かな波動を放っていく。
見事に対照的な反応を返し始めるその思念。
トクン。
(トクン)
私をこのような目にあわせたのは『あれ』。
(俺を止めようと必死になってくれたのは、『あいつ』)
離れゆく思念に同調するように、同じリズムを刻んでいたはずの鼓動もまた互いに離れていく。
トクン。
(トクン)
私は『あれ』を絶対許しはしない。
(俺は『あいつ』に何か言わなければ・・・ならない)
トクン。
(トクン)
私をこんな屈辱的な目にあわせたのは、『あれ』。
(俺が俺であるように守ってくれたのは『あいつ』)
徐々に、だが確実に、怒りを抱いた思念が大きく、そして、落ち着いた波動を放つ思念が小さくなっていく。
トクン。
(トクン)
そう、私は『あれ』を許しはしない。
(俺は『あいつ』に言うことがあった・・・はず)
トクン。
(トクン)
私をこのような目にあわせたその代償を・・・。
(俺は何かしたいことがあった・・・はず)
トクン。
(トクン)
そこで待つがいい。己のしたことの報いがその身に返る日を。
(俺は『あいつ』に会って、何かすることがあった・・・はず)
今や怒りに満ちた思念は思わず耳を塞ぎたくなるくらい大きく響き渡り、静寂に支配されていた暗黒の世界を揺さぶっていた。
それに比して落ち着いた波動を放つ思念は最早意識を傾けなければ聞き取れぬほどに小さく微かなものになっていた。
トクン。
(トクン)
楽しみに待つがいい。もうすぐおまえに会いにゆく。
(俺は・・・・・・何か・・・・・・)
トクン。
(トクン)
私はもうすぐおまえに会いにゆく。
(俺は・・・・・・)
トクン。
(トクン)
もうすぐ・・・だ。
(・・・・・・・・・・・・)
◇
暗闇のなか、『それ』は歓喜に大きく身を震わせる。
今、何かが始まろうとしていた。
END