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≪地下?階−6≫

 災厄に終止符を打つため、黄泉の国を突き進む私たち。襲いかかるモンスターをなぎ払い、立ちふさがる魔王どもを打ちのめし、ついに最後の間へと辿り着く。
 ・・・というのは真赤なウソで、じつは隠されていた抜け道を通り、魔王をすべて避けてきたのだ。
 ちょっとせこい気もするが、正面突破が正義だなどとは思っていない。それに人生の裏街道を歩み続ける私には、こんな手段がお似合いだろう。
 さあ、ついに真のラスボスとご対面だ。


≪地下?階−7≫

 その部屋には美しい女性がいた。しかし彼女が普通の人間でないことは明らかだ。彼女の正体は竜。太古の女神ティアマトを連想させる鱗の女帝、スケイリーエンプレスだ。

 女帝「あの娘はわらわの目となり耳となり口となる。わらわの分身として外の世界を支配するのじゃ。邪魔立ては許さぬ。そなた達はここで死ぬがよい。」

 彼女が全ての元凶だった。そして最後の戦いが始まる。女帝はお供として、魔王ディスペラントと、グレーターデーモン4体をつれている。信じがたい構成だ。だが、ここで負けるわけにはいかない。

 1ターン目。勇者たちの攻撃が炸裂した。シリュンが忍者特有の体術で女帝に攻撃。続くファルナが、対竜効果を持つエクスカリバーで大ダメージを与える。そしてクライスが、ムラマサの圧倒的な破壊力にものを言わせて止めを刺す。
 そのとなりでは、聖なる鎧の加護を受けたリュードと、虎殺しの槍を装備したエレナが、ディスペラントを葬っていた。

 主力同士の闘いは、私たちの一方的な勝利に終わった。しかし伏兵に思わぬ反撃を受けた。グレーターデーモンの攻撃を受けて、2人が麻痺してしまったのだ。

 2ターン目。動ける4人のうち2人が回復にまわり、残る2人で2体の悪魔を倒す。敵は残り2体。一方こちらは回復に成功。
 これは・・・私は勝利を確信した。

 そして3ターン目。完全復活を果たした勇者たちの攻撃で、敵は全滅した。そう、私たちはついに勝利をおさめたのだ。


≪エピローグ≫

 王宮へ向かう私たち。しかしあの領主に会うことを考えると気が重い。ところが、門の側に思いがけない人物が待っていた。マナヤ様だ。その表情から、彼女が本来の自分を取り戻したことがうかがえる。そして私たちは、謁見室に案内された。

 マナヤ「あの女帝の呪縛から、私の魂はようやく開放されました。なんとお礼をいってよいか。あのままでは私の体は女帝のものとなり、その邪気はこの街はおろか、世界全てに悪の影を落としたでしょう。父はこのたびの出来事が不運なめぐりあわせではなく、自らの欲が招いたものだと悟ったようです。統治者の身にありながらアルマールを破滅寸前まで導きかけた愚かさを悔い、修道僧として終生を命を落とした人々の魂の供養に捧げると、今朝早くただ1人旅立たれました。」

 これまで自分の意志で話すことができなかった反動なのか、べらべらとしゃべり続けるマナヤ様。不覚にもウトウトし始めていた私だが、思いがけない話に目を輝かせる。
 なにぃ!? あのおっさんが修道僧になったってことは、上級職のロードから、下級職基本職の僧侶に転職したのか!? やるなウディーン様、男だぜ!
 しかしこの話によると、ウディーン様は何かをやらかしていたようだ。うーむ、こんなところで説明書なしのプレイが響いてくるとは・・・。
 一転して落胆する私を無視して、マナヤ様は話を続ける。まだしゃべり足りないらしい。

 マナヤ「これからは家臣の力を借りて、私がアルマールをより良く治めていかなければなりません。しばらくは辛いでしょう・・・」

 しかし、そういって顔を上げたマナヤ様にかつての幼さはなく、領主としての威厳がそなわっていた。

 マナヤ「父から、改めて皆さんにお渡しするよう報奨を預かっています。それと・・・ この階級章も受け取っていただけるでしょうか。アルマールにおける最高の称号です。そして、ぜひアルマールの復興に力をお貸しください。私に皆さんの自由を束縛する権利はありませんが、またいつなりとここに訪ねてきていただきたいのです。そのたびに私の魂は安らぎを得ることでしょう。」

 マナヤ様は前に向かって歩き始めた。過去の苦しみを忘れることはできないだろう。しかしそれを乗り越えなくては、幸せな未来を手にすることはできないのだから。
 ウディーン様は、過去を見つめることを選んだ。過ちは償わなければならない。罪人が生まれ変わるためには、犯した罪の重さを知らなければならないのだから。
 街にも少しずつ活気が戻ってきているようだ。街の人たちから笑顔が見え始めた。だが彼らの役割も重要だ。苦しみは本人だけの問題ではない。過ちは償える。社会全体がそう考えなければ、苦しむ人や罪を犯した人が、新しい人生を送ることなどできはしないのだから。

 この事件に関わった全ての人が、自分の意志で動き始めた。そう、この世界は危機を乗りこえたのだ。

 その後、マナヤ様や勇者たちがどうなったのかは分からない。あの後パーティが開かれたのだろうが、私はその前に王宮を抜け出したからだ。
 パーティの主役はあの7人だ。一流の詩人や道化師ならば、場を盛り上げることもできるだろうが、詩人気取りの三流道化には何もすることができない。ともに旅をしてきた仲間に挨拶もせず別れるのは辛かったが、あの場所は、そして今の彼らは、私の目にはまぶしすぎる。
 嫉妬?
 ・・・そうかもしれない。それでも彼らと旅ができたことは、私にとって大きな経験であり、誇りだ。

 私はアルマールを離れ、現実世界の我が家へ向かって歩いていく。
 途中で一度だけ振り返ってみた。少しだけ期待していたが、私を追ってくるものはいなかった。
 ・・・これでいいんだ。私はこの世界の住人ではないのだから。この世界での私は、幻に過ぎないのだから。
 この世界は、この世界の住人が築いていくべきだ。そして彼らなら、きっと良い世界にしてくれるだろう。ここは幻想世界。人の夢や想いが生み出す、架空の世界なのだから。彼らの夢、想い、そして彼らの幸せを願う私の気持ち。きっと実を結ぶ日が来ることだろう。

Congratulations!

≪自宅にて≫

 1つの物語は幕を閉じた。しかし残されている謎がある。
 その1つが、掲示板に書き込みをしていた人の正体だ。
 おそらくは平和のために戦っていた冒険者なのだろう。彼らの行動は一貫していた。無理して強敵と戦うようなことはせず、迷宮のからくりを見破ることに専念する。勇者たちが常に戦闘力を発揮できる環境を作り出すことで、女帝撃破に貢献する。
 彼らは彼らなりのやり方で戦っていたのだろう。彼らがいなければ、この冒険は失敗に終わっていたかもしれない。少なくとも、こんなに早く解決することはできなかったはずだ。
 彼らは歴史に名を残すことなく去っていったが、その功績は勇者たちにも劣らない。せめてここに書き記しておきたい。

 もう1つの、そして最大の謎が、マナヤ様にかけられていたハルギスの呪いだ。
 呪いの内容は、「視覚、聴覚、言葉」を奪うというもの。そして女帝は確かにこう言った。

 女帝「あの娘はわらわの目となり耳となり口となる。」

 ハルギスがかけた呪いとは、実は女帝の陰謀を封じるためのものだったのではないだろうか。ハルギスの願いも、世界の平和だったのではないだろうか。
 思えばマナヤ様は、呪いから開放されたことを喜んではいなかった。彼女はハルギスの意図を悟り、あえて自分が犠牲になろうとしていたのではないだろうか。

 何の力も持たないマナヤ様は、自分を犠牲にすることでしか世界を守ることができなかった。
 ハルギスの力は女帝に遠く及ばなかった。だから弱者であるマナヤ様を犠牲にすることでしか、世界を守ることができなかった。
 そして力をもって君臨しようとしていた女帝は、それ以上の力を持つ勇者たちによって倒された。
 結局、力が全てなのだろうか。何かを成し遂げるためには、誰よりも強大な力を手に入れるしかないのだろうか。

 ・・・いや、違う。力がものを言う世界が悲劇を生み出すことは、あの冒険で学んできたではないか。
 罪なき人が犠牲になることで維持されている世界など、幸せであるはずがない。力がなければ何もできない世界では、楽しく暮らせるはずがない。
 ゆえに力が権力となることを許してはならない。世の中は力ではなく、良心と理性に基づく言葉によって動かさなければならない。
 だから私は言葉をつむぐ。人が、言葉が、決して無力ではないことを証明するために。そしてこの物語のような悲劇を、私たちの世界からなくしていくために。
 今の私には無理なことだろう。でも彼らが教えてくれたではないか。人は成長するということを。そして変わることができるということを。

 私には分からない。この世の未来どころか、私自身の未来すらも。
 でも私は知っている。未来の私が、この世の中が、今のままとは限らないということを。



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