唇に、柔らかく温かな感触が広がった。
瞬時に我に返って、アスランは身体を起こし、後ずさりながら口元を手で覆った。
と同時に顔が、身体全体がかあっと熱くなる。
目の前には椅子に体を預け、目元を朱に染めて眠るカガリ。
今、自分が何をされたかも知らないで、無防備に眠っている。
アスランは声には出さずに、何度も何度も心の中で謝った。
だが――――アスランの心臓は驚きと喜びで踊りだしている。
今まで誰に対しても、抱きしめたいとか――――キスしたいとか、
考えた事も思った事もなかったのに、
彼女の前に出ると考えるよりも先に手が伸びる、体が動く。
こんな感覚は初めての経験だった。
これまでは何でもそつなくこなしてきたのに、彼女に対する感情はうまくコントロールできない。
衝動に駆られて、焦って、うろたえて――――
でも顔を見れただけで、会えただけで、嬉しい。
しかし――――意識がない時にこんな風にしてしまうなんて――――
知られたら嫌われてしまうかもしれない。
キラがメンデルから戻って来て、その様子が変で――――彼女をこの艦に呼んだのはアスランだった。
きっと、きょうだいであるらしいキラの事が心配だろうと、そう思って――――
いや、もしかしたら本当はアスラン自身が理由をつけて会いたかっただけなのかもしれない。
キラはカガリを見て、正確にはカガリの手に握られた幼い頃の自分達の写真を見て、
苦しげに顔を歪め、そむけた。
一旦カガリを部屋から連れ出して、泣きそうな彼女に肩を貸して――――
彼女が苦しんでいる時なのに、それにつけこんで優しくして――――いや、つけこんだんじゃない。
いつだって優しくしたいと思っている。
早くキラがいつも通りの笑顔を取り戻し、彼女と向き合ってくれる事を望んでいる。
キラの為にも、カガリの為にも―――
「ん……」
カガリの頭が、身体が徐々に傾いていくのを見て、アスランは慌てて腕を伸ばし、支えた。
手のひらから伝わる、女の子の柔らかな身体――――
アスランは小さく首を振ると、もう片方の手を膝裏に差し入れ、華奢な身体を持ち上げた。
驚くほど軽いのは、決して重力のせいだけではないはずだ。
間近にあるカガリの顔を覗きこんで、起きていない事を確認し、ほっと息をつく。
胸にこみ上げてくる理由の見えない感情を無視して、
アスランはそのままエターナルの通路をゆっくりと進んだ。
紅く色づく唇を、なるべく見ないよう気をつけながら。
冒頭部分でした。
このように、最初はちゃんとアスカガ…というか、アス→カガ描写で始まります。
で。
どーしても「アスキラちゅー」が気になる方へ。
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06.12.29 発行「キスの行方」