しばらくしてアスランは苦笑しながら再び寝室に顔を出した。

その手には皺になったカガリの服があった。

胸元をシーツで覆い、無言で手を差し出すと、アスランは傍まで来てそれを手渡してくれた。

「……ありがとう」

何だか礼を言うのは癪だったが、持って来てもらったのは事実だ。

ムスッとした表情のまま呟くと、アスランは可笑しそうに笑って、カガリの髪を掬うようになでた。

「どういたしまして」

「あ……そういえば……」

手を下ろして立ち去ろうとするアスランを見て、カガリの中にふと疑問がわいた。

アスランはすぐ立ち止まり、振り返ると首を傾げた。

「どうした?」

「アスラン……今日、ずっとここにいたのか?」

休みだったのなら事前に連絡をくれる筈なのに、今回はなかった。

少し不安を覚えて、カガリはおそるおそる尋ねてみた。

アスランは困ったように笑いながら、再びカガリに近寄ってきた。

また腕を伸ばして、今度は頬に触れる。まるで壊れものを扱うかのようにそっと。

「……仕事の邪魔になるから帰れ、と言われた」

「え!?」

「……何だよ」

驚いて思わず大声を上げると、アスランは口をへの字に曲げて、頬を軽くつまんできた。

カガリは顔を顰め、手にしていた服を膝の上に置き、アスランの手を掴んだ。

「いたっ、だ、だって……!」

モルゲンレーテでのアスランはトントン拍子で昇進し続けている、いわばエリートだ。

上司のエリカも一目置いていて、結構アスランを頼りにしている程らしい。

なのにそのアスランが仕事の邪魔だなんて、一体何をしでかしたのだろう。

尋ねようとしたその時、アスランの手が頬から離れ、カガリの背中に回された。

「ア……アスラ……ン?」

ありえないが、何か仕事で大きな失敗をして落ち込んでいるのだろうか。

もしそうなら励まし、元気付けたかった。

カガリの方からも腕を伸ばし、広い背中を優しくなでようとすると、耳元で囁かれた。

「ずっと……カガリの事ばかり考えていて……集中できていなかったから……」

「――う、嘘だろう!?」

「……何で嘘なんだ」

アスランの思いがけない告白にカガリは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

すぐにムッとしたような声が返ってきたが、それでもカガリは信じられなかった。

「だって……!」

仕事でも何でも、ひとつの事に集中したら周りが見えなくなる、時間を忘れて没頭する、 責任感の強いアスランが、

と思うと信じられなかった。

「……ずっと、会っていなかったからだと……思う」

恥ずかしそうにぽつりと呟かれた言葉は、しっかりと抱き合っているカガリの耳に届いた。

ようやく嘘ではない、と思えたカガリはくすぐったいような、笑い出したいような妙な気分を味わった。

あのアスランが、そんなにも自分を思っていてくれたなんて――背中に添えた手に、自然と力が入った。

自分の方こそずっと会いたかった――ありったけの想いをこめて抱きしめると、 逆にアスランの腕は緩んだ。

不思議に思って顔を上げるとアスランは照れくさそうな、困ったような表情でカガリを見下ろしていた。

「……このまま俺に食事を作らせない気か?」

言葉の意味が分からなくて、カガリは首を傾げながら何気なく視線を落とし真っ赤になった。

素っ裸のままアスランに抱きついていたのだ。

「はっ……早く、行って来いっ!」

自分の服とシーツを手繰り寄せて隠しながら早口に叫ぶと、 アスランは声を上げて笑いながら、再び寝室を出て行った。

姿が見えなくなると、カガリは熱のこもった息を思いきり吐き出しながら、 こてん、とベッドに横たわった。

皺になった服が余計くしゃくしゃになるのは分かっていたが、 それをどうこうする気力は今のカガリにはなかった。

そんな事より――アスランが囁いた言葉の数々が、カガリの頭の中で反響する。

嬉しくて恥ずかしくて、ますます熱が上りそうだ。

アスランも自分と同じだった。

ぼんやりしていて閣議室を追い出されたカガリと同じ――

カガリは火照った頬を熱くなった掌で押さえて、思った。

自分も正直に言えば良かった。アスランの事をずっと考えていたんだ、と。










タイトル 「いつもあなたのことをかんがえてる」 R-18

07.8.17発行予定。A5 FCオフ 60P 500円。

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