第3話 猛獣使いの秘訣 〜先輩達の告発の行方〜
跡部と忍足が、誰もいない部室でひっそりと秘め事なんぞをしていた時。
やたら、外が騒がしい事に気がついた。
「おい、忍足。様子が変だぞ? 」
「あ〜? 関係あらへん。集中、集中! 」
跡部は自分の太股を撫でている忍足の手をピシャリと払いのけると立ち上がり、
乱れた衣服を手早く調え、部室の窓を開けると外の連中に声をかけた。
「おい、お前ら。何をしているんだ? 部活はとうの昔に終わったよな? 」
「うわっ! 跡部部長! 」
すでに帰宅しているはずの跡部がこんな場所にいるとは思わないので、慌てふためく
男子生徒三人の姿があった。
その彼等の足元で、うずくまっているのは鳳長太郎だった。
跡部が陽も暮れかけた薄暗い視界の中で、目を凝らして見ると、四人全員が腕や顔に
傷を負っている。
特に鳳は衣服が乱れ、ネクタイも無くなっていた。
さらに口の端が切れたらしく血を流し、白いシャツに赤いシミを作っていた。
「ふ〜ん、リンチやないか? なんや、オモロイ事やってるな〜お前ら! 」
忍足もひょっこりと窓から顔を出して覗いていた。
「そんなんじゃ無いです! ちょっとふざけていただけですよ 」
「そ、そうです。別にたいした事じゃ無いです 」
「先輩達には関係の無い事ですから 」
必死に取り繕う三人に、跡部はぴしゃりと言い放った。
「あ〜ん? お前ら、試合前だよな。テニス部員としての自覚が足りねぇのか?
お前らが何をしようが知った事じゃねぇが。怪我するってのはどういう了見だよ?
その姿で試合に出て、氷帝の恥をさらすつもりじゃねぇよな? 」
「そうそう。テニスプレーヤーにとって身体は資本やからなぁ。そりゃ〜あかんなぁ」
ウンウンなんて、忍足も隣で相槌を打っていたりする。
「責任の取り方は、お前ら一人一人に任せる。とっとと解散しろ! 不愉快だ! 」
跡部の号令で、彼等は慌てて逃げて行った。
後に残された鳳は衣服の埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。
それから、先輩二人に頭を下げると詫びを入れた。
「お騒がせして申し訳ありませんでした 」
跡部は、鳳に対しても他の後輩と同じく、責任をどう取るつもりかを訪ねた。
「試合で勝ちます。それが俺の責任の取り方です。氷帝の一員として、恥に
なるような事は決してしません。誓っても良いです 」
「ほなら、もし負けたらどないするん? 」
きっぱり言い放つ鳳に、忍足がつっこみを入れた。
「何でも先輩方のおっしゃる通りにしますよ。
ところで、ここの部室の鍵は、どうしたんですか? 」
「うっ! 」
忍足はまずいな〜と言う表情で、跡部の顔を横目でうかがった。
「そう言えば、どうしたんだ? 忍足? 」
「あ〜あれや。榊監督が珍しく早く帰ったやろ? それで部室の施錠を頼まれたから、
こりゃ〜良いや。オモロイから使っとけ〜なんてな。部室っちゅーのも刺激があって
燃えるやろ…… 」
口が滑りすぎた忍足は、跡部に思いっきり睨まれていた。
「そうですか。では、榊監督には内緒にしておきますね。
でも先輩方も《 氷帝の恥 》になるような行為は慎んだ方が良いですよ 」
満面の笑みを浮かべ、そう強い口調で言い放つ鳳だった。
再度、礼をしてから立ち去る鳳の後ろ姿を見送りながら、忍足はつぶやいた。
「なあ、景ちゃん。俺ら、今、脅されたんとちゃうか?? 」
「ああ、助けてやった礼も全く無かったなぁ 」
後輩の思わぬ態度に顔を見合わせる跡部と忍足だった。

朝、宍戸亮が登校すると、校舎の玄関口で跡部と忍足がそろって待ち構えていた。
「おい、宍戸。お前、飼い犬にどういう躾をしてるんだよ? 」
「ああ?」
突然、跡部にそんな事を言われても、さっぱり意味のわからない宍戸だった。
自分の家のペットの話が、どうしてここで出てくるのか理解できない。
「そうや。躾は一番大事やろ? なあ、景ちゃん 」
隣で忍足は、したり顔で相槌を打っている。
さらに、跡部は宍戸を睨みながら続けた。
「甘く見ていると飼い犬に噛まれるぜ。痛い目を見てからじゃ遅いからな! 」
「そうそう。噛まれるだけなら、まだしも。尻の毛まで全部抜かれたらしまいやで。
尻の毛だけやの〜て。尻の穴までボコボコに掘られ…… 」
またもや、口が滑って跡部に睨まれる忍足だった。
「とにかく、お前の飼い犬には迷惑しているんだ。きっちり躾しろよ! 」
「そうやで〜、めっさ迷惑や! 」
自分達の言いたい事を好きなだけ言って、去っていく跡部と忍足だった。
(相変わらず、ワケのわからね〜連中だぜ! )
迷惑をしているのは、二人と幼稚舎時代から付き合っている自分の方だと宍戸は思う。
何となく、むしゃくしゃしながら、宍戸が上履きに履き替えていると。
「宍戸さ〜ん、おはようございます。良い天気ですねぇ〜 」
と、登校してきた鳳長太郎が声をかけてきた。
今日の天気と同じくらい晴れ渡った元気な声だった。
思わず、宍戸は接近してきた鳳の頭を拳で小突く。
「な、何するんですかぁ〜? 宍戸さん! 痛いですぅ〜 」
情けない泣き声を出す鳳に、宍戸は首をかしげながら、こう言った。
「う〜ん、なんとなく、な。そんな感じがしたんだよな 」
「何ですか? その、なんとなくって? 」
鳳のそんな問いかけに、やはり宍戸は悩みつつ、「なんとなく…… 」と言う不思議な
理由を繰り返すだけだった。
直観力に優れている宍戸亮は、やはり《 天性の猛獣使い 》かもしれない。
ただし、対、鳳長太郎に対してだけだが。
<第3話 了>
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