1ページ目/全2ページ


  諸国漫遊旅日記〜その1〜





    バラティエ王国のサンジ王子は、従者と世界を旅していた。


   王位を継ぐためには、オールブルーの魚で調理した 《 海鮮フルコース 》 を

    用意しなければならない。


   それが、王家のしきたりだった。

    別に王子にしてみたら、王位はどうでも良かったのだが。


   (だって、女の子と遊ぶ暇が無くなるだろ?

    世界中の女の子が寂しがって泣くじゃないか! ) 《 サンジ王子談 》



   王子が、それでも探索を続ける理由は、オールブルーを自分の目で見てみたいからだった。

   一体、どこにあるのか?

   どんな場所なのか?

   珍しい魚がいるのだろうか?

   毎日、それを思い描いては、期待に胸を躍らせている。

   バラティエ王家の人間は、みんな根っからの料理人(?)だったので、

    王子も血が騒いで仕方無いのだ。


   とにかくオールブルーを見つけるまでは、故郷に帰る事はできない。

   今日も、従者を一人従えて、西へ東へ奔走を続けていた。




   「おい、今日の宿はどうする? 」

   すっかり西日も傾き、辺りの視界も悪くなってきた。

   サンジ王子がそう訊ねると、こんな返事が返ってきた。

   「宿? 森の中だぜ? あるワケね〜だろ? 野宿でもするか? 」

   そう言うと、たった一人のお供は、大きな木の幹にいきなりゴロッと横になった。

   思わず、従者の藻か緑ゴケのような頭を、王子は力いっぱい蹴ってしまった。

   「いて〜なぁ! 何だよ? 」

   「何で野宿なんだよ! 」

   王子が声を荒げて訴えるが、その従者は涼しい顔でこう答える。

   「そりゃあ、森の中だからだな。当然だろ? 」

   「アホか? てめぇが迷ったからだろーが! このクソ剣豪! 」

   王子は国を出てから、ここ数ヶ月の間、絶えず怒り続けていた。

   理由は、この役に立たない従者のせいである。

   名は、ロロノア・ゾロと言う。

   王国最強と言われる剣士であり、その腕を買われて王子の従者となった。

   王族に対して民間人を警護につける事は、かなり異例の出来事である。

   それだけに、確かに剣の腕は一流かもしれない。

   だが、致命的な欠陥が、この男にはあるのだ。

   「街の方角にあった丸い雲を目印にして、ちゃんと歩いていたんだぜ?

    何で着かないのかさっぱりわからねーなぁ」


   「わからね〜のは、てめぇの筋肉脳ミソの方だろ〜が! 」

   頭の血管がブチ切れそうになりながら、必死に拳を握って堪える王子だった。

   この程度でいちいちキレていたのでは、到底このアホとはつきあえない。

   深呼吸して心を落ち着かせると、今晩の野営地を確保する事にした。

   体力だけは腐るほどある鍛錬バカな従者が、筋トレを兼ねながら、焚き火用の枝をあつめたり、

    寝床のために風避けの組み木を作ったりしている。


   その間、王子は小枝を集め火種をつくると、飯の準備を始めていた。

   手元には、先日作っておいた乾燥芋と干し肉がほんの少しあるだけだった。

   他には荷物を漁って、やっと豆のスープの缶詰を2つ見つけた。

   それも明日には尽きるだろう。

   「明日は街に入らね〜と、本当にヤバイからな! 」

   「あ〜そうだな。わかっている」

   そう言うと、ゾロは焚き火のそばに腰を下ろし胡座をかいた。

   寝床の準備は終わったらしい。

   この男の同じような返答は、もう何百回も王子は聞いたような気がする。

   (本当にわかっているのかよ! コイツは! )

   サンジ達は、資金と必要な物資を、使者から街で受け取る手はずになっているのだ。

   オールブルー探しは長旅になるため、このような事が何度も行われる。

   王子が溜め息をつきながら、鍋のスープをかき回し暖めていると。

   すぐ隣から、ガーガーなんて大きなイビキが聞こえてきた。

   (ありえねぇ〜。コイツもう寝てやがる! )

   王子とほんの数秒前まで会話をしておきながら、従者はどうやら熟睡しているらしい。

   その気持ち良さそうな寝姿を見ながら、王子は怒りのあまり全身を震わせていた。

   (俺が国王になったら、絶対にコイツは首にしてやる! )

   (それより、国外追放にして、二度とバラティエには入国させねぇ! )

   (いや、やっぱり死刑だな、死刑! )

   王子は、頭の中で、銃殺だの打ち首だの、ゾロを何万回も殺した後で、本人の背中へ

    必殺技の蹴りをコンボで入れてやった。





                       
          小説マップへ戻る            2ページ目へ進む