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ゾロは巨大な木が生い茂る、薄気味の悪い森の中を彷徨っていた。
幾重にも重なり合った太い枝に隠され、ゾロが上を見上げてみても空は見えず、
太陽の光もこの森の中へは届かなかった。昼だと言うのに薄暗く、前もろくに見えない
有様である。さらに、動物の気配が全くしない。
ゾロは小一時間も歩いているのだが、虫1匹にすら出会っていなかった。
ここで出会うモノと言うと、奇妙な草や木ばかりだった。巨大な口を開けた真っ赤な花が、
ゾロを頭からかじろうとしたり。トゲの鋭いツル草が伸びたかと思うと、ゾロの足に
絡まってきたり。人の頭ほどの巨大キノコが、毒の粉をゾロの顔に噴出したり。
森の木々が次々と襲撃してくる。
ゾロの行く手を森自体が阻もうとしているようである。
(どうやら魔法をかけられた森らしいな。)
(なかなか面白いじゃね〜か。)
西には、《 魔の森 》があると聞いて、ゾロはわざわざ一ヶ月もかけて、交易の盛んな
港町から、ここまでやってきたのだった。
その昔、この森には、性悪な《 西の魔女 》が住んでおり、近隣に住んでいる住人を
震え上がらせていたらしい。
旅人を魔力で惑わせ、一度入ったら生きては出られない、そんな伝説がある森なのだ。
噂なんて物は、時間の経過で変化するので、眉唾じゃないかとゾロも半信半疑だった
のだが。この様子ならば、かなり期待できると、襲ってくる大木を鬼鉄で切り裂きながら
ニヤリと笑う。
ゾロは今までに何度も同じような事に遭遇した経験がある。
そして、必ずこのような場所には、《 秘密のアイテム 》が隠されていたり、
《 重要なイベントが発生 》したりするのだった。
それがこの世界の決まり事になっている。
(まあ〜悪くは無いかもしれねぇ。)
(レベルアップが出来るなら何でも良いさ。)
そんな事を思い、ゾロは剣をふるっていた。
少しさかのぼるが、一ヶ月前の事だった。
立ち寄った港の近くにあるギルド窓口で、職員から、ゾロはこう言われたのだ。
「それ以上、レベルを上げて成長するには、何か特別なアイテムを手に入れるなり、
特殊なイベントを起こすしか無いですよ。
このままじゃあ、経験値はなかなか増えないと思います。」
しかし、ゾロにはどうすれば良いのかわからない。
(特殊な事なんぞ、そう簡単には起きるはずが無ぇ。そんなモン、運しか無ぇじゃね〜か。)
(早く強くなりてぇ〜んだよ、俺は。)
(世界一ってのはまだ遠いのか? )
その時は、曖昧な説明しか出来ないギルドの窓口職員を睨みつけたのだった。
若い小男だったが、脅えて震え上がっていた。
しかし、ゾロはかなりの強運の持ち主である。
その一ヵ月後には、こんな不思議な森と遭遇できたのだから。
襲いかかってくる草と戦いながら、ゾロが前へと進んでいると、前方を鋭いトゲのある
白い荊(イバラ)で完全に塞がれてしまった。
それは雪のように真っ白な荊で、天に届くほど高く伸び、目を細めて見ても奥が
わからないほど密集して生えている。左右を見ても荊だらけで、抜けられそうな道が
見当たらない。
ますます特殊なイベントがある可能性が高くなったようにゾロは思った。
ゾロは腰の鞘から雪走りを抜き、鬼鉄とともに二刀流に切り変えると、荊の塊を
バッサバッサと切り倒し始めた。とにかく前進し続けるゾロだった。
荊のトゲが身体に刺さって、あっという間に血だらけになったが、気にする男ではなかった。
そんな事は旅を始めるようになって、日常茶飯事だからだ。
半日ほど荊と格闘していると、目の前が突然に開け、巨大な白い石でできた塔が現れた。
ゾロは今までいくつかの古城を回っているが、その中でもこれは常識を超えていた。
最も高い尖塔部分は雲に隠され、地上のゾロからは全く見えない。
(何だ? この高さは? てっぺんは空の上かよ? )
そして、年代物で、やたら絢爛豪華な作りなのだ。
ゾロが知る今の城や塔の作りは、戦争を予想して作られる強固な城壁が多い。
しかし、目の前の塔はもっと古い時代。王族や貴族が全盛を奮っていた頃の産物だろう。
戦いの後か、もしくは火災の後なのか、塔の壁の右半分は黒く焼け焦げ崩れていた。
もともとは白亜の宮殿の付属物だったと思うが、くすんだ灰色や茶色へと色褪せ、
草や蔦がからまっている。
(ふ〜ん、化け物でも出そうな感じじゃね〜か? )
(なかなか面白そうだな。)
ゾロは頭に布を巻き、口に和道一文字を咥えると、戦闘モードのまま正面から
突入していった。
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