その3 誕生日の思い出 「楽園へ行きましょう!」 第3話



   何か口内に冷たい物が差し入れられた。

   喉の渇きを覚えた宍戸は、それを全て飲み干した。

   うっすらと目を開くと、自分は、組み木で作られた大きなチェアに腰かけていた。

   良く浜辺で甲羅干しをするために、置いてある物だと思った。

   宍戸は、白いガウンを着せられ、そのすべすべとした布地の肌ざわりは心地良かった。

   両手首には、白い包帯が巻かれ、眠っているうちに手当てが施してある。

   ゆっくりと辺りを見回すと、島にある宿泊施設の二階のベランダにいるらしい。

  星空が一面に広がり、夜の澄んだ空気が、疲れた身体を撫でるように感じられた。

   隣には、黒いガウンを着た鳳長太郎が座っている。

   彼は、手に透明な液体の入ったグラスを持っている。

   それを口に含むと、宍戸に口づけをしてきた。

   口内へ液体が流し込まれて、それが水なのだと理解できた。

   喉を鳴らして飲み干すと、鳳は満足そうに微笑んだ。

  「他にも、何か食べますか? 」

   鳳が指で示す方向には、大きな木製のテーブルがあり、皿に盛られたオードブルや、

   シーフード料理や、果物が並んでいた。

   しかし、宍戸は首を横に振った。あまり食欲を感じる事ができない。今、食べたとしても、

   身体が受け付けそうに無いのだ。

   鳳は、葡萄のような果物を手に取ると、一粒毟って宍戸に差し出した。

   宍戸が、嫌がって頭を振ると、鳳は悲しげな顔をした。

   「……俺からは、もう何も欲しくは無いですか? 

    もう、俺の事が嫌になってしまいましたか? 」

   宍戸は、そんな事は一度も思ってはいなかった。

  「……そんな事は……。」

   宍戸が鳳の言葉を否定しようと口を開けると、彼の長い指が口内へ入ってきた。

   葡萄の粒を宍戸の口へ、強引に押し込もうとする。

  「ウグッ……。」

   宍戸の舌の上で、葡萄の粒が押しつぶされている。甘い果汁が口内へと広がった。

   鳳の長い指先は、愛撫をするように舌と果肉を一緒に揉んでいる。

   宍戸は、呼吸が苦しくなり、何度かむせ込んだ。それから、溢れた唾液と葡萄の粒を

   必死で飲み込んでいた。そうしないと、窒息しそうだったからだ。

  「そうですね。口に入らないのなら、他の場所に食べさせてあげます。」

   宍戸の寝ているチェアのレバーを鳳が引くと、ベッドのように平らになってしまった。

   その上へ、宍戸を押し倒すと、ガウンの裾を捲くって下肢を大きく開いた。

   昼間、何度も虐めた場所を、また指先で押し開く。

   そこへ、新たに取った葡萄の粒をゆっくりと入れていった。五つほど納めた後で、

   今度は、真っ赤ならラズべりーを手に取った。

  「これも、美味しいですよ。」

   鳳は笑顔で、宍戸の体内へと異物を挿入する。

   果汁で濡れて柔らかい葡萄よりも、外皮に小さなトゲのあるラズベリーは強い抵抗が

   あった。性行為で痛んでいる粘膜を刺激されるので、宍戸は、悲鳴を上げていた。

  「うわあああ! 」

   しかし、宍戸は、拒否の言葉を吐かなかった。

   眼から涙を溢れさせて、鳳をじっと見つめている。

   鳳も、彼の苦痛に歪んだ顔を見つめながら、赤い小塊を五つも体内へ詰め込んだ。

   宍戸の体内はいっぱいだったが、指で開くと、また片隅に隙間ができる。

   ここへ、鳳はスプーンで掬った柔らかなマンゴーを詰め込んだ。

  「いっぱい、頬張りましたね。欲張りだな。後は、ちゃんと咀嚼してもらわないと……。」

   鳳は、異物で膨らんでいる粘膜の間へ、強引に自分の砲身を差し入れた。

   強く腰を押し込むと、グチュグチュと卑猥な音をさせて果肉が潰されてゆく。

   かき回すように腰を使うと、宍戸は、涙で濡れた眼を見開いて大きな喘ぎ声を出した。

  「うわあっ! ああああ〜 」

   鳳は、体内で砲身を思うまま動かせるようになるまで、果肉を十分にストロークで潰した。

   それから、ゆっくりと砲身を引き出した。

  滑った粘液が尻の縁から、外へとドロドロと溢れ出す。透明な液体に、白黄色の

   マンゴーの破片や、ラズベリーの赤い果汁が糸のように混じり合っている。

   その赤い筋に、鳳は、昔の事を思い出して眩暈を覚えていた。

   初めて、宍戸を抱いた日の事だった。

   宍戸は、その時も、苦痛で顔を歪めながらも、一度も拒否の言葉は言わなかった。

   同じように涙を流しながら、歯を食いしばって痛みを堪えていたのだ。

   「……宍戸さん。嫌なら、嫌って言ってください。

    また、昼間のように俺から逃げ出してください。

    俺をののしって、力を込めて殴ってください。

   そうしないと、俺。……宍戸さんの事をいつまでも忘れる事が出来ません。」

   鳳は、涙を流していた。

   下になっている宍戸の頬に、彼の暖かな涙が滴り落ちてくる。

   鳳は、嫌われてしまうつもりなのだ。

   自分から、宍戸に振られる覚悟で、こんな真似をしているらしい。

   「お前……。」

   どうして、こんなに彼は不器用なんだろうか? 

   そして、なぜ、こんなに自分に自信が持てないのだろうか?

   宍戸は、彼を嫌った事など一度も無かった。

   「何で俺が……長太郎の事を嫌いにならないといけないんだ? 

    どうして、俺がお前を好きな事を信じてくれない? どうしたら、理解してくれるんだ?

   俺は、お前になら、何をされても嫌じゃ無い。

   嫌いな人間に、こんな風に抱かせたりしない。

   こんな事を……お前以外の人とする事は、一生無いよ。

   この先も、ずっと長太郎だけだ。」

   そう言って、宍戸は、鳳の涙を指先で拭い取った。

   それから、優しく彼に顔を近づけて頬づりをし、柔らかな口づけをした。

   昼間、逃げたのは、ただ恋人が変わってしまったようで、怖かっただけだ。

   しかし、この涙を流している男は、確かに愛して止まない自分の恋人だと、

   宍戸は思い、安堵していた。

   彼は、何も変わっていなかった。

   そんな彼を泣かせてしまったのは、自分の責任だ。

   宍戸は、恋人の首へと腕を回した。それから、下肢を絡めて、緩やかに腰を使った。

   果肉と果汁が溢れ出して、二人の腹を汚したが、宍戸はかまわずに下腹部を

   動かし続けた。

   自分は、鳳から、苦痛だけを感じているわけではない。

   喜びも快楽も感じているし、彼が強く抱きしめてくれるたびに、愛されている事への

   幸福も感じている。

   鳳にも、それを理解して欲しかった。

  「長太郎、ちゃんと見てくれ。俺の身体が、お前を拒絶しているか? 

   お前が欲しくて、こんなになっているのに……。どうして、俺の気持ちを疑うんだ? 」

   宍戸の砲身は、夜空を目指すように、大きくそそり立っている。ほんの少し尻を強く

   突かれると、間違い無く出してしまうだろう。

   昼間も、鳳に尻を責められながら、何度も泣きながら射精している。

   彼に抱かれる行為は、決して嫌いでは無いのだ。

  「長太郎。もっと強く俺を抱いてくれ。もっと、俺を責めてくれ。

   お前が、間違いなく俺の物だと感じさせてくれよ。」

   鳳は、涙を流したまま、宍戸に促されて自分からも腰を突き込んできた。

   宍戸の体内へ、繰り返し太い楔が打ちこまれてゆく。

   喘ぎ声をあげる宍戸へ、鳳も、鼻を啜りながら、言葉をかけていた。

  「宍戸さん、気持ちが良いんですね? 俺に抱かれるのが、嬉しいんですね?

   俺も嬉しいです。貴方をもっと感じさせてあげたい。俺も、貴方を全身で感じたいです。」

   二人で星明かりの中で、強く抱き合いながら、何度も狂おしく口づけをかわしていた。

   最初に、部室で抱き合った日と同じだった。

   みんなが帰宅してしまった部室で、夜の更けるまで、二人で快楽を共にしたのだ。

   その日の思いを二人とも思い出していた。

   一生、一人の人だけを愛し続けようと、心から誓った日だったのだ。


                        ★


   疲労した二人は、仲良く並んでチェアに寝そべり、星を見上げていた。

   全身が心地よく痺れており、しばらく動けそうも無かった。

   お互いの身体をそっと撫でながら、同じ夜空を眺めている。

   排気ガスで汚れてしまった東京の空では、決してお目にかかれない見事な星空だった。

   隅から隅まで、輝く星で埋め尽くされて、今にも、自分達の胸元へ零れ落ちそうに

   なっている。 これだけ、密集している星達が、実際は、何万光年も離れて一人きりで

   輝いているとは信じられない話だ。

  「……長太郎。お前は、留学して遠くへ離れてしまったら、

   心まで俺から離れてしまうのか? 」

   宍戸のそんな呟きに、鳳は、大きく頭を横に振ると、力強く答えた。

   「そんな事は絶対にありません。俺は、ずっと宍戸さんを思っています。

    もし、宍戸さんと別れる日が来たとしても。俺の気持ちは永遠に変わらないと

    思います。」

   そんな鳳の言葉に、宍戸は、優しく微笑んだ。

   「長太郎。俺だって同じだ。お前がドコにいても。俺はお前の事を思っているからな。」

   鳳は、そんな宍戸の言葉に涙ぐんだ。少しだけ息をついてから、こんな話を宍戸へ

   告白した。

   「宍戸さん。俺は、きっと両親に良く似ているんです。彼らと同じ事を宍戸さんに

    していましたから……。

   ……宍戸さん。この島は、子供の頃、俺が父親からもらったものなんです。」



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