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   それは、俺が最も嫌がっている話題だった。

   これまでに幾度と無く、結婚相手に相応しいとされる女性と会ってきたのだ。まだ、中学生だと

   言うのに、見合いが何十回
も行われているなんて、宍戸亮が知ったら、驚くに違い無かった。

   成人するまで、俺が生き永らえるのは無理だと、黒沼は見越して、次世代の後継ぎの事を

   心配しているのだろう。
 まだ、十三歳の俺に、妻をもらって、子を作れと言っている。

   俺が非難がましい視線を黒沼に向けても、彼はひるむ様子も無く、さらに続けた。

   「鳳家では、十代で妻を娶る事は、決して珍しくありません。それは、長太郎様も良くご存知の

   はずです。
旦那様も、十四歳でご婚約されております。確か、奥様は、当時、二十歳で……。」

   「そんな事は、俺も知っている。だから、宍戸さんを、ここに呼んだんだ。

   俺の相手は、彼じゃなければ、意味が無い。


   鳳家の後継ぎが欲しいのなら、親戚から養子を取るなり、勝手にやってくれッ! 

   俺は、他の誰とも結婚する気なんて、無いからなッ! 」

   父と母が結婚したのは、家柄のせいでは無い。年が離れていても障害にはならなかった。

   境遇だって、関係が無かった。


   鳳家の結婚には、もともと相性が重要なんだと、俺も、黒沼も十分に承知している。

   俺と宍戸亮には、絶対に何かある。

   俺は、それを五歳の時に感じ取っていた。

   でも、彼も同じように、その感覚を持っていなければ、どうしようも無い事だった。

   俺は、深く溜め息を吐くと、ソファにズルズルと横倒しになった。 そのまま、クッションに頭を

   埋めるようにして、身体を横たえた。


   考えたい事は山のようにあるが、うまく頭が回らない。どうやら、また、熱が上がってきたらしい。

   熱の上昇とともに、身体が強張ったように動かなくなる。それが、ここ最近、頻繁に起きている。

   この状態が、鳳家の嫡子の生まれながらの体質らしい。

   そして、この体質を受け継いでいるのは、親戚筋の宍戸亮も同じだと聞かされている。

   (宍戸さんは、大丈夫なのだろうか? 俺と同じように、身体の異変や、苦しい思いをした事は

   無いのだろうか? 
それとも、これは、当主に生まれた俺だけの特別な体質なのだろうか? )

   「長太郎様、ただ今、お薬をお持ちします。着替えて、どうかお休みください。

   そのままでは、お体に触りますよ。」


   黒沼が、そう声をかけて、メイドを呼ぶために、部屋を出てゆくのを見送りながら、俺は、

   ゆっくりと瞼を閉じた。


   最初は、頭と顔だけがのぼせたように火照っていたのだが、それが、少しずつ身体中に

   広がってゆく。そして、手足に大きな枷をつけられたように、自分の意思では動かせなくなってゆく。


   そんな不自由な身体に、もどかしさを感じる。

   本心を言うならば、今すぐ、宍戸亮の後を追いかけたかった。女々しいかもしれないが、

   謝罪して、彼に許しを乞いたい。


   どんなに自分が、彼を愛しているのか告げたかった。

   誰よりも、大切にしたい。

   彼に幸せになって欲しい。

   俺が、そう願うのは、この広い世界で、宍戸亮だけだ。

   そんな自分の気持ちを理解してもらう前に、彼には死ぬほど恨まれてしまった。

   そして、俺は、二度と、その誤解を解くすべは無い。



     その2〜鳳家の秘密〜の巻へ続く→ 行ってみるその2・鳳家の秘密 



          
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