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   ここ数日、何度か行っている事なので、少しずつ慣れてきていたが、昔は、こんな事は無かった。

   確かに、思春期なので自慰をした事はある。しかし、もともと性欲があまり無い人間だと自分では

   思っていた。


   クラスメートが、ポルノ雑誌を持っていても、見たいと思った事は無かった。それどころか、

   友人が好きな女の話で盛り上がっている最中も、まるで興味が持てなかったのだ。


   自分の興味を持てるのは、小さい頃からテニスだけだった。

   それなのに・・・。

   一体、俺は、どうなってしまったのか?

   俺が、学園を欠席した本当の理由は、これだった。

   身体の火照りが少し治まってから、俺は、シャワーを止めて、浴室から出た。

   タオルで軽く身体を拭うと、濡れた髪にドライアーの熱風を浴びせかけた。

   最近、この長い髪がうっとおしくなっている。 適当に、ゴムをかけて結んでしまった。


   登校できるように制服へと着替えをし、台所へと向かった。

   夏服には、まだ早い時期だが、上着は、暑苦しいので羽織らず、長袖シャツのボタンも

   三つ目まで開いた。


   冷蔵庫の中から、ボトルに水滴がつき、良く冷えているミネラルウォーターを取り出すと、蓋を取り、

   一気に液体を喉へと流し込む。


   例の夢を見た後で、何故か、必ず、喉の渇きを覚えるのだ。 その渇きも日々強くなってゆく。

   いくら水を体内に入れても、またすぐに乾ききってしまう。


   自分の体質が、この数日で変化してしまったような不思議な感覚があるのだ。

   俺は、渇きを堪えると、台所に用意されていた朝食を食べた。母には申し訳無かったが、

   俺が胃へ入れたのは、スープだけだった。 トーストも、卵料理も喉を通らない。


   この一週間で、かなり体重が落ちてしまった。

   テニスをやる者としては、最悪の状態だったので、俺は重苦しい気分になってし
まう。

   それでも、今日こそ、学園へ登校するつもりだったので、部屋へ戻り、鞄の中へ教科書を詰め、

   スポーツバックには、テニスウェアを押し込んだ。その隙間に、初音から強引に渡された携帯電話、

   指輪、写真も乱雑に詰め込んだ。


   今日、学園で、これを全て鳳長太郎に返すつもりだった。

   これで、俺と鳳の接点は、全て無くなるに違いない。


   そうすれば、もう悪夢も見ないで済むかもしれない。

   微熱と喉の渇きに苦しむ事も無くなるかもしれない。

   初音が、俺の上着にこれらの品物を入れた理由は、再び、俺と鳳長太郎を会わせようと

   したからに違いない。


   鳳家の使用人達、黒沼も、寿も、初音も、俺の性格を良く把握しているようだ。

   俺は、中途半端な状態のまま、物事を放置しておく事が出来ない性分だった。

   白と黒をはっきりと示す。

   物事には、勝者と敗者しか、存在しない。

   鳳長太郎の事も、自分の身に起きている事も、きっちりとカタをつける。そうしなければ、

   自分の生活も元通りにならないように思っていた。


   


                                    
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