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   年長組でも、俺に喧嘩を売るヤツは、大抵、この一撃で仕留めてきた。蹴られた相手は、

   今までの敵と同様に、腹をかばうように腰を折ると、地面へとバタリと倒れてしまった。


   そして、次の瞬間、どの子も声をあげて泣くのだが・・・。

   「・・・何で。俺の言う事を聞かないんだッ! メイレイにソムク者は、許さないからなッ! 」

   苦痛で顔を歪めて腹をさすりながら、それでも、ソイツは立ち上がった。かなり根性の座ったガキだ。

   「・・・言う事を聞かないと・・・大変な事になるんだぞ。」

   俺は、さらに力を込めて、今度は、その子の左足を蹴飛ばした。地面に派手な音と土埃が舞って、

   その子は尻持ちをつくように倒れてしまった。


   今度こそ、泣くかと身構えて待ったが、ソイツは歯を食いしばると、必死に立ち上がろうとしていた。

   全く見上げた根性である。

   俺は、ただ、その場所から移動して欲しいだけだったが、相手の少年は、一ミリも動く気は無いらしい。

   「だあ〜もう。良い加減にしろよ! うぜぇんだよ、お前! 」

   俺は、大声で怒鳴った瞬間、シマッタと思っていた。今まで必死で我慢していたモノが、大声を

   張り上げて下腹に力を入れた時に、いっきに崩れてしまったのだ。


   半ズボンの股の部分が、暖かく濡れてゆくのがわかったが、すでにどうしょうも無かった。

   俺は、泣きそうな気分に浸りながら、どうやって、ごまかそうかと頭を巡らせていた。

   お漏らしなんて、ここ、二年ほどしていない。幼稚舎に上がってから、一度も無かった事なのだ。


   両親に知られたら、確実に怒られるし、それ以前に、みっともなくて仕方が無い。

   六歳児の頃から、俺は、誰よりも負けず嫌いで、自尊心が高かったのだ。

   その時、俺の目に飛び込んできたのは、ライトアップされて七色に光っている噴水だった。

    水はかなり冷たそうだったが、我
慢するしか無いだろう。

   俺は、衣服を身につけたまま、噴水の中へ思いっきり良く飛び込んだ。氷水に全身を浸す感じで、

    寒さのあまり歯がガチガチと鳴っている。


   そうやって、俺が必死になって、水に腰を浸していると、また、あの子供が近寄ってきた。

    そして、寒さで青ざめている俺の顔を覗き込むようにして、今度は、こんな事を言ってきた。


   「お前は・・・。俺が、誰だか知らないのか? 俺の事が、怖く無いのか? 」

   「・・・あのなぁ。何で、俺が、お前みたいなガキを怖がるんだよ。

    俺は、怖いモンなんて世の中にねぇよ。」


   お漏らしをして、両親にオシオキを受けるのは、怖いけれど。同じくらいの年の子供を恐れる

    理由なんて無かった。


   俺は、両手いっぱいに噴水の水を掬うと、その子の頭から、冷たい水を浴びせかけてやった。

   「ひゃあぁ〜! 」

   そんな悲鳴をあげて、今度こそ、怯んだ様子で逃げる子供の姿が可笑しかったので、追いかけて

    水をかけていたら、紺色のメイド服を着た女性に呼び止められた。


   そのまま、暖炉のある大きな部屋へ通されて、衣服を着替えさせられた。しばらくすると、テーブルの

    上に美味しそうな菓子が運ばれてきて、食べているうちに両親が顔を出したのだった。


   確かに、その時、俺は、「城が気にいったから、ここから帰りたくない。」と駄々をこねた記憶がある。

   その屋敷の迷路みたいな構造も面白かったし、花畑みたいな中庭の感じも好きになっていたし、

    出てきた菓子も美味かったからだった。


   しかし、初音が言うように、鳳長太郎と仲良く遊んだ記憶では無いのだ。

   俺が部屋で菓子を美味そうに食べている最中、鳳長太郎は、隣で静かに紅茶を飲んでいた

   ような気がする。その時にも、まともに話をした覚えは無かった。
今、考えてみると、あの男は、

   しきりに何か俺に言いたそうな様子で、落ち着きが無かったようにも思える。


   何度か立ち上がろうとしたのか、椅子がガタガタ鳴るので、俺が、隣にいる鳳の顔を見ると、

   慌てたように視線をそらして、押し黙っていた。


   まあ、あの男の場合、部活中でも、鳳邸でも、同じような態度をしていたので、そういう性格なの

   かもしれない。
対人恐怖症やら、口ベタな人間もいるのだろうし、仕方無い話だろう。

   まあ、あの男が、俺を強姦するような、変態野郎だとは、この時には、気がつかなかったわけだが・・・。




          その3 〜鳳長太郎の贈り物〜の巻へ続く→ 
行ってみるその3・鳳長太郎の贈り物


        
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