欲望の果て その3「戦士の休息」



   犬のように四足で、尻を高く掲げながら、エドワード・エルリックの頭の中は、混沌としていた。

   まるで、大嫌いなミルクの風呂にでもつけられたように、真っ白で、粘着質で、ドロドロと蕩けた

   ような感触に身体が浸っているのだ。

   涙で滲んでぼやけている瞳で周囲を見ると、まだ、ロイ・マスタング大佐は、エドワードの股間に

   顔を埋めていた。

   大佐の熱くて長い舌が、自分の身体の奥まで入っているのがわかった。

   何度も、襞を舌先がくすぐっている。

   それと同時に、大佐の手の中で自分のペニスが扱かれている事にも気がついた。

   大佐の細く長い指が、硬くなった砲身を摩り、エドワードが漏らしてしまった先走りの汁に

   塗れていた。

   いつもは、発火布で出来た手袋を着用しているので、彼の素手を見たのは、ベッドの中が

   初めてだった。荒仕事をしている軍人の手と言うよりも、整えられ傷一つ無いそれは、芸術家の

   指先に近いものだった。

   その指が、しなるような動きをしながら、巧みにエドワードの砲身を揉んでいる。

   「うう、気持ち良い。気持ち良い。気持ち良い。)

   すでに、エドワードは快楽の証を吐き出したくて堪らなかったが、歯を食いしばって必死で

   耐えていた。

   まだ、大佐にそうされてから五分も経っていない。

   早漏すぎると、馬鹿にされるのが嫌だったからだ。


   「出しても良いが、シーツを汚されるのは困る。」

   エドワードの身体の疼きに気がついた様子で、大佐はそう言うと、腹ばいになった。

   寝転んだ大佐は、そっとエドワードの砲身へと口をつけた。快楽のために、はちきれそうに

   なった砲身が、暖かな粘膜にねっとりと包まれてしまう。

   大佐は、そうしてから、自分の右手の人指し指をエドワードの尻穴へと差しこんだ。

   細い指は、ピンポイントで前立腺を探っている。

   エドワードは、堪らず細い悲鳴を上げていた。

   そうされたのは、前回を含めて二度目になる。

   前は、その前立腺への刺激のせいで、エドワードは暴れて、仮眠室の備品を破壊したのだ。

   今は、両腕を拘束されているので、身動きが出来ない。

   エドワードは、泣き声を上げながら、大佐の攻撃から逃げようと尻を激しく振っていた。


   「かなり感じているようだな。それは苦しいんじゃない。気持ち良いんだよ。わかるか?

   少しくらい辛くても、絶対に逃げるな。もっと、感じろ。

   そうすれば、今日は後ろでもイケルぞ。」

   大佐は微笑むと、エドワードの尻を左手で固定し、さらに激しく右手の指を動かした。


  「ア、アンタも……尻、犯られてみろよ。イケるかよ、こんな場所で! 」

   そうエドワードがうめくように言うと、大佐は、こんな呟きをもらした。


   「そうか? 気持ち良いはずなんだがなぁ。前立腺を弄られて射精しない男なんて、

   いないはずだが? 」

   大佐は確信をもったように、指を二本に増やし、素早く抜き差しを始める。

   指だけで、エドワードをイカセルつもりだったのだ。


   「うわっ! 嫌だ! 止めろッ! 」

   そんな叫び声にもかまわず、大佐は、エドワードの細いペニスの先を吸い上げた。

   彼の睾丸は硬く張り、もうすぐ射精すると知らせているからだ。

   一際、甲高い悲鳴をあげると、エドワードは仰け、大佐の口内へ、熱い迸りを爆発させた。

   大佐は全てを口内で受け止めた。エドワードの放出が止むと、大佐は起きあがり、口の中に

   含んでいた物を手の平に吐き出した。

   エドワードは、自分の足では、体重が支えられずに、シーツへ腰を落として寝転がってしまった。

   そのまま、荒い息を吐いている。

   そんなエドワードに、大佐は囁いた。


  「いつも思うのだが。君の精液はとても量が多いし、味も濃いな。君は、自慰はしないのかい?

   その年齢では、しないと溜まるだろう? 欲望の処理も大切な事だと思うのだが……。」


  「うるさい、うるさい、うるさいっ! 」

   涙で塗れた顔で、エドワードは、大佐を睨みつけた。

   その苦痛に満ちた表情を見て、大佐は納得する事があった。


  「なるほど。いつも弟と一緒では、自慰も無理か。大変だな。彼の方は、鎧なのだから。

   自分で射精をする必要も無いか? 溜まった兄の欲望など、理解できるはずが

   無いわけだな……。」

   エドワードは、また、同じ<弟>と言う言葉に激しく反応した。

   身体を激しく振るわせながら、大佐を憎らしげに睨んだのだ。


   「うるさい! アンタに俺達の何がわかるんだ。アンタになんか、わかるはずが無い! 

    知ったふうな事を言うなよ! 」

   泣き声に近い、そんな叫び声を聞いて、大佐は、エドワードを抱きしめた。


   「君は、神経をいつも張りすぎだ。どんなに強い戦士でも、選び抜かれた国家錬金術師にも、

   休息は必要なものだ。たまには、全てを忘れて快楽に身を任せるのも良いと思うぞ。」

   大佐は、そう言うと、自分の手の平を湿らせていた、エドワードの精液を、彼の尻へと擦りつけた。

   快楽を放出したばかりで、敏感になっていたエドワードは、その尻への刺激にすぐに反応し、

   腰を揺すってしまう。

   この程度で、少年を逃がすつもりは、大佐には無かったのだ。


   これから、彼を本格的に抱くつもりで、大佐は、自分のズボンのファスナーを外した。


   「最悪だッ! 」

   エドワードが、そう叫んだのは、自分の前に置かれていた大きな姿見に気がついたからだった。

   彼は、胡座をかいている大佐の太股の上へ座っていた。

   大きく足を開かされて、その尻には、大佐の性器を飲み込んでいた。

   大佐が腰を揺する度に、赤黒い砲身が、尻穴に沈んで行くのが、鏡に映っているのだ。


   「偶然だ。別に、このために置いたわけじゃ無いぞ。」

   「嘘つけ。この変態! 」

   実際、大佐の言うとおり、一ヶ月前からずっと鏡はこの場所に置いてあったのだが、

   今までエドワードは、それに気づく心の余裕が無かったのだ。

   初めに抱かれた頃と違い、セックスに少しづつ慣れてきたエドワードは、周囲の様子に

   心を配る事ができるようになっていた。

   エドワードが自ら、腰を上げるようにすると、大佐の太い砲身がゆっくりと外気にさらされてくる。

   エドワードの赤い襞がめくれるように動き、体液が外へと飛び散るのだ。

   逆に、今度は腰を落とすと、自分の体重がかかってしまい、思ったよりもずっと身体の奥を

   突かれてしまう。今まで、こんなに深く入れられた事は無いと思った。


   「騎乗位は初めてだが、辛いかい? かなり深くまで入るだろう? 」

   そう言って、大佐が腰を回すように揺すった。

   快楽の悲鳴を上げる少年の顔を、鏡越しに眺め、大佐は満足そうに笑顔を見せた。


   「その方が良い。もっと、快楽を貪ると良い。これが、君の本当の顔なんだ。

    何ものにも縛られない本当の君の姿なんだ。」

   マスタング大佐は、後ろ手に縛っているエドワードの腕を取ると、それを軸にして、

   激しく腰を使い始めた。

   エドワードは身体を跳ね上げながら、快楽に満ちた表情をしていた。

   緩んだ口元からは、涎が滴り落ち、興奮で薄桃色に染まった胸を汚している。

   その扇情的な肢体が、鏡に映っているのを、エドワード自身も見つめていた。




   <これが、本当のお前の姿だ。眼を背けるな。>

   その言葉は、昔、ロイ・マスタングが若い頃、耳にしたある男の台詞だった。

   軍の養成所にいた頃、寮の同室だった男が、そんな台詞をベッドで、

   いつも自分に言ったのだ。


   <取り澄ましたお前も、上品で落ち着いた優等生のお前も、確かに俺は知っている。

     けれど、本当のお前は、違うだろう? お前は、もっと欲が深い。

     この快楽を貪っているお前の姿が、一番、お前らしいんだよ。>

   その男が、たった一人だけ、本当の自分を理解してくれた相手なのかもしれない、と

   ロイ・マスタングは思っていた。

   その学校でも、軍属になってからも、結局、彼の気持ちを受け入れる勇気は無かった。

   自分には、この世の最高権力を手中にするという、もっと大きな野望があるからだった。

   そんなロイ・マスタングの言葉に、最初に賛同してくれた男でもあったのだ。

   だから、彼が結婚した時も、彼女との間に娘が生まれた時も、ずっと彼の幸せを自分の

   喜びとして、見守り続けるつもりだったのだ。


   「世の中は、うまく行かないものだな。」

   快楽に震えながら、涙を流しているエドワードの頬へ、マスタング大佐は口付けをした。

   自分と同様に、この少年も秘めた思いを胸に宿しているのだと気がついていた。

   それは、自分の恋よりも、もっと苦しく困難な物であるとも知っていた。

   人を慈しんで愛する事は素晴らしい事だ。

   けれど、その相手へ、醜い自分の本性を、全て晒け出す事はあまりにも切ない。

   マスタング大佐は、結局、逃げてしまったのだ。

   最後まで、ヒューズ中佐へ、愛を打ち明ける事は無かった。

   もし、生きているうちに、自分がもっと正直になっていたら、お互いの人生は

   変わったのだろうか? 彼は、もう、この世にはいないので、答えは永遠に闇の中だった。

   エドワードの未来がどうなるのかは知らないが、せめて、彼が自分の思いに

   押しつぶされてしまう前に、手助けがしてあげたかったのだ。


   「エドワード。君は、もっと欲望に忠実になれ! もっと、欲深く、欲しい物を強請ると良い。

     快楽に忠実な、この今の姿が本来の君なんだ。

     愛している相手と、思う存分、抱き合うと良い。」

   マスタング大佐は、エドワードの細い腰を掴むと、激しく上下に揺すり立てた。

   あまりに強く揺さぶられるので、エドワードは息もする事が出来ず、苦しげに喘いでいた。

   ただ、ひたすら、最後の時まで快楽を貪ろうと、エドワードは大きな喘ぎ声をあげていた。

   もう、性行為を拒絶していなかったし、鏡に映る自分の姿に眼を背ける事もしなかった。

   最後に、大佐の迸りを体内に受け入れながら、彼がとても小さな声で呟いた言葉を、

   大佐は耳に捕らえたが、聞かなかった事にした。

   それは、エドワードの本音だからだ。

   彼の誰にも知られたくない本当の気持ちだった。



   「……ああ、アル。大好きだよ。」


   マスタング大佐は、エドワードが震えながら射精している間、ずっと背後から優しく

   抱きしめてあげた。

   もし、この場に、彼の愛する弟がいたのなら、そうしたような気がしたからだった。



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