欲望の果て その2「エドワードと言う少年」



   ベッドで目を閉じているエドワードの上に、上着を脱いだロイ・マスタング大佐は馬乗りになった。

   衣服を全て脱がないのは、ここが、中央司令部の仮眠室であり、休憩中とは言っても、いつ何時

   呼び出しを受けるかわからないからだった。

   大佐は、寝ている少年の華奢な身体へと視線を走らせた。一週間ほど前に関係を持った時には、

   何も無かったはずの白い肌には、至近距離で見ると、複数の小さな傷と、火傷をしたような

   赤い痣がついていたのだ。


   「これは、どうしたんだ? 」

   胸元の赤い痣をなぞるようにすると、エドワードは痛みのためか、顔をしかめた。


  「何でもねぇよ。別にアンタには関係の無い事だ。」

   国家錬金術師であるエドワードが、どういった仕事を軍部から依頼されているのか、大佐は全てを

   把握してはいなかった。しかし、過酷な状態である事は、その身体を見ればすぐにわかる。

   まだ、十五歳でしかない少年が体験する事にしては、あまりにも凄惨な人生だった。

   大佐は、その痛々しい傷跡へと唇を這わせた。

   暖かな舌先で優しく舐めてあげると、エドワードは、くすぐったい様子で可笑しそうに笑った。


  「嫌だよ、そんなヤリ方。いつもみたいに強くて良いよ。別に大した怪我じゃないからな。

   遠慮されるのはこっちが困る。なんか、スゲェ〜腹が立つんだけど? 」

   厳しい視線を向け、エドワードが睨むので、大佐は苦笑した。


  「わかった。リクエスト通りにしよう。痛いくらい過激な方が、君は好みって事かな? 

   今日は、泣きわめくくらい激しく抱いてあげよう。」


  「馬鹿ッ! 誰がそんな事まで言ったよ! 」と叫び声をあげるエドワードを、両手で抱いて

   裏返すと、大佐はベッドに据え付けられた床頭台の引き出しから、隠していた手錠を取り出した。

   それから、暴れているエドワードの両腕を背中でひとまとめにすると、その金属製の手錠を細い

   手首へとかけてしまった。


  「うわっ! 俺は犯罪者じゃねぇぞ。」 

   確かに、それは機械鎧で攻撃されても破壊される事の無い、犯罪者専用の特殊鋼で出来ていた。


  「犯罪者よりも、タチが悪いだろう。君の場合は。」

   涼しい顔で、そんな事を言う大佐は、先週の出来事を思い出していた。

   その日、同じようにこの部屋で抱いたエドワードは、とても興奮してしまい、義肢である右腕を

   振り回したのだ。

   無意識だと思うが、その腕の威力は凄まじく、木製のベッドに付いていたオーバーテーブルが

   一撃で粉砕した。

   大佐は、うまく身体をかわして避けたが、感じる度に暴れられたのでは、自分の身が

   もちそうにない。


  「この部屋の備品は、軍の物なんだ。壊されても、そう何度も新品を請求する事はできない。」

   年間の資金が細かく決められている軍部では、どうでも良いような仮眠室の備品など、請求しても

   後回しにされるだけだった。この部屋にオーバーテーブルがやってくるのは、半年先か、一年先に

   なるのか定かではなかった。


  「それに、こうした方が、君も安心して感じる事ができるだろう? 君はもっと感じた方が良い。

   セックスは、痛いばかりじゃ無いんだからな。」 

   エドワードは、その時の事を気にしている様子で、まだ後ろではイッタ事が無かったのだ。

   イキそうになると、無意識に快感を遮断しようとする。


  「知るかッ! そんな事! 」

   頭をシーツにつけたまま怒っているエドワードの尻を、大佐は両手で持ち上げると、少年の

   小さな窄まりへ視線を向けた。



   子供のような身体をしているエドワードは、十五歳と言う年齢にしては驚く事だが、

   陰毛がほとんど無い。

   最初の頃は、それで彼をからかった事もあったのだが、今では、それが扇情的でとても卑猥

   なのだと大佐は気がついていた。

   陰毛の無い分、彼のその部分は、丸見えになってしまうのだ。

   小ぶりで薄桃色をしたペニスもそうだが、後ろに開いている排せつ口もやはり小さくて

   未成熟なままだった。

   子供の尻穴は狭いだけでなく、筋肉も薄いせいで大変に柔らかい。

   だから、その手の趣味の人間には、重宝されるらしい。

   エドワード・エルリックが、襲われたのは、当人からの話では、ヘッケル大佐が初めてでは無いらしい。

   もっと小さな頃から、何度も同じような事があったそうなので、良くこの小さな身体で耐えてきたと思う。

   最初に抱いた日、確かにエドワードは処女であり、初めての苦痛に苦しんだのだ。

   大佐がそんな事を思いながら、エドワードの尻穴にいつものように指先を近づけて、縁を数回擦る

   ようにすると、その部分は、鮮やかに赤く染まり、ヒクヒクと口を開けてしまった。

   まるで、赤い華が咲き誇るように、大佐には見えた。

   エドワードの拒否的な言葉とは裏腹に、その部分は快楽を期待して喜んでいる様だった。

   しっとりと花びらが濡れたようになり、大佐の指先へと暖かく湿った粘膜が絡んできた。

   最初の頃とは、明らかに異なる身体の反応に、エドワードが少しづつだが、大人になって

   ゆくのを感じて、マスタング大佐は微笑んだ。

   なるほど。確かに、キツイ刺激の方が、君の好みらしいな。ローションを使わずに、こんなに

   早く濡れたのは初めてだ。縛られた方が感じるのか? 」

   エドワードは、その言葉を聞くと、また全身を真っ赤に染め上げた。


  「馬鹿かアンタは! 濡れたとか言うな。この変態! 」

   背を向けている彼の表情は、大佐からは見えなかったが、きっと気の強そうな燃えるような

   眼をして、怒っているのに違い無かった。

   仕事の時も、弟とくつろいている時も、食事の時も、眠っている時ですら。エドワード・エルリックは、

   そんな厳しい表情をしているのだ。

   まだ子供なのだから、もっと屈託の無い顔をしていても良いように大佐は思っていた。

   しかし、彼の置かれた環境が、それを許さないのだ。

   そんなエドワードが時々、不憫に思える事がある。

   彼の世話役をマスタング大佐が買って出たのは、そばに置いて、彼の所業を監督する事が、

   一番の理由であった。

   しかし、東方支部にいた時から、大佐がエドワードを放っておけなかったのは、そんな彼の子供

   らしからぬ境遇と、態度のせいだった。

   大佐自身も幼き日より、軍人となるべく教育を受け、普通の子供らしい生活から遠ざかって

   生きてきた。しかし、それは、あくまでも、自分自身が望んだ人生だった。

   エドワードのように、強制的に選択を迫られた物では無い。

   大佐は、全身を羞恥で赤く染めている少年の秘部へと、迷わず口をつけた。そして、可愛らしく口を

   開けている桃色の穴へと、舌先を差しこんだ。

   付き合っている女性相手にも、このように尻の排せつ口まで愛撫した事は無かった。

   せめて、エドワードを気持ち良く感じさせてあげたいと思ったからだった。

   エドワードへの、そんな感情は、今までの恋人達へ感じた気持ちとは少し異なっているように思う。

   確かに、大佐の股間は今、立ちあがっているので、欲情はあるのだろうが。

   もっと、暖かな何かが、気持ちの中に含まれている。

   どんな過酷な状況であっても、自らの目的のためには、手段を選ばず立ち向かう。

   その真っ直ぐなエドワードの姿勢は、この中央に単身乗りこみ、トップまで上り詰めようとする自分の

   生き様に通じるものがある。


  <目的のためならば、手段は選ばない。>

  <そのためならば、どんな事にも耐え忍ぶ。>

  <前だけ見つめ、決して、後ろを振り返る事は無い。>

  そうして、大佐は今まで生きてきたのだ。

  <この世界で生きる延びる>と言う事は、戦争と同じに違いなかった。

   まだ、幼いエドワード・エルリックの生き方に、ロイ・マスタングは親近感を感じていた。

   兄弟のいなかった大佐は気がついていなかったが、それは身内に対する愛情に、一番近い

   気持ちなのかもしれなかった。




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