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   人狼は、当主の代替わりに合わせ、若い世代だけでテリトリーを作って生活してゆく。

    その家には、次期当主である長兄の京一郎を筆頭に、次男の麗二、そして養子の

    美月と士郎がいた。
東吾は、彼らに未来流をこう紹介した。

   「未来流はお前達の弟になる。新しい家族の一員だ。これから、よろしく頼むぞ。」

   笑顔で迎えてくれた兄達に、未来流はどうして良いのか、わからずに緊張のあまり

   固まってしまった。


   (この人達が家族? 新しい家族? オレの兄さん? )

   未来流が呆然とした顔をして、東吾の後ろにしがみついて隠れていると、いきなり頭をふわっと

   撫でられた。


   次男の麗二だった。

   未来流の柔らかなウェーブのある髪をかきまわすようにして、麗二はひとしきり弟の頭を

   撫でていた。
 東吾よりも、ずっと大きな手の平だった。

   それから、麗二は驚いている未来流を抱き上げた。あっと言う間に、未来流は天井近くまで

    高く上げられてしまった。 


   麗二は兄弟で一番、背が高かった。

   最初は怖くて、麗二の上着に必死でしがみついていた。しかし、未来流は、彼の身体から

   漂うほのかな体臭に気がついた。


   東吾と同じ匂いだった。

   それも、もっと濃厚で男らしい力強い香がする。

   未来流は、それを嗅いでいるうちに、頭がぼんやりとして、とても良い気持ちになって

   しまった。 ふわふわと身体が浮かぶような心地よさを感じて、未来流は麗二をぼんやりと

   見つめていた。


   麗二は、その性格と同じく、大胆で真っ直ぐな瞳で、未来流の顔を真剣に覗き込んでいた。

   「ふ〜ん? お前、すげぇ〜綺麗な顔してるよな。

    お前みたいな美人は初めて見たぞ。

    うん、こんな可愛い弟なら、俺
は、いつでも大歓迎! 」

   そう言って笑うと、麗二は、未来流の頬に優しく口づけをした。


   未来流の頬は、一瞬で真っ赤に染まってしまった。


   今まで多くの男達に、同じような台詞を言われてきた。

   未来流の身体を欲しがった男達は、必ず彼の美しさを褒め称えたからだった。


   しかし、未来流が嬉しいと感じたのは、本当に、これが初めてだったのだ。

   麗二には、他の男達のような邪な気持ちは感じられなかった。ごく普通に、未来流を褒めて

   くれたのだとわかったからだった。


   未来流にとって、この日、麗二はとても特別な人になってしまった。





                                        第9話  了




        
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