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   第5話 〜狼少年と蠢く蛇・その3 獣との対峙〜



   魅惑的な人狼の子供に翻弄され、忘我の際にいた二人の蛇神は、そのトイレにいた四人目の

   男の存在には気がついていなかった。


  彼は、空気に溶け込むように、巧みに自分の気配を隠していたからだった。

  「良い加減にしねぇ〜と。死ぬよ。お前ら……。」

  そう声がすると、突然、トイレの扉が吹き飛んだ。

  辺りに飛び散る木の破片とともに、赤い髪の男はトイレの壁へと飛ばされた。

   そのままズルズルとタイル張りの床へと、崩れ落ちる。


   見知らぬ男に扉ごと、頭を蹴り飛ばされたのだった。

   勢いでよろめく人狼の子供を、その男は抱き上げるとこう言った。

   「弟は返してもらうよ〜お二人さん! 」

   トイレの床で這ったまま赤い髪の男が見上げると、金褐色の髪をした背の高い青年が

   戸口に立っていた。


   日本人離れした彫の深い容貌と、鋭い眼光が印象に残る男だった。

   彼は全裸の少年に自分の着ていた皮製のジャケットを羽織らせると、荷物のように肩に担いだ。

   シャツ一枚になった青年の上半身は筋肉が形良く盛り上がり、剥き出しになった逞しい腕は

   健康的に陽に焼け、この異質なトイレの雰囲気とは場違いなものだった。


  「だ、誰だ? てめぇ……? 」

  赤い髪の男は、床から起き上がれず、身体の痛みでうめく。

  変わりに、便器に腰かけていた大男が立ち上がるが、その腹へ、乱入者はさらに強烈な蹴りを入れた。

  うずくまり便器の中に反吐を吐いている大男を見ながら、乱暴者は大きく溜め息をついた。

  「俺はこの子の保護者ね。青少年育成保護法だっけ? それに引っかかるよ〜君ら。 

   アレは罰金だったかな? それとも死刑か? まあ〜今日のところは、俺のパチンコ代でチャラに

   してやる。じゃあ、よろしくね。」


  そんなトボケた事を言って、右手を差し出してヒラヒラさせているのは、少年の兄だった。

  名前は、八十神麗二(やそがみれいじ)と言う。

  この街で、何でも屋を営んでいる、八十神家の次男坊だった。

  口調は馬鹿みたいに軽いが、麗二の目の光は鋭く、二人の男を睨みつけていた。

  その瞳も、少年と同じく金色に変わる。

  しかし、彼の発する眼光は、少年の艶やかな瞳よりも、ずっと温度が高い。

  まるで、青白い炎が燃えるように男達には見えた。

  二人の暴行者は、彼から強い威圧感を感じていた。肉食獣が獲物を追い詰めた時に良く似ている。

  少しでも動いたら、喉笛へ噛みつかれ、止めを刺されてしまう。

   そんな緊張感で、反撃する事ができなかった。


  男達は怒りで興奮していたが、身体は硬直したようにピクリとも動かなかったのだ。

  麗二が未来流を連れ、トイレから去るまで、二匹の蛇は動く事もできず、じっと息をひそめ、

   身体を硬くしていただけだった。





  麗二は、駅の裏にある路地へ入った。

  この辺りはホテル街が立ち並んでいる一角がある。

  適当に古びたラブホテルを選ぶと、最上階の八階に部屋を借り、未来流を風呂へ入れた。

  温かい湯の中でも、未来流はずっとぼんやりとし、目を閉じたまま無言だった。

  麗二が話かけても返事すらしなかった。

  しかし、身体を拭きベッドへ横たえると、不思議な事が起こった。

  未来流は大きな金色の瞳を開き、視線を麗二へ向けると、うっとりとした表情をして、自慰を始めた。

  両足を自分から左右へ大きく開き、右手をペニスへ当てると擦り始めた。

  「あん、あ、あ…………。」

  喘ぎ声を上げながら、手を動かすと、未来流の手の中でペニスは大きくなっていった。

  さらに左手の指を尻穴の縁へ押し当てた。

  人指し指と中指で、そっと襞を左右に押し開く。

  目の前の麗二には、赤く蠢く粘膜が口を開け、涎のように体液を流すのが見えた。

  「おい、未来流? どうした? 大丈夫か? 」

  麗二がベッドの上へ乗り、弟の肩に手を置いて揺する。

  未来流は微笑むと自慰を止め、肩に置かれた麗二の腕を右手で取り、自分の下腹部へと導いた。

  弟の尻に当てられた麗二の指先には、柔らかい襞が絡みつき、中へ巻き込もうとしている。

  麗二へ熱い眼差しを向ける未来流の瞳は、金色にキラキラと輝き、妖艶な微笑みを

   口元に浮かべていた。


  「ねぇ、オニ〜チャン。ボクのココって凄いでしょ? もうトロトロだよ。もっと奥まで触ってみてよ。」

  そう言って、麗二の指先へ、未来流は自分の腰を擦りたてるようにした。




                             
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