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地球パトロール隊

 山際悦子は同僚の皆川健一と一緒に穏やかな田園地帯を彼の愛犬と一緒に歩いている。四月の穏やかな日差しが、身体に当たり、何とも心地よい時間であった。

 悦子は、都心にあるプロレスラー養成所の見習いレスラーとして勤務していた。新人レスラーの指導に来ている皆川健一と知り合い、交際を始めて半年が過ぎた。彼は、世界の格闘技を極めた真の武道家として名を馳せていた。正義感が強く、誠実で、身体はたくましく、理知的で、まさに、理想の男性だった。将来人生を共にするならこのような人がいい、と悦子は思った。そんなことを考えていた時、健一から悦子のスマートホンに電話があった。

「ねえ、今度の日曜、僕の実家に遊びに来ない?」

 健一から軽い感じの誘いを受けた。実家となれば両親もいるはずである。彼女の心臓は爆発するところだった。いよいよという予感が高まった。それから約束の日が来たという訳である。

 理解不能であるが、彼の実家は人類誕生の時刻の一時間前の敷地に立つ農家という。最初の生物が住む一時間前の時間に住んでいるから誰も住んでいない。何しろ、誰も住んでいないから建物もないし、人類の痕跡は一切合切ない。誰もいないのだから、全部彼の実家と言うことらしい。その時間に行くため、段ボールへ入ること数秒で到着した。何故、もっとマシなデザインのタイムマシンでないのであろう。ただでさえ、訳が分からない状況で、詰らぬ質問はしたくなかった。

「ねえ、君は何ものなの?」

 思わず、この得体の知れない世界を垣間見たとき、健一に発した言葉であった。

 実家の土地には、山や森もあり、小川も流れていた。環境は現代と寸分違わない。しかし、人類の住む前の時間だから誰もいない。理屈ではそうだが、どうにも、悦子は合点できなかった。彼にとっての実家の庭には、その他のいろんな動物が住んでいる。余りにも広い彼の家には、自家用のヘリコプターや飛行機が発着できる基地がある。悦子が見るには、飛行機と言うにはほど遠い、ただの段ボール箱だ。健一の説明では、ナンダナフニャラカをエネルギーとして動くという。どうにも信じがたい。こんなにハイテクな装置なのに何故に段ボール箱のデザインか?

「あの箱で何処へ行くというの?」

 悦子が尋ねると、彼は包み隠さず答えた。

「ああ、あれは父の飛行機でね」

 先祖はM七八星雲の生れとかで、代々地球パトロールを生業とする家系で、ウルトラマンは従兄弟だという。そのことは先祖代々伝承されてきたらしい。父は知り合った科学特捜隊というグループの隊員であった母と結婚し、彼が生まれた。彼も将来は父の仕事である地球パトロールを継ぐことになっている。まるで狐につままれたような話だ。

 将来、一緒に付いて来て欲しいとプロポーズされたら、さすがに考える。地球パトロールをする夫と一生を共にする。なんか、ぴんと来ない。本当にそれが事実なのだとしても。

 公務員である彼の家は、地球連邦の官舎と言う。邪悪な宇宙人の出現に備え、防衛を主として地球基地に駐留している。もちろん、邪悪な宇宙人が現れれば、先頭に立って、戦うことになるのだ。

 そんな説明を受けながら、悦子は、健一が飼っているという柴犬を連れて散歩をしている。

 田園風景が広がる農道の脇に座る。道の両脇には田んぼが広がっている。この田は地球パトロール隊員の食糧を確保するため耕している。どの話も空想みたいで悦子には信じがたかった。

「ねえ、あなたたちって、ここへ来てどのくらい経つの?」

 彼はしばらく考えてから「父で35代目かな」と答えた。

「邪悪な宇宙人が出現しないのに地球パトロールをやっているわけなの?」

「出現しても直ぐに出現する前にタイムトリップし、やっつけるんだ」

「うーん、よく分らない攻撃方法だね」

「ということで、地球パトロール隊員になってください」

「え? プロポーズするんじゃないんだ」

 健一は悦子のパンチで後方へ二〇メートル、はじきとんだ。健一は頬をさすりながら顔を上げると言った。

「やっぱり、将来のパートナーは君しかいないね」

 悦子は倒れている健一に駆けていき、彼を抱き起こすと、キスをした。

 

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