無試験メーター
政府から国民へ発表があった。総理大臣大友大三郎が記者会見の壇上に現れた。
「今日まで、政府は試験制度の抜本的見直しを有識者と共に検討を重ねて参りました。試験制度はより優秀な能力者を選出するという基本的な考えにより行われております。
しかしながら、一方で不正が行われているのが現状です。このようなアンフェアを徹底的に排除することが、無試験メーターにより可能となりました。将来、無試験メーターにより適正な能力者が、適正なポストへ配置されていくことでしょう」
*
政府による新聞、テレビ報道から一ヶ月が過ぎた。大学浪人中の山田太郎の家に政府からメーター設置技官が訪ねて来た。太郎は技官に聞いた。
「試験がないってうれしいですね、でも、メーターってどんなものなんですか?」
「ただの測定器で無能な人には見えません。これです」
技官が差しだした手のひらを見た太郎は何も見えないことにびっくりした。太郎は一呼吸置いて言った。
「随分、立派な装置ですね」
技官は笑った。
「皆さん、何故かそう仰る。手のひらにあるというのは嘘です。まだ、アタッシュケースの中です。本題に入りましょうか。これはメーター細菌A型を人間の皮下組織に植え付けます。すると、この
細菌は皮膚組織の中で、その人の能力に反応し、規則的な配列を組みます。実際、どのような配列を組むのかお見せします」
技官は腕をまくった。
「この〇の模様がそうです」
太郎は先ほどからこの男の顔に違和感を持っていたがその理由が分かった。
男の顔に沢山の〇が付いているではないか。
「私の模様は花丸とか四重○とか、3重○、とか、○が多くないので受け渡しという低賃金の職業に就いています。おまけにちょっとでもサボろうと考えると、直ぐに×になります。そしたら、この仕事なんて、直ぐにクビですよ。今までそういう解雇された技官を何人も見て来ました。×の将来は惨憺たるものですよ」
太郎はそれを植え付けられて、自分の皮膚に×が出現したら、もう一生うだつの上がらない人生をひた走ることになるに違いないと思った。そう考えると、ぞっとした。太郎のその様子を見た技官は胸から拳銃を取り出した。
「わ、何なんですか、それは、僕をどうしょうというのですか?」
技官はにたりと笑った。
「皆さん、この話を聞くと私から逃げるんです。だから、拳銃の所持を許可されております」
「嫌だあ」
技官は逃げていく太郎の背中に向けて拳銃を撃った。逃げていく太郎の首筋に命中した。太郎はよろよろとしながら床に倒れた。
「メーター設置完了」
そう言うと技官は去って行った。
*
太郎が目を覚ますと、床の上で寝ていた。自分の皮膚を見るのが怖かった。体中◯だったら。否、△、否、×があったらどうしよう。太郎の身体が震えた。しばらく、逡巡していたが、ついに、覚悟を決め、目を開ける決心をした。そして、側に置いてあった手鏡を見た。
「…… ? 嘘、何この? って、俺の能力って、メーターでも測定不能と言うこと」
しばらく考えていた太郎は、マジックで身体中の?を花丸に塗り変えた。
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