予告相撲

 

  ある星のある国にオスモウという格闘技があった。地球という星にある日本の国技大相撲ととても良く似ていた。

3代横綱・豪快山はオスモウ取組前日に勝ち手を予告することで知られていた。観客はそれがまた楽しみで取組を見る。

「きょうは上手出し投げだとよ」

「そうそう、すごいよな豪快山は」

観客はそのパフォーマンスに興奮した。ところが、相手力士は必ず繰り出される技を知っているのに防げない。技を受けないように防戦体制になってしまう。1対1の勝負であるのだから技は出されるに決まっているのに、まさに豪快山の思うつぼにハマってしまっている。対戦相手はいつしか予告宣言に恐怖するようになっていった。

ここ1年で力をつけてきた小結・玉鰹がいた。ある日、土俵上で彼は腕を空に上げ人差し指を曲げ、首を45度傾げて言った。

「豪快山の予告がっす、はったりだと言う事をっす、私の技で証明してみせるっす。私にはそれだけの実力があるっす」

 何ともよく分からない言語であった。お互いに倒す技を予告宣言するという前代未聞のパフォーマンスと相成った。自ずと話題は二人の取り組みの勝敗となり、誰もが対戦を望んでいた。玉鰹はまだ幕内になったばかりではあったが、世間の対戦希望に押され、千秋楽、ついにその対戦が決まった。ファンは千秋楽の勝敗の行方で持ちきりであった。そのパフォーマンス効果で場所は連日の満員御礼となった。

「お前、どっちだと思う??」

「それは、横綱だろ?」

「玉鰹も今勢いがあるぞ」

「そうだなあ、横綱になってもおかしくない強さだからな。なあ、対戦、わくわくするなあ」

 会場の観客は二人の取り組みで大いに盛り上がっていった。ついに、観客の興奮と熱気は頂点に達しようとしていた。

千秋楽、その二人の取り組み時間がやって来た。取組が進むにつれ、呼び出しがついに両者の名前を上げた。歓声が天井に反響し建物は振動するほどであった。

二人は土俵際で呼吸を整えると、足早に土俵に上がった。場内割れんばかりの歓声で場内アナウンスがかき消された。豪快山が塩をまき中央に出る。続いて玉鰹も塩を巻き中央に寄る。

豪快山が険しい顔で玉鰹に話しかけた。

「場所前、おまえさんを右上手出し投げで土俵外に思いっきり放り投げると予告したが、あれは止める。おまえさんがとても生意気なんで更に予告を追加することにした。ただ投げるだけではつまらない。勢い良く30メートルほど、飛ばすことにした。あの西の看板にぶち当ててやる。飛んでいるときは気持いいが、当たったときは痛いぞお。まあ、せいぜい怪我をしないようにな。わ、っはははあはあ」

 3代横綱•豪快山は自信に満ちた顔で相手挑戦力士の小結・玉鰹に低い声で言い放った。

「くくくっく、っす。何をおっしゃるっす、横綱。そんなコケ脅しに呑まれるっす、この玉鰹ではありましぇんっす。そんなら、わしはっす、その同じ技で貴方を更に40メートル飛ばすっす。あそこの東の看板にぶち当てて差し上げっす。ほっほほほほおおっす」

 軽妙な、よく分からない会話は設置された集音マイクで会場に逐一流されていた。会場多くの観客が二人の壮絶なやりとりを聞いて更にどよめいた。

  唇を固く結んで横綱を睨む玉鰹は、大きな胸を張ると豪快山の前に半歩出て横綱を威圧した。

「おお、玉鰹関、格下のくせして、随分、大きく出ましたなあ」

 豪快山は前に出た玉鰹の前に、更に一歩踏み出した。そして、素知らぬ顔をして玉鰹のつま先を思い切り踏みつけた。その突然の痛みに驚いた玉鰹は思わず悲鳴をあげた。

「あ、たったあっす、横綱ともあろうお方がっす、なんてご無体なっす、ことをするっす、恥を知るっす」

「ふふふ、だから下っ端は嫌ですねえ。冗談も通じませんからね。ふふ、ちょっとからかっただけではないですか。玉鰹関はとても器が小さいお人なのですねえ。ああ、嫌だ嫌だ。こんなちっぽけな、チンケな、身の程知らずの人間にはなりたくはないですねえ」

  その言葉を聞いた玉鰹は益々怒り心頭でほおを膨らました。

「横綱っす、絶対っす、絶対っす、許しませんっす、この口先男めっす、おととい来やがれっす。このすっとこどっこいっす」

 その会話を聞いた場内は二人の異様なまでのやりとりに沸きに沸いた。

玉鰹は下がりに足早に戻るなり塩を握った。握った塩を思いっきり頭上に振りまいた。そして、仕切り線に立つと仁王立ちする。横綱も鼻息を荒げながら玉鰹の前に仁王立ち。両者、土俵中央で顔、全身を紅潮させた。気合十分。立行司の引き森伊之助が両者を見つめる。

「両者、見合ってえ、待ったなし」

 伊之助が軍配を返した。

と同時、待ってましたとばかり、二人は勢い良く仕切り線を飛び出した。どかっと鈍い音。火花が飛び散る。両者土俵中央で頭を激しくぶつけ合った。

「豪快のっす、さっきのつま先の恨みっす 、晴らしてくれますっす」

「あらららら、まだ覚えていたのですかい。ほんと、おまえさんは根っからの小さい器ですねえ」

二人はがっぷり四つに組んだまま罵り合いをしていた。伊之助が割って入った。

「私語厳禁、取組集中、白居易白居易、商売繁盛」

 伊之介も興奮し、支離滅裂な言葉を発していた。

  二人はお互いに右上手出し投げを繰り出した。あまりに繰り出す呼吸があっていたがため、二人は回転をしだした。

「おれおれおれ」

「ほれほれほれ」

 回転が増してきた。中心に竜巻が発生し始め、二人は自分たちが作り出した壮絶な遠心力に耐え切れなくなりつつあった。

「うわああ」「うわっすっっっすすうう」

大きな絶叫を挙げたとき、玉鰹は西の看板めがけ飛んでいった。豪快山も東の看板に向かって飛んでいった。二人は勢い良く看板にぶち当たり、木っ端微塵に砕け散った。伊之助が走って両者の落下地点に行った。両者の遺体を確認した引き森伊之助が、ゆっくり間を開け声を上げた。

「両者、いたみわけえ」

 千秋楽、世紀の一番、予告宣言通りの技で、相手をぶちのめし、両者の威厳は保たれたのであった。しかし、両者、体中の骨が細かく砕け散り、骨は会場全体に飛散し、その一部は窓から宇宙へ飛んでいってしまったため、完全に修復できたかオスモウ史などないこの星では不詳である。

 

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