治療方針
健康優良男・山田丸男が検査入院した。病気らしい病気をしたことがない山田はかつてないほど大がかりな手術を受けることになった。執刀は世界的な進行性なんじゃらもんじゃ病の権威である医学博士・桃川金太郎によって厳粛かつ荘厳に執り行われることになっている。
診察室では桃川金太郎の一番弟子と言われている遠山金四郎医師と山田が対峙している。
「先生、私の、その、なんじゃら、何とかという病気は治るのでしょうか?」
「幸いなことに今のところ、増悪の兆候がありません。症状もまだ、幸いなことに出ておりません。まったく、不幸中の幸いというのでしょうか」
遠山医師はそこまで言うと、天井を仰ぎみた。そして、8秒後、その目をやっと山田の方に向けた。
「ですが、山田さんは検査数値を見るかぎり、ことごとく、全く持って不健康の極めつけです。私も長く医師を続けておりますが、これほどの数値は初めてです」
遠山医師はそこで声をつまらせた。
「はっきり申し上げるのは酷かもしれませんが」
山田はすでに聞く覚悟を決めてきた。
「そんな、覚悟はできておりますので、どうか、包み隠さずお教えいただけますでしょうか?」
「覚悟ができておりましたか、では」
遠山医師はまた言葉をつまらせた。天井を仰ぎみて考えているような仕草をしている。たぶん、どういったら良いのか、慎重に考えているのだ。なんと思慮深く信頼のおける医師であろう、と山田は感謝の気持ちでいっぱいになった。
「では、申し上げましょう。言いにくいことではありますが…山田さん、実に残念です。既に手遅れなのです。回復の望みも、治療方法も今のところ何もありません」
山田は我が耳を疑った。治る望みがないことを専門医から宣告されたのである。事実上の死亡宣告であった。
「そ、そうですか、分かりました。それで、私の余命はどのくらいなのでしょうか?」
「山田さんは1957年生まれで54歳でしたね。もって、あと40年、早くて30年というところでしょうか」
「え? え? 先生、よく聞き取れませんでしたが…」
「今年は2011年ですから、万全のスタッフ体制を敷いて手術予定日は早いほうを取って、2041年の今頃ということで手術予定を入れておきます。まあ、そのころには治療方法も見つかって優秀なスタッフも揃っていることでしょう」
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