ボクサー

 

 

 プロボクサー近藤真一が対戦する相手の男は、成田健三という。対戦前の対談で異様な敵意をむき出していた。

「近藤、ぶっ殺してやる!」

 成田は30分の対談中20回以上叫んでいた。対談終了後、ジムの会長が近藤に言った。

「奴には気をつけた方がいい。ボクシングを離れても異様な執念を感じる」

 いよいよ対戦当日になった。リングで会う成田の目は血走っていた。

「ふふ、きょうこそ、血祭りに上げてやる」

 成田は不適な笑いを浮かべ近藤を睨み付けて言った。1ラウンド開始のゴングが鳴った。

 近藤はいつものフットワークを使って成田の動向を読んだ。近藤のジャブからフック、アッパーの連続が面白いように成田の頭部に決まった。1ラウンドの終盤になると成田の足は早くもふらつき始めた。そして、クリンチを使って近藤のパンチを殺してきた。グラブを近藤の両耳に挟み込む。近藤が振り払うかのようにすると、成田は素早く逃げた。成田は挟み込んだグラブを使って成田の耳を引き裂くように離れた。近藤はあまりの痛さに声を上げた。それに気付いたレフリーが反則を取った。近藤の右耳が5ミリほど裂けていた。1ラウンド終了。

「何なんだ、あいつ」

「厳重に抗議する」

 近藤のセコンドも当然憤慨している。2ラウンドのゴングが鳴った。

 成田は切れた近藤の右耳を集中的に狙ってパンチを繰り出してくる。しかし、近藤のストレートが成田の鼻の間に決まった。成田は踏ん張った体ごと前のめりに倒れそうになった。倒れていく瞬間、一歩踏み出し近藤の胸に肘打ちを入れた。近藤がもんどり打ってのけぞった。そこへ成田が倒れかかっていった。倒れた瞬間、両肘で近藤のみぞおちに打ち込んだ。近藤はまたももんどり打った。

 結局、成田は反則負けになった。当分の間、試合停止という厳しい処分も下った。成田はその処分を巡って会見を開いた。

「はは、近藤、苦しかったろ? まだまだ、こんなもんじゃないぞ。俺の復讐はこれからだ」

 成田が右親指を突き出して挑発した。

 それを見ていた近藤は思い出した。

「あ、仲良し幼稚園の時に一緒だったケン坊だよ」

 そう成田は近藤が幼稚園時代にさんざんボクシングごっこをしていじめた男だった。

 

 

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