久しぶりに見るこの穏やかな町。
変わっている所はほとんどと言って良いほどにない。
しいて言えば新しい家やスーパーが少しばかり建った所だけだろう。



少し町を探索しようと外へ出る。
公園。
学校。
そして…隣の家。


だが一瞬表札を見る事を躊躇った。
…もう香澄は引っ越してしまったのだろうか?


見ようと思うのだがもしも…と思ってしまって見れない。
だけどこのままだと進まない。
だから勢いをつけて顔を表札に近付けた。

『Aizawa』

そう彫られた表札。
それを見た瞬間に広がる安堵感。
まだ香澄は居た。
それが俺にとってはとてつもなく嬉しい事だった。



だけどまだ香澄には会わない。
会いたいけど明日の楽しみに取っておきたい。
どちらにせよ明日になれば嫌でも会えるのだから。
絶対に嫌なんて事はないけどね。





「ただいま。」
「おかえり〜!!どっだったこの辺?」
「全然変わってなかったよ。」
やっぱりね。そう言って母さんはまた『パタパタ』と台所へ戻った。







「もう用意は出来てるの?」
ふと思い出した様に母さんは話し掛けて来た。
「うん。もう出来てるよ。」
当たり前だろ?とその後に言葉を加えた。
「…相変わらず可愛くない態度しかとらないわねあんたは。」
もう可愛いなんて年じゃないだろ…?と内心思う。

「なんで香澄ちゃんみたく可愛くならなかったのかしら。」

「まだ香澄を見てないくせによく言うよ。」
皮肉っぽく言う俺。
確かに可愛げなんて物はないな。
「何言ってんのよ。すごく奇麗になってたわよ?」
今…奇麗って聞こえた気がする。
「…あの香澄が?」
動揺を一生懸命に悟られないように平然とした顔で言う。
「うーん…。なんて言うのかしら…。可愛いんだけどその中にもどこか奇麗さ
もあるのよ。モテそうだわ♪」
その母の言葉は効いた。
とにかく驚いた。
部屋に戻ってからも放心してたぐらいだ。


どうしよう。
香澄に彼氏とかが出来て居たら。
まあいいか。
そうだとしても香澄はもう俺がもらうから。
『フッ…』と笑って俺は布団に潜り込んだ。









次の日俺は少し遅めに家を出た。
香澄と同じクラスだったらいいなぁ…。と都合の良い事考えながら。

だがそう考えて居たら急に『ドンッ』と何かがぶつかって来た。
謝りもせずに誰だよ?と内心怒りながらそいつを睨む。
だけどその子は気付かなかったみたいで急いで走っていった。
その瞬間チラッと見えた横顔。
それは紛れもなく香澄だった。

「香澄!!」

そう呼んだが彼女に聞こえなかったらしくパタパタと走っていってしまった。



…一瞬にして顔が真っ赤になってしまった。
あそこまで可愛くなっているとは思いもしなかったから…。











学校につき担任の風間先生にクラスの説明を聞きクラスのなかに入っ た。
するとその中には香澄らしき女の子。
俺 は一気にテンションが上がった。誰 だって好きな子と一緒のクラスだったら
うれしいはず 。

「今 日はうちのクラスに来た危篤な転校 生を紹介するぞー。入ってこい。」

…危 篤って、あんた一応クラスの担任だろぅ?
「石 川県から来た土屋だ。みんな仲 良くしろよ。」
少し投げ遺りな態度も見れるがまぁいいか。
「み なさんどうぞよろしくお願いいたし ます。」



そ して香澄のほうをゆっくりと見た。




「嘘!! もしかしてあっ君!?」
香 澄の顔が面白い。…驚き過ぎだ。
「あ!!そのボケ顔は香澄か!?久しぶりだなー。全然変わってないのな♪」
俺 はわざとらしく驚いたふりをした。
「ボ ケてないもん!!」


「うんにゃ。転校生君の言う通り香澄はボケだよねぇ?」
お? 結構美人だな。俺のタイプは香澄だけどね。
…この子が付いてい たんだったら大丈夫だったろう。
絶対に近付く男共を牽制しているタイプだ。


「鈴 ちゃん…。」
香 澄はショック(?)を受けていた。そこが また可愛い。
それからハッと気付いたのか俺に聞いて来た。

「ど うしたの?なんであっ君帰って来た の…?」

ま あ聞くのは当然の事だな…。…よ し!!宣戦布告だ。緊張する…。


「あぁ…。 それはな」


俺 が理由を話た瞬間クラスの女子が香澄 の方をニヤっと笑ってみたのは…俺の
勘違いではないだろう


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