《 バッカスのいたずら 》


 
「ウ・ル・リ・ッヒ・さ・まv」

あま〜い呼び声とともに背中に感じたのは柔らかな感触と暖かい体温。
そして、首筋にかかる熱い吐息には・・・。



【金の麦亭】はザールブルグのありとあらゆる情報が集まる場所だ。
主人であるハインツの元には仕事の情報からゴシップまで幅広い情報が入ってくる。
そして情報だけではなく、ここには酒場という性質上人間も集まってくる。
こうしてその事件は起こった。


 
「お疲れ様でした」
   
仕事が早めに終わったウルリッヒを迎えにきたのは彼の新妻であるリリー。
何時もは家で食事をとるのだが、今日はリリーが【金の麦亭】に納品する用事もあり、

そこで食事をする事にしたのです。
 
「納品は終わったのか?」  
「まだですよ。一緒に行った時にハインツさんに渡します」

自然に寄り添って歩く姿は周りの人の暖かな(一部、嫉妬の)視線が
注がれているのですが、本人達はまったく気が付いていません。
夕暮れの光に包まれながら2人は王城からほんのすぐそこにある
その酒場へと向かいました。
 
「よ!きたな。旦那もいっしょか?」  
「こんばんは〜。ハインツさん、これ」  
「おお!相変わらず仕事が速いな。しかも相変わらず出来がいい」

銀貨を受け取ると、そのまま空いているテーブルへと移動をしました。
 
「お!リリーじゃねぇか」  
「あ!ゲルハルト!久しぶりね」  
「ウルリッヒさんも一緒かい」  
「ああ、久しぶりだ」  
「一緒に飲まねえか。後でシスカもテオも来る予定なんだ」

目線でリリーに許可を求められたウルリッヒはそのまま諾の視線を返すと
嬉しそうにリリーが頷き
 
「うん!じゃあ、あそこのテーブルとこっちのテーブルくっつけちゃうね」

そうして、6人ぐらいが座れる席を確保しました。
 
「リリー、久しぶりね」  
「リリー!」  
「シスカさん!イルマも!」

久しぶりにあう、女友達との再開をしばしのおしゃべりで祝いつつ、
各々思い思いの席に着いていきます。
 
「はいよ。おまち」

ハインツの声とともに暖かい湯気とおいしそうな香りの食事がテーブル狭しと並べられ、
ジョッキも同時に置かれていきました。
 
「まぁ。揃ってない奴もいるが、いいだろう。カンパイしようぜ」

ゲルハルトが音頭を取ると、皆がジョッキを掲げ杯をあわせました。



おしゃべりが弾みながら、皆でわいわい食事をするのは楽しいものです。
その後、テオが加わり、また皆で乾杯し、アイオロスが加わり、
珍しくヴェルナーまでもが巻き込まれ、その度に杯が空いていきました。
 
「ほれ、こいつが今年の新酒だ」  
「おお!待ってたぜ〜〜」  
「今日、ゲルハルトとここで飲む約束をしたお目当ての品ね」  
「ああ!コイツがうまいんだ!」  
「そんなに美味しいの?」

少し酒気で顔を赤らめたリリーが興味津々の顔をしています。
 
「ああ。東の国で造られる酒でな。穀物から作るんだよ。   
 前に旅をしている時に一回飲んでな」  
「へぇ〜」  
「なかなかザールブルグじゃ手に入らないんであきらめてたんだけどよ。  
 マスターの知合いが持って来てくれたんだと」

ガラスの瓶に入った透明な液体を見つめ、リリーの瞳は好奇心に輝いています。
 
「ねぇねぇ、ゲルハルト」  
「わかったって。リリーにも飲ませてやるからよ」

新しくもらったコップへ注がれた透明な液体は今までリリーが経験したことの
ないような香りがしています。
 
「ねぇねぇ、これってもしかして強いお酒?」  
「俺はどうってことないけど。シスカ、どうだ?」  
「さぁ?私も大して強いとは思わないわ」

すでにコップの半分ほどを味見したシスカはこともなげにそう告げています。
 
「ふぅん。そっか。じゃあ、いただきます」

二人の答えに安心したリリーはコップの中のお酒をきゅっと飲み干しました。
 
「どうだ?」

ゲルハルトが興味津々の顔で聞くと、『ふぅ』とため息ともつかない息をついたリリーが
顔を上げました。
 
「思ったよりぜんぜんクセがなくておいしいわ!」  
「そうだろそうだろ!。ほら!もう一杯!」

リリーの答えにすっかり気をよくしたゲルハルトはあいたりリーのコップに
なみなみとお酒を注いていきました。
先ほどの問いかけに対して答えをだす人間の人選をミスしたことなどまったく
気がつかずに・・・

一方、ウルリッヒといえばもちろん自分もある程度飲んではいたのですが
万事よく気のきく性格な彼はあいた皿を手一杯のハインツの代わりにさげに行った際に
ハインツと話し込んでしまい、一瞬、リリーから気がそれていました。
もちろん、彼女の友人たちが一緒にいるのですから、
身に危険が及ぶ心配があるわけでもなく
すでにリリーと自分が結婚してからというものかつてのライバルたちが
余計なちょっかいをだしてくるはずもないので、安心、言い換えれば
油断していたのである。

そして、冒頭の場面にもどるのである



 
「ウ・ル・リ・ッヒ・さ・まv」  
「どうした?リ・・・・」

自分のほうに向いた夫の顔を見つめるリリーの瞳は潤み、頬も紅潮しています。
背中に当たるのは柔らかい彼女の体。
そして、熱いというほどに熱い吐息には明らかにアルコールが感じられました。
 
「ウルリッヒ様?」  
「あ、ああ。どうした」  
「なんで、一人でそっちにいるんですか?」

その問いかける声には一抹の寂しさを漂わせていました。
 
「側にいてくれないと、さみしいのに・・・」

ぎゅっと彼にしがみつき、首筋に顔を埋めていきます。
 
「リリー、どうしたんだ?」  
「ウルリッヒ様が一緒にいてくれないから、さみしいの」

そう言ったリリーはウルリッヒの前にくると彼の首に手を回し、
すとんと彼の膝の上に座り込みました。
 
「ふふっ。ウルリッヒ様、大好きv」

先ほどの寂しそうな様子とは打って変わって、ニコっと笑ったりリーは
目の前にある彼の頬に"ちゅ"と音を立てて口付けました。
いつになく大胆なリリーの様子にちらっと後ろで繰り広げられている
酒宴の様子をうかがいます。
リリーはといえば、彼の首に腕をからませ胸元にゴロゴロとなついています。
 
「・・・ま。・・・・様、・・・・ウルリッヒ様!」

後ろのあまりの盛り上がりようにちょっと考え込んでしまったウルリッヒは
リリーが強い調子で呼びかけているのに3回目でようやっと気が付きました。
自分の方を見てくれないので、ぷぅとむくれた彼女に視線をむけると
彼女は目を閉じてキスを催促していました。
 
「リリー」  
「よそみしたらダメです!」

目を閉じたまま、きっぱり言い切ったリリーの声には一歩も引かないぞ!という
気迫がこもっていました。
大きなため息を一つ吐き出すと軽く、触れるだけのキスを彼女に落としました。
ウルリッヒがキスをくれた事に満足したのか嬉しそうにまたきゅっとしがみついてきました。
 
「リリー、もうそろそろ帰るか?」

完全な酔っ払いのリリーを見て、さらに後ろの方で大盛り上がりのほかのメンツを見て、
自分達が抜けても大丈夫だと判断したウルリッヒは胸元のリリーに尋ねました。
 
「はい!じゃあ、みんなにご挨拶にいきましょ?」

ふらっと立ち上がったかと思うと、かなり怪しい足取りでウルリッヒを引っ張りつつ、
皆のもとへ向かいました。
 
「あら、リリー?もう帰るの?」  
「うん。今日は楽しかったわ」  
「そうね。またやりましょうね」  
「気をつけて帰れよ」  
「だいじょうぶ!ウルリッヒ様がいるもの」

腕をからませている長身の夫を見上げ、にっこりと微笑みます。
 
「それでは失礼する」  
「ああ、じゃあまたな」

千鳥足で歩いているリリーをなかば抱きかかえるようにして歩きながら
帰って行くふたりの背中を見つめ、一瞬、酒場の中を沈黙が支配しました。
 
「・・・あの2人をみてると結婚するのも悪くないって思うわよね」  
「そうね」  
「さっきのリリーの様子を見たか?」  
「ええ。あんなに疎かったのにね」  
「それにしてもリリー、大丈夫なのか?あいつ、弱かっただろ?」  
「ま、だいじょうぶじゃないの。二日酔いになってもアイツが面倒みるだろ?」

自分達の話で盛り上がっている事とはつゆ知らず、家に辿り着いた(?)
リリーは着替えてベッドに入るやいなやすやすやと眠りについてしまいました。



そして次の日
ズキズキ痛む頭を抱えながら、自分のした事を旦那様から聞かされ
真っ赤になりながら、更に増した頭痛の影で 『お酒はもうやめよう』 と
心に誓ったリリーがいたのでした。





いつもお世話になっているミルト様のサイト
『Schnee Blume』
のキリ番(のニアピン)を踏みまして、
《 酔っ払ってウル様に迫るリリー 》をリクエストしましたら
こ〜んな素晴らしいお話を頂戴してしまいました!
甘え上戸なリリー・・・かっ、可愛いっvv
特にウル様にちゅーのおねだりをするトコロなんて、もう、もう、もう〜〜///
私だったら、ちゅーどころか押し倒してたかもv ←犯罪だー!!
読んでいてムショーに日本酒(大吟醸とか)が呑みたくなってきました♪
あっ、けど、私は 『のんべぇ』じゃあないですからね!・・念の為。

ミルト様、素敵なお話をどうもありがとうございました〜v

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