《 指先のぬくもり 》



「ありがとうございました!」
「いや、大した事ではない。これからは逃げないように注意しなさい」
「はい!」

深深とお辞儀をして、少女は腕の中の小さな生き物を
まるでやっと取り返した宝物のように大事に抱えて、去っていく。
ウルリッヒの後ろには大きな木が枝を大きく広げている。

仕事の休憩時間にほんの少しの息抜きのつもりで、気に入っているここに来た。
木の根本に座っていると、小さな影が背後から猛スピードで駆け寄り
スルスルとその木に登っていったまでは良かった。
しばらくその小猫は木の上で戯れていたのだが、街の方から少女の声が聞こえ、
その声が聞こえたとたん、心細い声を出していた。

「ミンナ?ミンナ、どこなの?」

どうやら、頭上で鳴いている猫はこの少女の飼い猫らしい。

「木の上にいるのがそうか?」
「あ!ウルリッヒ様!」

良家の子女らしく、彼に気づくと礼儀正しくお辞儀をしてから、頭上を見上げる。

「ミンナ!おいで、お家にかえろう?」

少女の優しい呼びかけに降りようとするのだが、小猫はどうやら足がすくんで
降りられないようである。

「ちょっと離れていなさい」

重量のある鎧を外し、猫にも負けないような身軽さで木の上に登っていきます。

「大丈夫だ。暴れるな」

優しく猫に話し掛けるものの小猫はパニックをおこしていて、
彼の手の中で暴れている。
逃がさないようにしっかりと腕の中に抱え込むと、慎重に木からおり
少女の腕の中に猫を戻しました。

そして彼女が去っていくと、自分も仕事に戻る為、街へ向かおうとすると
物陰からリリーが出て来て、そのまま工房へと引っ張っていかれました。



「ウルリッヒ様、このままお仕事に向かわれるつもりだったんですか?」

ちょっと怒ったような口調がむすっとした口元から零れています。

「仕事に戻らなければ行けなかったからな」
「それは判ってます。小猫を助けてあげた事もいい事だと思いますけど!
  傷を放っておくのはやめてください」

手際良く彼の手を水で洗い流し、清潔な布で拭いた後に彼女が作った薬を塗り込み、包帯を巻いていく。

「あとで手当しようと思っていたのだが」
「後でじゃだめなんです!もう!」

相変わらず拗ねたような口調でいうリリーの瞳を覗き込むと
そこには彼の事を心配する表情が浮かんでいました。

「心配掛けてすまない」
「木から落ちたりしないとは思います。でも、やっぱり心配なんです。
 それに猫の爪にはばい菌が多いから」
「ああ」
「でも、良かった。あの猫、きちんとあの子のところに帰れて」
「そうだな」

包帯の端をしっかりと結び終え、ニッコリと笑いかける。

「はい。終わりです」
「ありがとう。リリー」

手についた薬をさっと洗い流し、ウルリッヒの側に戻る。
側に来た彼女の手を取り、水にさらされて冷たくなった彼女の指に口付ける。

「お前の指はいろいろなものを癒していくな」
「え?」
「傷を癒し、その傷を癒す薬を作り、私の気持ちを癒す」
「そんなことないです」
「ただ、傷を癒すのにとどまらないのはやはりお前の人柄なのだろうな」
「ど、どうしたんですか。いきなり」

指を絡ませ、そっと身体を引き寄せられ、彼の腕を腰のあたりに感じる。
普段抱きしめられて、見上げる顔をいつもと逆に見ている今の状況と彼のセリフに動揺して
紅潮している顔を見つめる。

「今までも思っていた事だ。それを言葉にしている」
「もし私の指が何かを癒せるものならば、ウルリッヒ様の指は何かを守る指なんですね」
「リリー?」
「私も今まで思っていたんですよ。今日だって小猫を助けてあげた。
 私の事もいつも守ってくれる。あの時の約束のまま」

開いている手を彼の肩に置くと金糸の髪を少しよけ、額に口付けた。

「またお仕事に戻るんですよね」
「ああ。そうだな」
「また、後できてくださいますよね」
「必ず。明日は休みだ」
「本当ですか!じゃあ、明日は一日一緒ですね」

身体を脇に抱き寄せたまま、玄関へと向かう。
嬉しそうに見上げ、笑みの形にカーブした唇にそっと自分のを重ね、なごり惜しげに離れていく。
そこを離れる最後にもう一度、彼女のほっそりとした白い指に自分の指を絡ませ
壊さないように力を込めて握る。

「いってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる」



ドアがパタンと軽い音をたてて、お互いの姿が見えなくなる。
指先に残る温もりをお互いに感じながら−





『Schnee Blume』のミルト様より、ありがたく頂戴致しました〜♪
ずばり!ワタクシの指フェチ魂(←何それ:汗)をビシバシ刺激して下さるお話ですぅvv
指ちゅ〜の場面とかv指と指を絡ませるトコロ、とかv
更に 『壊さないように力を込める〜』のくだりなんてもう、もう〜!!
>盛り上がりすぎだ:大汗
ウル様から見たリリーは"癒しの指"でリリーから見たウル様は"守りの指"・・・
この言葉にもじーんと来るものがありました。片方に頼り切るっていうんじゃなく、
対等で尊重しあってる様な関係なのがいいですねー。

ミルト様、素敵なお話をありがとうございました〜〜v(ぺこり)

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