《 Happy Birthday! 》


 
それはもうすぐ王室騎士隊が魔物討伐にいくという慌ただしい時期の1日のこと。
  
「ウルリッヒ様。お願いがあるんです」
 
出来たばかりの恋人であるウルリッヒにリリーがこうやっておねだりするのは、そう多いことではない。  
むしろ、珍しいと言っても言い。
  
「どうした?」   
「今日の夜、私の家に来て欲しいんです。お忙しいのは分かってますけど   
 今夜だけはどうしても来て欲しいんです」
   
遮ろうとするウルリッヒを制して、言いたかったことを一気に言う。  
その必死さと珍しい彼女の頼み事に、ウルリッヒの頭にはこれから  
やらなければいけない事がリストになって流れていく。
    
「・・・わかった。少し遅くなるかもしれないが構わないか?」   
「ええ・・・。あ、あの日にちが変わる前には、来れそうですか?」   
「ああ。大丈夫だ。そこまで遅くなる事はないだろう」   
「ありがとうございます!じゃあ、お待ちしてますね」
 
一転、ほっとした笑顔を顔に浮かべ、きびすを返し工房へと向っていく。  
その姿が見えなくなるまで見送ってから、今日のスケジュールを調整する為に  
自分も王室騎士隊宿舎へと向っていきました。


 
その夜、ウルリッヒがリリーの工房に着いたのは夜の11時を回った頃でした。
  
「リリー、遅くなって済まない」   
「ううん。私が無理に言って来ていただいたんですから。   
 ウルリッヒ様、食事は摂られたんですか?」   
「ああ、会議の時に軽くな。なにかあるか?」   
「ええっと、じゃがいものスープとパンならすぐに用意できますけど」   
「それをもらえるか?」   
「はい!ちょっと待っててくださいね」
 
パタパタっと足音を立て、台所の方に去っていくリリーの後姿を見つめ  
自分は定位置になりつつある椅子の上で彼女が作り出す音を聞いている。  
食器の触れ合う音、リリーのかすかに聞こえる鼻歌。  
そう言ったものが自分の中にある張り詰めたものを溶かしていくのを感じる。
  
「おまたせしました・・・・?ウルリッヒ様?」   
「ああ、どうしたリリー?」   
「眠っているのかと思いました」   
「お前の音を聞いていた」   
「私の音?」   
「ああ、お前が作り出す音だな。それが私をくつろがせてくれる」   
「ご迷惑・・・でしたね」   
「迷惑?」   
「お疲れなのに・・・。私がわがまま言ったから、来てくださった」   
「来るのを決めたのは私だ。それに言っただろう。ここにくるとくつろげると」
 
リリーの手からトレイを取り、テーブルの上においてからその身体を引き寄せる。  
細い柔らかな、そして暖かい体。  
抱いているとそれこそ無限ではないかと思うほどのエネルギーが沸いてくるような気がする。  
ことんと肩と首の付け根に頭を乗せ、身体を預けてくる。  
先ほどより、腕に力をこめ、彼女を引き寄せぴったりと寄りそう。
  
「ウルリッヒ様・・・」
 
少し身体を離し、唇が振れるだけのキスを落とす。  
名残惜しげにまぶたと頬にもキスをしてからそっと離し、リリーの用意してくれた食事を摂る。


 
食事をとっている間、その日にあった他愛もない話をする。  
終った頃を見計らってお茶を入れて、ソファーの上で二人で寄り添ってくつろぎの時間を過す。
  
「あ、日が変わりましたね」
 
工房の方から聞こえてくる時計の音にもたれていた肩から身体を起こし
ウルリッヒの目を真正面から見詰める。
  
「ウルリッヒ様、ちょっと工房に来てもらっていいですか?」
   
手を引かれるままに立ちあがり、リリーの後についていく。  
商品棚の一番前においてある大きな包みを持って、彼の前に立つと
    
「ウルリッヒ様。お誕生日おめでとうございます」   
「たんじょう・・・び?」   
「ええ、今日はウルリッヒ様のお誕生日じゃないですか?   
 一番最初にお祝いしたかったから、無理言ってきて来ていただいちゃいました」   
「そうか・・・。今の今まですっかり忘れていた」   
「そうだと思ってました。この時期がどれだけ忙しいのかは分かってますから」   
「ところで、その包みはなんだ?」   
「お誕生日のプレゼントです」
 
そういって、彼女が抱えている大きな荷物を受け取る。
    
「開けてもいいか?」   
「ええ・・・。あっ!ウルリッヒ様、開ける前に約束してくれますか?」   
「約束?」   
「・・・はい。あの、中身を見ても・・・呆れないで下さい、ね?」
 
かすかに頬を赤くして、上目遣いで伺うように見つめてくる。  
無意識であろうその誘惑に深い口付けをすることで応じる。
  
「分かった。じゃあ、あけるぞ」
 
結んであるリボンを外し、絞ってある袋の口を広げる。
  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リリー?」   
「・・・はい?」   
「・・・くっ・・・クックック、こ、これは・・・クックック・・・」
 
袋を抱えたまま、大爆笑をしているウルリッヒを恨めしげにねめつけ
  
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、呆れないって言ったのに〜」   
「・・・ックック・・呆れて・・・いるわけ・・ではないのだが」   
「だって」
 
ようやっと笑いを収めたウルリッヒは拗ねたように横を向いてしまっているリリーを  
ぐいっと引き寄せ腕の中に閉じ込める。
  
「『だって』なんなのだ?」   
「他に・・・何も思いつかなかったんですもの」   
「だから袋一杯の爆弾か?」   
「・・・すごい考えたんですよ。邪魔にならなくて、役に立つものって」   
「それで、これになったのだな」   
「・・・・・・はい。ウルリッヒ様が強いのは誰より私が一番知ってます。   
 でも、それがあれば他の人が危険な時も助けてあげられるでしょ?」   
「リリー、ありがとう。これは必ず、討伐の時に持っていこう」   
「無事に帰ってきてください。他に何もいらないですから」   
「ああ、約束する」
 
きつく抱きしめた身体をもちあげると、リリーが両手で彼の顔を包み  
最初のお返しのように額に、頬に、そして唇にキスを降らせる。



  
「それでなんだ。父さんの誕生日近くになると工房に爆弾類が増えるの」
   
横で【カノーネ岩】をすりつぶりながら息子が答える。
     
「ママ〜。これはここに入れていいの?」   
「ちょっと待ってて、ミルテ。そうなの。でも、私の作った爆弾で   
 ウルリッヒ様が無事に帰って来れるんならそれが一番ですものね」   
「そうだね」
 
娘の方に近寄って、剣術以外は不器用な子供の調合を見守る。
  
「今年のはいつもより強力なはずよ?」   
「なんで?」   
「え?調合の比率でも変えたの?」   
「ううん。だって、今年のプレゼントには私だけじゃなくてリヒトとミルテの愛情もこもったものですもの」
 
両手に子供達を抱きかかえ、頬に口付ける。
  
「さってと、後は仕上げね。ミルテ、ウルリッヒ様を迎えに行ってくれる?」   
「は〜い!」   
「リヒトは私と一緒に仕上げよ」   
「了解。ミルテ、気をつけて行ってこいよ」   
「うん!じゃあ、また後でね!」


 
この幸せがあるのも、今日この日に貴方が生まれてきてくれたから。
 
その事に最大限の感謝を込めて -Happy Birthday!-





ミルト様のサイト 『Schnee Blume』のBDフリー創作を強奪してまいりました!
冒頭のおねだりするリリー、可愛い〜v こんなおじょーさんにお願いされたら、
仕事なんぞぺぺぺ〜っとホッポリだして会いに行っちゃいますって!
>職務怠慢・・
意表をつくプレゼントに流石のウル様も笑いが堪えられなかった様で。くすv
でもリリーの『無事に帰ってきて欲しい』と云う強い願いがこもったプレゼントですから
さぞや威力抜群だったでしょうね。
そして最後に家族創作に繋がる展開がまたナイスで!
思わず座布団を運んでしまった私でありんした♪

ミルト様、素敵なお話をありがとうございました〜!!

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