《 Anniversary 》


 
「リリー、今日は時間をもらえるか?」  
「どうしたんですか?」  
「ああ、すこしな」  
「ちょっと待ってくださいね〜」

頭の中で今日の予定を思いだしつつ、急ぎのもの、今日が期日なものが無いのを確認しました。

「大丈夫ですよ」
「そうか、すまないな」
「ウルリッヒ様、今日はお休みなんですか?」
「いや、午前中は仕事だ。午後から王宮に来てもらえるか?」
「?・・はい。わかりました」

いつになく目的を秘密にするウルリッヒの行動に首を傾げつつも行く約束をすると、
一度二人とも家をでてお互いの仕事場へと向かっていきました。



ウルリッヒとリリーが結婚してから早9ヶ月がたちました。
未だに衰えぬあつあつぶりで、周りの気温を上昇させています。
平日にデートをするのは珍しくない事なのですが、こんなもったいぶった言い方をされるのは始めてで、
出かけるまでいくら聞いても教えてくれませんでした。
念のため、工房にかかっているスケジュールボードで依頼状況の確認をすると、
ドアに「Close」の札を掛けて、王宮にある彼の執務室へと向かいました。



「ウルリッヒ様〜?」

勝手しったる王宮の中、王室騎士隊の宿舎に着きドアをノックしたのですが、
返ってくるのは沈黙だけ。

「あれ?おかしいな?」
「リリーさん?」
「あ、こんにちは〜」

首を傾げるリリーに声を掛けたのは顔見知りの騎士でした。

「副隊長でしたら、中庭の方でお待ちですよ」
「そうなんですか?じゃあ、そっちに行ってみます!」

小走りに中庭に向かいかけたリリーは「気をつけて」という声に手を振って応え、
彼が待っている中庭へと急ぎました。



「ウルリッヒ様!」

中庭の日の当たるベンチにゆったりと座っているウルリッヒに駆け寄ると
少し表情が硬いまま、座るようにと促します。

「どうされたんですか?」
「いや、な」
「なんか、隠してます?今日の朝からなんか変だし」
「お待たせしました」

その思いがけない声は彼女が今来た廊下の方から聞こえてきました。

「アイオロスさん!?」
「リリーさん、久しぶりです」
「なんでここに?」
「僕がお呼び立てしたんだ。ウルリッヒさんと君をね」

にっこりと笑いかけるザールブルグの人気画家にまったく訳の分からないリリーは
ただただ、首を傾げていました。

「実はまた、君を描きたいなと思っていたんだが、君一人って言うのは以前描いたしね。
 少し前に君の友人達を描いた時とても楽しかったんで
 ウルリッヒさんに無理を言ってお願いしたんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ、じゃあ。二人でその辺を歩いてみてくれるかな?僕はスケッチをするから」

その言葉に従い、ウルリッヒとリリーは庭を歩き始めました。

「あ、僕の事はいないと思ってもらってかまわないからね。自然な二人の姿を描きたいんだ」

そうは言われても、完全に二人きりの時と同じようにはいかないものの
時間が経つにつれ、硬さは取れていき外を散歩している時のように
会話も弾み始めていきました。



庭をそぞろ歩いたり、ベンチに座って二人で話をしているうちに日が傾きかけたころ、
今まで黙ってスケッチをしていたアイオロスが小さな音をたて
下書き用のペンを置き、二人に声を掛けました。

「ありがとう。スケッチは終わった。絵が出来上がったら君たちの家に持っていくよ」
「ああ、お待ちしている」


そして、3ヶ月の月日が流れました。




結婚記念日の今日は二人とも休みを取り、家の使用人達にもいとまをだしており、
家には二人きりでした。
遅目の朝食をとり、居間にあるソファーにお茶を飲んでいると玄関を叩く音が響いてきました。

「は〜い!」

リリーが応対に出ようとするのをとどめ、彼が玄関へと向かいました。
ソファーに腰を掛けたままでいると廊下を歩く足音が聞こえ彼女が廊下との仕切りをドアをあけると
ウルリッヒとアイオロスが大きな白い布に包まれたものを抱えて部屋に入ってきました。

「なんですか?それ」

椅子の上にそれを置くと、縛っていた紐をほどき布を取り去りました。

「・・・これ!」
「ああ、アイオロス殿に依頼して描いてもらった」

布が取り去られた後には日だまりの中で幸せそうにより添っている二人の姿が描かれていました。

「これって、王宮でスケッチしてもらったやつですか?」
「そうだ。結婚して1年目の今日に何か特別なものをと思ってな」
「でも、あの時・・・」
「リリーを驚かせたかったんでな。そういう事にしてもらっていたのだ」

立ち尽くしたまま、絵を見詰めるリリーの肩を抱き寄せ、
彼女の頭に頬をつけたまま、話しつづけました。

「装飾品でもいいかと思ったが、それもありきたりのような気がしたしな。
 その時、王がアイオロス殿に家族の肖像画を頼んでいるのを見てな」
「そう・・・ですか」
「ああ。また家族が増えた時にはお願いするといっておいた」

思いがけぬプレゼントに目を潤ませているリリーの目尻にキスを落とし
くすぐったそうに身を捩った彼女の耳に咳払いが聞こえてきました。

「僕はお邪魔なようだから失礼するよ」
「あ!ごめんなさい!お茶ぐらい、飲んでいってください」
「いや、いいよ。僕も行かなきゃいけないところがあるしね」
「そうなの?」

二人でアイオロスを玄関まで見送り、玄関が閉まる時にふと一言をもらしました。

「あの絵だけど、僕には一つどうしても描ききれないものがあったんだ」
「え?」
「君たちの顔に浮かんでいる耀きは、紙の上には留まってくれなかったんだ」

『じゃあ』と片手を上げて、歩み去るアイオロスを見送った二人は改めて
自分達を描いた肖像画の前にと戻ってきました。

「アイオロスが言った事ってどういう事なんでしょうね?」
「さぁ。私には良く分からないが・・・」

幸せそうな自分達が描かれている絵にも視線を送りながら彼女の手を掴んだままソファーに座り
倒れ込んできた彼女を膝の上に乗せる。

「彼には何が描けなかったが、探してみるとするか」
「ええ」

リリーは彼の首に手をまわし、あたたかい首筋のくぼみに顔を摺り寄せました。

「もし、またアイオロスに絵を描いてもらった時にはこれ以上に幸せな顔をしてますよね」
「ああ、そうなるようにこれからもよろしくな」
「はい!」





貴方と結婚してもう1年、まだ1年。
でも、こうやってすごせる事はすごく幸せ。
また来年も幸せにすごせるように−




『Schnee Blume』のミルト様より、
我がサイトの1周年のお祝いとして頂戴してしまいました♪
ラヴラヴあっちち〜なウルリリ夫妻vんふふふ〜♪(←気持ち悪っ)
今回登場のアイオロスさんがいい味(?)出してました。
確かに 『二人の輝き』はどんなに高名な芸術家でも表現できないでしょうからね。
そんなラヴラヴフラッシュ(←汗)を間近で見せられたら、退散するしかないっしょう!
最後もいちゃいちゃ〜vで〆て下さったお二人さん。
読んでいてコチラまで温かな気持ちになりました。
いつまでもお幸せにねー♪
あぁ、サイトの記念にこの様な素敵なモノを頂けるなんて、
ほんと〜に超らっきー♪ですぅ〜(感涙)

ミルト様、本当にありがとうございましたぁ〜vv(深々)

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