《 美剣士と髪飾り 》


     
 「勝負あり!そこまで」
     

     
王宮の中にある騎士団の訓練所。      
そこには6歳から16歳ぐらいまでの少年少女が集まり輪を作っています。      
本日は騎士団が開いている剣術学校で年に二回ある試合が開催されておりました。      
喝采の中、剣を落とし降参のポーズをしているのはそろそろ青年になろうかという少年。      
そしてその少年に剣を突き付けているのは一人の少女でした。
        
 「ち、ちっくしょー、女のクセに」      
 「ふん!そんな女に負けるあんたは何なのよ!」
     
負け惜しみをいう少年に向け、捨てぜりふを残すと      
くるっと音が聞こえる程の勢いで後ろを振り向き、友人の輪の中に入っていくのは、      
ウルリッヒとリリーの一人娘のミルテ=モルゲンでした。
       
 「ミルテ!すごいわ!」      
 「あと1回かったら、優勝ね!」      
 「そうしたら、お父さんと模範試合をするのよね?」
     
友人が興奮気味に話しているのに相づちを打ち、      
もう一度、自分が今さっきまでいた試合場を振り返りました。      
少年も友人に助け起こされ、怪我の手当てをしに救護室に向かったようです。
     
 「「ミルテ!」」      
 「お母様!お兄ちゃん!」
     
声のほうに視線を向けると母と兄がおり、手には家のコックが丹精こめて作ってくれた
ランチが入ったバスケットを持っておりました。
     
 「決勝はお昼の後よね」      
 「ええ」      
 「私たちは家にいったん帰ってまた見にくるわね!」      
 「わかった」      
 「じゃあ、また後でね」
     
友人たちと別れた後、リリーとリヒトののところに行き、      
待っているであろう父−ウルリッヒ−の執務室へと向かいました。


     
 「ミルテ、上達したな」      
 「うん!とってもカッコよかったわ!」      
 「本当に強くなったね」
     
両親や兄から手放しで誉められて嬉しそうにしながらも、午後の決勝への      
緊張感は抜けないようで、表情は少し固い。
     
 「ありがとう。でも、まだ優勝したわけじゃないし、お父様にも       
 エンデルク様にもまだまだ勝てないもの」      
 「そりゃ、今のお前にお父さんやエンデルクさんが負けるわけにはいかないだろ?」      
 「そうなんだけど・・・やっぱりいつかは勝ちたいんだもん」      
 「目標を持つのはいいことだ。私もミルテに負けないように精進しなくてはな」      
 「でも、ミルテ。怪我には気をつけなくてはだめよ」      
 「うん。でも、お母様とお兄ちゃんが作ってくれた薬があるから万が一のときも安心よね」      
 「「「ミルテ!!」」」      
 「冗談よ〜。おじいちゃんにもこの前あったときに注意されたんだから。      
 そういえばお母様にも同じこと言ったって言ってたわ」      
 「そうなの?」      
 「ああ!ザールブルグに来たばかりの頃だわ。あの頃は採取によく出てたから」
     
最近ではアカデミーでの仕事も忙しく、自分では採取にでる時間も中々取れない。      
採取に出るときは昔のようにウルリッヒと一緒に行く事になっている。      
家族全員でピクニック代わりに日にちをあわせて行くのも相変わらずだ。      
あらかたピクニックバスケットが空になった頃、ノックの音が響きました。
     
 「隊長、失礼します」
     
礼儀正しい声が響き、ウルリッヒが行く旨を伝える。
     
 「すまんな。ミルテ、午後の決勝がんばりなさい」      
 「うん!優勝してお父様と試合したいもの!」      
 「じゃあ、また後でな」
     
部下を伴って出て行くウルリッヒを見送り、自分たちは眼前に広がったお昼の残骸を片づけ、      
リリーとリヒトは客席に、そしてミルテは控え室のほうへと向かいます。
     
 「ミルテ、がんばれよ」      
 「あんまり無茶しないようにね」      
 「任せておいて!」
     
颯爽と去っていくミルテの後ろ姿を見ながら、二人は客席の一番見やすい席を取りに      
足早に向かいました。


     
決勝の相手は前回の準決勝で負けた相手。      
実力は若干向こうの方が上、相手はリーチが長く力が強い。      
タイミングを間違えるとそのパワーをもろに食らってしまい、勝負が決まってしまう。      
幸い、スピードはミルテのほうが速いので撹乱するのさえ巧くいけば      
勝利の女神はミルテにも微笑む可能性はある。
     
 「はじめ!」
     
開始の合図とともに、音を立て斧が振り下ろされる。      
ひらっとよけ、相手の手元めがけて剣を凪ぐ。      
斧がそれを弾き返し、二人の間合いがぱっと離れる。      
一瞬の攻防に観客席からはため息が漏れ、緊迫した空気があたりに充満していく。
            
 「本当にミルテは強くなったね」      
 「そうね。でもハラハラするわ」      
 「大丈夫だよ。前回あいつに負けてから剣の練習を倍にしてやってたからね。      
 僕もよく付き合わされたよ。最近では僕だって3本に1本しかとれないんだから」
           
リヒトが下手なわけではない。      
彼も父から剣の指導は受けているから、剣術学校にいけばそれこそ5本の指に入る腕前はある。      
ただ、彼にとっての剣術は錬金術の採取のためでありそれ以上ではない。      
リヒトは能力的には母親譲りらしく魔法力が高い。      
(性質は父親似、ミルテは逆のようである)      
最近はもっぱら杖を持って、魔法攻撃を主力にしていて剣を使っての攻撃は      
相手に魔法が有効じゃない時−しかも帯刀しているとき−だけだ。
     
 「あ、危ないっ!」
     
斧が横凪ぎされ、ついさっきまでミルテがいた空間を切り裂く。      
間一髪、持ち前の身軽さでそれを交わすと、一気に後ろを取り首筋に痛烈な一撃を加える。
     
 「勝負あり!そこまで!」
     
張り詰めた空気を審判の声が打ち破り、ミルテの勝利を告げる。
     
 「やったわ!」      
 「本当だ!ミルテが優勝だ!」
     
額に浮かんだ汗をぬぐいながら控え室の方に引き返していくミルテが二人を見つけて手を振る。
     
 「隊長。ミルテちゃん、強くなりましたね」      
 「ああ」
     
言葉すくなに応えるウルリッヒの目にも満足げな光が踊る。


     
 「ミルテ!優勝おめでとう!」      
 「お母様!」
     
リリーが控え室に入っていくと駆け寄り抱き着いてきた娘を抱きしめる。
     
 「おめでとう」      
 「お兄ちゃん!ようやっとお父様と試合ができるわ!」      
 「うん。よかったね」
     
父親と勝負しても勝てない事はもちろんわかっている。      
でも、自分がどこまで成長したかを大好きな父に証明したい。
    
 「ミルテ、これ優勝のプレゼント」
     
手のひらには何か固いものが包まれたものが置かれている。
     
 「何?」      
 「きっと似合うと思うよ」
     
包みを開けるとそこには赤い石のはまった髪留めがありました。
     
 「きれい・・・」      
 「リヒト、すごいじゃない!」      
 「おじいちゃんにも手伝ってもらったけどね」      
 「つけてもいい?」      
 「もちろんだよ」
     
リリーに手伝ってもらい金の髪に髪留めをつける。
     
 「よく似合うわ!」      
 「ほんと?」      
 「ええ!そろそろ時間みたいね。ミルテ、いってらっしゃい」      
 「うん!がんばってくるね。お兄ちゃん、ありがとう!」
     
リヒトが頷いたを確認して、呼びに来た騎士といっしょに控え室を出て行く。


     
 「やっぱりお父様は強いな」
     
横を歩くウルリッヒはミルテの頭に手をやり小さい頃と同じ仕草で髪の毛をかきまわす。
     
 「まだまだお前たちには負けられないからな」      
 「私も結局ウルリッヒ様には勝てなかったものね〜」
     
リヒトと並んで少し後ろを歩くリリーが思い出したように言う。
     
 「この髪飾り、よく似合っているな」      
 「お兄ちゃんが作ってくれたの」      
 「そうか」      
 「リヒト、お母さんには作ってくれないの?」      
 「うん。だってお母さんにそういうのをあげるのはお父さんだけでしょ?      
 お父さんから注文もらえば作るけど」
     
少し歩調を早め、前を歩く父と妹に追いつく。
     
 「まぁ、ミルテはまだ誰もいないから僕が作ってあげるけどね」      
 「お兄ちゃん!」
     
笑いながら逃げる兄を追いかけていく娘を複雑な目で見送りながら      
少し立ち止まり妻が横に来たのを確認してから、また歩き出す。
     
 「リヒトに注文するか?」
     
くすくす笑っている妻の肩を抱き寄せる。
            
 「それにしてもあの髪留め、本当にいい出来だわ」      
 「ああ、ミルテもいい太刀筋だった」      
 「成長してるんですね」
           
頷く夫から目線を転げるようにして走っている子供達の後姿に移し      
目を細めて二人で見守る。
     
 「「グラハム、ただいま〜」」      
 「ミルテ様、リヒト様。お帰りなさい。ミルテ様、結果のほうは?」      
 「もっちろん優勝よ。お父様には全然かなわなかったけどね」
         
にぎやかしくしながらきっとミルテの大好物が並んでいるであろう食卓に3人が去っていく。

     
そんなモルゲン家の1日




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リヒミルの生みの親であり、マスターである 《Schnee Blume》のミルト様から
頂戴いたしました!うわぁ〜い♪らっきー・ちゃちゃちゃ・うーマンボッ!!
>意味不明・・・
ミルテ嬢の髪飾りにまつわるお話でございます。とっても凛々しいお嬢さんだ〜。
冒頭の敗者の男子に捨て台詞をはく所なんて正にツボでした!
「『彼女にやっつけられたい!』と考えるマニアが必ずいるはず!」
などという邪な思いが頭をかすめた事はココだけのひ・み・つv
>トコトン壊れてます:苦笑

ミルト様、本当にありがとうございましたー!!(ぺこり)

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