《 騎士(ナイト)な仔猫 》



    
とてとてとて・・・・          
広い、ひろーいお屋敷では、ぼくの足音は響かない。          
右見て、左みて。          
うん、怪しいものはないぞ。          
そしてまたとてとてとて、とぼくは歩き出す。



     
「私がいない間は、ユキ、きみがあかねを守るんだよ。」
    
ぼくの頭を撫ぜながら、あかね様には見つからないように友雅さんがぼくに耳打ちした。          
友雅さんは暫くお屋敷に戻れないらしい。
         
「友雅さんね、宿直が続くんだって。大変だね。」
        
とはあかね様の言葉。         
でもぼくは知ってるんだ。         
だって、この前鷹通さんって人が来ていて友雅さんに言ってたもの。
     
「あまり物忌みを使って仕事を休まないで下さい。
 あなたの部下がいつも私のところに抗議にくるんですから。      
 今度はきちんと仕事をして頂きます、いいですね!」
    
にっこりと笑っているハズなのに、何故かぼくの背中の毛がぶわっと逆立っちゃったよ。         
友雅さんの顔も心なしか引き攣ってた。         
そんで友雅さんは渋々お仕事を引き受けることにしたんだ。         
ちらっと友雅さんを見ると、友雅さんもぼくを見ていた。         
その目が「喋っちゃだめだよ」って言ってたから。         
しょうがないなぁ。でもほんとのコト言ったら、きっとあかね様自分がしっかりしないからだって         
ご自分のこと責めちゃうかもしれないもんね。         
うん、いいよ。ぼく黙っててあげる。
   


    
そして、友雅さんは何度も何度も振り返りながらお仕事に行ったんだ。         
任せて、友雅さん。ぼくちゃんとあかね様のことお護りするからね!!         
ぼくはキョロキョロしながらお屋敷の間を渡り歩く。         
途中何度もいろんな人に頭を撫でられたり、抱きかかえられたり、
お菓子をくれるって言われたりしたんだけど。         
もうっ!ぼくは大事なお仕事の最中なんだからね!じゃましないでよ、ぷん!         
あの角を曲がればあかね様の部屋につく。         
ふぅ、怪しいものはいなかったよ。あかね様安心していいからね。         
ぼくは意気揚揚と歩いていた、その時。         
ぴく。         
不意にぼくの耳に何か音が飛び込んできた。         
何?何の音?耳がぴくぴくと動く。         
!あかね様のいる所からだ!!        
ぼくは慌てて走って・・・
        
「う・・ん・・・」
    
あかね様!!!     
床の上にあかね様が倒れているのを発見した。        
あかね様、あかね様!!        
見回りに出るんじゃなかった!ずっと傍にいればよかった!!        
すっごく胸が苦しくなって、必死にあかね様の名前を呼ぶ。        
あかね様!あかね様!!ぼくを一人にしちゃいやだぁ!!
     
「ん・・・・ユ、キ・・・?」
    
うっすらと目を開けて、そうしてゆっくりと起き上がった。
        
「ふぁわ〜、あれ、私寝ちゃってた・・?」
       
その瞬間、ぼくはどっと力が抜けちゃった。        
ぺたんと座りこんだぼくを、あかね様は優しく抱き上げてくれる。
        
「ユキが起こしてくれたの?ふふ、ありがとう。」
       
頬擦りしてくれて、ぼくはそのほっぺを思わず舐めてしまった。        
よかった、何ともなくて。ぼく本当に心配したんだからね!        
またひとりぼっちになっちゃうかと思ってすっごく怖かったんだからね!!
        
「くすぐったいよぉ。ん〜、なんかね、この頃眠たくて眠たくて仕方ないんだよね。      
 身体がだるい、って言うのかなぁ?」
       
そういえば、とぼくは思い出す。        
最近のあかね様は前みたいに走り回ることがなくなった。        
いつもぼくと追いかけっこをしていたのに。        
大丈夫?どっか痛い?
        
「心配してくれるの?大丈夫よ。
 ここんとこ天気も良くて気候もいいから。お昼寝にはぴったりなんだよね。」
       
そう言いながらぼくを抱いたまま、またあかね様は横になる。
        
「・・だから・・もうちょっとだけ、いいよね・・・?」
       
閉じられていく瞼に、あかね様の腕から抜け出して、ぼくはピンっとヒゲを立てる。        
うん、寝てていいよ。ぼくがちゃんとお護りするからね!!
       
ぽかぽかと、すっごく気持ちのいいお日様を睨みつけながら。        
ぼくは時折垂れてくるひげを何度も直しながら、あかね様が起きるまで、頑張ったんだ。



     
「う・・っ!?」
       
ご飯時。きゅうにあかね様の顔が真っ青になって、慌ててかけ出す。        
え?え?なに?        
ぼくも後を追いかけると。        
女房さんに背中を擦られながら、あかね様は苦しそうに座りこんでいた。        
そのお顔はさらに真っ青で。        
ぼくは心配で心配で胸が潰されそうになった。
        
「と・・もまささ・・ん」
       
あかね様は涙を浮かべた顔で、友雅さんの名前を呼ぶ。        
友雅さん!!        
そうだ、ぼく友雅さんを呼んでくるからね!!待ってて!!        
ぼくはだだっと走り出した。        
でも、門のところを出て、思い出す。        
ぼく、友雅さんのいる所知らない!!        
頭の中にあかね様の苦しそうな顔。        
早く友雅さんを呼んで来なくっちゃ!        
でも、でもでも・・・・・!!!  

      
がたん!
       
ぴんっとぼくの耳はそばたつ。        
今日は帰ってこないって言った。        
暫く帰れないって。        
でも、もしかしたら・・・!!        
音のした方にぼくは駆け出した。



     
「ユキ・・?」
       
ぼくの所為で急に止まった牛車の中から、友雅さんは顔を出した。        
やっぱり!        
友雅さん、友雅さん!あかね様がね、友雅さんを呼んでるんだよ!!早く帰ってきて。
        
「あかねに・・・何かあったのか?」
       
お顔が真っ青で、苦しそうなの。ぼくじゃ・・・あかね様の傍にいても、だめなの・・!        
ぼくは心配と友雅さんに逢えた嬉しさと、心細さと、
とにかくいろんな気持ちが胸にいっぱいで泣いていた。
        
「早く、牛車を早く出しなさい!!」
       
友雅さんにぎゅっと抱きつきながら、ぼくは早くお屋敷に着くように祈るしかなかった。



     
「あかね!?」
       
こっち、こっちだよ友雅さん!        
ぼくは友雅さんの先を走る。        
あかね様、友雅さん帰って来たよ!もう大丈夫だよ!!        
ぼくはあかね様の匂いを辿る。        
あかね様!!
     
「・・・ユキ?どこ行ってたの・・・・・・友雅さん!?」
    
さっきよりはずいぶんとお顔の色は良いみたい。        
でも、まだ苦しそうだ。
        
「あかね、どうしたんだい!?」
       
友雅さんはあかね様の傍に歩み寄ってそのお顔をじっと見つめる。        
するとあかね様は、何故かすっごく幸せそうに微笑んだ。        
????友雅さんが帰ってきてくれて嬉しいのかな????
        
「あかね・・・?」
       
友雅さんも面食らったような顔してる。
        
「あのね、私、最近なんだか身体がだるくって、寝てばっかりで。
 自分でもどうしたのかな〜って思ってたの。」         
「?」
       
うんうん、今日もね、いっぱい寝てたよ。
        
「でね、食欲もなんだかなくって、なんかね、食べ物の匂いが、気持ち悪くって・・・。」
       
うんさっきもね、すっごく気持ち悪そうだったよ。        
なのに、あかね様は、なんでそんなに嬉しそうにお話するんだろう?
        
「そしたらね・・・・・・・・・」
       
あかね様はほっぺを赤くしながら、友雅さんに内緒話するように耳打ちした。        
見る見る友雅さんの顔が、驚いた顔になる。        
え?え?何?ぼくにも教えて!!
        
「それは・・本当かい?あかね・・・?」
       
こっくりと頷くあかね様を。        
友雅さんは、始め信じられないと言う顔をして、次に喜びと恥ずかしさが混じった顔をして。        
最後に見たこともないような顔で笑った。
        
「あかね・・・あかね・・・!!!」         
「きゃあ、友雅さん苦しいです!」         
「あ・・済まない、つい、嬉しくてね。」
       
幸せそうに笑うお二人に、ぼくは首を傾げるばかり。        
なに?どうしたの?あかね様、なんでそんなに嬉しそうなお顔なの?        
ぼくは本当によくわからなかったんだけど。        
あかね様が本当にうれしそうに僕に微笑みかけてくださるから。        
よくわからないけど、ぼくも幸せな気持ちになったんだ。



    
そうして。        
一年後、ぼくの白い尻尾やひげを無邪気に引っ張る、あかね様と友雅さんによく似た小さな赤ちゃん。        
しょうがないなぁ。        
あかね様は友雅さんが守ってくれるから。        
ちょっとだけ寂しいけど。ぼくじゃだめだから。        
ぼくは君を護ってあげるよ。     
でも。        
あんまりぼくの身体を引っ張るのは止めてよね!!        
自慢の真っ白な毛がハゲちゃったらどうするの!!!



   
 結び





またもや鮎香様から頂戴しました、仔猫シリーズ・第3弾です!
今回、大活躍のユキ君。可愛すぎるっ!一生懸命、頑張ってる姿にすっかりメロってしまいました〜。
誰かさんもこれ位マジメにお仕事してれば、鷹通さんにも叱られずに済んだものを:笑
しかし、あかねちゃんは相変わらずと言うか。すっかり大の男&仔猫を翻弄してましたね。
「やっぱり最強だ」と読みながら感じた私でありました。
ラストは可愛いもの同士ツーショットで♪さぞや絵になってる事でしょうね〜。(満面の笑み)

鮎香様、素敵なお話を(しかも3つも!)ホント有難うございました〜!(深々)

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