一体、何がどうしてこうなってしまったのか!?   
あかねは手にしているモノと、携帯のメールを交互に見ながら   
青褪めた様な赤らめた様な、複雑な表情のまま固まってしまっていた。


《 かすれた声で呼ばれたら 》


  
月曜だが学校は代休で休み、恋人もタイミングよく仕事が休み。   
とくれば、デートとなるのは当然の事。
  
しかし、天候までは如何ともしがたかった。
  
折角二人で出かけたものの、急速に発達した低気圧の影響での「春の嵐」襲来に   
強風であおられたり、交通機関もパニック寸前。


こうなると『怪獣』が出現する事を、皆様はご存じだろうか?

  
先程までは何とか空ももってくれていたのに、突然の大粒の激しい雨。   
友雅はあかねを上着で庇いながら、手近にあったホテルのエントランスに駆け込んだ。
  
「急に振ってきたねぇ、大丈夫?」  
「私は平気です、でも友雅さんが濡れちゃって」
  
上着も無残なものだが、短時間だというのに髪の真まで濡れてしまって   
ポタポタと雫が滴り落ちている。   
取り合えずハンカチで拭ってみたが、とてもとてもそんなものでは追いつかない。
       
「私はいいよ、ホラ白雪だって濡れているじゃないか」   
「え?」
  
気温は春めいて温かかったので、薄手のワンピにレギンスだったのだが   
レギンスは膝上まで雨がしみこんで、ワンピの裾もぐっしょりた。   
友雅は携帯で現在の情報をチェックし、軽く息を吐く。
     
「どうやら、まだまだ天候は荒れるようだね。   
 傘を買っても、この強風では役にたたなそうだし   
 それに帰宅困難を避けるために、結構な数の会社員達が帰宅し始めていて   
 交通網は混雑しているようだよ」
  
その言葉を後押しするように、エントランスの窓ガラスに叩きつける雨脚も風も強く   
傘を飛ばされないようにしながらも、駅方向に走る人も目立ってきている。
  
「このまま、素直に帰れなさそうだね。    
 白雪に風邪でも引かせたら大変だから、取り合えず服だけでも乾かそうか    
 ちょっと、待っててくれるかな」   
「はい? えと??」
  
言葉の意味を把握出来てないあかねを、そのままエントランスに残して   
友雅はロビーに向かい・・・すぐに部屋の鍵を持って戻ってきた。

  
「ふ〜やっぱり、お風呂はあったか〜い」
  
結局、ホテルのクリーニングを利用する事になり   
当然、客へのサービスなので部屋を取る事になり   
結果、ずぶ濡れの体のまま仕上がりを待つ事もないだろう。
  
ダブルの部屋を取った為だろうか、バス・トイレが別になっているタイプで   
十分に足が伸ばせる湯船・・・二人が入れるぐらいの。   
「友雅さんの方が濡れてるんですから、お先にどうぞ」   
と、言えば   
「ありがとう、じゃお先に」   
と素直にお風呂に直行したので、身構えていた分、少し拍子抜けした。   
お風呂を交代しても、友雅が乱入してくる気配もなくて
  
「本当に、クリーニングを利用するだけだったんだ」
  
あらぬ事を疑ってしまって、ジワジワと罪悪感が込み上げてきていた。   
はたと時計を見る、ホテルに入って一時間半。   
スピードクリーニングを頼んだから、そろそろ出来上がる頃だ。   
あかねは湯船から上がると体を拭きながら、洗面所に畳んでおいた   
バスローブの下に手を入れる・・・が
  
「あれ、ない。    
 下着は濡れてなかったから、ココに置いてた筈なのに」
              
どこかに落ちたのかと周囲を見回せば、茶巾ギフトに包装された包みが一つ   
化粧台に置かれていて『あかね へ』と書かれたカードも添えてあった。   
首を捻りながらもその包みを開けてみて、温まった体が一気に熱くなるのを感じた。   
白を基調としたレースとフリルのとっても可愛らしいが、ありえない小さな面積の   
上下の下着セット。   
こんな物がホテルのアメニティの筈はなく、一体誰が用意したか考えるまでもないが     
どうするべきかと怪しく視線を泳がせば、携帯の着信ライトが目に留まる。   
現状を打破できるとは思わないが、とにかく現実逃避に近い感覚で携帯を見てみると   
それは蘭からのメール。
  
『件名:性欲怪獣    
 内容:ヤツとデートだって言ってたじゃない?       
 「ホテルイクドン」や「オレンチイクドン」に襲われてない?       
 悪天候を理由にホテルや自宅に連れ込まれちゃ、駄目だからねっ!』
  
あかねは手にしているモノと、携帯のメールを交互に見ながら   
青褪めた様な赤らめた様な、複雑な表情のまま固まってしまっていた。
  
「あかね」   
「ひゃいっ!」
  
ドアの向こうから突然声がかって、思わず素っ頓狂な声が上がる。
  
「下着のサイズはどうかな、ピッタリだと思うけど」
  
あかねは、その下着をマジマジと見る。   
ありえない面積の所為で小さく見えるが、着用すれば丁度いいかもしれない。   
が、恥ずかしすぎて着る気になれる訳がない。
  
「えと、着てないです。    
 ってか、こんな下着をいつ買ったんですか!?」   
「今朝、待ち合わせ前に可愛らしいランジェリーショップが目に留まってね。    
 きっと似合うと思って買っておいたんだけど、まさかこんなに早く役に立つとはね」
  
・・・今朝、買ったぁぁぁぁ!?   
ランジェリーショップで、堂々と買い物が出来る男もどうかと思うが   
それがまた、恐ろしく似合うてあろう男は如何なものか!
    
「それで、あの、私の下着をどうかしましたか??」   
「勿論、全部クリーニングに出したよ」   
「下着もですか!?」   
「当然、だってその為にホテルを取ったのだし」
  
確かに、濡れた洋服は「お願いします」って渡したけれど   
一体いつの間に洗面所まで侵入して、隠しておいた下着を探し当てたのか!?   
だがまぁ、最悪の事態だけは避けられそうだと息を吐く。   
赤の他人に下着を洗濯されるのは恥ずかしいが、それが仕事でもあるわけだし   
もう少し待っていれば、仕上がってくるのだから。
  
・・・と、そう思っていたのに。
  
「あぁ、それから、今からだとスピードクリーニング仕上げは無理らしくて    
 通常のクリーニングにしておいたよ。    
 早朝に仕上がるし、それまでには嵐も通り過ぎるみたいだから、丁度いいよね」


今日は代休だが平日、当然明日は学校がある。
早朝に仕上がるなら、服を受け取って、家に戻って、学校にいく時間はあるだろう。

何事もなければ。

あかねに残された選択は四つ。

  一、この下着を着て、バスローブを羽織って部屋にいく。
  二、下着を着ずに、バスローブだけを羽織って部屋にいく。
  三、このまま洗面所で篭城して、一晩明かす。
  四、蘭に救助のメールを打つ。


「 あかね、おいで 」
「───っ!」


性欲怪獣『ホテルイクドン』の声は少し掠れて、恐ろしく破壊力抜群で
どの選択を選んでも、結末はそう変わらないような気がするのは
一体、何故なのだろうか?



姫君主義のセアル様から強奪…ゲフゲフ 頂戴しました^^v
ネット記事
『【女子注意】嵐や台風になると現れる性欲怪獣『ホテルイクドン』に要注意だゾ☆』
から着想を得たとの事ですw
あかねちゃんが事前にこの記事を読んでいたなら、あるいは…?
いやいやいや!『ホテルイクドン・T』 の手ごわさは
尋常ぢゃないから多分ムリだろうなぁ;
用意周到っぷり(せくしぃ下着)に加え、
微妙に彼女に悟らせない様エロオーラをセーブしている辺りが
もう、敵わないというか流石と言わざるを得ない><

このSSに妄想止まらずこんなのをセアル様に押し付けたら
更に倍率ドン!で素敵続編SSをゲットしましたよw
らっきー♪>ω< 

ドッキドキの続編 【じっと見つめて】 にGO!


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