突然の春の嵐に襲われて、一時避難のつもりで立ち寄ったホテル。   
クリーニングするからと、濡れた洋服を渡したら   
いつの間にか、下着まで出されていて。   
スピードクリーニングの予定だったのに、普通のクリーニングになっていて   
全ての衣類は、明日の早朝まで仕上がってこないなんて!?
  
風呂上りの洗面所で、裸のままのあかねの目の前にあるのは、ホテルのバスローブと   
友雅がデート前に購入していたという、白を基調としたレースとフリルの   
とっても可愛らしいが、ありえない小さな面積の上下の下着セット。
  
じっと見つめるあかねに、残された選択は四つ。

  
 一、この下着を着て、バスローブを羽織って部屋にいく。   
 二、下着を着ずに、バスローブだけを羽織って部屋にいく。   
 三、このまま洗面所で篭城して、一晩明かす。   
 四、蘭に救助のメールを打つ。

  
とりあえず、四は即座に却下した。   
救助のメールを打ったところで、この大雨の中、彼女が来れるわけはなし   
心配させたくなんかない。
  
洗面所に篭城したとしても、ホテルなのだから   
フロントに頼めは開けられてしまうだろうし、他人にそんな迷惑はかけられない。
  
長さはそこそこあるが、前開きで腰紐で止だけのバスローブ一枚だけなんて   
心許無さすぎるっ!
  
・・・・・・・・・・で、結局。



《 じっと見つめて 》


  
「とっ、友雅さ・・・ん」
  
あかねが挙動不審気味に、洗面所のドアから顔を覗かすと   
前で待ち構えてるかと思っていた男の声は、部屋の中央から聞こえてきて
  
「雨に濡れた体はよくないからね、寒気は取れたかい。    
 風呂上りに、オレンジジュースは如何かな」   
「あ、じゃぁ、頂きます」   
「ソファーで待っててくれる」
  
そう言われるがまま、あかねはソファーに腰をおろした   
が、何度もモゾモゾと腰の位置を変え、やはり落ち着かない。
  
「はい、どうぞ」      
「ありがとうございます───ふぅ、美味しい」
  
目の前に差し出されたグラスを一気にあおって、何とか気を落ち着けようとした矢先。
  
「で、デザインの好みとサイズは、どうだった?」   
「はひぃっ!」
  
いつの間にか隣に腰掛けていた友雅が、微笑みながらの爆弾質問。   
そう、あかねの様子から件の下着を身に着けている事は百も承知。
  
「・・・えと、あの・・・」
     
白の総レースに、透け淡いパステルグリーンのフリルとリボンの下着セット。   
デザインとしてはあくまで可愛らしく、下地があっての飾りならば   
体育の着替えの時にだって、自慢できたかもしれないが     
その飾りに使われそうな部分だけで構成されているとならば、次元が違い過ぎる。   
確かに胸は包まる、が、かろうじて先が隠れる高さまでしかなく   
ショーツに至っては、どう頑張っても腰履き未満にしかならない。   
生地が圧倒的に少ないのだ。   
しかし、サイズは?と問われれば
  
「・・・可愛いと思いますし、ピ、ピッタリです」     
「それは良かった。    
 いや、なに、このランジェリーを選んでいる時ショップの店員に    
 黒や赤のデザインを薦められてねぇ」   
「え!?」   
「ま、それはそれで良かったけれど、こちらの方が白雪の好みだと思ってね」   
「・・・」
  
その時の様子が、手に取るように分った。   
こんな色っぽい見目良い大人の男性が、自分の恋人に選ぶ下着としては   
大人しすぎる、と店員は思ったのだろう。   
きっと妖艶で魅力的な美女が相手だと。   
だから、もっとセクシーで刺激的な黒や赤のデザインを薦めた。   
  
自分は、その大人しい下着でさえ限界ギリギリ、精一杯なのに。
     
次第に、項垂れ気味になってしまうあかね。   
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、見越してか   
友雅は、更にとんでもない爆弾要求をする。
  
「ね、見せてくれないかな、白雪の可憐な艶姿を」   
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」   
「だって、折角なのだから布キレの状態ではなく、包まれている姿を拝見したいよ」   
「えっ、ちょっ、てぇぇぇっ!」   
「このままここで押し倒しても、ベッドに運んで組み強いてもいいけれど    
 そうなると、流石の私も何処まで理性が持つか保障は出来ないからねぇ」
  
ニッコリと微笑む男に対し、少女はバスローブの襟を押さえ   
ソファーの端まで一気に後退する。
  
「次の日、学校がある時は『しない』って約束ですよっ!!」
  
若い身空で、友雅の深く重く強く激しい情熱を知ってしまっている。   
だが今のあかねに、それを受け止めきれるだけの器は到底ない。   
いや将来だって怪しいものではあるが、兎に角、苦肉の策の条件を突きつけてる。
  
「うん、だから、ね。    
 私はこのままソファーに座って、手を出さないから    
 あかねが、脱いで見せてくれまいか?」   
「え!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっぇっ!!!」   
「駄目、かい」   
「っ!!!!」
  
ここで駄目だなんて言おうものなら、この後どんな事になるか!?   
なんて想像するまでもない。   
もう既に幾度も躰を重ねているし、時と場合によっては   
服を脱がせ易い様に手伝った事もある・・・とは思う。   
実際、理性が薄れていたり、見事な誘導だったりして、よく覚えていないのが実情だ。     
でも、まさか、しらふで自分から脱ぐ羽目になろうとはっ!!??
  
「えと・・・あの・・・」   
「ん」   
「・・・」
  
友雅の表情は優しげな微笑のままではあるが、目には期待するような光が宿っていて   
年若いとはいえ、そんな男の無二の恋人である少女は、無意識にその意を読む。   
そして、我知らずに自信を得る・・・妖艶な美女ではなく、自分でいいのだと・・・。
     
「・・・ソコから動かないって、約束ですよ」
  
諦めたように腰を上げ、ソファーとは反対側のベッドサイドに向かう。   
その際に壁にあった電気のスイッチを全て切って、枕元のスタンドだけに明かりを灯す。
  
「はっ、恥ずかしいから、灯りはこれだけでいいですよね」   
「勿論、かえって陰影が強調されて、とても官能的だよ」   
「もぉ〜いっつもそんな事ばっかり言って」
  
恥ずかしさを誤魔化す為に、ブチブチ文句を言いながらも   
後ろ向きにバスローブの腰紐を解くと、下着の微調整をする。   
生地が小さいのだ、入念にしておかないと大変な事になる。
  
とまぁ、いくら往生際悪く時間を引き延ばした所で   
結果は変わらない訳ではあるのだが。
  
覚悟を決め小さく息を吸って吐くと、あかねは友雅の方を向いて   
バスローブを脱ぎ、ベッドにそっと置いた。   
だが顔から火が出そうなほど、恥ずかしい事この上ない。   
だからといって、手で隠してしまうのも何だか躊躇われて   
そうではあるが、直立不動やポーズを決めるなんてとんでもなく   
両手が、所在無さげに身体の周囲をモジモジと彷徨う。   
そして明かりを消してしまった事も、あかねにとってはマイナスだったかもしれない。   
目を逸らし伏せ気味にしている所為もあろうが、光源が此方にあるので   
友雅の顔は影になってしまって、よく見えないのだ。   
こっちはなけなしの勇気を振り絞っているのに、何の反応もないのが何だか、でも
  
「・・・あかね」   
「は、はいっ」   
「後姿も見せてくれないかな」   
「えっ、あっ、後ろですか」
  
突如ふられた要求に、あかねが考える間も無く後ろを向いた瞬間   
キシッ、とソファーが鳴った気がして   
何の気なしに振り返ると、いつの間にかすぐ後ろに友雅が立っていた。   
ほんのりと暗がりで見えたその表情には、揶揄う色も、淫欲な色もなくて   
ただ、じっと真顔で見つめているだけで
  
「やっ、座ったままって約束っ!」   
「えっ、あぁ、そうだった・・・ね」
  
捕まえるかのように腕が上がったのを見て、あかねは咄嗟に身を捩る。   
男の指は目標物の背を掠り、プツンッ!と小さなホックが弾けた。
  
「きゃっ!」   
「・・・あ・・・」
  
あかねが反射的に胸を掻き抱いたので、なんとかブラは落ちずにすんだが   
その表情は当然、羞恥に染まって不埒な人物を睨みつける。  
  
「友雅さんっ!」   
「すまない、ワザとではないのだよ。    
 どれ、嵌めてあげよう」   
「いっ、いいです、自分でしますっ!!」   
「しかし」   
「いいですってばっ!!!」
  
胸を押さえながら、ソファーの周りをすり抜ける様に逃げる少女と   
ゆっくりと後を追う男。
  
獲物が逃げれば、狼がソレを追うのは至極当然な自然の摂理であって   
先程までとは違い、友雅の口角が次第に上がっていくのもまた    
至極当然な自然の摂理なのであろう。


  
畳敷きの半間もある一室で、ダブルソファーに長い足を投げ出すように深く腰掛け   
携帯を見ながら、頬が緩みっぱなしの友雅。   
コレが『氷の貴公子』と呼ばれる男の、控え室での風景なのだから   
Fanが見たら、さぞや驚く事だろうが。

  
結局あの後、再び洗面所に籠もってしまった天照大神を   
宥め、賺し、謝り倒し、約束と確約を取り付けて、何とか引っ張り出して   
一緒のベッドで眠る事には成功した。   
当然、行為はなし、キスもなし。   
ではあるが、腕枕で抱締められたのだから御の字だろう。   
まぁ、キスに関してはあかねが深く寝入ってから、散々したので問題はない。
  
それに、予想外のイイお土産も入手できた事だし。
  
友雅が先程から見ているのは、勿論あかねの画像。   
それも動画から切り取って、静止画にしたもので・・・。   
そう昨夜の出来事を、こっそりと隠し撮りしていたのだ。
  
ソファー後ろの机の上に、携帯の動画撮影機能をセットして立て掛けておいた。   
だが、あかねが部屋の明かりを消してしまった事で、殆どの撮影は失敗に終わっていて   
音声のみの仄暗い画面が99%。   
そして最後の1%で、画面に飛び込んできた白兎。
  
薄っすら桜色に染まった肌理の細かい肌も、張り艶が素晴らしい桃尻も   
触り心地も最高ながら、香り味とも絶品の双丘も勿論ではあるが   
なによりも友雅を魅了してやまないのは、あかねの表情。   
本人はあられもない姿と思っているから、羞恥ゆえの嫌がり様なのだろうが   
本気で男を拒んでいる様子は見られず、それが何よりも嬉しいのだ。

  
半裸を拝ませてもらった瞬間、自分の想像とは違い、あまりに清純な姿に息を呑んだ。   
卑猥な下着ではないが、悩ましい下着である事は確かなはずだ。   
それなのにその姿は、あくまで清楚で初々しくて可憐。   
己の醜悪な欲と、その無垢なる姿態が酷く対照的過ぎて   
僅か数メートルの二人の距離が、無限にも感じられて   
視線の束縛を外させた刹那、約束も何もかも頭から消えて無意識で側に行っていた。   

  
友雅がじっと見つめる、携帯の画面のあかねは   
薔薇色に染まった頬、困った様に恥ずかしげな眼差し   
ナニゴトか言い募っている、プクリと膨らんだ唇も可愛らしくて   
こんな男の存在を受け入れてくれる、彼の乙女が心底に愛おしい。   
  
年甲斐もなく、身も世もなく、一人の女性に溺れきっている至福。   


フト、にやけていた男の表情が元に戻り、視線が上がる。
程なくしてドアがノックされ、アシスタントが顔を覗かせた。

「橘さん、撮影の準備が整いました。 よろしくお願いします」
「あぁ、分ったよ」

友雅はアシスタントが去ったのを確認すると、再び蕩けるように微笑んで
画面のあかねにキスを落とした。
そして携帯にロックをかけ、大事そうに上着の内ポケットに仕舞い込む。

「本物もこうして胸に閉じ込められたら、いいのだけれどねぇ」




《あかねちゃん危機一髪》からセアル様が
こーんなお話しを書いて下さいました。
前作 【かすれた声で呼ばれたら】 の続編v
セアル様…グッジョブ!!>ω<b
これって所謂羞恥プレ…(ゴホゴホ)
や〜相変わらずエロパワー全開です。
流石『ホテルイクドン』!←もうこれでいいですよね?
ってか、ヲイヲイ隠し撮りって!おまわりさ〜〜ん!(爆)
や、あかねちゃんめさめさ可愛いから分かるけど!
隙あらばワタシもちょいと覗いて、、あ、ロックが……チッ!(マテ

セアル様、素敵SSありがとうございました〜>ω<

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