肯定を望む君 3
ヴィゴは、撮影にも使われる林の奥へとショーンを連れ出した。
長い期間、ここで過ごしたことのあるショーンにとっては、そこも思い出深い場所だった。
大きな木が、無造作に生えていた。
すこし奥へ入れば、自然と視界は樹木に遮られ、撮影現場からは、遠く離れた気分になれた。
続く撮影に加熱しやすいテンションを冷ますには、丁度いい場所だった。
セットが組み上がるのを待ったり、カメラの調子が直るのを待つ間、ショーンはよく、ここを散歩した。
一人の時もあったし、ヴィゴと一緒の時もあった。
いつも、のんびりと歩いた場所だった。
それが、今は、頭を上げることが出来ないほど、緊迫した空気のまま、ヴィゴの後ろを歩いている。
「ヴィゴ…どこまで行く?」
「もう少しだ。誰も来ないところまで行く」
「…殴る気か?」
ショーンは、小さな声で聞いた。
足元の草が、音を立てていた。
ここまで、入る人間は少なく、伸び放題の草が、2人に踏みしめられた。
「殴られる気で付いて来たんだろ?」
ヴィゴは、やっとショーンを振り返った。
口元には笑いがあった。
だが、目は笑っていなかった。
ショーンは、腹に力を入れた。
ヴィゴを信用していた。
ヴィゴが殴るとしたら、顔ではなく、カメラに映らない腹に違いなかった。
ヴィゴは、ショーンから距離をおいたまま、口を開いた。
「ショーン。お前、頭は正気か?」
低い声だった。
「あんな誰が入ってくるとも限らないトレーラーでなんて、自分の人生も、カールの人生も潰す気なのか?」
「…ヴィゴ」
低く一定の調子を保ったままの口調とは別に、ヴィゴは、ショーンをきつく睨みつけた。
ショーンは、言い訳の言葉を探した。
そして、探す自分に気付いて、思わず唇を噛んだ。
「お前は何年俳優で飯を食ってるんだ。どうして、そういう判断ができないんだ。メイクスタッフ。衣装スタッフ。誰だって、あそこには出入りする。あんただって、撮影中に何度もスタッフに煙草を取りに行かせたりしただろ。どうして、そんな危険な場所に、カールを連れ込んだ!」
ヴィゴの声が厳しかった。
「それは…」
ショーンは、口篭もった。
その言葉をヴィゴが続けた。
「淋しかったから。ちょうどあそこが空いていたから。カールがその気になったから!」
ヴィゴは、ショーンに近づき、手を振り上げた。
風を切る音がした。
ヴィゴは、ショーンの頬を張った。
ピシャリ!と、強い音がした。
思ってもいなかったヴィゴの殴打にショーンは、衝撃を受け、ふらついた。
叩かれた一瞬の痛みと、じんわりと広がるその後の痛み。
ショーンは、手で、頬を覆いながら、茫然とヴィゴを見た。
「…叩いた」
「叩くさ。ショーン。お前は、頭が悪すぎる!」
ヴィゴは、ショーンの顔を叩いたことに一切の反省を見せなかった。
ショーンは、この後、スチール撮りの予定があった。
いや、無かったとしても、ショーンの顔は、傷をつけていいものではなかった。
それは、同じ俳優であるヴィゴにだってわかっているはずのことだった。
ショーンは、茫然とヴィゴを見た。
ヴィゴは、恐い目をしてショーンを見ていた。
ショーンは、一つ唾を飲み込み、口を開いた。
「…ヴィゴ。あそこを使ったことは、謝る。でも、それは、顔を叩かれなくてはいけないほどのことか?」
「ショーン…」
ヴィゴは、もう一度手を振り上げ、今度は反対側の顔を打った。
ショーンは、痛む頬を押さえることも忘れ、目を見開いたまま、ヴィゴを見た。
目の前が暗くなるほどの殴打だった。
ショーンは、持ちこたえることができず、側にあった木にぶつかった。
「ショーン。お前は、どうしてここに連れて来られたのか、わかってないのか」
ヴィゴはじっとショーンを見た。
「ただ、トレーラーを使われたことに腹を立てて、俺がここへ連れ出したと思っているのか?」
「ヴィゴ…じゃぁ…なんで…」
ヴィゴは、ショーンの胸倉を掴み、引きずり寄せた。
そのまま、激しく前後に揺さ振った。
「お前は、どうしてそう、自分のことしか考えられないんだ。責任を取る気が全く無いくせに、どうして、そういうことばかりする!」
「…ヴィゴ…ヴィゴ…なにを…?」
ショーンは、ヴィゴに揺さ振られながら、必死にヴィゴにいい縋った。
ヴィゴは、ショーンの胸倉を掴んだまま、噛み付きそうな目をして、ショーンを引き寄せた。
「なんで、カールを巻き込んだ!」
「…巻き込んでなんかいない!俺が、誰と付き合おうと、ヴィゴには関係ない」
ショーンは、ヴィゴの手を掴み、動きを止めた。
きつくヴィゴを睨んだ。
「付き合う?ショーンは、カールと付き合っているつもりなのか?それは、カールだけじゃないのか?お前は、ここにいる2週間の間だけ、カールと遊ぶつもりなんだろう!」
ヴィゴは、ショーンを睨み返した。
ショーンは、目を反らさず、きつい口調で、ヴィゴに反論した。
「だとしても、ヴィゴには関係ない!」
「ショーン!!」
ヴィゴは、ショーンを吊り上げた。
ショーンの足は土から離れた。
「ショーン。俺は、ショーンの考えていたことがわかっている。その上で、話をしているんだ。ショーンも良く考えて口を開け」
「……ヴィゴ!」
ショーンは、吊り上げられた屈辱に顔を赤くした。
つま先が、草を蹴った。
ショーンは、喧嘩や、諍いといった荒っぽいことに慣れていないわけではなかった。
反対に、頭に血が上りやすい性質で、そういうことには率先して関わってきたほうだ。
だが、今、ショーンは、ヴィゴに対して、気迫負けをしていた。
ショーンよりも、ずっと穏やかな笑いを浮かべてきた友人は、ショーンの体重を物ともせず吊り上げ、ショーンに息苦しい思いをさせた。
大きく体を振って、ショーンがもがこうとも、ヴィゴはびくともしない。
「ショーン。俺と話をする気になったか?」
ショーンは、ヴィゴを蹴った。
だが、ヴィゴは揺るぎなく立っている。
ヴィゴは、必死でもがくショーンに対して、口元に笑いさえ浮かべて聞いた。
「俺が関係ないって、言わないだろ?」
吊り上げるために掴まれた洋服の首が絞まり、ショーンは苦しかった。
ショーンは、唇を噛んだまま頷いた。
重い剣を軽々と扱うための鍛錬を欠かさなかったヴィゴの腕力の前には、なすすべもなかった。
ヴィゴが手を離した。
ショーンは、草の上に落ちた。
2、3歩ふらつき、激しく咳き込んだ。
ヴィゴは、ただ、じっとショーンを、見ていた。
ショーンは、涙でかすむ目で、ヴィゴを睨んだ。
「俺は、関係あるよな。ショーン」
ヴィゴは、ショーンを見下ろした。
「……ヴィゴ……お前、俺のことなんて無視してたじゃないか…」
ショーンは、ヴィゴの気持ちがわからなかった。
ショーンにしてみれば、ヴィゴのこの行いの方が、信じられなかった。
確かに、ショーンは、ヴィゴが好きだった。
一部の撮影が始まった早い段階から、ショーンはヴィゴを意識していた。
ヴィゴは、ショーンに優しかった。
一緒に、台本を読み、書かれたセリフ、一つ一つについてまでも話合い、酒を飲んで、そのまま眠って朝を迎えた。
同じ皿から、物を食べるのも当たり前だった。
ショーンは、ヴィゴに寄りかかり、ヴィゴは、ショーンを引き寄せて座った。
自然と、ヴィゴの隣りはショーンの指定席になった。
ちょうどショーンは、愛した時期を過ごした人に去られようとしていた時だった。
ヴィゴが、何度か、ふざけてしたキスに、ショーンは、一人、唇に触れた。
ショーンは、同性も、恋愛対象として捕らえることが可能だった。
たしかに、口に出してまで、ショーンは、ヴィゴを誘ったことがなかった。
だが、2人きりになった時には、ショーンは、露骨な態度を取る自分を自覚していた。
しかし、ヴィゴは、友人と言うには、近すぎるところまで体を寄せながら、決してショーンの願いを叶え様とはしなかった。
ショーンは、ヴィゴが肉欲の対象として、同性を捕らえるのが無理なタイプの男なんだと自分を納得させた。
そうして、微妙な位置を保ったまま、一部の撮影を終えたのだ。
こんな風に嫉妬されるいわれはなかった。
ヴィゴは、ショーンの頬に触れ、咳き込んでいた顔を上げさせた。
「ショーン。何で俺に無視されたのか、わからなかったのか?」
銀色にも見える青い眼が、ショーンをきつく見据えた。
「ショーン、どうしてわからないんだ?お前は俺に無視されて当然だった。お前は、俺のことが本当に好きだったわけじゃなかった。お前は、俺のことなんて、欠片も見ちゃいなかった」
「…ヴィゴ?」
ショーンは、緩く頬を叩くヴィゴの行為に怯えながら、眉間に皺を寄せ、話を聞いた。
「ショーン。お前が欲しかったのは、離婚されそうで、淋しくなっていた気持ちを優しく慰めてくれる都合のいい人間だったろ?」
ショーンは、ヴィゴの言う事が良くわからなかった。
ヴィゴは、ショーンを見下ろしながら、その格好を改めて、観察した。
ショーンの格好は、半そでの綿シャツ。その下にTシャツ。そして、綿パン。急いでいたのか、ベルトはしていなかった。
ヴィゴは、側の木までの距離を目で確認した。
一突きすれば、すぐだ。
「ショーン。ショーンは、俺のことをノーマルだと、結論を出したみたいだがな、そいういうわけじゃない。俺は、あんたに、そそられてたよ。だが、どこの誰に仕込まれたのか知らないけどな。男相手だったら、好きなように甘えまくって、散々利用するだけ、利用して、自分の気が済めば、今回の遊びは終わりとばかりに、関係を切れるなんて思ってる奴と、俺はセックスするような関係になりたくなかったんだ」
「俺が…?」
ショーンは、信じられないとでも言いたげな目をしてヴィゴを見た。
ヴィゴは、もう一度、ショーンと木の間の距離を測った。
そこにショーンを押し付け、犯してやるつもりだった。
「あんた、俺が気付いていないとでも思ってたのか?酒を飲んで、べたべたと俺に触りまくって、さぁ、寝るとなったら、どうして、自分をベッドに入れないんだと言いたげな目をして、俺のこと睨んで、それでも、俺があんたのアピールに気付かない鈍感で、だから、あんたが無視されてたとでも思ってたのか?」
ヴィゴは、容赦が無かった。
ショーンは、1度思い知った方が良かった。
ショーンは、悔しそうに唇を噛んだ。
「ショーン。自分が、俳優だって自覚はあるか?あんた、あんな目をして、人のことじっと見て、あれで誘ってないと言う気なら、ショーンは、大嘘つきだと、俺は思うね」
ヴィゴは続けた。
「ショーン。昔の男は、そんなに優しかったのか?だから、自分に好意を寄せる男は、全部利用していいって教えられた?」
「俺は、一回だって、ヴィゴにそんなこと話さなかった」
「ああ、聞かなかったさ。俺はショーンを大事に思ってた。ショーンが隠したいと思ってたことまで、わざわざ聞き出すような趣味は無かった。だけど、ずっと一緒にいて、ショーンのことばかり見ていて、なんで、気付かないと思うんだ?あんたが、男も食える性質で、簡単に気持ちよくしてくれるなら、全然、男だって平気だって思ってるなんてこと」
ヴィゴは、ショーンの頬を撫で、もう一度、ひっぱたいた。
先ほどよりも、ずっと弱い力だったが、ショーンの頬は大きな音を立てた。
「ショーン。しっかり、自覚しろ。今回あんたは、カールをスキャンダルに巻き込むところだったんだ」
「…場所を選ばなかったのは…悪かった。でも、カールとそういうことになったことに対しては、ヴィゴに口出しして欲しくない」
ヴィゴは、もう一度、手を振り上げた。
「ヴィゴ!」
だが、その手は、ショーンの頬を打たなかった。
ヴィゴの顔には、怒りの表情が張り付いたままで、このまま待っていたら、確実に殴られることがショーンにはわかった。
ショーンは、今度は、先に、自分が、殴りかかった。
ヴィゴに向かって体を丸め、拳を叩き込むように、腹を狙った。
ヴィゴは、ショーンの拳を交わした。
僅かに足を引き、ショーンを交わしたヴィゴは、ショーンの背中に肘を振り下ろした。
ショーンは、膝くだけになり、大きく仰け反った。
大きすぎる痛みは、ショーンの口から、息の塊しか、吐き出させなかった。
ヴィゴは、毎日、スタントチームに混じって、殺陣の訓練を積んでいるのだ。
テレビドラマで、甘ったるいセリフを口にしていたショーンとは体のキレが違う。
ショーンは、膝を崩して、土に手を付いた。
ヴィゴは、その頭を掴んで、ショーンを引きずり上げた。
「まだ、その足りない頭は、理解できないのか?あんた、どうして、カールと付き合うことにした?」
ショーンは、髪を引っ張られる痛みに、顔を顰めた。
それでも、歯を食いしばり、きつくヴィゴを睨んだ。
「…かわいかった。優しくて…ヴィゴみたいに、セックスが嫌だなんて言わなかった!」
ショーンは、ヴィゴに向かって、唾を吐きかけた。
ヴィゴは、すこし体を屈めて、ショーンの顔を覗き込み、気味の悪いほど優しい顔をして笑った。
「俺も、ショーンとするセックスが嫌だなんて、言ったことはない。…だが、まぁ、いい。それより、ショーン。もっと、正直になろうぜ?はっきり言えよ。ショーン。カールが相手なら、2週間、たっぷり遊んで、すぐにバイバイできると思ったからだろ?ちょうどあんたは、今、遊んでくれる相手もない。でも、いっくら、ショーンのこと思ってるって言ったって、ずっと引きずりそうな若いオーランドじゃ嫌だ。適当に、世間ずれしてて、それなりのプライドがあって、ショーンがここで終わりにしたいって言ったら、綺麗に身を引きそうなくせに、それまでは、嫌って程に、優しくしてくれそうな、絶妙なキャラだよな。カールって奴は」
「…ヴィゴ…」
ショーンは、ヴィゴがこれほど酷いことを言うとは想像もしていなかった。
「そこまで、考えてなかった?じゃ、無意識に選んだんだな。さすが、すばらしいチョイスだ」
ヴィゴは、ショーンが吐きかけた唾を拭い、代わりとばかりに、ショーンのこめかみをべろりと舐めた。
ショーンは、自分の髪を掴んで離さないヴィゴの腕を引っかいた。
「痛いじゃないか。ショーン」
ヴィゴは、後ろにあった木に、ショーンの体をぶつけた。
ショーンは、肩から、木にぶつかった。
はらはらと、木の葉が落ちてきた。
ヴィゴはまだ、ショーンの髪を離さなかった。
ショーンの肩は、激しく痛んだ。
「ショーン。口出しして欲しくない?じゃぁ、なんで、あのトレーラーを場所に選んだんだ。空いてた?確かに空いてたさ。でも、もっと、安全な場所は幾らでもあった。どうして、あのトレーラーの、あのソファーの上じゃなきゃ、ダメだったんだ?」
ヴィゴは、ショーンの頭をぴったりと木に押し付けた。
噛み付くようなキスをした。
「ショーン。このわかりの悪い頭に教えてやるよ。ショーンは、俺とオーリに気付いて欲しかったんだ。俺たちが、仕事に追われてあんたのことを歓迎しないから、もっと都合のいいのを捕まえたって」
「違う!」
「違わない!」
ヴィゴは、ショーンの頭を木に打ちつけた。
ショーンは、一瞬気を失いそうになった。
頭を抱えて蹲ると、ヴィゴが、ショーンの背中を抱き上げた。
ショーンは、木に向かって縋りつくような格好で立たされた。
くらくらとする頭の中身に、ショーンは抵抗することも出来なかった。
ヴィゴは、ショーンの前にある木ごと、ショーンを抱きしめた。
ショーンは、顔の皮膚を木の肌で擦られた。
「ショーン。俺は、あんたにとって都合のいい男になりたくなかった。あんたが俺を選んだのなんか、ただ、都合が良かったからだ。俺は、あんたが好きだったから、あんたに優しかった。あんたの自分勝手な言い分だって、幾らでも話を聞いたし、一緒にいたいって言われれば、翌朝、4時から撮影だって言われたって、あんたが寝るまで、酒に付き合った。これ以上、あんたの思い通りになんでもして、別れるのまで、あんたの都合に合わすなんて、そんな格好ばかりいい、最低な男に俺はなりたくなかったんだよ」
ヴィゴは、ショーンの背に伸し掛かった。
ショーンは、ごりごりと木に押し付けられた。
「ヴィゴ…離れろ」
「嫌だね」
強く、ヴィゴは、ショーンを木へと押し付けた。
ショーンの頬が、木の肌で擦れた。
ショーンは、尻に押し付けられるものに違和感を感じた。
「ヴィゴ!」
「なんだい?ショーン。あんた、自分が、望んでなかったとでも言う気か?…映画の撮影の間だけ、俺とそういう関係になって、その後は、まぁ、また、会う事があれば、セックスくらいしてもいいけど、真面目に付き合っていくなんて、ごめんだって、そんなこと思ってなかったって?」
ショーンは、尻へと押し付けられているものの正体がわかっていた。
ショーンは、声に出して笑った。
「真面目に…付き合う?」
ショーンは、首を捩って、ヴィゴの顔を見た。
「どうやって、真面目に付き合うんだ?ヴィゴ?俺たちは、男同士なんだぞ?誰に公表して幸せを思って貰うって言うんだ?そんなの、ひたかくしにして、神経をすり減らしながら、暮らしてくのより、偶然会えた時に、また、抱き合って、それで十分じゃないか。俺は、大層なことは何も望んじゃいない。ヴィゴにも望まなかった。ただ、一緒にいられる間、ちょっと優しくして欲しかっただけだ。ヴィゴは、そういうのが、嫌いだったみたいだし、今回は、カールが俺に優しくしてくれた。それで、何がダメだ?俺の何がいけない?」
ショーンは、ヴィゴが嫉妬にとち狂ったのだと思った。
今までは、いらないと思っていたくせに、人に取られるとなったらヴィゴは惜しくなったのだ。
ショーンは、ヴィゴがおかしかった。
ただ欲情している獣だと思った。
「…ショーン。前の男は、それで今も納得してるってわけだ」
「さぁね。なかなか会えないから、どう思ってるのかなんて知らない」
ショーンは、挑発するように、ヴィゴに見下した視線を送った。
ヴィゴは、ショーンのズボンに手をかけ、ボタンを外した。
手の届くところまで、下着ごとずり下ろし、そこからは、足で、下へと下ろした。
ショーンの手が、ヴィゴの腕に爪を立てても、行為は止まらなかった。
ヴィゴの息が、ショーンの項を舐めた。
ショーンの剥き出しの尻が、外気に触れた。
尻は、緊張に泡立っていた。
きつく力が入り、山が、中央によって盛り上がっていた。
「ショーン。そういう男ばかりを選ぶから、あんたは、ずっと淋しいままなんだ」
「…男は、イレギュラーだ」
ショーンは、強がった。
「そうか。じゃぁ、あんたは、女の選びからも下手なんだよ。自分の思い通りになる優しい女が好きなんだろ?自分がしたいことをして、散々振り回して、疲れさせて、尻拭いさせて、そんなことばかりしてるから、いつまでたっても、あんたは一人にされちまうんだよ」
ヴィゴは、ショーンの尻を掴んで、大きく開いた。
ショーンは、きつい目をして、ヴィゴを睨んだ。
ヴィゴは、構わず、親指をショーンの肛門に入れた。
中は、ぬるぬると湿っていた。
ヴィゴは、ショーンごと抱きしめていた木から手を離し、ショーンの尻を叩いた。
「中に出させたのか!」
もう一度、尻を叩いた。
「この状態で、撮影所まで戻って、何食わぬ顔して、中のを出す気だったってのか!」
ヴィゴは、大きな声で、ショーンを詰った。
大きな手が、尻をきつく、張り飛ばしていく。
「恥知らず!」
ヴィゴの手は、止まらない。
ショーンは、自分から木に縋り付いて、痛みに耐えた。
叩かれるたび、思わず擦りつける樹木の表面が、ざらざらと皮膚に痛かった。
だが、ヴィゴの振り下ろされる手の痛みの方が、断然きつかった。
殴打に、骨まで軋んだ。
尻の表面が焼けたように感じた。
「ヴィゴ!ストップ!痛い!痛い!痛い!!」
「ショーンが、馬鹿だから、わかるように教えてるんだ。俺に出て来いって言われて、尻の外側だけ拭いて、ズボンを履いて出てくるような頭の悪いショーンには、こうやって教えてやらないと、何もわからないんだろう!」
ヴィゴの手は、ショーンの尻を叩きつづけた。
その手は、尻だけでなく、腰骨も、太腿も、容赦なく叩いた。
ショーンは、木を強く抱きしめ、奥歯を噛んだ。
それでも、悲鳴が口から漏れた。
「…ヴィゴ…嫌だ。嫌だ。止めてくれ…痛い…嫌だ」
最早、叩かれるたびに、尻の皮膚が裂けたのではないかと思うほどの衝撃があった。
全くの手加減なしに、ヴィゴは、ショーンの尻を叩いた。
パンッ。パンと、肉を叩く音は、無人の林に、大きく響いた。
とうとう、ショーンの目に涙が浮かんだ。
ヴィゴは、しゃくりあげ始めたショーンの尻を、まだ、10も叩いた。
それから、やっと手を緩めた。
「…ショーン。自分が、何をしたのか、わかったか?」
ヴィゴは、自分も赤くはれ上がり、熱を持った掌で、額に浮かんだ汗を拭った。
ショーンが赤い目をして、ヴィゴを睨んだ。
「わかるもんか!」
ヴィゴは、土に触れるところまで下ろしたショーンのズボンを足で踏み、ショーンの尻だけを突き出させるように引きずり寄せると、また、一つ、思い切り叩いた。
痛みは、頭の先まで痺れるほどだった。
何度も緊張と弛緩を繰り返したショーンの尻は、これまで、頑なに閉じ穴の周りを濡らす程度だったが、とうとう、どろりと中身を溢れさせた。
ショーンは、身を竦ませた。
「漏らしてるのは、カールの精液だよ。ショーン」
ヴィゴは、腫れ上がったショーンの尻に、溢れてしまったものを塗り広げた。
触られるだけで、ショーンは、うめくのを止めることが出来なかった。
「前の男は、中まで綺麗にしてくれた?いつまでも、入れっぱなしになんて出来ないこと、知らなかった?」
ヴィゴは、自分のジッパーを下ろし、硬くなっているものを扱いた。
怯えた目をして、振り返っているショーンに見せ付け、それを穴へと宛がった。
ヴィゴは、有無を言わせず、ショーンを貫いた。
ショーンは、大きな声で、喚いた。
必死に尻を前に出そうとして、じたばたともがいた。
ヴィゴは、ショーンを抱き寄せ、逃げる頭を両手で、抱きこんだ。
「ショーン。これが、あんたの欲しかったのものだ。抱きしめてくれる腕と、体の中を一杯にしてくれるペニス。愛してるって言葉もつけてやろうな。だけど、余分にはいらないんだろ?沢山言われると、うっとおしいんだよな。ショーン?」
「ヴィゴ。止めろ!俺から離れろ!お前のしてることは、犯罪だ!」
ぼとぼとと涙を零し、ショーンは、ヴィゴを怒鳴りつけた。
ヴィゴはショーンを羽交い絞めにし、しつこいほど、ショーンの髪を撫で、強張った頬にキスを繰り返した。
「親告する?ショーン?散々、色目を使って誘った上に、挑発したら、とうとうやられましたって」
「今回、俺は、ヴィゴを誘ったりしなかった!最初の晩に、カールと気持ちが通じ合ったんだ!」
ショーンは、尻を振って、ヴィゴを拒んだ。
それだけでも、ショーンには耐え難い痛みだった。
叩かれすぎた尻は、腫れ上がっていた。
骨はずしんと重い痛みを訴えていた。
「最初の晩?あの、飲み会?簡単すぎるな。お前は。…そんな簡単なことばかり繰り返してるから、長続きさせることが出来ないんだってどうして気付かない」
「続かなくても、いいんだ!嫌だ。ヴィゴ。尻から出せ。俺から、離れろ!俺に触るな!」
ヴィゴは、ショーンを更にきつく抱きしめた。
奥深くへとペニスを差し込み、ショーンの中を擦り上げた。
ヴィゴの腹が、ショーンの尻を打った。
「ショーン。俺は、ショーンを大事にした。あんたに教えてやるつもりだった。まずは、一生大事にしたいと思える友人の存在を。それから、一生涯続く、恋人との関係を」
それは、ショーンにとって、酷い痛みだった。
ショーンの口からは悲鳴が上がり、それまでの強気な言葉など、一気に吹き飛んだ。
「ヴィゴ…痛い…痛いんだ。止めてくれ…」
哀願が止め処もなく漏れる。
腫れ上がるまで叩かれたショーンの尻は、ヴィゴの腹がピタンと尻を叩くたび、震え上がりそうなほど痛んだ。
ペニスが押し込まれるとき、一緒に引きずられる表面の皮膚も、ショーンに涙を零させるほど、辛かった。
尻はもう、何をされても痛みしか感じなかった。
ただ、立っているために、力を入れていることすら骨が軋むのだ。
だが、ヴィゴは、止めない。
何度も、ショーンの尻を腹で打った。
小さく揺するため、動かされると、ショーンは、奥歯を噛んで、涙を堪えなければならなかった。
ヴィゴは、やっとショーンの頭を抱いたままキスすることを止めた。
だが、今度は、胸に手を回し、Tシャツの上から、胸の筋肉を揉みしだいた。
ペニスは、大きくふり幅を取り、ショーンの中を穿つ。
ショーンの尻が、また、音を立てて叩かれる。
「ヴィゴ…ヴィゴ…嫌だ。もう、嫌だ…」
「ショーン。大好きだよ。あんたの頭がどれ程悪くたって、俺は、ショーンのことを見捨てたりしない」
「嫌だ…しないでくれ。痛い。痛いんだ。もう、嫌だ…」
ぼとぼとと涙を零すショーンは、ヴィゴに許して貰いたくて自分から、小さく尻を振るような真似までした。
それは、思い切りショーンの顔を顰ませる痛みを伴った。
だが、ショーンは、ヴィゴの腹が尻を打たないよう、小刻みな動きで、ヴィゴに快感を味あわせようとした。
ヴィゴは、ショーンを抱きしめ、その動きに合わせて、小さくショーンを揺すった。
ショーンの口から、痛みとは別の、短い声が飛び出した。
ショーンは、前立腺を中から擦られることの快感を知っている。
ヴィゴは、にやりと笑った。
「ショーン。あんた、タフだな」
「…ヴィゴ。お願いだ。もう、止めてくれ」
「大丈夫だ。壊すような真似はしない」
「…頼む。…いくらでも、謝るから…ごめん。ヴィゴ。頼むから、もう、許してくれ…」
緑の目からは、頬へと涙の跡が出来ていた。
ヴィゴは、ぺろりとそれを舐めた。
「ショーン。謝ってもらう必要は無い。ただ、わかってくれればいい」
ショーンは、ヴィゴの舌を嫌がりはしなかった。
震える睫で何度も瞬きし、更に、頬へと涙を零した。
「…ヴィゴ。もう、わかった。…わかったから。頼む。止めてくれ…」
「ショーン。何がわかったって?」
ヴィゴは、とても優しい顔をして笑った。
ショーンは、頬を濡らしたままで、ヴィゴに許しを請うた。
「カールとは、別れる。もう、誰とも関係を持たない。…ヴィゴと、オーリのことを大事にする。……もっと、真面目にヴィゴと付き合うことを考える」
ショーンの肌は、ヴィゴを拒絶して、全身泡立っていた。
どこにも許容する様子は無かった。
ここでヴィゴが手を緩めでもしたら、ショーンは、後ろも見ずに逃げ出すに違いなかった。
ヴィゴは、ショーンの乳首を指先で摘み、強く引っ張った。
「痛い!痛い!ヴィゴ!!」
「ショーン。俺は言っただろう?あんたのそのいい加減なところが直らない限り、あんたは、一生さみしいままだって」
「直す。どんな風にでも直す。お願いだ。ヴィゴ。そうやって、尻に腹を押し付けないでくれ。痛いんだ。頼む。すごく痛い…」
ショーンは、子供のように泣いていた。
嘘ばかりのショーンの言葉は、ヴィゴを思わず笑わせた。
「ほら、やっぱり、ショーンは、何もわかってないから、体に教えてやるしかないんだ。ちょっと我慢しろよ。あんたにとって、大事なものが何か教えてやるから」
ヴィゴは、容赦なく、真っ赤になっているショーンの尻に手をかけ、ショーンに挿入を繰り返した。
「痛い!痛い!痛い!」
「そりゃぁ、痛いさ。俺だって、あんたを叩いた手が痛い」
「…ヴィゴ、痛い…痛いんだ。…頼む…やめて…」
打ち付けられる尻の痛みとは、別に、ショーンの中では、どうしても感じるところを擦り上げられる快感も、小さく生まれていた。
痛みからの逃避のため、ショーンはその感覚を必死に追いかけた。
小さかったけれども、喜びは、何度も繰り返し与えられた。
頭まで痺れるような痛みの狭間に、確実に、快感は、そこにあった。
ショーンは、痛みから逃げ出すことを諦め、せめて、その快感に縋りついた。
ショーンのペニスが、勃起していた。
ヴィゴは、笑いながら、ショーンを揺さ振った。
「ショーン。自分が馬鹿だと認めるか?」
「……認める…認めるから、ヴィゴ…」
ショーンは、自分が、どうしようもない愚図にでもなった気分だった。
がんがんと頭痛がして、尻は、一週間も椅子に座れない気がするほど痛かった。
「俺が、あんたのことを考えに、考えて、あんたを抱かなかったんだってわかってくれた?」
「…わかった。よくわかった。」
ショーンは泣きながら、ヴィゴに揺すられていた。
涙が、ぼろぼろと土へと落ちていった。
快感はあった。
だが、早く終って欲しかった。
「ただ、抱きしめて、優しくしてくれるだけじゃ、ダメだって、わかった?」
「…わかった」
「誰のペニスでも、くわえ込む、この尻は、叩かれて当然だって自覚したか?」
「自覚した。…許してくれ。ヴィゴ…悪かった」
ヴィゴは、ショーンのペニスを握り、自分も腰を振りながら、強引に、射精へと導いた。
ショーンが、何もわかっていないことなど、ヴィゴにははっきりとわかっていた。
とにかく、ショーンは、今、許して欲しいだけなのだ。
「ショーン、あんたは、本当に馬鹿だ」
ヴィゴは、ショーンの耳に噛み付いた。
ぎりぎりと歯を立て、ショーンに悲鳴を上げさせた。
その声を聞きながら、ヴィゴは、ショーンのペニスを扱いた。
熱を持っている尻を何度もペニスで抉った。
ショーンは、自分が抱く木へと精液をぶちまけた。
ヴィゴも精液を、ショーンの腹の中に注ぎ込んだ。
ショーンは、ヴィゴに種付けされるその感覚に、歯を食いしばって耐えていた。
「ショーン。そのまま、待っていろ。オーリを呼んで来てやる。あいつも、ずっとショーンを狙ってたんだ。やらせてやるだろう?」
「……なぜだ?」
自分だけ、身づくろいを終えたヴィゴが、ショーンを見下ろし、頭を撫でた。
ショーンは、立っていられず、木の根元に倒れ込んでいた。
まだ、ズボンだって、上げていない。
「何故?だって、ショーン。あんなにお前のこと慕ってるオーリにやらせてやらないつもりか?」
ショーンは、ヴィゴの言っていることがわからず、茫然と強姦者を見上げた。
「…ヴィゴは、それでいいのか?」
ヴィゴは、カールに抱かれたことを怒って、こんな酷いことをしたのではなかったのか?
そう思っていたショーンには、まるで、ヴィゴの言う事がわからなかった。
ショーンは、オーランドとそういった関係になることなど望んでいなかった。
ヴィゴとだって、そういう関係を続けていく勇気など無い。
ヴィゴは、まるで、悲しいと言わんばかりの顔で、ショーンに笑いかけ、また、優しくショーンの頭を撫でた。
「ショーンは、わかりが悪いから、ゆっくり教えていくことにする。まずは、優しくされたら、優しくすることや、大事にされたら、相手も大事にした方がいいことを憶えるんだ。そのために、オーリとカールを仲間に入れる。3人でショーンを共有だ。これで、全く淋しくないだろ。ショーン?」
「嫌だ…そんなのは、嫌だ」
ショーンは、大きく首を振った。
どうして、そうしなければならないのか、全くショーンにはわからなかった。
「ショーン。お前に、拒否権はないよ。ショーンが望んでいたことが、すこし形を変えて実現するだけだ」
「嫌だ。嫌だ。ヴィゴ」
ショーンは、とても恐いことが起った気がして、また、涙が盛り上がってきた。
ヴィゴは、口元だけで優しく笑った。
「俺も嫌だよ。ショーン」
口調は淋しげだ。
「でも、ショーンは、俺一人に、されるのだって嫌だろう?」
ヴィゴは、体を屈めて、ショーンに口付けた。
「ショーンを愛してるよ」
ショーンは、そんな言葉など聞きたくなかった。
END
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レイプだ(苦笑)
どうにも夢中になって、書き進み、いつもより、増量。
すみません…(笑)