愛でなる病 7
さすがに、仕事で単身この国に来ているショーンの家には、必要ではないセックスのための小道具などなく、ヴィゴは、勝手に探し出した保湿用のクリームを手に、ショーンの足元に腰を下ろした。
勿論、コンドームは、ショーンが持っていて、それは、ショーンに在り処を吐かせた。
ヴィゴは、指先にクリームを掬い、そのとろみを確かめると、臭いを嗅いだ。
特に強いにおいはなかった。
肌に触れる感じにも、強い刺激は感じない。
ヴィゴは、ゴムのパッケージを切り、ゴムを被せた指をクリームまみれにした。
「ショーン」
ショーンの足は、すっかり力が入っていた。
小さなペニスも、いつもより小さく見えるくらいだ。
「ショーン、平気か? やめるか?」
「……やる」
ショーンは、自分から、足を曲げた。
「よし」
ヴィゴは、悲壮な顔をしたショーンにすこし笑いながら、そろそろと指を尻の間に近づけた。
ショーンは、ぴたりと足を合わせた。
「ヴィゴ! あの、あのな。本当に、前の時、痛かったんだ!」
「大丈夫。無理はさせない」
ヴィゴは、ショーンの足をゆっくりと開き、足首にキスをした。
「……ヴィゴ! あのな。俺、あのな」
「……わかってる。ショーン。大丈夫、落ち着いて。ショーンに痛い思いなんてさせないから」
ヴィゴは、きゅっと盛り上がっているショーンの肛門に触れた。
ショーンが体を竦めた。
だが、逃げ出そうとはしない。
ヴィゴは、まず、そこをクリームまみれにした。
ショーンが安心するまで、それ以上侵入せず、そこをマッサージしてやるつもりで、クリームを増やし、表情を伺った。
ショーンは、情けないほど眉を寄せて、ヴィゴを見ていた。
「ショーン、大丈夫か? あんたにしては、随分頑張って我慢してるじゃないか」
ショーンは、返事をしなかった。
ヴィゴは、ゆっくりとショーンの緊張が解ける待ち、きちんとショーンに承諾を取ってから、そっと指を入れた。
それでも、ショーンの尻は、とても強くヴィゴの指を締め付けた。
だが、まだ、爪の部分しか入っていない。
「痛いか? ショーン?」
ヴィゴは、まるで力を抜くことのできないショーンを心配した。
「痛く……はないが、気持ち悪い」
「我慢できそう?」
ショーンは、天井を見上げたまま、何度も息を吐き出していた。
ヴィゴは、指の動きを止めたまま、膨れたり、へこんだりするショーンの腹を見守った。
「ヴィゴ。そのまま止められる方が、気持ち悪い」
「ああ、そうかもな。もう、少し入れるぞ。いいか?」
「……ああ」
ショーンは、目の上を手で覆って、自分に足を引き寄せた。
落ち着きだしたショーンの息のリズムを見計らい、ヴィゴは、ゆっくりと指を動かした。
とっさに、ショーンが力を入れる。
「ショーン、もう少し、大人しくしな。いい子にしてたら、きっと気持ちよくしてやる」
ヴィゴは、たっぷりとついたクリームの力を借りて、そっとショーンの中を探った。
滑らかな粘膜の感触を指先に感じながら、ショーンのいい部分を探す。
ショーンを驚かさないように、そろそろと指を進め、盛り上がっているはずのその部分を目指した。
ショーンの中は、熱かった。
その熱は、ヴィゴの気持ちを揺さぶるだけに十分だったが、ヴィゴは、あくまで、ショーンのために尽力した。
ゆっくりとショーンの中で指を動かす。
内部で膨らんでいる部分を探し出し、そっと周りを撫でる。
ショーンが、息を飲み、体を固くした。
痛みへの恐怖のためか、ショーンの足の指が、くるりと内側を向いて、きつく丸まってしまった。
ヴィゴは、ショーンの足を撫でた。
「落ち着いて、ショーン。前は、どうだったか知らないが、俺は、刺激的なプレイとしてこれをやってるわけじゃないから、ゆっくりやるつもりだ。笑ってくれて構わないが、いつかショーンにこうやってやってやれるかもしれないと思って、勉強しておいた。ドクターが書いた本を読んだよ。痛い目になんかあわせる気はない」
ヴィゴは、じれったいほど、そっと膨らみの周りを撫でた。
ショーンの足は、まだ、緊張を残している。
「……ヴィゴ」
「うん? どう? 痛いか?」
「いや、痛くはない……が……」
ショーンは、落ち着かない目をして天井を見つめていた。
ちらりとヴィゴの顔を見るが、長くは視線を合わせていない。
恥ずかしいのか、頬が赤らんでいた。
快感がないというわけではないようだ。
ヴィゴは、強く締め付けてくる肉の感触を楽しみながら、ゆっくりと膨らみの周りに円を描いた。
「……ヴィゴ」
ショーンの唇が震えた。
じりじりとヴィゴの指は核心に近づいてきている。
ショーンの腰がもぞもぞと動いていた。
ヴィゴは、もう一度、ゆっくりと円を描いた。
今度は、もうすこし、円の幅を狭くしてやった。
「ヴィゴっ!」
ショーンの声が裏返った。
ヴィゴは目を細めた。
「ああ、ショーン。あんたのペニスが、少し勃ってるよ。気持ちがいいんだな。このまま続けるぞ?」
ヴィゴの言葉に、ショーンが僅かに体を起こした。
自分でペニスの状態を確かめている。
ペニスは、確かに大きくなっていた。
ヴィゴの手は、ペニスには触れていない。
「すごいな……・」
「そうだな」
ヴィゴは、感心したようなショーンの声に、思わず口元が緩んでしまった。
ショーンは、ふっと力を抜いて、また、天井を見つめるために、ごろりと横になった。
ヴィゴの指は、ショーンの中をゆっくりとかき回す。
「ショーン。いきたくなったら、いってくれて構わない。もともとこっちを弄くられると、そう簡単に我慢できるもんじゃない」
「そうなのか?」
「そうだよ。このくらいのことは、あんたが読む雑誌にだって書いてなかったか?」
ヴィゴは、そうっと、膨らみの中心に指を置いた。
優しく力を入れると、ショーンの尻がぎゅっとヴィゴを締め付けた。
「……!!」
ショーンは、声もなく、大きく口を開けた。
空気の塊だけを吐き出した。
「ショーン。薬を使ったときと同じ大きさにまでペニスがなってる」
「………っふぁっ! ……ヴィゴ。ヴィゴっ!」
衝撃をやり過ごしたショーンが、目を潤ませてヴィゴを見上げた。
緑の目が、すっかり濡れていた。
「いつもより、気持ちがいいくらいだろ?」
ヴィゴは、指を戻し、もう一度膨らみのまわりをそっと撫でた。
息を荒くしたショーンの指がシーツをきつく握り締めた。
シーツを引き寄せてしまっている。
ショーンは、大きく胸を上下させながら、ヴィゴに聞いた。
「俺……いった?」
「いいや、まだちゃんと我慢できてる。いったかと思うほど気持ちよかったか?」
ヴィゴは一旦、指を止めた。
「…………ああ……」
ふうっとため息を吐き出したショーンは、ヴィゴの手に足を絡めた。
「頭の中が真っ白になるかと思った。……前の時も良かったが、ちょっと痛くもあったんだ。でも、今日は、それが全くない……」
ヴィゴは、絡められた足のサインが、ちょっと待ってくれ。なのか、もっとしてくれなのか。見極めるためじっとショーンを観察しながら口を開いた。
「なるほど、ここも訓練次第みたいだからな。やっぱり、最初はソフトにやってやらないと、慣れてないから、良くっても痛いのかもな」
ヴィゴは、ショーンの足に腕を引き寄せられるのを感じた。
尻だって、少し上向き加減になり、ヴィゴからの刺激を待っているようだ。
ヴィゴは、そろそろと指を動かし、そっとショーンに触れていった。
ショーンの尻の肉が、ヴィゴの指を締め付け、足が、ヴィゴの腕を締め付けた。
「……っぁ……ぁぁ…………ヴィゴ……ヴィゴ……」
立ち上がったショーンのペニスが震えていた。
とろとろと流れ出したショーンの先走りは、先走りというには多すぎる量だ。
「ショーン、あんた、漏らしてるよ。自覚はあるか?」
はぁはぁと、息を吐き出しながら、ショーンが横へと首を振った。
「やっぱり、こっちばかりじゃ、コントロールすることまでは無理だな」
ヴィゴは、尻に指を入れたまま、腹を濡らしているショーンのペニスを手で握った。
ほんの二、三回扱いてやると、ショーンの腰がソファーの上で弾んだ。
のけぞるようにして、ショーンが精液を撒き散らす。
「……っぅぅああっ!」
覗き込むようにしていたヴィゴも悪かったが、ショーンの精液がべっとりとヴィゴのTシャツを汚した。
ヴィゴは、思わず苦笑し、濡れた手もTシャツで拭った。
綺麗になった手で、焦点を失ったような目をしたショーンの頬を叩く。
「大丈夫か? ショーン?」
「……あ、……ああ、ヴィゴ……」
ショーンは、はっとしたように、応えを返した。
ヴィゴの指と、腕を痛いほど締め付けていた力が緩んだ。
恥ずかしそうに引っ込められる足や、大きな呼吸を繰り返す胸にヴィゴは愛しさが湧き上がるのを止めることが出来なかった。
「ショーン。悪い。ちょっとだけでいい。キスさせてくれないか?」
ヴィゴは、自分がルール違反をしていることを承知で口にした。
だが、今日のショーンは、まるでヴィゴとセックスしてくれているのだと誤解したくなるほど、甘い目でヴィゴを見つめてきた。
ショーンは、腕を伸ばして、ヴィゴを迎えた。
ヴィゴは、ショーンに抱きしめられ、キスをする。
「ショーン……」
ヴィゴは、何度もショーンの唇を甘く挟んで、口付けを繰り返した。
おずおずとショーンの舌が伸ばされた。
ヴィゴは、ショーンに舌を絡めた。
「……ショーン。もう一度、しようか? この方法なら、まだ、勃つかもしれないぞ?」
ヴィゴは、抜いていた指をもう一度穴に近づけた。
クリームでべったりと濡れ、すこしだけ緩んでいる皺をマッサージした。
「……そんなにして……痛くならないか?」
あんなに気持の良さそうな顔をしていたくせに、ショーンは、不安そうだった。
ヴィゴの首に回された腕にも力が入った。
ヴィゴは、唇を尖らせ、ショーンの鼻にキスをしながら、額を寄せた。
「前に、よっぽど酷い目にあったらしいな……」
「翌日は、痛くて、医者に駆け込みたいくらいだったんだ……」
ショーンの尻の穴には、力が入っていて、ヴィゴの侵入を認めようとはしていなかった。
ヴィゴは、くすりと笑った。
「……あんまり無茶なことしてるなよ。酷い弄りかたをすると、炎症を起こすんだぞ」
「だから……」
ショーンは、口ごもり、ヴィゴは、ショーンの穴の上を指先でなぞるだけにした。
「じゃぁ、今日はやめよう。でも、明日の朝は、大丈夫だと思うぞ? 実際には、殆ど触っていない。勿論、力を入れて押したりもしていないし、ショーンを痛い目に合わせるようなことはしていないつもりだ」
ヴィゴは、ショーンの額にキスをして、尻から指を撤退させた。
ショーンの腕がまだ、ヴィゴの首を抱いていた。
キスを待っているかのように少し唇が開いていた。
ヴィゴは、どうしようかと考えた。
ショーンの腕は、ヴィゴの首を抱いていて、唇は濡れたまま、ヴィゴを待っていた。
だが、ヴィゴは、これ以上自分が誤解を深めないために、すっかり小さくなっているショーンのペニスまで、するりと体を移動させた。
「今日は、殆ど触ってやらなかったからな」
ヴィゴは、そういうと、濡れているペニスを口に含んだ。
「ヴィゴ!」
「少しだけだ。いいだろう? こっちを舐められるのだって、ショーンは好きなはずだ」
ヴィゴは、くたりと柔らかなペニスから、のこった精液を搾り出すように、吸い上げた。
ショーンの足が、ヴィゴの体を挟んだ。
「もういいよ。ヴィゴ……」
「いいじゃないか。今日は勃つのに時間が掛からなかったんだ。まだ、たっぷりあんたと遊ぶ時間はある。それとも、もう、嫌か?」
「嫌ってわけじゃないんだが……」
ショーンは、途方に暮れたような顔をしていた。
ヴィゴはペニスを口から出し、ショーンに首を傾げて見せた。
「あの……な、ヴィゴ。本当に、ヴィゴがしたいからしてくれているんだと思って、俺は胡坐をかいてていいのか?」
ショーンは、困ったように口元を手で覆っていた。
だが、その目は、困っているというよりは、少しの期待を含んだ目だった。
ヴィゴは、ショーンの太腿へとキスをした。
「ショーン。負担になってもいいんだったら、何度でも言わせてもらう。俺は、ショーンが好きだ。こうやって、ショーンに触れられるのは、嬉しい」
ショーンの目がじっとヴィゴを見た。
「……ヴィゴ。あの……つまり、俺は、あんたの愛情を信じてもいいのか?」
「ああ、勿論。ショーン、あんたは、俺からの愛情をたっぷり搾取してくれて構わない。楽にしてろよ。今度は勃たないだろうけどな。ゆっくり快感を味わって、セックスが気持ちのいいものだってことを思い出してくれたら、それでいい」
ヴィゴは、ショーンの股間へと顔を戻して、小さなペニスを口に咥えた。
ショーンの手が、ヴィゴの髪を掴んだ。
「ヴィゴ……あのな……ヴィゴ……」
「うん? まだ、何か、気に掛かるのか? ショーン?」
ヴィゴは、いつもどおり、決して力を入れずに、ショーンのペニスを舌の上で転がした。
ショーンが甘い息を吐き出した。
「んんっ……気持ちいい。なんだろう。さっきに比べれば、こっちなんて、全然たいしたことないのに、でも、気持ちいい。こっちも、いい。……ヴィゴにしてもらうのは安心する……」
「安心して楽しめばいいよ。ショーン。俺も楽しんでる」
ヴィゴは、ショーンのために、ゆっくりと小さなペニスを舐め続けた。
ショーンは、結局ペニスを勃たすことができなかった。
だが、十分満足して、その二日後、本国への一時帰国をした。