愛でなる病 3

 

前回に比べると、ショーンは、よほど明るい顔をしていた。

少しばかり、積極的になっていて、ヴィゴは珍しくショーンの家で、コーヒーをご馳走になっていた。

「ショーンの家で、コーヒーが飲めるとは思わなかった」

ヴィゴは、温かいカップを両手で挟み、タバコを吸うショーンを見つめた。

ショーンは、ソファーに腰を下ろさず、部屋の中をうろうろとしていた。

「コーヒーなんて言ってもヴィゴ。それはインスタントにお湯を注いだだけだ」

「いや、そもそも俺は、ショーンがガスに火をつけられるということを知らなかった」

ヴィゴは、ショーンが隣に腰掛けるのを待ちながら、ゆっくりとコーヒーを口にした。

けれど、ショーンは、座ろうとしない。

ヴィゴは、ショーンに声をかけた。

「おいで。ショーン。俺の隣に座らないか?」

「それは、今日、2度目だ」

「ああ、そういえば、撮影所でも」

ヴィゴが照れた笑いを浮かべると、やっとショーンはタバコを消し、ヴィゴの隣に腰掛けた。

「ヴィゴは、いつもすぐそれだ。打ち合わせのときも、すぐ、そうやって俺のことを呼ぶし、休憩の時も、そうやって声をかける。あんたの隣に座ろうとしてる奴らが、俺のことを恨みに思ったらどうしてくれる?」

「恨まれといてくれ。ショーン。だって、ショーンの隣は居心地がいいんだ」

「だってじゃ、ないだろう? 子供じゃあるまいし」

機嫌よく笑うショーンの目に、笑い返しながら、ヴィゴは、ショーンと手を繋いだ。

ショーンは少し驚いた顔をしたが、手を離そうとはしなかった。

「さて、ショーン。今日こそ、俺に、やらしい話をしてくれるかい?」

ヴィゴは、ショーンが身構えてしまう前に、直球を投げた。

「この二日、ショーンを楽しませていた話ってのを俺に教えてくれ。どういうのが、ショーンは好きなんだ? 勿論、誰にも言わない。墓場まで秘密は持っていく。安心してくれていい。だから、ちょっと人に言えないようなファンタジーでも披露してくれ」

「……ヴィゴ」

ヴィゴは、できるだけ、気楽にショーンに提案したつもりだったが、ショーンは口を閉ざしてしまった。

あんなにも明るい様子だったのにショーンの口は重い。

目は戸惑いに満ちている。

コーヒーの湯気がゆっくり立ち上っていた。

部屋の中には、さっきまでショーンが吸っていたタバコの匂いがゆるく渦巻いている。

「……じゃぁ、俺の話を聞く?」

ヴィゴは提案した。

ショーンは、緊張を体に残したままだったが、ほっとしたように頷いた。

ヴィゴは、ショーンの手を握ったまま口を開いた。

「最近のお気に入りは……」

ヴィゴは、ちらりとショーンを見て、にこりと笑うと、言葉を続けた。

「相手が嫌って言い出すまで、唇と舌で、いいようにしてやること。全部脱がしてな。足の先から、頭の天辺まで、舌で辿ってやるんだ。相手が、冷たいとか、文句を言うだろ? でも、やめない。相手の体が熱くなって、俺の舌が触れたところが空気に触れて冷たいのが気持ち良いって思えるまで、ずっと続ける。嫌って、言われてから、もっとして欲しくなるまで、好きなように弄くってやって、とろとろになる所を想像すると、ぞくぞくする」

ショーンが、くすりと笑った。

「変か?」

「いや、嫌だって言われてから、とろとろにするってのが、いかにも妄想って感じだと」

「そう。現実には、なかなかそう上手くいかないけどな。でも、妄想の中なら、自由だろ? もっとしてって、押し付けてくるのかと思うと興奮する」

ヴィゴは、あけすけに自分のファンタジーを語った。

ショーンは、一つため息を落とした。

「……俺は、ヴィゴとは、反対……かな? してもらうことを考えてる時が安心する。ゆっくりここを舐めてもらうところを想像したり」

ショーンは、空いている方の手をペニスの上に置いた。

「俺の上に乗っかって、好き勝手にやってもらうところ考えて……うん。それが、一番楽な感じで好きかな……」

ヴィゴは、すこしからかい気味にショーンに尋ねた。

「ショーンが襲われるわけか?」

「ああ。まぁ、そういう言い方をすれば、そうかもな……。でも、ちょっと違う。もっと、ソフトな感じだ。前は、フェラしてもらうとこを考えても、自分の好きなように腰を使うところを想像したりしてたのに、どうしてだろう? 近頃は、すっかり味気ないことばかり考えてる」

ショーンの手は、ゆっくりとペニスを上から撫でていた。

ヴィゴは、その手から目が離せなくなりながら、尋ねた。

「フェラチオされるの、好きか?」

ショーンは、反対にヴィゴに尋ねた。

「嫌いか?」

「嫌いじゃない」

「だよな」

ショーンは、ヴィゴの同意に対して、ほっとしたような顔をした。

「ショーンは、優しくされるのが、好きなのか?」

ヴィゴは、尋ねた。

「そう。ただ、一緒に同じベッドに入って、裸で抱き合って眠るところを想像したり、ヴィゴに勃たなくてもいいって、言われたからか、本当に、体に触りあうだけっていう、そういうのを想像すると、ほっとして、気持ちがいいなぁって思う」

ショーンは、視線を上げると、弁解するように付け足した。

「前から、そういうことばかりを考えていたわけじゃないぞ。前は、何人も並べて、一緒にやったら楽しいかもしれないとか、一晩中俺のペニスでとか」

ショーンの顔はあまりに真剣だった。

ヴィゴは、笑った。

「わかる。わかる。そういう絶倫な自分ってのをイメージして、楽しんでたってわけだよな。実際、ショーンは、それに近い生活をしてきたんだろうし」

にやりと笑ったヴィゴに、ショーンは照れたように目元を緩ませた。

ヴィゴは、繋いだままの手をゆっくりと動かした。

ショーンが、ヴィゴの目を見た。

「ショーン、別に、どんな風でもショーンが気持ちよかったらいいんだよ。ダメなのなんてありはしない。たとえば、ショーンが、このソファーに座ったまま、ジッパーだけ下げて、ぼんやりしてる足の間で、熱心にフェラしてもらうって妄想だって、いいわけだ。そういうのはどう?」

「……楽で、いいなぁ」

鈍く笑ったショーンに、笑顔を返しながら、ヴィゴは、急にソファーから立った。

「ショーン。ちょっと思い出したことがあるんだが」

ショーンの目には、驚きと、拒絶されたのではないかという、かすかな戸惑いがあった。

ヴィゴは、違うと、首を振った。

「ショーンにとっては、全くどうでもいいことだろうが、俺は、ショーンにかなり本気で惚れてるんだ。これでも自制心のある方だと思っていたんだが、つい、ショーンのそういう姿を想像したら、勃っちまった。このまんまじゃ、あんたの話を最後まで聞くことなんて出来ないから、バスルームを貸してもらってもいいか?」

ヴィゴは、ショーンに強い拒絶の表情が浮かんだ時を想像したが、それでも誠実に打ち明けた。

二人は、とてもプライベートな相談事をしあっている仲だ。

ヴィゴだって、ショーンに嘘をつきたくなかった。

ショーンの目が、ジーンズの前を押し上げているヴィゴの勃起をうらやましそうに見た。

小さく口笛を吹き、

「いいなぁ……」

と、言った。

ショーンが、あまりに、正直な感想を言うものだから、ヴィゴは笑ってしまった。

「これは、あんたに向かって欲情してるんだよ。あんた、自分の性的な魅力が半減しているような落ち込み様だが、そういう心配は無用だと思うね」

ヴィゴは、一歩ショーンから遠のいた。

ショーンは、やっと対象が自分であると納得したようだ。

困ったような顔で、ヴィゴを見上げ、それでも笑った。

ヴィゴは、すまないと、背中を向けた。

しかし、バスルームからヴィゴが戻ると、ショーンは、また深い悩みに取り付かれた目をして、うつむいていた。

 

ヴィゴは、ショーンの足元に膝を付いた。

「どうした? ショーン?」

うつむいてしまっているショーンの顔を見上げ、ヴィゴは聞いた。

「……無性に、ヴィゴが羨ましいんだ」

ショーンは、悲しいような目で、ため息をつき、膝を付いたヴィゴの足の上にかかとを乗せた。

何をするかと思えば、ヴィゴの股間をつま先で蹴った。

「そう。このくらい、簡単だったはずなんだ」

ショーンは、舌打ちした。

蹴り方は、勿論力を加減している。

ヴィゴは、小さく笑った。

「俺は、普段、こんなに簡単じゃない。ショーンより、もうちょっとデリケートに出来ている」

「簡単な方がいい」

ヴィゴのペニスが、勃っていないということが、ショーンに安心を与えるのか、ショーンの足が、ヴィゴの股間を何度も踏んだ。

「やめろよ。ショーン。年甲斐もないことになったら、恥ずかしいだろ?」

「……そうなりたいよ……」

ショーンの呟きが、あまりに真剣だったので、ヴィゴは、ショーンに踏まれたままの情けない格好で、しばらくショーンの足元にうずくまっていた。

幸い出したばかりのペニスは大人しくしてくれている。

ヴィゴは、ショーンの足に手をかけて、膝の上に顎を乗せた。

「なぁ、ショーン……」

不満を体の中に溜め、口を尖らせているショーンは、小さなため息を落としながら、ヴィゴに視線を向けた。

視線が厳しい。

ヴィゴは、苦笑しながらショーンを見上げた。

「なぁ、ショーン。そんなに落ち込むな。もしよかったらなんだが、治療の第二歩目としてあんたのファンタジーを実践してみようか? とりあえず、ショーンの気持ちがよくなるようなことをして、少しだけ、満足してみないか?」

「どうやって?」

ショーンが、不機嫌に顔をゆがめたまま、ヴィゴに尋ねた。

ヴィゴは、口を大きく開いた。

その顔がおかしかったのか、ショーンが小さく首を傾げながら笑った。

ヴィゴは、ますます大きく口を開けた。

やはり、ヴィゴの顔がおかしいらしく、不機嫌に引き結ばれていたショーンの口元がすっかり緩んだ。

「何がしたいんだ。ヴィゴ?」

ショーンは、唇を撫でるようにしながら、笑いの振動を膝に顎を乗せているヴィゴに伝えた。

ヴィゴは、開けた口を指差した。

「ここにおあつらえ向きに、あんたのペニスを咥えてみたいって思ってる口がある。まぁ、あんたが、信じてくれるかどうかわからないが、無理強いするつもりは一切しない。フェラ以上のことはしないと約束する。ショーンが気持ちが悪いって言うんであれば、勿論、しない。でも、ショーンが、俺に許可してくれれば、気長に可愛がってやるぜ? 良ければだけどね」

ヴィゴは、顎をショーンの膝の上に置いたまま、ショーンを見上げた。

ヴィゴの股間は、ショーンのかかとで踏みつけにされていた。

よく考えるまでもなく、随分危険な格好だ。

ショーンがヴィゴに嫌悪感を抱き、思い切り踏みつけてこないとも限らない。

だが、ショーンは、ヴィゴのペニスを踏みにじるような真似をせず、思案するような顔をした。

ショーンにとって、この提案は思案の余地があるのかと、ヴィゴは、すこしばかり驚いた。

「でも、ヴィゴ。勃たないと思うぞ?」

ショーンは、興味のある目の色をして、ヴィゴを見下ろした。

「それは、知ってる。あんたから、ちゃんと聞かされているからな」

ヴィゴは、ショーンが、自分のジッパーを下げるのを、信じられないものでも見るような目で見てしまった。

実際、ヴィゴは、この提案を少しばかり自分の下心の多すぎるショーンにとって、許容できないものであると信じていた。

ショーンは、ごそごそと下着から、ペニスを取り出し、ほらっと、ヴィゴに見せた。

「これだぞ。本当に、できるのか?」

それは、ショーンの手に握られていないと、ぺたんと下を向いてしまうきれいな色のペニスだった。

周りを覆う陰毛も、頭髪より少し暗いブロンドだ。

ヴィゴは、ショーンを怖がらせないために、そっと手を伸ばした。

ショーンの手の上から、ペニスに触れ、ショーンの顔を見上げた。

「本当に、触ってもいいか? ショーン?」

「触れるって、言うんだったら」

ショーンは、ペニスの威力が回復するチャンスを逃したくないだけなのかもしれなかった。

迷信的ショーンの考えによれば、普段味わったことのない刺激的なことは、それだけで勃起を促すということになる。

ヴィゴは、出来れば、ショーンのために勃たせてやりたかった。

ヴィゴの股間を踏む、ショーンの足を丁寧にどかし、ヴィゴは、ショーンに向かって伸び上がった。

力の入っているショーンの太ももに両手をかけ、ショーンの手で掴まれているペニスの先をぺろりと舐めた。

ショーンが驚いた声をだした。

「……うわっ、本当に舐めた」

ヴィゴは、ショーンの体をソファーの背もたれに倒れさせながら、顔を見上げた。

「舐めるさ。平気か?」

「平気……だけど、ヴィゴ。あんたこそ、平気か?」

「平気だ。と、いうより、舐めてみたいと思ってた」

ヴィゴは、ペニスに顔を近づけながら、ショーンに指示した。

「ショーン。目を閉じて。ゆったりソファーにもたれていてくれ。嫌なことや、痛いことは、はっきり言ってくれて構わない。何でもいいから、好きなことを考るんだ」

ヴィゴは、ショーンの手をペニスから離させ、自分で握った。

ショーンのものは、全く力なく、柔らかいままで、ヴィゴが支えてやらないことにはどうにもならなかった。

ヴィゴは、ショーンの腰に手を置き、口の中にペニスを含んだ。

全く膨張していないペニスは、全長が口の中に納まる。

とてもやわらかなそれを、ヴィゴは、口の中で、きゅっと吸い上げた。

頼りないくらい、ペニスは、ヴィゴの口のなかで、弄ばれる。

「どう? 平気か?」

ヴィゴは、濃いブロンドに鼻を埋めるようにして、ショーンのペニスを口の中に頬張った。

やわらかなそれを舌の上に乗せ、チュウっと吸い上げる。

「ちょっと、痛い」

頼りないショーンのペニスは、優しい愛撫を必要としていた。

「ああ、ごめん。もっとそっとだな」

ヴィゴは、吸い上げる動きをやめ、ひたすらショーンのペニスを舐めた。

手で、ショーンのペニスを持ち上げ、ぐったりとうなだれている先端を舐める。

「気持ちいい?」

「……ああ」

ソファーにもたれていたショーンが、少しだけ体を起こし、ヴィゴの手元を眺めた。

うんざりとした目をしていた。

「勃ってないな」

自分を責めるようなショーンの声に、ヴィゴは、何度もペニスの先へとキスを繰り返した。

「別に、勃ってなくても、ショーンが気持ちいいんだったら、問題ないだろ?」

実際、ショーンのペニスは、柔らかくヴィゴの口の中にいて、ヴィゴだって、気持ちのいい思いを味わっていた。

きつく締め上げるとぐずぐずと崩れてしまうのではないかと思わせる小さなものは、ヴィゴの口内に淡い快感を与えてくれる。

骨のない小さな肉の塊は、柔らかであればあるほど、ヴィゴに優しい気持ちを湧き上がらせた。

ヴィゴは、ペニス全てを口の中にいれ、口全体をショーンのために明け渡した。

緩く、柔らかく、ヴィゴは、ショーンを愛撫する。

「なぁ、ヴィゴ。付け根の部分を触ってくれないか?」

ショーンがヴィゴの髪に指を差し入れながら、要望を出した。

ヴィゴは、唾液で濡れているショーンのペニスの周りにある皮膚に触れた。

どう触って欲しいのかわからないため、優しく撫でるように、周りに一周、円を描く。

「この辺り?」

ヴィゴは、口の中に、ペニスを咥えたまま、ショーンに聞いた。

口から零れだした唾液が、ヴィゴの指を濡らした。

「うん……もうちょっと下」

「じゃぁ、ここ?」

ペニスと玉のちょうど間辺りを触ると、ショーンは頷いた。

ショーンが満足そうなため息を落とす。

緩やかにヴィゴの髪を撫でていた。

ヴィゴは、表情に比べれば、まるで反応のないペニスを熱心に舐め続けた。

指先で、ショーンの言っていた部分を軽く押す。

「……ヴィゴ。気持ちいい」

「いいよ。ショーン。わざわざ俺の名を呼んで、俺のことを意識する必要はないんだ。それよりも、自分の好きな妄想でも楽しめ」

ヴィゴは、全く大きくならないペニスを唇で挟みながら、ショーンの腿を撫でてやった。

ジーンズに包まれた太ももの内側をなで上げた。

ショーンの足が、力をいれ、快感をヴィゴに伝えた。

次にヴィゴは、剥き出しになっているショーンの腹に触り、そこから、腰骨へと緩く辿った。

ショーンが腹に力を入れた。

「気持ちいい。ヴィゴ」

「ああ、そうだと嬉しいよ」

ヴィゴは、ショーンの肌を指先で味わいながら、熱心に愛撫を続けた。

だが、ショーンのペニスが大きくなる気配はまるでない。

ヴィゴの手の動きに、緩く解けた色の薄い唇が聞いた。

「勃ってない……よな?」

かすかな期待をその声は、含んでいた。

「残念だけどな。でも、別に構わないだろう? 今日はじめてして、もう、今日なんとかなるなんて、虫が良すぎる話だ」

ヴィゴは、ショーンのペニスを手の中に握り、そうっと動かしながら、ショーンの太腿に唇を寄せた。

唇の弾力を使って、柔らかなキスを繰り返す。

「……ヴィゴ」

「何?」

決して痛みを与えず、ヴィゴは、ショーンの肌を唇で挟んだ。

舌先で、舐める。

「そこも気持ちいいけど、ペニスを舐めて欲しい……」

「ああ、わかった。いくらでも」

ヴィゴは、どうにかして勃起しないかとかすかな期待を込めているショーンの願いを受け入れ、ペニスをもう一度、口の中へと迎え入れた。

先ほど、ショーンが触って欲しがったペニスの付け根にも指で触れた。

ヴィゴの口から漏れ出した唾液は、ショーンの陰毛を濡らし、押し下げていた下着も濡らしていた。

ヴィゴは、ショーンの快感を引き出してやろうと、ゆっくりと勃起しないペニスと付き合った。

 

                                               →続く