愛でなる病 1

 

ヴィゴは、ショーンの隣で、この間見た映画を、身振り手振りをつけて、真似をした。

その絶妙さに、ショーンは、笑い転げていた。

「上手い。上手いぞ。ヴィゴ」

「任せとけ。なんと言っても俳優だ」

見栄をきった顔を大げさに真似して、ヴィゴは、ショーンをもっと笑わせた。

時間は、もう、真夜中だった。

時計の針が、十二を指したのを機に、ヴィゴは、ソファーから立ち上がった。

「ああ、もうこんな時間だ。そろそろ帰るよ。ショーン」

ヴィゴは、ショーンの家から辞そうとした。

ショーンが、急にヴィゴの手を引いた。

部屋の中は、笑いの余韻を残し、気が抜けたようになっていた。

ヴィゴは、この温かな空気が冷め切らないうちに、ショーンがベッドに入ればいいと思っていた。

だが、ショーンは、ヴィゴの手を掴んだまま離さなかった。

「どうした? ショーン?」

「……相談があるんだ」

今までの、笑いなどどこかに行ってしまったかのように、緑の目は、自信なく揺らめいていた。

 

ショーンは、ため息をついた。

ヴィゴが、帰らないとわかると、握っていた手を離し、組み合わせた両手の上に、額を乗せ、うつむいた。

ショーンは、とても緊張していた。

「なぁ、ヴィゴ。誰にも話さないと約束して欲しいんだが……」

ショーンの声はあまりに頼りなくて、ヴィゴは、もう一度、ショーンの隣に腰を下ろした。

だが、ショーンの言葉は続かない。

ヴィゴは、深刻な表情の親友の隣で、出来るだけリラックスした様子を装った。

しかし、こわばったショーンの頬から目を離すことができなかった。

ショーンは、立てた膝の上に組んだ両手に、顎を乗せた。

じっと前を見つめたまま、何も話さない。

時計の針だけが、過ぎていく時間を教える。

「……あの……ヴィゴ……つまり……」

ショーンは、顔を動かし、自分の人差し指を唇で挟んだ。

鼻から大きく息を吸う。

柔らかく肉のついた胸が大きく動いたが、視線は、前を向いたまま、何度も何度も、唇で指を噛んだ。

ショーンは、ずっと前ばかりを見ていた。

ヴィゴは、ショーンをじっと見つめた。

「……ああ、ヴィゴ。待ってくれ、ちょっと、待ってくれ」

ショーンは、ヴィゴのことが見られないくせに、視線は感じるようだ。

弱りきった顔で、ヴィゴの膝を掴んだ。

ショーンは、自分で作り出した緊張感に耐えられなくなっていた。

ヴィゴは、ソファーの背もたれにもたれかかり、天上を見上げた。

「明日になろうが待ってやるよ。ショーン。見るのも禁止か?」

ショーンの指の感触をジーンズの膝に感じながら、ヴィゴは、天上のしみの数を数えた。

結構な数だ。

「……悪い。ちょっと待ってくれれば、ちゃんと話せると思うんだ」

ヴィゴは、決して急かしたりはしなかったのだが、ショーンは、一人で焦り、空回りしていた。

「別に、もう、帰って寝るだけだから、いつまででも待つよ。心配するな」

ショーンの指には、力が入っていた。

その力は、多分、ショーンが思っているよりもずっと強く、ヴィゴは、気付かれないように、そっとショーンへと視線を流した。

ショーンは、仕切りと唇を触っている。

唇を噛んだり、顔を顰めたりした。

ヴィゴは、顔は上を向けたまま、口元に笑いを浮かべて、ショーンを見た。

「今晩、泊めてくれるか? ショーン」

はっと、ヴィゴを見上げたショーンは、大きな息を吐き出した。

「……えっ? ああ、泊っていってくれ。話しがすんだら、すぐベッドを用意するから……」

「俺は、別にショーンと同じベッドでも構わないけど?」

軽口を叩くヴィゴに、やっとショーンが表情を崩した。

「俺と、一緒に寝るのは、嫌か? ショーン」

ヴィゴは、ゆっくりとショーンへと顔を向け、膝の上に乗せられた手の上に掌を重ねた。

「俺は、ショーンみたいに蹴飛ばさないぞ?」

ヴィゴは、目じりに皺を寄せ、ショーンににこりと笑いかけた。

つられたようにショーンの目元が少し下がった。

ヴィゴは、そのままショーンをリラックスさせようと、とんとんと、人差し指でショーンの手の甲を叩いた。

モールス信号の要領だ。

子供のようなヴィゴのやり口に、ショーンが小さく眉を上げた。

ヴィゴは、小さなウインクを返す。

「ヴィゴ・モーテンセンからショーン・ビーンへの通信。俺だけに打ち明けたくなるような、ショーンの秘密ってのに興味がある」

ショーンの顔が僅かに固くなった。

だが、ヴィゴは気にせず、繰り返し指でショーンの甲を叩き、口元を引き上げた。

「通信の続き。一体どんな秘密なんだ? 俺にも教えないつもりか? ショーン?」

ヴィゴは、必要以上に甘ったるく笑った。

「通信の続き。わかったぞ。恋の悩みだろう? とうとう、俺のことが好きになっちまった?」

ショーンは、一瞬驚いたのか、真顔になった。

しかし、ぷっと吹き出し、口元を押えた。

それでも、笑いがかみ殺せなかったのか、小さく肩を動かして苦笑しだし、そのまま額をヴィゴの肩にぶつけてきた。

ショーンは、ヴィゴに寄りかかるようにして、笑った。

ヴィゴは、重ねた指をショーンの指の間に割り込ませた。

指の間を愛撫するように、優しく擦る。

「失礼な奴だな。ショーン何がそんなにおかしいんだよ」

ヴィゴはとても優しくショーンに笑った。

「ヴィゴ。お前の顔が、だよ。そんな顔して、誰をたらしこもうって気なんだ?」

ヴィゴは、優しい愛撫を続けながら、にこりと笑った。

「ショーンって名前の俳優だけど、知ってるか? あんまり有名じゃないみたいなんだが」

「……お前なぁ……」

ショーンは、くすくすと笑いながら、ヴィゴに寄りかかった。

ヴィゴは、ショーンが笑っている間に口を開いた。

「ショーン。俺は、多分、あんたに信用してもらっても大丈夫な人間のつもりだ。ショーンが、秘密にして欲しいって言うんなら、誰にもしゃべらない。約束する。だから、心に蟠っているものを吐き出しちまいな。悩みってのは、人にしゃべっただけで、解決することもある」

ヴィゴは、ショーンの瞳を覗き込んだ。

しかし、ショーンの目は逃げた。

ショーンは、ヴィゴの肩に額を擦り付けるようにして、しばらく黙り込んでしまった。

ショーンの鼓動が落ち着くまで、ヴィゴは、ショーンの指を優しく愛撫し続けた。

ショーンは、呼吸を繰り返す。

ヴィゴは、ショーンに押しつぶされていた腕を持ち上げ、ショーンの肩を抱いた。

「ほら、ゆっくりでいいから、口を開けよ。ショーンの口は、上手に話をすることができるいい口だろう?」

「……ヴィゴ」

まるで、拗ねている小さな子供の口を開かせようとする大人のようなヴィゴの口ぶりに、ショーンが、小さく笑った。

ヴィゴは、ショーンの足に自分の足を絡ませた。

ショーンの顔に苦笑が浮かんだ。

だが、まだ、ショーンは決心が付きかねているかのように、何度か呼吸を繰り返した。

ヴィゴは、じっと待っていた。

「あの……な。ヴィゴ……」

ショーンがようやく口を開いた。

ヴィゴの肩に顔をうずめ、肩を抱かれたまま、ショーンは、ぼそぼそとしゃべりだす。

「……ヴィゴ。……あのな、お前、勃たなくなったことって、ある?」

「……やり過ぎで?」

ヴィゴは、小さなショーンの声を聞き逃さないよう、一生懸命聞き耳を立てていたが、質問の意味がわからず、眉の間に皺を寄せた。

ショーンは、言いよどんでしきりに唇を舐めていた。

ヴィゴは、ショーンの肩をぽんぽんと叩き、ショーンの指を撫でていた指の動きは止め、ただ重ねるだけにした。

ショーンは、沈黙しか返さない。

ヴィゴは、頭でも掻きたい気分になった。

だが、両手はショーンに使ってしまっていたので、仕方なく、ショーンの頭に、自分の頬を載せた。

ヴィゴは、ショーンが何を言いたいのかまるでわからなかった。

「……ショーン。もう少し、詳しく話す気になれるか? 俺に、何が聞きたい?」

ショーンは、ヴィゴの足を押しつぶすように、もっと深くヴィゴに寄りかかり、口を開いた。

「……ヴィゴ。俺、勃たない……んだ」

「……どういう意味だ?」

ヴィゴは、ジーンズで包まれたショーンの股間をじっと見つめた。

ショーンには、三人もの子供がいて、それが、全く役に立たない。と、いうことは考えにくかった。

ショーンは、口を開かない。

仕方なく、ヴィゴは、ショーンの頭に頬を摺り寄せ、繰り返し、優しく語りかけた。

「ショーン。落ち着いて。大丈夫。大丈夫だから」

ショーンが、唇を噛む。

ますますヴィゴの体に寄りかかる。

ショーンは夢中になって、自分の中に巣食っている悩みと会話を交わしているのだろう。

その体はずいぶんと重かった。

ヴィゴの足には随分な加重が掛かっていた。

まもなく、しびれ出すだろうと自分でも予測がたった。

ヴィゴは、自分がとっている体勢を長く続けることは無理だと判断して、そっとショーンを押し返した。

ショーンは、頼りない目をしてヴィゴを見上げた。

ヴィゴは、ショーンを安心させるために笑いかけ、ソファーへと足を上げると、ショーンの体を挟み込んだ。

腰をぐっと引き寄せ、背中から抱きしめると、ショーンの体を自分の中に抱きこんでしまう。

「ヴィゴっ!」

今までだって、抱き込まれていたのと変わらなかったくせに、ショーンが焦ったような声を出した。

「正面から、抱きしめると、もっと恥ずかしいだろう?」

ヴィゴの中から逃げ出そうともがくショーンの背中をべったりと自分の胸に付けさせ、ヴィゴは、がっちりとショーンの腹の前で両手を繋げた。

「顔が見えないほうが、話しやすいんじゃないかと思ってね」

ヴィゴは、ショーンの肩に鼻をうずめて、そこでごりごりと顎を動かした。

「ヴィゴ。くすぐったい」

ショーンが困ったような声を出した。

ヴィゴは、ショーンの背中にべったりと覆いかぶさりながら、片手をショーンの腹から離した。

離した手を、決して慌てずに、ショーンのジーンズの上に置く。

ペニスがあるだろう位置から、少し外し気味に置き、その場所から、ゆっくりと掌を近づけた。

「こいつの調子が悪いのか? ショーン?」

ショーンが、息を呑んだ。

一瞬、振りほどこうと体に力を入れかけた。

だが、諦めたように、ヴィゴへともたれかかった。

ショーンは、大きなため息をついた。

「……ヴィゴ。実は、ここずっと勃たたない」

ショーンは、ヴィゴの体に抱きこまれたまま大人しくなってしまった。

ヴィゴは、手をショーンの柔らかなペニスから離した。

「ずっとって、どの位?」

「……一月くらい?」

ヴィゴは、くすりと笑った。

「その位の間、セックスしないことくらい普通にあるだろ?」

ショーンの基準がどのくらいのものなのか知らなかったが、ヴィゴは、セックスに重みをおかず生活している人たちがたくさんいることを知っていた。

セックスレスの状態でも、仲良く暮らしている夫婦は結構いる。

ヴィゴは、ショーンの背中にぴったりとくっついたまま、耳元に話しかけた。

「それにさ、ショーン。あんた、離婚しかけの奥さん相手に、欲情するってのは、ちょっと難しいんじゃないか?」

ヴィゴは、口元に笑いを浮かべた。

ショーンは、あと何日も待たずに、独身に戻ることになっていた。

愛情が冷め、その関係を清算しようとしている夫婦の間柄では、セックスをしようとするほうが難しい。

特にショーンの場合、話を聞く限りでは、パートナーとの間に感情的な捩れが出来上がっていた。

もし、ショーンが奥方にそういったことを望んだとしても、それは、レイプだと、訴えられかねないほど、険悪になっている。

「違う。そうじゃなくて、……あいつじゃないんだけど、そういう状況に置かれても、勃たなかった……んだ」

「ショーン……?」

ヴィゴは、小さく眉をひそめた。

ショーンは、唇を噛んでいる。

「……ショーン。あんた……元気だなぁ」

ヴィゴは、ショーンの背中で、小さく笑った。

「離婚の手続きの最中に、もう、他の女を物色か。そりゃ、罰が当たったんだ」

「でも、ヴィゴ。彼女だけじゃなくて……」

ショーンは、額に深い皺を刻んでうつむいた。

「まだ、他にも?」

「……出来なかったことが、ショックで、……彼女じゃなかったんじゃないかとか……」

「何人試した?」

「三人……」

「髪の色。体つき、年。……こんな感じで、三人?」

ヴィゴは、ショーンの腹の前で、もう一度手を繋ぎ合わせ、ショーンを大きく前後に揺さぶった。

「ショーン。そういうことばっかりしてると、あんた、本当に病気になるぞ」

ショーンは、情けない目をして振り返った。

「……ヴィゴ。俺、病気なのかな?」

ヴィゴは、ショーンの頬に、噛み付いた。

「あんた、前回の帰国は、そんなことばっかりするために、戻ってのか?」

「……違う」

ショーンは、目をそらしがちにして、何度か瞬きした。

「ショーン、本当か? 本当に、ちゃんと仕事はしたのか? ……ああ、もう、そんなに情けない顔をするなって。大丈夫だよ。ただのストレスだって。今までだって、勃たなかったことくらいあるだろう?」

「……そりゃぁ、ごくたまに……なら……でも、こんな長い間なんて……」

ショーンはがっくりとうなだれて、自分でジーンズの上からペニスを撫でた。

「なぁ、ヴィゴ。真剣に相談してるんだから、絶対に笑うなよ。あのな……」

ショーンは、うつむいたまま、ぼそぼそと告白した。

「……帰国前の一週間くらいは、そんな気も起きなかったし、一度も自分でだって触らなかった。それで、向こうに行って、弁護士に嫌になるくらいいろんな書類を読まされたり、家に帰ったら、あいつの荷物がごっそりなくなってたり、まぁ、そういう嫌な目にたくさんあって、ウサ晴らしに友達に電話したんだ。……うん、まぁ、そういう……」

ヴィゴは、ショーンの肩に頬を乗せたまま、話を聞いた。

「そういう付き合いの彼女なんだけど……で、やろうとして、できなくて……お互いに気まずい思いをしたんだよ。……俺は、かなり、ショックで。……だって、彼女は、若くて、まだ、ずいぶん短い付き合いで、飽きるとか、そういうことが起こるほど、やってないし、結構好みのタイプだし」

「はいはい。ショーン。彼女のことは、まぁ、それで、いい。で、続きは?」

「……自分のことが信じられなかったから、思いつく相手に、電話したんだ」

ショーンが、唇を噛んだ。

「……でも、全部、ダメで……」

ヴィゴは、ショーンを強く自分に引き寄せて、耳元でささやいた。

「ダメって、具体的にどうダメだった?」

「……全く、勃たなかった。……舐めてもらったり、手で触ってもらっても、全然ダメで、勿論、無理やり入れようとしても、無理で……」

その時の気まずさを思い出したのか、ショーンは、とてもつらそうな顔をした。

ヴィゴは、口元に皺を刻んだ。

「なかなか、努力したらしいな。でも、あんた、あんただって、結構な年なんだし、そういうことだってあっても不思議じゃないだろう。それより、身を控えるとか、そういうことは思いつかなかった?」

「……ヴィゴ。途中で柔らかくなるとか、そういう話じゃないんだ。本当に、最初から、全く勃たないんだ。これっぽっちもサイズが変わらなくて……」

ショーンは、切ない目をして、股間を見下ろした。

「……言っちまうけど、こっちに戻ってから、どうしても不安で、毎日触るんだよ。……すごく時間をかければ、たまに勃つんだ。それで、出る。えっと、つまり、精液がってことなんだが。…………」

ショーンは、もごもごと言いにくそうに口の中でしゃべった。

酒場であれば、あれほど下品な口を利く男とは思えないほど、ショーンは目を伏せがちにして続けた。

「……だから全く勃たないってわけじゃない……んだけど、でも、それじゃぁって、いうと、本当に、全く役に立たなくて……」

ショーンの声はどんどんと小さくなっていった。

ヴィゴに秘密を打ち明けるたびに、自分で事実を確認し、それにまた傷ついているようだった。

ヴィゴは、ショーンの肩から顔を上げた。

うつむくショーンの首筋を眺め、その無防備さを強く抱きしめてやりたくなった。

ヴィゴは、ショーンの悩みを深刻に受け止め直した。

だが、同時に、自分の中に、その手の知識があまり無いということにぞっとした。

ヴィゴは、自分が勃起不全で悩んだことがなかった。

そのせいもあって、どうでもいい中途半端なことばかり知っていて、ショーンに勧める医者も知らなければ、薬の名前だって正確には知らなかった。

「悪い。ショーン。……あの、よく、わからないんだが、たまたま、とか、調子が悪かったとか、そういうことじゃなく、……ああ、そうだ、緊張してるとか、そういうことでもなく、本当に、勃起しないってことなんだよな?」

「そう。……俺、勃たなくなっちまったのかな? ヴィゴ」

顔を上げたショーンの目は、もし、ヴィゴがうなずきでもしたら、ノイローゼにでもなりそうなほど、思いつめていた。

「調子の悪い時ってのもあるだろ?」

「でも……ヴィゴ。俺達、まだ、勃たなくなるほどの年じゃない……よな?」

「医者には行った?」

ヴィゴは、ショーンの悩みを専門家に押し付け、荷を降ろしたいわけではなかったが、ヴィゴ自身が専門家の知識を欲していた。

ショーンは、横に首を振った。

強い振り方だった。

「行きたくない。行って、病気だからあんたはもう勃たないって言われたら立ち直れない」

「でも……」

ショーンの気持ちもわからないではなかったが、ヴィゴは、ショーンの強い拒絶に困惑した。

ショーンは、無理に作ったとすぐわかる笑顔を浮かべた。

「……でも、ヴィゴ。病院に行かなくても、明日には治るかもしれない」

「ああ、そうだな。確かに、そんなに気にすることはないと思うが……でも、そんなに心配なら、医者にかかることも一つの手段だと思うぞ?」

ショーンは、頑固に黙り込んだ。

「……嫌だ」

ようやく口を開いても、この一言だった。

それだけ言うと、また、ぎゅっと口をつぐんでしまう。

ヴィゴは、固くなったショーンの体を撫でた。

「ショーン。悪かった。結論を急ぎたいわけじゃないんだ。そうじゃなくて、俺もあまり知識があるわけじゃないから、よくわからなくて。……でも、いろんな困難に取り組んでいる時って、性欲が減退して、やりたいっていう気分そのものが、あまりしなかったりするだろう?」

「……違う。ヴィゴ。したくないんじゃ、なくて、出来ないんだ」

ショーンは、ヴィゴを振り返り、不機嫌に眉を寄せた。

「やる気はあるんだ。電話した女の子達だって、セックスしたいから来てくれなんて、頼んだわけじゃない。食事に誘って、酒を飲ませて、いい気分にしてやって、いろいろ手続きを済ませてやっとベッドに連れ込んだんだ。……なのに」

ショーンは、反り返って、ヴィゴの体を後ろに押した。

緑の目は、苛立っていた。

思い通りにならない下半身というのは、確かに、男にとって、重大な悩みとなりうる存在だ。

 

                                          →続く