置き換えられる欲望 2

 

僅かに水音が漏れ聞こえ、俯いたままのショーンがディヴィットの元へと戻ってきた。

ショーンは、わざわざと、ディヴィットから離れた場所へと腰を下す。

ディヴィットは、ショーンの隣へと距離を詰め、どすんと座りなおした。

ショーンの様子に気を配りながらも、柔らかなベッドの弾み具合に、ディヴィットは、かすかに眉をひそめる。

このスプリングの柔らかさでは、痛みに耐え、身を捩るショーンの身体は、不安定に揺れることになるだろう。

ディヴィットは、柔らかな絨毯の敷かれた床にショーンを這わせることも検討しながら、落ち着きなく坐るショーンの太腿へと手を伸ばし、優しく撫でた。

ショーンは、びくりと身体を震わせ、ディヴィットをみつめた。

かすかに唇が震えている。

しかし、こんな様子をみせるショーンには、かなり気位の高いところがあり、ディヴィットが床に這うよう言ったところで、聞き入れるとは思えなかった。

きっと、ヴィゴとの時なら、違うのだろうが。

ディヴィットはショーンの手を握る。

「緊張しだした?」

ショーンのあまりにもきれいな形をした爪の先は、こわばっていた。

「……ああ」

ごくりとショーンが唾を飲み込む。舌が落ち着きなく唇を舐める。

「少し……」

「でも、大丈夫だって。自分になら出来るって、信じてるんでしょう?」

ディヴィットはわざとぴったりと寄せた太腿をもう一度、空いている方の手で撫でた。

伝わる体温に、ショーンの体からは、少しずつ力が抜けていく。

ディヴィットが包み込んだ手が、小さく握り返す。

 

ショーンは、……ゆっくりと頷いた。

 

「……ショーン、すごくしたいんだ」

「……ああ」

ショーンは、情けない目で隣に並ぶディヴィットを見上げた。

頼りなく揺らぐ緑の瞳は、緊張のためか、うっすらと涙ぐんでいる。

ショーンは、ディヴィットとの行為の前、いつもこの不安定さをみせた。ショーンは自分自身の嗜好に対して激しい抵抗感を持っているのだ。

それでも、それで得る快感だって欲しがる。

煩悶する男が隣にいたところで鬱陶しいのが普通なのだが、自分を苛むショーンの普段の気持ちのいい笑顔を知っているだけに、ディヴィットは優しくしてやりたいような気持ちになっていた。

「やっぱり、俺、おかしいよな……」

ディヴィットは、笑い皺の寄るショーンの目尻を撫でた。

しかし、ショーンの力ない姿というものは、優しくしたい気持ちと同時に、もっと追い詰めてやりたいような気持ちにもさせるのだ。

「いいんじゃないですか? それほど特殊なことじゃない。ショーン以外にだってしたがる人のいる趣味ですよ。それ用の本だって、ビデオだってある」

「でも……」

自分の望むセックスをしたい気はあっても、ショーンは、いつだって、行為の前にナーバスになる。

ディヴィットが行為の前に、必ず腸内の洗浄を求めることも原因の一つだった。

ショーンは、腹の中にたっぷり浣腸液をいれられ、長い間耐えることができない。

すぐに弱音を吐く。

 

「ヴィゴにしたいって言い出せないから?」

ディヴィットは、情けのない顔をしたショーンの頬にキスしてやった。

「言えばいいのに」

「……こんな年だってのに、普通じゃないセックスに興味があるなんて、変だろう?」

ショーンは、目を伏せる。

好奇心という言い訳が使えない年であることに、ショーンは引け目を感じているのだ。

キスは伏せられた目尻へと移り、そこに優しいキスを繰り返すディヴィットに、ショーンが緑の目を閉じる。

そうしていると、まるで従順な恋人のようだ。

「ディジー、お前だって、もし俺が、お前の恋人だったとして、俺が普通のセックスじゃ物足りない。もっとハードなことがしたいと言ったら、気分が悪いだろう?」

「俺は、そうばかりじゃないですけど……」

口元ににやりと悪い笑みを浮かべたディヴィットは、震えるショーンの唇へとチュッと、かわいらしい音のするキスをした。

「だから、相手が俺なんでしょ?……ショーン、いつも言ってるじゃないですか。ヴィゴとのセックスがあまりにも良かったから、自分はアナルセックスがとても好きになってしまったんだ。だから、フィストに興味をもってしまったんだ。って、そう、前向きに捕らえればいいって」

実際そうなんだし。と、ディヴィットは、慰めるようにショーンへのキスを続ける。

ショーンは、ぐったりと脱力し、されるがままになっている。

「でも……」

「ヴィゴに教えられなきゃ、ショーンは、そんなこと一生しなかったかもしれないわけだし、ヴィゴのペニスで尻の中をかき回されるのが気持ちよくなきゃ、ショーンだって、フィストなんて、興味が湧かなかったはずだ」

ディヴィットは、辛そうな表情で目を瞑るショーンから、視線を上げた。

聞こえる湯の音に、耳を澄ます。

あふれ出てはいないようだが、グリセリン液が温まるには十分な時間がたったはずだ。

 

「ショーン。そろそろバスを止めて来て」

あまりにのろのろとショーンが腰を上げるので、ディヴィットは、くすりと笑った。

「ショーン。そんな風に嫌だってデモストレーションされたって、俺にだって譲れない線はありますので」

ディヴィットは、しばらくためらった後、やっとバスルームに向かって歩き出したショーンの背中に付け足した。

「でも、もし、ショーンが今からでも俺の恋人になるっていうのなら、俺はあなたが自分できれいにしたという言葉を信じてもいいですよ。多少粗相したとしても許してあげますし、実際、いつも、あなたは上手にきれいにしてますしね」

ショーンは振り返り、ディヴィットへと願うような、ねだるような目付きをした。

「俺が、お前に迷惑をかけないよう、ちゃんと準備をしてるって、わかってくれてるんだったら……」

「今のは、あなたが俺の恋人だったらという話です。実際違うわけですから、俺は、自分の目で確かめてあなたの腸がきれいになっているのでなければ、腕なんて入れたくありませんし、……もし、どうしてもというのなら、やっぱり、ヴィゴに頼んでみたらいいんです。そりゃ、彼もあなたに急にそんなことを言われれば、戸惑うかもしれませんけど、きっと、上手くやってくれますよ。ショーンだって、俺なんか相手に、不安を抱きながらやってるより、ずっとリラックスして楽しめるはずだ」

「ディヴィット、俺は、君に不安を抱いてたりは……」

前に進もうとしなくなったショーンに、ディヴィットはきっぱりと会話の打ち切りを宣言した。

「ショーン。お湯が溢れますよ」

 

ディヴィットは、ショーンが戻るまでの間に、足りないものを取り出すため、勝手にクローゼットの中をかき混ぜた。

やはりそれは、紙袋に入り、隠されている。

深いプラスティックのボウルが一つ。手術にでも使うような極薄いラテックスの手袋。ジェルは、大きなボトルで転がり出た。

ベッドの上に、ディヴィットはそれを並べる。

 

「ショーン、それ、貸してください」

ディヴィットは、バスルームから戻っても、未だ決心のつきかねている様子で立ちすくんでいるショーンに手を伸ばし、グリセリン液を要求した。

なかなかショーンは、ディヴィットにパックを渡そうとしない。

「やめるんですか?」

 

ディヴィットは手のかかるショーンに近づき、手からパックを取り上げた。

「どう? この位、温まっていれば平気?」

風呂の湯で温められた液体は、調度体温程度だった。

ディヴィットの判断では、これなら使用可能だ。

急激に腸内の温度が下げることは、危険な行為なのだ。

少量の浣腸ならば、常温での使用も問題ないが、ディヴィットが望むような大量の液体を用いる時は、ショック症状を起こしかねない。

ショーンは曖昧に頷いた。

「どうします?」

ディヴィットは、決して独断で決めたりはしなかった。あくまでショーンの同意を待つ。

使われるのはショーンなのだ。

ショーンは、ベッドの上に上がろうとしながら、こわばった顔で振り返った。

自分の望みをかなえるためとは言え、ショーンは、これからの時間が恐い。

その様子をディヴィットが楽しんでいることに気付く余裕すらない。

ショーンの舌が落ち着きなく唇を舐める。

「ああ、……平気だ。ディジー、大丈夫」

 

自分から下着を下すショーンの隣で、ディヴィットは受け取ったパックの中身をボウルにぶちまけた。

部屋の中につんとした薬品臭が広がる。

その匂いに、ショーンが身体を震わせた。

揺れるベッドの振動に、ディヴィットがちらりとショーンに目をやると、ショーンは、尻をむき出しにしたものの、ためらいを表して、足にはズボンと下着を絡みつかせていた。

しかし、それは、馬鹿な行為だ。

そのままでは、もっとためらいの多いことをこのベットの上でショーンはなすことが余儀なくされる。

「ショーン。ちゃんと足から抜いておいてください。そうでないと、後で、歩けなくて慌てることになりますよ」

ディヴィットはくすりと笑う。

「後、一秒の我慢が出来ない時でも、俺は、あなたを抱き上げて運んであげるなんてサービスをしませんよ」

 

ショーンは、赤くなり、丸みの美しい肩をさらに丸めながら、もぞもぞ足から下着を抜き取った。

やはりベッドは大きく揺れる。

スプリングが柔らかすぎるのだ。

ディヴィットは、そのことをもう一度心に留めながら、プラスティックの注射器を取り上げ、ボウルの中の液体を吸い上げはじめた。

ショーンは、確実に脅え、びくついている。

まだ、何もしていないというのに、肌からは色味が抜け、精一杯あげている顔も、不安で押しつぶされそうだ。

しかし、ディヴィットは目盛り一杯まででたっぷりと液体を吸い上げ、ショーンに、にこりと笑った。

腸内の洗浄など、何度でも体験したことがあるはずなのに、ショーンは、毎回、酷く脅える。

確かに、ここまで道具を揃えて行うカップルは少ないかもしれないが、ショーンとヴィゴが付き合い始めて、もう何年にもなるはずだ。

ショーンだって、慣れていてもいい。

いや、洗浄自体は、ショーンは毎回上手に行って、ディヴィットを待ち構えているわけだから、ディヴィットのやり方が問題なのだろう。

緑の目が泣き出しそうに潤み、色をなくした唇が震えるのが不憫だと感じても、ディヴィットはくちばしから僅かに液をこぼしただけだった。

「少し、サービスで減らしてあげました」

 

 

ディヴィットは、ショーンの後ろに回り、尻を隠すストライプのショーンのシャツを捲り上げた。

ショーンの尻は、男の尻にしては、丸みのあり、しかも大きい。

年のせいか、肉に柔らかみがあり、つかめば極上の手触りだった。

それが今、緊張のため、尻山にはぎゅっと力が入っている。

尻の脇に小さなえくぼが出来ていて、そのかわいらしさにディヴィットは、くすりと笑う。

「さぁ、ショーン、力を抜いて」

ディヴィットは、ぎゅっと窄まった尻の穴に、注射器のくちばしをあてがった。

しかし、余計に尻には力が入り、きゅっとあまりにも慎み深く寄ったアナルの皺に、ディヴィットは、液体が零れないよう注意しながら、注射器の先でからかうようにショーンの縮こまったペニスへと触れた。

「ここまで大きくして、これからのことを期待してくれ、なんて、そんなことまでは言いませんので、せめて力を抜いてくれませんか? ショーン」

「無理。……無理だ。ディヴィット」

「そうですか? だったら、前みたいに、無理やり突っ込みますけどいいですか?」

「いや……それは……」

「でしょ。注射器の先って、無理やり入れられると固いから、痛いって言ってましたもんね。……ほら、嫌なら、自分から力を抜くしかないでしょ。別にこの注射器全部をショーンの中に押し込もうなんてしてるわけじゃないんですから、ちょっと、ショーンが力を抜いてくれればすむんです」

 

指や、ペニスや、その他のものだって、受け入れることのできるショーンにとって、細い注射器のくちばしを尻に差し込まれることなど、本来なら容易いことだった。

しかし、今、ショーンは、グリセリン液を腹へと一杯に注がれた後の恐怖に、身体に入った力を抜けずにいた。

これを済ませてしまえば、ショーンの望む時間がやってくる。それは分かっている。だが、ショーンは、これがとても苦手だ。

胸が押しつぶされそうな不安がせりあがり、額には自然と汗が浮かぶ。

「……ディヴィット」

許して欲しくて、ディヴィットの名を呼んだが、ディヴィットは無情にもぴたりとくちばしをショーンの肛門へとあてがった。

固く細いものの存在を、尻の穴に感じる。

「力を抜いてくれないと、痛いだけですよ」

いつもより、ずっと細いはずのものなのに、ショーンはとても痛いと感じる。

「ディヴィット……」

自然に涙が盛り上がっていた。

「無理ですか? ショーン」

 

まるで気遣うような言葉をかけながら、しかし、ディヴィットは、力を抜くことができずにいるショーンに、無理やり注射器の先を尻の穴へとねじ込んだ。いつだってショーンはこの行為をぐずるが、その後のフィストには強い関心を抱いている。だから、ディヴィットは、ショーンのために、行為の先を急ぐのだ。

強い抵抗があるため、注射器の先をねじ込むのは、どうしても力任せの作業になる。

ショーンの皮膚が引き攣れて、ショーンは、大きく尻を振った。

「ディヴィットっ! ディヴィットっ!」

「腕を突っ込んで無茶苦茶して欲しいんでしょう? ショーン、そろそろちゃんと義務を果たしなさい」

 

暴れまわっていた丸い尻からは悄然と力が抜けた。

捲られたシャツの裾から見える腰や背中を緊張で張り詰めさせながらも、ショーンは大人しくディヴィットを見上げる。

「ディヴィット……」

太腿は筋肉が硬く収縮し、緊張のあまり小さく震えている。

「オーケー。ショーン。そのままです。今から液を入れますからね。そのつもりでいてください」

 

注射器の中には、300ccのグリセリン液が入っていた。

ディヴィットは慌てることなく慎重に液体をショーンの中へと注いでいった。

中に少しずつ液体を注ぎこまれる感触は、長い射精をされている感じ?と、ディヴィットはショーンに尋ねたことがあったが、ショーンは、それをきっぱりと否定した。

それよりも、もっと重苦しいのだと。ペニスで腸の奥へと種付けされるのと違い、入り口付近から流し込まれる液体には、違和感ばかりが付きまとい、次第に重くなっていく腹には、吐き気さえもするのだと言った。

ディヴィットはそれほどショーンが、これを苦手としていることを知りながら、しかし、浣腸液を押し出す指に掛かった力を緩めなかった。

もうすぐ、ショーンの中に溜め込まれた液体は150ccを超す。

ショーンは、苦しそうに胸を喘がせている。

 

はぁはぁと、押し出される息の音を聞きながら、ディヴィットはショーンに声をかけた。

「ショーン。大丈夫ですから。後少しですよ」

「……ディヴィット……もう、無理……無理だ……」

ショーンは、目に涙を一杯に溜め、振り向く。

捩れた腰のラインが美しかった。

そこから続く尻の谷間に突き刺さる注射器の違和感がディヴィットをゾクゾクとさせる。

指には自然と力が入り、また、ジュウっと、ショーンの中に注射器の液体が消えていく。

「……ディヴィット……苦しい。もう、ダメ……なんだ」

勿論、ディヴィットは、ショーンに懇願されたところで注射器を押す力を緩めたりはしない。

「いきなりたくさん入れたり、揺すったりしてないでしょう? それとも、ショーン、早く終わらせて欲しい?」

ディヴィットは、抵抗感の強まったショーンの腸内のグリセリン液を奥へと送り込むために、ゆっくりと、注射器を回した。

ショーンの背中に脅えの漣が走る。

「いやっ……デイーヴ……いやだ!」

「じゃぁ、ショーンも協力して、もう少し力を抜いて受け入れてくれないと。……じゃなきゃ、やっぱり、俺が勢いよく押し出してあげるしかなくなっちゃいますよ」

 

ディヴィットの脅しにショーンが懸命に呼吸を繰り返した。

大きく開かれた口から焦るあまり飲み込めなかった唾液が糸を引いて零れていく。

薄いピンクの唇からは清潔な白い歯が見えていた。

普段、ジェントルマンとして振舞う彼を見慣れているだけに、自分の様子を構うこともできずにいるこういったみじめなショーンの様子は、ぞくりとディヴィットの加虐の欲求を刺激した。こんなみじめな姿を晒していてすら、まだ、ショーンは、損なうことなく美しいのだ。今、とうとう泣きだしてしまった彼の泣き顔だって、ゆがめた顔がたまらない色気だ。ショーンは辛そうで、たかが腸内に浣腸液を注がれているだけだというのに、まるでこの世の苦痛を全て自分が受けているような大げさな脅えようだったが、そんな風に、精神の尊厳をかなぐり捨てていてすら、彼は、肉体だけの美を湛えていられる稀有の存在だった。

「……ゆっくり。……いっぺんに入れられると苦しい……頼むから。デイーヴ」

苦痛に弱いショーンは、哀れなほど懇願を繰り返す。

「だから、ゆっくりしてあげてるでしょう? ほら、あと、100ccも入れたら終わりです」

口から飲む100ccはたいした量ではないが、肛門から直接注がれる入れられる100ccは辛い。

分かっていて、ディヴィットは優しい声でショーンを励ます。

「そんなに泣かないで。実際、今はまだ、お腹が一杯な気がして苦しいだけでしょう?」 

「……頼む。お願いだ。デイヴ……」

「そんな。ショーンは、この後薬が効いてきても、俺がいいって言うまで出すのを我慢しなくちゃならないんだから、もっとがんばる必要があるでしょう?」

ディヴィットの言葉に、ショーンの目には、さらに涙が盛り上がった。

震える身体は、しゃくりあげながらも、必死に、力を抜こうと息を吐き出している。

だが、辛さに、シーツを掴む手には、健が浮き上がっている。

キュウっと、力が入ってしまい注射器の先を締め付けたショーンの肛口のいたいけなさにディヴィットは心を弾ませた。

「さぁ、がんばって少しでも、早く入れてしまわないと、入れてる最中から腹がグルグルってなっちゃいますよ」

 

薬によって急激に作り出された排泄欲求を堪えている最中に、腸の中へと更に液体を注がれるのは、死にたくなるほどの苦しさだそうだ。

ショーンの言うことだから、一般の基準よりもかなり大げさなことかもしれないが、今、実際に腸へと浣腸液を注ぎ込まれているのはショーンなのだから、この脅しは有効だった。

ショーンは、46という年には似合わぬ幼い声でしゃくり上げながらも、懸命に尻を開こうとしていた。

ディヴィットは、ゆっくりと液を挿入していく。

ショーンの腹がふるふると震えている。

額からは汗が滴り落ちている。

 

「ほら。入った」

ディヴィットは、押し切った注射器から、決して力を抜かぬようにしてずぽっと注射器を抜き取った。

懸命に閉じようとするショーンの肛門の上へと親指を当ててやり、ぐっと上から押さえつける。

「我慢して。ショーン。一つ……。二つ……。三つ」

ディヴィットは、ゆっくりと数を数えて、ショーンの呼吸を誘導し、腹の中に液体を湛えたままの異様な感覚を、ショーンに耐えうることのできる状態なのだと教えた。人間は、同じ状態が続けば慣れる動物なのだ。薬の効果が始まらなければ、今の状態は、液体を注ぎ込まれ続けていた先ほどよりもショーンにとってずっと楽なはずだ。

実際ショーンの息が次第に浅くなる。

「デイヴ……」

「うん? ショーン。もう、押さえてなくても大丈夫?」

高々300ccで、もう、盛り上がりを見せているこらえ性のないショーンの肛門をディヴィットは優しく指の腹でなでる。

ショーンは悲鳴を上げた。

「やめっ!」

ショーンの身体は強くこわばり、盛り上がってしまっていた肛門も、慎ましくぎゅっと口を窄めた。

「しませんってば。ショーン。俺も懲りてます。マッサージしてあげたほうが、ずっと早く薬が効くけど、あなた、失敗するから」

 

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