9月のある日にいつものようにメールのチェックをしていると、当ホームページでも質問の回答をしていただいたフジロックNGO村の代表をしている大久保さんからメールが届いていた。
9月の下旬に社民党議員の保坂展人氏が毎月行っている「元気印ミーティング」の対談のゲストとして、ロッキング・オン社の社長である渋谷陽一氏が参加する企画があるとのこと。どんな面白い話を聞かせてくれるのだろうか、それともくだらない話になるのか? まずは、聞いてみないことには始まらないと思い、この対談を傍聴するために世田谷区にある保坂氏の事務所まで足を運んでみた。
当日はあいにくの小雨模様。それでも小さな事務所に40人ほどの人が集まった。毎月行われているらしいこの「元気印ミーティング」だが、今回の傍聴者の平均年齢は極端に低いらしい。たしかに茶髪の若い人も見受けられ、まだ渋谷陽一という名前は若者にも通用するんだなぁ、なんて思ったりもした。
渋谷が到着すると発売されたばかりの「SIGHT」誌を先着で数人にプレゼントしていた。「なんだよ、オレは本屋で買っちゃったじゃんか」と思いつつも、まあ対談が始まる前に「SIGHT」読んで今回の対談の予習しようと思ってたからいいかと自分を納得させることにした。
最前列で対談に挑む
小さな事務所の最前列に座り(ただ、真中はチョット気が引けたので端に座ってしまった)、対談が始まるまで買ってきた「SIGHT」を読んでいた。事務所の人の前振りの後、対談はまず主宰者である保坂の自己紹介という形で始まった。
学生のころの活動の話や国会議員になった経緯など(詳しくは保坂氏のホームページを)を語った後、渋谷にバトンが渡り、ここでどうやらお決まりのパターンらしいが保坂の政策秘書でありまた、渋谷と一緒にロッキング・オンを始めた大久保との創刊当時の面白い話が始まった。
ここで紹介してしまうと、今後渋谷が講演する時のネタバレになってしまうので、あえて紹介しないでおくことにしよう。興味がある方は一度講演を聞きに行ってください。きっとこの話をしてくれますよ。(僕も渋谷の話を聞くのは始めてなので、本当にいつもこの話をするかは知りません)この話は資本側にいる渋谷と労働側にいる大久保および社民党の構図をうまく言い得ている面白い話だったとだけ書いておこうか。
さて、この後保坂と渋谷の出会いといった対談にはよくある話から渋谷は保坂をかっているのに沈みかかっている社民党になぜいつまでもいるのかといった保坂および社民党をいびりまくる辛辣な話などがあったり、「SIGHT」ではおなじみの田中秀征氏との誌上には載らないような血生臭い秘話、タイムリーな話題として長野県知事選および田中康夫氏の話など色々な話題がでてきた。
とにかく渋谷は「保坂くんは昔はピカピカだったのに今はすっかりおじさんになってしまった」だの「なんで社民党にまだいるのかわからない。やっぱり、土井たか子の死に水をとるのか」だのもう保坂氏や社民党に対して言いたいこと言っている。それに対して保坂はどうも遠慮気味な感じだ。年上の渋谷に気を使っているのだろうか。
渋谷は田中秀征を有能な政治家だと持ち上げているが、そんな田中に渋谷はたしなめられることもよくあるようで、対談は時には加熱気味になることもあるようだ。今回例に出したのが、田中が『民権塾』なるものを立ち上げたいと言った時の話。渋谷は「民権塾なんて言葉じゃ、いまどき誰もついてこない」と批判すると逆に田中が「お前らのようなわけのわからんヨコ文字なんか全然ダメなんだ」と反論するといったトークバトルが繰り広げられているという。こういったとても誌上には載せられないエピソードなども紹介。個人的にはヨコ文字の氾濫には辟易しているので田中の意見には賛成だが、民権塾ねぇ、政治家の方々は堅い漢字を並べるのが好きなようですね。
その点では田中康夫の『脱ダム宣言』や石原都知事の『外形標準課税』などはうまくキャッチコピーを考えた例だとしていた。どちらもヨコ文字ではないが確かにインパクトを与え、それぞれのイメージをうまく表している気がする。『外形標準課税』なんて堅い漢字が並んでいるのにナゼかインパクトはあった。これって、メディアが石原の言うことにイチイチ大げさに騒いでいるからじゃないのかな。
営業活動?
最新の「SIGHT」は政治が特集されているが、「SIGHT」史上最も売れなかったのがその政治を取り上げた第2号だったらしい。今回も出足からまったく振るわない売れ行きだそうで、「こうなったら意地でも売れるまで何度でも政治を特集してやる」と鼻息荒い渋谷だが、それでわかった。そうかこれはそんな売れない「SIGHT」政治特集号の営業も兼ねてるのね。話の内容もこの号と被る所結構あったし。
渋谷の持論では大衆に受けるミュージシャンは正しく、受けないミュージシャンが「受けないのは大衆がバカだ」と言った瞬間にそのミュージシャンは終わりだということらしい。つまり、浜崎やモー娘は正しいと。これはいくらなんでも乱暴な批評ではないだろうか。彼女たちは音楽だけで勝負しているわけではなく、ファッション性やCM、TVドラマなどとのタイアップといったマーケット戦略、アイドル的な要素など、全ての角度から考えられて作られた商品なのである。つまり、僕に言わせれば彼女たちが正しいのではなく、時代のニーズに則した彼女たちを作り出したプロデュース側のリサーチと戦略の勝利なのであり、正しいのは彼女たちを作り出したプロデューサーの時代に応える臭覚なのである。
ただ、受けないミュージシャンは責任を他人に転嫁せず、自分たちがナゼ受けないのかよ〜く考えた方がいいと思う。必ず受けない訳があるはずだから。後の質問で社民党関係の人がクラシックカーを例に出し「少数でも自分が『これだ!』と思っていればいいのでは? 皆が浜崎やモー娘にならなくても」と言っていたが、渋谷の答えは明快だった。「そんなの全然ダメ。勝たなくては意味がない。浜崎やモー娘にならなくても、モンゴル800やドラゴン・アッシュのようにやり方次第でいくらでも勝つことができる。ヤツラは浜崎やモー娘以上にCDを売っているんだから、勝つための方法はいくらでもあるのではないか」とのこと。これは同感だ。趣味でやっているなら少数でやってもらっても構わないが、税金をもらって国のために働いているんだから、少数政党になりさがって政策を国会に提出すらできず、国会で批判だけしてもらっては困る。
やっぱりツェッペリンが好きなんでしょ、渋谷さん
こんな話をしてきた後、質問の時間も設けられたので、僕も渋谷に質問してみた。
質問「小泉改造内閣で誰か入れたいミュージシャンは?」
渋谷「誰もいない」
「じゃあ、小泉内閣でなくてもいいから誰かをどこかの大臣に」
渋谷「誰もいない」
「じゃあ、大臣じゃなくても...」
渋谷「エレカシの宮本がタレント議員になりたいって言ってる」
かみ合わない質問になってしまい完全に失敗に終わった。
他の人の質問では、メディアに関する質問も出ていた。
「メディアは決まりきったことしか言わない」とメディア批判を言うと、だから「ロッキング・オンを作った」「当時のミュージック・ライフや音楽専科はブタだ」なんて発言して、保坂が「メディアは(大衆受けするような)同じことばかり報道して、もっと大切なことを報道してくれない」と不満を言うと、「政治の側がそんなメディアを崩す戦略を立てないといけない」と答え、さすがメディア論に関してはメディアの人間だけあってブレのない考えが即座に口をついて出てきた。
音楽の質問では「好きなミュージシャンは?」と。おいおい、こんなところでそんな陳腐な質問かよ。
渋谷「今はエミネムがいい」と。しかし、その後に別の人が「僕はドアーズが好きだが、渋谷は本当にエミネムがいいと思っているの? 最新の音楽に本当についていっているの?」と質問。渋谷は苦笑いしながら「少なくともドアーズよりはエミネムのほうが聴いている」と答えたが、その苦笑いは最新の音楽よりもやっぱりツェッペリンの方が好きだ!と言っているようでおかしかった。
約2時間の対談はこんな感じであっという間に終わってしまった。「SIGHT」で政治を特集するだけあって、個別の問題などさすがだなと感じることも多かったが、やっぱり素人さんだなと思うこともあった。お前のようなヤツにそんな事言われたくないと言われそうだが、渋谷の意見を鵜呑みにするほど僕も能天気なヤツじゃないし、いつか僕が直接インタヴューを仕掛けてみたいなと思ったりもした。
チャリティとかが好きじゃない(ライヴ・エイドとかボロクソにけなしてたし)と聞いていたが、今回の対談でことのほか資本家であることを強調する渋谷を見て、なるほどな、と疑問が解決した今回の対談であった。