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ラスタファリアニズムとは

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エチオピアニズムとラスタファリアニズム

アフリカ大陸に北東部に位置する国エチオピア。19世紀の奴隷制度下の黒人達にとって、エチオピアニズムという神話こそが宗教を活性化したのである。
エチオピアニズムとは、聖書に出てくる文章をエチオピアと結びつけて解釈し、エチオピアの栄光をたたえるといった考えである。
ラスタファリアニズムの基本はこの部分にあると言えるのではないだろうか。後の皇帝ハイレ・セラシエが皇帝の座についた時にその運動は最高潮に達するのである。

ラスタファリ運動の誕生

エチオピアニズムを基本として、ラスタファリの運動はマーカス・ガーヴェイのイデオロギーとインスピレーションが強く反映されたものとなっていった。
そして、彼が黒人の皇帝を予言し、エチオピアでハイレ・セラシエが実際に皇帝の座につくと、多くのジャマイカ人が彼をメシアと思い込み、この即位をきっかけに運動をジャマイカ全土に広め、その運動は揺るぎ無いものとなっていった。
ラス・タファリという名が、ハイレ・セラシエという称号になったわけであるが、ラスタファリアンという名称はラス・タファリのジャマイカ的表現で、運動のメンバーへの呼称でもある。彼らが祈りを捧げるときに唱える「ジャー・ラスタファライ」という文句のジャーとは聖書にあるエホバの短縮形であるらしい。
英国国王とジャマイカ政府はこの運動を危険視し、指導者達を次々と逮捕していった。彼らは政府を権力や罪悪が集まった場所やものの象徴として「バビロン」と呼び、常に政府と戦っていた。ちなみに「バビロン」の反対の言葉として、「ザイオン」という言葉がある。「ザイオン」とは、黒人が解放される約束の地を指している。

教義

ラスタファリアン独自のの基本的教義は少なくとも6教義はある。

1. ハイレ・セラシエは生き神である
2. 黒人は古代イスラエル人の化身であり、白人の手により、現在ジャマイカで異郷生活を送っている。
3. 白人は黒人より劣る。
4. ジャマイカの状況は光りなき地獄である。エチオピアは天国である。
5. エチオピアの皇帝は、現在国外にいるアフリカ起源の人々がエチオピアに帰還するための準備をされている。
6. 近い将来、黒人が世界を統治する。

以上の6項目がラスタファリ運動の基本となっている考えである。

ナイヤビンギ

ラスタファリアンはさまざまな集会や会合を持つ。その中でも、「ナイヤビンギ」と呼ばれる集会が最も重要なものである。
通常は週に一回ならびに月一回の集会がもたれる。しかしながら、ナイヤビンギはラスタファリ運動の大会に相当するもので、島のいたるところで一日から3日時には1週間続くこともある。
集会は、ダンスやガンジャの吸引、食事、訓戒、祈り、音楽、霊感、社交、討論といった、ラスタファリアンたちにとって重要なことがらをする集いの場である。
集会は祈りによって始まり、祈りによって終わる。まず始めに至高の存在「ラス・タファリ」への礼拝、そして飢えるもの、病めるもの、幼きもの、そして敵の破滅への祈願が続く。最後に礼拝で終わりとなる。

ガンジャについて

ラスタファリアニズムにとってガンジャは初期の段階から宗教儀礼として礼拝と瞑想の儀式に欠かせないものであった。
ラスタファリアンの出現以前には、土地の薬草医によって民間療法として用いられ、お茶や、パイプ用調合タバコとして使われた。しかし、ラスタファリアンの出現以後、ガンジャは宗教上神聖なものとして、新しい意味を持つようになった。
彼らはガンジャがジャマイカでは非合法であるということをもちろん知っている。彼らにとってガンジャの吸引は宗教上の意味づけだけではなく、社会への抗議としての反抗の最初の手段であり、「バビロン」の法からの解放を示すことを意味する。
儀礼にかかわる文脈で語られるときは「聖なる草」と呼び、聖書の中から数多くの聖句でその神聖さが証明されているとしている。
ガンジャの吸引はナイヤビンギの儀礼では欠かせないものである。ナイヤビンギの儀礼ではラムなどのアルコール類を飲用することや、タバコを吸うことはタブーとされている。彼らはラム酒の飲用は人間を暴力的にすると考えているが、ガンジャは人間を穏やかにすると考えている。

ドレッドロックス

真のラスタファリアンを示すものの一つに髪型がある。髪を刈ったり、髭を剃ったりしてはならないという道徳律がある。また彼らはハーブを入れた天然水でしか洗髪せず櫛などを入れないため(実際には櫛を使うラスタファリアンも多いが)、それを忠実に守るとボブ・マーリーをはじめとするあの迫力のある髪形になるのである。
また、社会的な意味合いとしては、ジャマイカではまっすぐでつやのある髪がよいとされているため、彼らの髪型は社会的反抗のシンボルとなっているのである。保守的なジャマイカ人は彼らのドレッドロックスに対して、嫌悪感を抱いていて不潔な外観であり、粗野で危険であると恐れている。しかしながら、彼らにとっては力、自由、反抗のシンボルとなっている。

アイタル・フード

ラスタファリアンは菜食主義である。特に肉類は体に有害とされている。その理由としては、肉類を食べると体内に虫がわいて、それが胃の中で排便すると気分が悪くなるからだという。同じ肉類でも特に豚肉はかたく禁じられているが、豚肉しか食べるものがないときは、自分の名前をラスタとは関係のない名前に変えてから、それを食べるのだそうだ。
ラスタファリアンの主食の一つは魚であるが、12インチに満たない小魚に限られている。それを超える大きさの魚は略奪者であり、人間が人間を食べるバビロン――すなわち体制を意味する。
菜食主義であるラスタファリアンにとって野菜は非常に価値のあるもので、「自然な」、「真実の」という意味を持つ「アイタル」な食事をしている。飲み物に関しては、アルコール類、ミルク、コーヒーを彼らは飲まない。代わりにハーブティーや自然の草木や根菜類で作ったものを飲む。また市販の薬も使わず、民族伝統にそった草本植物を調合した薬を利用する。
果物も主食の一つとして好まれている食べ物である。ジャマイカの果物のジュースは彼らにとってはご馳走なのである。
彼らは女性に対しても厳しい掟を課していて、聖句で禁じられている通り、妻であっても生理期間中は料理できないのである。彼らは自分たちの農園で採れたものを好んで食べている。

ユダのライオン

ユダ族の征服獅子王、ハイレ・セラシエを象徴するライオンはラスタファリアンにとっては最も名高いシンボルであり、いたるところで見ることができる。ライオンは王の王を象徴するだけでなく、男性優位をも象徴している。

ラスタ・カラー

ガーヴェ運動のころから使われている、赤・黒・緑の3色がラスタ・カラーとしてラスタファリ運動の色として使われている。この3色の組み合わせはユダのライオン同様いたるところで目にすることができる。
赤はジャマイカ史における殉職者の血を、黒はジャマイカ人の黒人の色を、緑はジャマイカの植物と抑圧に打ち勝つ希望をそれぞれ表している。
手編みのニット帽やドレスなどに見られるレゲエでお馴染みの赤・緑・金(黄)は基本のラスタ・カラーにジャマイカの国旗の金色を付け加えたものであり、ハイレ・セラシエの国エチオピアの国旗と同じ色である。この金色は太陽を意味している。

ラスタ言語

ラスタファリアンの言葉は訛りが激しく、彼らの会話を聞き取るのは部外者では不可能に近い。非文法的な話し方は当たり前で、"me"や"you"を使わず"I and I"という表現方法を用いることを好む。
ラスタ言語とは、社会で悩む他者を自己同一視する過程において、二項対立を乗り越える魂の言語である。始めて会った人に対してポジティブな感応が得られるかどうかが彼らにとっては重要であり、ラスタ言語とは文法がどうこうというのではなく、心が通じ合うことができるかどうかが重要な言語なのである。

イスラエル12部族

イスラエル12部族は、白人を含むきちんとした身なりの郊外居住者達で、高い教養を身につけている組織である。
創始者はキングストンに生まれたヴァーノン・キャリントンである。彼の演説は階級意識のあるジャマイカ人の心を掴み、メンバーを増やしていった。 彼らの掲げる信条は以下の通りである。

1. 毎日聖書を1章読み、3年半で聖書全体を読みとおすこと。
2. 12という数がすべての中心となる。
3. 神の選民は144,000人に限られている。
4. イエス・キリストは、ジャー・ラスタファリ、ハイレ・セラシエ一世に化身して再生した。そのため、イエス・キリストとハイレ・セラシエ一世が併用される。
5. レゲエにあわせて、月1回の踊りが儀式となる。ボブ・マーリーはその中でも重要な歌い手であり、演奏者である。
6. メンバーはあらゆる人種からなる。このことは旧来のラスタファリアンよりも明確である。
7. 男女は平等であり、同じ役割を持つ。

その他にもいくつかの信条があるが、このような彼らの考えはキリスト教の考えに近いものがある。事実、その考えを良しとせず脱会する者もいた。
旧来のラスタファリアンは、話し合いを重ねて合意をするが、彼らの場合は常にヴァーノン・キャリントンの審判が必要であった。
「レゲエ」の広まりが中流階級や非黒人にも強くアピールされたため、イスラエル12部族は1970年代において急速に世界中に広がっていった。しかし、旧来のラスタファリアンはラスタファリアニズムの真の音楽はナイヤビンギであり、レゲエではないと考えているため、イスラエル12部族に対しては批判的であった。
しかし、現在では活動は有名無実となっており、活動は完全に停止されている。

現在のラスタファリアニズム

1975年にハイレ・セラシエが亡くなり、その後ラスタファリアニズムを世界に浸透させてきたボブ・マーリーが1981年に亡くなった後、1983年7月18日から25日にかけて、ジャマイカの西インド大学で行われた第2回ラスタファリアン国際会議に東カリブ諸島からたくさんの代表者が出席したことは、この地域でのラスタファリ運動の浸透を証明している。
東カリブ諸島でのラスタファリ運動の発展はイギリス同様ブラック・パワー運動がもたらした。また、この地域のラスタファリ運動はハイレ・セラシエの死後に起こったために、ハイレ・セラシエの神性という罠にかからずに発展を遂げてきた。
ナイヤビンギが拡大していき、今ではラスタファリアン国際会議にまで発展している。
第1回目はカナダのトロントで、第2回目にはジャマイカで行われ、アメリカやカナダ、カリブ諸島などさまざまな地域から代表団が送られて開催された。会議のメンバーは弁護士、大学教授から作家、レゲエ・スターやゲットーの住民までもが参加した。しかし、この中にイスラエル12部族のメンバーは含まれておらず、旧来のラスタファリアンとイスラエル12部族の間は必ずしも良い関係とはいえなかった。
1980年代に入ると、旧来のラスタファリアンの間にも少しずつではあるが、男女平等の考えが認められるようになってきた。
現在のラスタファリ運動はイスラエル12部族での活動が停止していることをはじめとして、ラスタファリ運動自体もやや下火になってきている。
またその体質も変わり、拝金主義や物質主義を嫌悪していた彼らであるが、現在は儀礼をカセットやビデオで売ったり、ポスターやパンフレットを作成し販売するといったビジネスを行っていたりもする。
カリブ諸地域に発展したラスタファリ運動は現在ではその国に則した形で今でも存在している。
イギリス、アメリカ合衆国、カナダにおいてはジャマイカのいくつかのグループの支部として、活動が行われている。
その内容は多岐にわたり、文化的、教育的また社会的な活動として民主主義や平等、人種差別などの問題を取り上げ、強く抗議している。


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