Rush〜出会いから今まで



 Queenは私にとって、人生を変えたバンドだ、と、Qページに書きましたが、ではRushは私にとって何かというと、 「ロゴス」だ、と言えます。なんて言うと、「やっぱり小難しいバンドなんだな」とか、「あんたみたいなのが Rushに変な思想だの哲学だの被せて、とっつきづらくさせているんだ!」などとご批判が飛んで来そうですが、まあ、 あえて誤解を招くことを覚悟の上で、そう言わせてもらいます。と言っても、彼ら、言っていることは別に小難しくないんですが、 その奥行きは非常に深いと思います。

 Rushというバンドの存在を知ったのは、'81年の秋頃、「Music Life」誌の、I籐S則さんの記事&Neilのインタビュー を読んでからでした。と言っても私、買ってすぐ読むときには、知らないバンドの記事はすっ飛ばし、 たまに気分的に起きる、「隅から隅まで読んでみるか」モードの時に読むというパターンですので、実際その記事を読んだのは、 MLを買って数週間たっていたと思います。

 で、この記事がえらく興味を引いたんですよ。やたらと「2112」から「Moving Pictures」までの、いわゆる第2期へのこだわりが強くて、 多少表現が劇的なことから、ファンの間では賛否両論あるI藤さんですが、当時は私も若かった。彼の「哲学とロックの融合」 「見事な知性」「人間業とも思えないほどの演奏」と言うような(記事が今手元にないので、正確な引用ではありませんが)バンド紹介に、 すっかり惹かれてしまったのでした。
 年がばれそうでいやなんですが、あえて書けば、私は当時大学に入って、ある程度向学心に燃えていた頃でもあったので、「知性」に 対する憧れが、かなりあったのです。ロックと哲学という組み合わせが、非常に新鮮に感じたわけで。(いえ、別にRushは ロックで哲学を披露するバンドじゃありません。誤解ないように言っておきますが。でもあの記事は、そう思わせたので)

 しかし、興味を持ったからといって、すぐアルバムを買えるほど、金銭的に余裕はなく(1,2年生はカリキュラムが忙しくて、 アルバイトしている暇はなかった)、当時はレンタルレコードなどというものもないので、少なくともラジオかテレビで数曲は 耳にして気に入ってからか、さもなければレコードを持っている友人にダビングを頼むか、ともかくモノを知ってからでないと、 買えないんですよね。唯一の例外はQueenの「Sheer Heart Attack」ですが、あの時にはたまたま何ヶ月かお小遣いを使わずに 持っていて、懐が温かかったので、冒険できたのですが、大学生ともなると、付き合いにもお金がかかるし、慢性的に金欠だったわけで。 (まあ、今も金欠は変わりませんが(^^;))

 でも、まわりにRushのレコード持っている友人知人はいないし、ラジオでもまずかからないわけで、「興味はあるけれど、それだけ」 という状態が数ヶ月続きました。その間に、テレビで一回「Tom Sawyer」のクリップがかかったのを見たわけですが、感想は、 「ワハ、たしかに変わってるわ!」――いえね、一見とっつきづらいということは、知っていましたので。でも、私的には嫌いじゃないな、 とは思いました。
 そのあと、Top40で聴いたのが、「Take Off」――これ、Rushじゃないんですが。ヴォーカルのGeddy Leeが ゲストで歌っているコメディシングルで、皮肉なことに、これがRush関連で一番かかったTop40ヒットなんです。 当時Top40ファンだった私は、これは数聴きました。いやおうなしに。で、「確かにみょうちくりんな声だけれど、ま、いいんじゃない」 と、いう感じで、まあ、この声には慣れたわけです。コメディちっくなふいんきには合っていましたし。

 そして翌'82年の春、偶然Rushのアルバム持っている人と知り合いになったので、その人に頼んで、「2112」と、「Permanent Waves」 をダビングしてもらったのです。
 で、聴いたのですが――はっきり言って、ピンと来ませんでした。何回か聴いた後、 「なんかなぁ、好みじゃないなぁ・・」と採決をくだし、テープを入れている引き出しにポンと投げこんで、それっきりしばらく 忘れておりました。

 その間に、彼らは唯一のTOP40ヒット、「New World Man」(Signals)を出したので、TOP40マニアとしては当然耳にしました。
「うん? 前に聞いたアルバムとはずいぶん毛色が違うけど、なんか――Policeみたいだなぁ」で、終わり。
それ以上深い 印象は持ちませんでした。

 では、なぜ今ファンをやっているのかって? それはたまたま'82年の秋、録音してもらった「2112」のテープを、数ヶ月ぶりに 聴き返したことに端を発しています。なぜかこの時、以前聴いた感じとは、まるで違って聞こえたんですね。 凄く衝撃的に響いた。まるでカーテンが落ちたみたいに、ぱっと音の世界が開けたような感覚を受けたんです。
「なぜ、春に聴いた時には、わからなかったんだろう。これ凄いよ――」
 すっかり驚いた私は、翌日なけなしのお小遣いをはたいて、レコード屋に走ったことは言うまでもありません。

 で、レコードには歌詞がついています。それまでテープとかラジオで聞いたものには、歌詞はありませんでしたので、I籐氏の言う 「哲学」や「思想」などは、結局感じることができなかったわけですが、レコードを買って初めて、歌詞を読みながら「2112」を 聴き、「はぁ〜! こう言う話だったのか!!」と、感激したと同時に納得がいった次第でした。

 ついでにお恥ずかしい話を披露しますと、当時の私は「コンセプトアルバム」と「組曲」の区別がついておりませんで、 「2112」は組曲であって、コンセプトアルバムではない。後半5曲は関係ないんだ、ということが、テープの段階ではわかって おりませんでした。それゆえ、よけい混乱をきたし、さっぱり話の筋など見えなかったのです。

 そこから1年かけて、日本盤の出ているアルバムを全部買い集め、気がついたら、どっぷりはまっておりました。しばらくは 「他の音楽など聴きたくない」という急性症状を呈し、あれほど愛したTOP40とも縁が切れてしまいました。そしてハイライトは、 '84年、たった1度きりの来日公演。あの時には、「もう、これで死んでも悔いはないぞ!」とまで、思ったものです。

 そして月日は流れ、80年代後半はBon Jovi、Skids、Gun'sあたりに浮気し、90年代は育児に気を取られて、全般的に 音楽シーンから遠ざかりぎみであったわけですが、Rushは(Queenも'91年までは)「新譜が出たら必ず買って、数ヶ月は聞いている」 バンドでありました。ただ、子供が小さいうちは、今までのように発売日に買うということはできなくなり、'93年の「Counterparts」 などは実に発売2ヶ月遅れで買った次第で。しかも、幼児用のビデオを買いに入ったレコード屋で偶然棚をのぞいたらあって、 「あれ、新しいの出たんだ」と、その時初めて知って、買ったというていたらくで。
(ただし、知らないタイトルがあるからといって 必ずしもRushの新譜とは限らないのが、ちょっと注意を要する点。Lushだった、ということ、ありますから。逆も真なりかな?)

 さらに「Different Stages」のライナーを読むまで、Neilの不幸を知らなかったです。知ったときには、驚きました。
 娘が生まれてまもなく、Freddieが亡くなって、Queenの活動が停止した。息子が生まれてしばらくしたら、Neilが家族を失って、 Rushの活動が停止しそう――単なる偶然なんでしょうが、(決して、うちの子達は疫病神ではありません!!!) 「あなたは母親なのだから、もうロックバンドのことにかまけているのは、やめなさい、良いトシをして」と言われているような、 そんな不思議な感覚を覚えたものです。もう、完全卒業の時かな、とも思いました。

 その私の中のファン魂が再燃したのは、2001年になって、息子が幼稚園に行き始め、その空き時間でネットをすることを 覚えてからでした。最初に行ったRush関連のサイトが「Rush FAQ 日本語版」、その後、「倶楽部YYZ」「The Sphere」を訪れ、 自分の周りにはいたためしがなかったRushファンの存在を知って、「わぁ、この人たちとなら、Rushの話が通じるかも! 仲間だ!」と、 非常に嬉しく感じたものです。それに、アルバムレビューなど読んでいると、なんとなくそのアルバムを聴きたくなったりするわけで、 それで聴き返したりするうちに、また火がついてしまったのでした。。。
 それに、Rushは復活しましたから、 私もまだロックファンをやっていていいのだ、と保証されたような気がしました、変な話ですが。(^^;)
 昨年(2002年)の5月に出た新譜「Vapor Trails」のリリースを間近に控えた数週間は、'84年、ファンになってから 初の新譜である「Grace Under Pressure」の発売を待っていた時の期待感と同じような気分でした。

 Rushというバンドは、決してとっつきは良くない。自分自身の体験からも、そして今まで周りの人たちへの布教が成功した試しが ないことからも(涙)、否定はできないのですが、カーテンを開けた向こうには、彼らしか体現できない、深く広い世界が広がっている―― 私はそう思っています。

 ファーストは例外として(作詞者がNeil Peartではありませんので、ファーストは)、彼らはいわゆる ありがちなラヴソングは書きません。時に愛を語る時にも、とても冷静だったりします。そして圧倒的比率を占める彼らの中心主題は 「人は、どうあるべきか」「人間としての可能性」「信念を持って自由に生きることの素晴らしさ」――そのあたりでしょうか。 そして、常にポジティヴです。
 自らの世界が完全に崩壊するような悲劇に見まわれた後の新譜「Vapor Trails」さえ、その詞は 思いっきり前向きで、「ふひゃぁ〜、参った。ここまで凄いのか・・・」と、私は完全に脱帽してしまいました。

 彼らは、哲学というと小難しくなりますが、信念、理念というものは確固として持っているわけで、それが彼らの音楽にも バックボーンとして存在しているのだと思います。歌詞と曲が融合して、表現されるものがRushの音楽だと私的には思っている ので、歌詞面が抜け落ちると、その分が欠けてしまう。それが欧米ほどに日本でRushが理解されない理由の一つではないかと 個人的には疑っています。
 小難しいことは考えないで、音楽が良ければそれでいい、音楽は音楽なのだから。それに、Rushの場合、 歌なんて聞いていないよ、という人もいらっしゃるとは思いますし、人それぞれ楽しみ方は違いますから、それはそれでいいとして、 でもまあ、演奏面でも歌詞的な主題が反映されていることですし、一応どう言うことが歌われているのかは、できれば知っておいても損はない、 と、私は思ってしまったりするのです。

 そこで対訳、なんですが、ん〜、まあ、日本盤には対訳ついてますから(Presto以外)、見ていただければ、それでじゅうぶんだと 思います。まあ、概要はつかめるかな、と。
 でもまあ、原文を読んでイメージがつかめれば、その方がはっきりする。 で、なんとなく自分の思ったイメージが、ちょっと対訳とずれてたりすると、なんかちょっと気になるわけで、「私ならこのラインは こうしたいな」と、自分で訳しはじめたのが、このHPを作るきっかけとなりました。
 考えてみれば、 「なんか私、結構おこがましいことしてるかな?(大汗)」という感じなのですが、自分の見解が正解だとは決して思ってはいませんので、 「それは違う」「それは誤訳だ」という指摘は、大歓迎です。実際、自分でも後になって、「うわぁ、これ違うわ〜!」と 気づくことが多々あります。
(そして、こっそり直したりするのです。(^^;))

 冒頭「Rushは私にとってのロゴスだ」と書きましたが、それは私がこのバンドに出会って、「自分について、世の中のこと やいろいろなことについて、考えることを学んだ」からなのです。まあ、それまでの自分が考えなしすぎたのかもしれませんが(汗)、 彼ら(というかNeil)の詞は、いろいろなことを考えさせてくれます。そして自らの内面を見つめ、その可能性を信じて、前に進んでいく 勇気をくれるのです。もちろん、それは彼らの音楽からだけでなく、日常いろいろなところから得ることはできますけれど、でもそういう 精神的な土台を築く上で、Rushの理念というものが多かれ少なかれ働きかけて、今の私の精神があるのだ、という気がしています。
 そういう点で、Queenが私にとって「世界を開いてくれた」特別であるならば、Rushは「道を示してくれた」特別であるのだ、 と言えます。
(そしてこれからも、私にとっての「特別」でありつづけると思います)

 ただし、人様に布教するのは、過去の苦い経験から、とっくに諦めました。(^^;) 
 でも、もしQueenファンの方でRushを知らない、 でもこのページで興味を持った、アルバムを買ってみようかな、と思ってくださる奇特な方がおられましたら、とりあえず最新アルバム 「Vapor Trails」か、さもなければ'87年の「Hold Your Fire」あたりから聴いてくださることを、お勧めします。とりあえず、このあたりが一番 とっつきやすいです。あとは、「Roll The Bones」「Counterparts」あたりですね。

 で、気に入らなかったら――すみません。無駄なお金を使わせてしまって、申し訳ありませんでした。でもアルバムは 引き取りませんので、ご了承ください。(私も持っているので、いりません)
 でも、もしいくらかでも引っ掛かりを感じたら、少しずつ聴いてみていてください。そのうちに「カーテンが落ちる」かも 知れませんよ。
(保証はしませんが。(^^;))





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