Neilの定義では、Heroとは、どんな人か。「人の命を救う人(時にはわが身を犠牲にしても)」。一番の定義では、バリエーションはあるものの、ほとんどこのパターンですね。たとえば燃え盛る火の中に飛び込んで行って、中に閉じ込められた人を救出、というような。そして二番においては、もうちょっと広義の「hero」――この信条において、その勇気や信念において、真の英雄と呼べる人――しかし、あまり目立たないかもしれない、という点において、二番のヒーロー定義は、どちらかといえば「unsung hero」それこそ「無名のヒーロー」に近いものがあるのでは、と思います。
そして、ハンサムな俳優とか天才プレーヤーなどは、よく人々からは英雄視されるけれど、真の定義では「ヒーロー」ではない。では、なんなの?
ということで、GJanniさんをはじめとするAMRレギュラーの皆さんが議論をした末、導き出された結論は、「彼らはrole modelなのだ」ということでした。
role model、つまり「模範となる人」――人々が憧れ、お手本にする人なのだ、それは英雄ではない。彼らはそのことに自覚的になり、自らを「お手本」と憧れる多くの人々のために、それにふさわしい品性と振る舞いを身につける時、彼らは真の「英雄」となれる、ということなのだ、と。Neilもインタビューで、そんなことを言っていた記憶があるので、その見解は正しいのだと思います。(「子供の親であることは、子供にとって親はrole modelであるということを自覚すべきだ」ということも言っていたなぁ。。自分的には、「ドキ!」ものです……)
それでは、一番冒頭の「ゲイの友達」と二番の「犯罪被害者の少女」は、「Nobody's hero」という見地から見ると、どういう位置づけなのか、ということを考察すると、彼らは当然ながら、「英雄」定義にはあてはまりません。「惨殺された少女」は、新聞には載るでしょう。多くの人が彼女のことを知り、同情もし、話題にもするでしょうが、彼女は決して英雄ではありません。(悲劇のヒロインかもしれませんが、それはこの曲には、はまらないですし) 彼女はある意味、有名にはなるけれど、それは彼女の行いや人となりが気高いからではないわけで、それゆえ少女は「nobody's hero」だ、となるわけです。
「少女」の解釈、ここまではGjanniさんの意見で、私も同感なのですが、もう一つ私自身の意見を付け加えるなら、「娘を無残に殺されながら、それでも人々の善意や信頼を完全にはなくすまいと生活し続けた家族」というのは、ある意味広義の、無名のヒーローといえるのではないかなぁ、と思えます。ものすごい精神力と強い心、そして善良さが必要な行為だと思いますので。
「AIDSで死んだゲイの友達」も、もちろんヒーローではないわけです。Neilはこの人と友人関係にあったのですから、人となりは知っていた。きっと良い人であったのだと思います。自らに誇りを持ち、病とも雄雄しく闘ったのかもしれない、ある意味無名のヒーローのような品性を持った人だったのかもしれない。しかし、彼のことは社会には決して知られず、そして彼は、ヒーローには決してなれないのです。
ここでふっと個人的に、AIDSで亡くなったゲイの人で、ヒーロー視されている人、そう、Freddie Mercuryが、連想されてきてしまいました。もちろんここで歌われているNeilの友人は、Freddieのはずがありません。Neilの友人は無名の人、でも、この曲にあえて「AIDSで亡くなったゲイの友人」を持ってきたのは、Freddieのことも背景にあったのかな、と、チラッと思えました。Freddieは有名で、その死は世間を少なからず揺るがせたけれど、しかしNeilの「ヒーロー定義」によると、Freddieも決してヒーローではない、ということにはなりますね。role modelではありますが。
そしてこの曲の主題は何なのか。それはやはりAMRで議論されてきたように、「真のheroとrole modelとの区別を、はっきりつけること。そしてrole modelたる人は、そのことに自覚的になれば、真のheroになることも出来る。(だけれど、そう出来なかった人も多い。)」さらには、「それは有名人に限らず、普通の人でもそう。有名であることと、真のheroは違う。heroたらしめるのは、その精神性の高さなのだ。それは人に知られずとも、評価されずとも、その人はheroたりえるのだ」ということでしょうか。
英雄は作り上げられたものではないはず、すべての人が英雄になれる可能性を持つ、と言うことかもしれません。(我ながら、ちょっと強引な結論かもしれませんが)
2005年4月28日更新
★ 一つ、肝心な結論を言い忘れているような気がしましたので、付け加えます。Neilは決してゲイで病死した友人や、殺された少女(とその家族)のような、Nobody's Heroに対して、「Heroではないから、尊敬には値しない」と言っているわけではなく、むしろその逆であることを明記しないと、誤解を招くかな、と思い、付け加えさせていただきます。「彼らは一般的にはヒーロー、ヒロインと呼ばれるような人たちじゃないけれど、素晴らしい人たちなんだ」と。そして、そこから「ヒーローとは何なのか?」を深く考えてみるべきなのではないか、とも思われます。(2006年3月10日追記)
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