(このページの写真はすべて私が撮影した写真です) 河野 善福 記
(挨拶および講演の概要を筆記したもので、発言のすべてではありません)
日 時 平成23年7月26日 (火)
場 所 東京プリンスホテル 「鳳凰の間」
「シンポジューム」
講 師 武藤 敏郎氏 株式会社 大和総研 理事長
学校法人開成学園理事長権学園長
三井物産株式会社 取締役
住友金属工業株式会社 監査役
テーマ 「東日本大震災と日本経済復活のシナリオ」
【講 演 要 旨】 (注、アメリカの格付け引き下げ前の講演です)
3月11日の大震災前の予測では、日本経済は今頃順調に回復していると思われていました。しかし、震災後は予測が急激に変わってしまいました。
最近の私どもの四半期ごとの経済見通しでは、今年度第1期は▲3.5%、第2期も▲4%の赤字だろうと思いますが、その後次第に回復過程に入り、11
年度第4期には4%近いGDP成長が予測されています。引き続き12年度も民間設備投資が復興によって増加するし、公共投資が9%を越えて、輸出
も 伸びが回復するだろうと見ています。
回復の要因として、サプライ・チエーンの寸断で部品の供給が駄目だろうと思われていたのですが、6月の調査で製造業の74%、全体の60%が秋ま
でに回復の見通しであり、影響ないと答えた人が20%います。年末にはもっと回復が進んでいるでしょう。
外国人観光客、鉱工業生産、輸出、は5〜6月のレベルはまだ低いが、明確に底を打って、順調に戻ってくるものと見ております。しかし、事情が変り
かけています。電力各社の電力供給力が中部・九州に至るまで全国的におかしくなってきたのです、この夏は何とか越えると思っていますが、長期的に
観ると大きな不安要素です。復興も順調に進むと思っていましたが、瓦礫の処理は3県で42%、一時仮置き場に置いているだけ、焼却・埋め立て等の
最終処理が決まっていません。地元の人は5〜10年位かかるのではないかと言っています。
復興のための補正予算として、1次予算では震災関係費4兆円が決まったが処理が遅れています。2次補正予算では8,000億円計上されたが、全
額予備費で内訳は決まっていません。慌てて作ったので、使い道など中身が無いのです。現場の人たちの元の生活に戻りたい、将来の日本を背負って
立つ企業を再生させたいという願いをなかなか叶えられないのです。将来を設計して、元の生活に戻すには市町村あるいは国レベルの法的な応援が
必 要です。阪神淡路の震災の時には、3ヵ月後には16本の関係法律が出来ていました。今回は年内後半には何とかという状況です。3次補正では10 兆 円規模の国債を発行せざるを得ないでしょう。
阪神・淡路の大震災時と現在の財政状況を比べて見ると、国・地方の財政収支は(対名目GDP比)▲3.2%から▲6.5%に倍増しているし、長期債務残
高は75%から181%に増えています。日本国債の格付はAAAからAA−になり、中国並みになりました。ヨーロッパの今騒がれているギリシャやスペイン
より下です。それでも、今は復興のためですから赤字国債の発行もやむを得ません。これを現世代で増税によって負担するという考え方も有ります。昨
年のオーストラリアの災害時には半分を増税で対応しております。日本の財政が持っている赤字を我々が先送りしてきたこと、我々が遣り残してきたこ
と が、今後の日本の課題として待ったなしになってきたのです。
7月14日に菅首相は脱原発を発表しました。後に個人的見解であると訂正しましたが、現時点での原発に関する最大の課題であると思います。大和
総研はこの問題に対する検討を6月に始めて、7月13日に見解を発表しました。悲観論はすべての原発が13ヶ月稼動すると定期点検に入る決まりに
なっているので、そのまま再開できないと来年2月には、日本にある54基の原発がすべて止まることとなる。火力発電は新規作るといってもすぐには難
しいので、休んでいたものも一定期間をかけてすべてを動かすこととし、水力が8%ありますがこれも徐々に増やします。太陽光と風力は現状が1%くら
いであり、これを20年までに3%にするくらいです。一方楽観論は、定期点検を終えた原発を再稼動すると言うものです。原発は40年経つと廃炉にす
る ことになっているので、2020年に稼動している原発は20基になります。止まった原発から順に火力発電にします。太陽光発電も倍増するといってい ま すが、専門家からは無理だとの発言もあります。投資コストは大幅に増えます。電力の買い取り価格は下がって行くでしょう。
諸費者物価はマイナスになります。後半は再生エネルギーを使うことになるでしょうから、消費者物価も上がります。電力料金は上がっていきます、産
業用は5割増し、家庭用は2割増しくらいになるし、工場の海外移転にも拍車がかかるでしょう。
Co2の排出量は下がるでしょう。排出量の減は景気変動による減もあります。悲観論は京都議定書も達成できないと見ており、楽観論は25%減を変
えていないし、変えられないと見ております。
原発は脱原発を決めたドイツも22年までは動かします。原発電力の問題は理想論と現実論があり、すぐに辞めるとなれば、ロシアから電力を買わな
ければならないのです。
原発についで、今の日本で問題なのは社会保障です。社会保障と税の一帯改革をやるには増税となります、日本は増税に耐えられるのか疑問です
が、赤字の垂れ流しはもう出来ません。
6月の末に、政府与党はこの問題の15年まで現状ベースの時と、改革を行った場合の比較を発表しました。高齢者経費は11年度に22.1兆円が、1
5年度には26.3兆円となり、社会保障費全体では32兆円が37兆円になります。消費税は現在13.5兆円ですから、社会補償費を消費税だけで賄う
ことはできません。年金2分の1負担等の制度改革を行った場合には、15年度に42.4兆円の社会保障費が必要になります。消費税を10%にしても
2 7兆円で、15.4兆円が不足し、これを埋めることは出来ません。全部を消費税で埋めるためには15.7%にする必要があります。政府はまずは、「2 0 10年代半ばまでに段階的に消費税を10%まで引き上げ、当面の社会保障改革にかかる安定的財源を確保する」と発表しました。経済成長が上向く こ とが条件に加えられました。国は年金の給付削減と、保険料の負担増をやらなければなりません。
TPPの問題は、米国を中心に9カ国が貿易関税を撤廃しようとしている問題で、震災の影響で回答が遅れていますが、今年中には結論を出さなけれ
ば ならなくなっています。これに参加しなかった時は、関連各国とまともな条約は締結できなくなります。中国はこれに参加すると、米国に譲らないといけ な いことが多いので、入らないだろうと観られています。日本が中に入って、条件調整など外交戦略的にリーダーシップを取らないといけないでしょう。
我々の抱えている問題は、財政赤字に対する問題です。今は国民は、国債に対する金利も何も感じていないし、残念ながら、このままで良いのではな
いかと言う意見もあります。なぜ不安は無いのかと言うと、金融機関に金が余っており、利ざやは僅かでも確実に取れるからです。
だったら設備投資をすればいいじゃないかと言う事になりますが、なぜ、民間に設備投資意欲が起こらないのかと言うと、日本には高齢化、少子化、
デ フレ問題など需要が増えないという問題があり、円高で輸出も思わしくなく、電力も簡単には解決しません。法人税は下げてくれないし、供給サイドに 厳しい政策しかないからです。菅首相は公共事業投資ではなく、消費需要の拡大を狙ったのですが、震災が起こって、供給制約が起こったのです。それ を跳 ね返そうと、設備投資意欲が起こればよくなります。もう一つは、震災によって復興に頭が行って、将来の設備計画が手薄になっているのではない かと 懸念しております。
海外で深刻な問題が発生していることを、最後に申し上げます。米国が昨年QE2(量的緩和)政策をとったのです。日本がやったのと同じく金利ゼロで
国債を買い取ることをやったのです。それをこの6月にやめて脱量的緩和宣言を行ったのです。とうとう失業率は9.2%まであがりました。それで金融緩
和をせよとの意見が議会に半分あります。バーナンキ議長は非常に脆弱な立場にあります。現在オバマ大統領は、国債の発行枠がいっぱいで新たな
発行ができないので、新たに14兆ドルの枠を引き上げて、新規に国債を発行して苦境を切り抜け、増税によって赤字は削減したいと発表しました。共
和 党の下院議員は徹底的な歳出の削減が先だと主張し、民主党は富裕層からの増税をして、歳出の削減も行うと主張しています。
次にヨーロッパ問題ですが、ギリシャは3ヶ月ごとに財政状況をチェックすることとし、これを行いましたが、警告どおりには行きませんでした。ドイツは
ギリシャが放漫政策をやった尻拭いを、何で我々が国民の税金でやらなければいけないのか、と不満を持っています。しかし、ギリシャが破綻すると、ヨ
ーロッパの金融機関はギリシャの債権を買っているので破綻します。スペインの問題も控えています。財政再建は何処の国でも難しい問題です。ヨーロ
ッパの各国が財政統合すれば、ユーロは一本の国債の発行になります。ユーロは崩壊させないという明快な決意があります。ギリシャは財政再建のモ
デルとなります。14年までは何とか見通しが付いたのですが、財政再建が出来なければ、14年にまた借りねばならないのです。
日本を取り巻く環境は、対ドル関係では円高になっています。日本の財政を各国が注視しているのです。もし、日本の金利が高騰し始めると、日本の
格付けはイタリアより下になります。日本の今後はグローバルな観点から注視する必要があります。 おわり
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