講演会 講師 日本経済研究センター 会長 小島 明 先生
1942年神奈川県生まれ。 1965年早稲田大学、政治経済学部卒業。
1965年〜2007年日本経済新聞社勤務。 この間に慶応義塾大学教授。
中国ハルピン工科大学客員教授。米日財団理事などを歴任。
「日本の潜在力」 講演要旨
米国は10何年ぶりかの景気後退期に入った。 近年は中国・インドが好況である。 グローバル・インフレーションにはならない。 大田経済担当大臣
も言っていたが、日本経済は一律ではない。 わが国は2002年からの戦後14回目の景気回復期にあり、史上最長の好景気が続いている、今もその 中にある。 1991年にバブルがはじけて、国内では不況が長く続いた。 2002年に行われた調査では、年1%上昇がやっとという回答が多かったが、 民間の力が始めて上昇トレンドになり、10何年ぶりの流れに乗って、公共事業が減る中で6年間の上昇中である。 しかし、設備投資が抑えられたため に設備の老朽化が始まっている。
今回の景気回復でようやく革新が始まった。 1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊した。 91年にはソ連が崩壊した、このときから東西冷戦は終
結し経済上昇が始まった。 91年にはインドで改革が始まり、対印投資が拡大し始めた。 中国は1978年からケ小平の指導の下で改革が始まった。 ケ小平は92年に「南巡講話」を行い、「白い猫であれ黒い猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である」という政策を実行し、現在の中国は世界の工場となっ たが、中国が日本と同じ生産を行うには7〜8倍のエネルギーを必要とする。 世界の上昇期であった90年代に日本はバブルがはじけて経済の下降を 招いた。 現在は世界中で投資が活発化し、昨年1年間の世界中の投資額は冷戦中の総投資額と同等になっている。
世界的な金融・資本自由化の波は、資本交流の劇的な拡大・膨張となって金融サイバー化している。2004年から石油資源の高騰が始まった。
2年前に95歳で亡くなられたP・F・ドラッカー氏を1978年に訪問し、半日お付き合いいただいた。 氏は1934年25歳の時に日本画に出会い、西洋の絵
の具を塗り重ねた絵と違って、淡白で表現力豊かな日本画の虜となると共に、日本と言う国の潜在的な能力を認めるようになった。 氏は「日本人は悲 観しすぎる。日本人には大変な素質がある」こと、「近代史において、戦争をしないで自主的な革命を行った国は日本のほかにはない」「狂気のヨーロッ パ革命に対して、日本の明治維新はいかにすばらしい革命であったか」を本に書いた。 この本を後に首相となったチャーチルが入手し、絶賛してくれ た。
これからの世界は、人口の高齢化問題、環境問題、エネルギー問題を解決しなければならない。 中国は一人っ子政策を取ったために高齢化が進む
し、韓国は現在出生率が1.1人で日本より悪い。環境問題は洞爺湖サミットの参加国が世界の価値観を決めると思う。日本は山国で平野が無いので 早くから環境に取り組む必要性があった。その体験から今日の技術が育った。したがって、この分野では日本は最先端を行っている。 日本がこれらの 問題を政策につなげることが出来たら、日本は回復し世界のトップになれる。
わが国ではエネルギーショックが二度あった。 最初はトイレットペーパーが無くなると騒いで皆が買いだめをした。 エネルギー資源の無い国がこれを
克服するにはエネルギーの効率を上げるしかない。環境を含めてトヨタのハイブリット車が開発された。 生産性向上につながらない技術はコストと考 え、これを改善する技術を生み出した。 資源が無いから自分で克服しなければならなかった、これが新しい発展の原動力となった。 もう少し違った目 で見れば、発展の可能性は一杯ある。
少子高齢化の問題は、1995年から生産年齢人口の減少が始まり、2005年からは人口減少が始まっている。 2005年の出生率は1.25である。
わが国では一貫して貯蓄奨励策を取ってきた。したがって貯蓄率は高い。バブル期には設備投資が向上したのに貯蓄率がさがらず、資金余剰の国と
なった。その結果バブルははじけたが、日本に資源が無いことが幸いし発展することが出来た。
わが国が今後も成長していくためには、外国からの資本も受け入れて資本投入をしなければならない。 さらに労働力の投入が必要である。 55歳定
年制は平均寿命が48歳のころに作られたものであるが、平均寿命が80歳の今日、65歳定年はおかしい。健康な人は80歳まで就労可能である。生産年 齢を引き上げないと、大切な資源が眠っている。 女性が生涯働き続けた場合と、家庭に入って後に再就職を行った人の生涯収入は1億円の差があ る。 子供は2〜3人欲しいという人が多いが、現状では持てない。 日本の潜在能力はこれからの出生率で変わる。
日本は成功を続けたが、失敗を捨てられないで平均値を大量に確保している。 成功のパラドックスは不安である。 画一化したものを見直す多様性
が必要である。
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