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毎年4月になると新しいメンバーが入ってきます。 私のいる病院でも、現場に出る前に、約一週間全体でオリエンテーションをおこないます。 その中で事故防止と感染予防に関しては約7時間(例年のタイムテーブル)の講義がおこなわれます。 もちろん、新入職員全体のオリエンテーションですので「事故防止の話」といっても大まかな考え方を提起するにとどまり、 その後の別の研修とか、現場での研修(OJT?これが危ない!苦笑)とかで具体的なことを身に付けていく(多分。笑)ことになります。 一昨年から、最初の話(約2時間半)の担当が(自称HFグループの)私になりました。 こんなところに公開するのは、本当に恥ずかしいのですが、「小さな病院のつたない取り組み」を公開する事で ご覧になった皆さんにご意見・ご批判をいただき、今後なんとか実のある安全教育にしたいと願っています。 (ちなみに「事故防止委オリエンテーション その2(看護部担当、総論の各論?)」は担当者が違いますので 同じオリエンテーションとはいってももうすこし具体的な話となっています)
もちろん何かひとつの正解があるわけではないのですが、こういう問いかけに、自ら考えてもらい、自分の言葉でこたえてもらうことは大切だと思います。 「患者さんのため」などという(教科書的なお行儀の良い)答えより、まず「自分にとってどうなのか?」と考えることが大事だと思います。 答えてくれたどのような意見に対しても「肯定的」に扱うのですが、「資格を失う」と答える人がいまだにいるので、これに対してだけは否定しておきました(特別な場合だけです) 注2) ヒュマンエラーをテーマにしたビデオでは今回もエラーの分類やラスムッセンモデルを解説したものを使用しました。 注3)自験例を提示したほかに医療場面でのコミュニケーションビデオ(各5分)を見てもらい、次々と指名してどこに問題があるのか意見を述べてもらいました。 こういう場合、出された全ての意見を「肯定的」に扱うことが良いように思います。「うん、そうだねー」「そう、そんな考えもあるね」という具合です。 しかし、ここの部分の研修は別に時間を取ってゆっくりとする必要があると感じました。 実際に既卒者を対象にこの部分だけの院内研修を3回ほどしたことがありますが、やはり考えてもらい、発言してもらうためには時間の余裕が必要でした。 時間が迫られていると、どうしても僕のほうからまとめてしまう事になります。 注4)海保博之教授によるコミュニケーションの図を使用(「人は何故誤るのか」など) 注5)大阪大学の中島先生のいうSBAR situational briefingも同じようなことだと思いました。 特にフェースtoフェースのコミュニケーションでない時には、コミュニケーションエラーの発生を想定したコミュニケーションルール(スキル)が必要なことを話しました。 特に「夜間の電話連絡は結論から」の原則を作りたいと思っています。 注6) 「事故防止の両輪」という意味で「もう一つの輪」と表現しました。 事例として提示したのは2005年1月22日の札幌新千歳空港で起きた「離陸許可を得ないまま滑走開始」したJAL1036便のインシデント例です [編註1:外山智士氏ホームページ『民間航空データベース』から許可を得て引用致しました] (このケースはWEB上でも経過や分析をみることができます)。 いろいろな悪条件に誘発され、その結果エラーを起こしてしまった、しかし、残された十数秒で悲惨な事故につながることを避ける事が出来た。それは何故か? と考えることも必要じゃないか、と問いかけてみました。 クリテイカルな場面できちんとすばらしい「仕事」をした管制(L-L、L-Sの関係?)、ソフトウエアとしての緊急時のルールの存在、ハードとして急停止が可能な機体(H)、 地上レーダー(H)、緊急命令に即応できるパイロットの技量(L-self)。どれ一つが欠けても事故になっていた。 つまり「最後の最後に、事故を防ぐチャンスを生かすためにも、まずきちんとした仕事の知識や技術を身に付けることが大切である」と言いたかったのです。 もちろん、こんな場面でなくとも「知識・技術の不足」は分野を問わずにエラー・事故の発生要因です(Helmreich)。 「人は誰でも・・・」などという「耳障りの良い」言葉を取り違えていないだろうか?と提起しました。 注7)新聞記事などできちんと「まとめられた」事故報道を見るときの私達の意識は、「あっ、こんなばかなことをして・・」とか「ここがおかしいんだよね」などと 「後知恵」の高見から見てしまいがちです。そして「うちでは、○○が違うからこんなことおきないよ」とか「前のときとは違うから・・・」「うちではここはちゃんとしているから」 といったふうに、事故をおこした状況とは違う条件を挙げて「安心」(自己満足?自慢?)する事があります。 しかし、この時大切なのは「違う点」をあげつらい自分勝手な「安心」をすることではありません。「ここが共通するのでは?」という点を探すことなのです。 でなければ、1000件の事故報告をうけても(1000種類の分類ができるだけで)教訓は殆どないそうです(失敗学会 中尾宏幸氏)。 新聞でも、聞いたことでもいいのですが、医療事故(事故)に関する報道に関していつも「わがこと」として考えて欲しいと思いました。 注8)「安全第一・・・」は20世紀のはじめにUSスチールの会長が言ったことと聞いていますが、「第二、第三、という順番を知って」という話です。 ここで僕が言いたかったのは「優先順位」のことでした。今考えると言葉足らずで、「じゃあ何もしないのが安全か?」と誤解されそうな言い方でした(失敗)。 患者さんは黙っていれば死ぬかもしれない。だから、われわれの仕事はリスクもあるが、やる。 そういう意味では本当は「すべて安全第一とはいえない」ということもお話すべきだったかもしれません。 このあたりは「事故と安全の心理学」(東大出版)に明瞭に述べられています。 注9)オリエンテーションを受けている方は、当然、みな若いので、仮に前夜眠っていなくとも(お酒を飲んだ後でも)、少しぐらい熱があっても、 「勢いで」仕事をするという現実があります。 また、そう簡単に代わりの人がいないという慢性的「人手不足」状態もあります。 しかし、そんな条件下ではいわゆる自分が考えている「体力」とは別に正常な判断力(覚醒度)や根気が落ちていること、 それが簡単にエラーや「近道行動」、そして事故に結びつくことを「精神論・根性論」でなく「科学的に」知ってほしいと思いました。自分自身の「使用前点検」です。 注10)僕の目的はこれにつきるのかもしれません。もっとも、自分自身はちょっと飲むとすぐ眠ってしまいますが(笑) * * *
新規採用者(ほとんどが本当に新人)が病院に出勤して2日目に、「事故はおきる」などとあまり縁起でもないタイトルでこんな話をして、 どのくらい理解されるのかという疑問はいつも残ります。 この後の継続したプログラムや現場での日常の教育、「風土」「雰囲気」のほうが余程大切、ということはわかってはいるのですが、私達の力不足でなかなかうまくいっていません。 いまだに(私たちの病院程度の中小の)「病院における安全教育」の全体像がつかめていないことに原因があることはわかっているのですが・・・・。 それでも、新人の中の一人が(すこし慣れた頃)「先生、あの話とても面白かったです。ありがとうございました」とわざわざ言いにきてくれました。 ハインリッヒの法則じゃないですが、何も言わない29人もちょっとは興味を持ってくれたのではないかとひそかに期待しています。 * * *
いかがでしたでしょうか?再び私達のつたない日常の取り組みの一部を「公開」してみました。 きっと、「ちゃんとした」病院の医療安全のオリエンテーションとはずいぶん違うことをやっていると思います。 本当は「公開」なんて「穴があったら入りたい」くらい恥ずかしいのです。しかし、自分達の思った事を発信してみる、そして外部の方からのご意見、ご批判をいただく、 ということは「エラーの指摘・修正」や「trap error」「mitigate error」、「思い込みからの脱却」などに示される、この連載の趣旨にも通じることではないかとも考えています。 (まあ、もともと「講座」なんていって恥をさらしているのですから、「いまさら」ですが・・・) メールででも(こっそりと、苦笑)ご意見、ご批判、エラーの指摘をいただけると本当にありがたいと思っています。 また、こんなことなら、俺の(私の)講義・プログラムを教えてあげるよ、と思われた方もどうぞご連絡をお願いします。 (掲載したものは参加者に配布したレジメそのままです。講義に使用したのは例年のファイルを少し修正したもので数分づつのビデオファイルを含めpptで80枚ほどでした。 当日はこのほかに資料として現、自治医大河野氏の4 -step-Mの図を添付しました) | ||
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