〜風邪の裏側 1〜



「マイクが熱を出した」

カミューは赤騎士団長執務室に入ると、副団長のルディウス=ジェムナールにそう告げた。
ルディは仕事をする手を止め、顔をカミューの方へ向けた。
「それは大変ですね。
熱はどの位で?」
「38.7だ」
カミューが席に着きながら答える。
「その事は青騎士の方には?」
「まだだ」
「では、私が伝えてきましょう。
ついでに、食堂に行って、胃に優しいものでも作って頂きましょう」
「ああ、そうしてくれ」
ルディは、席を立つとドアに向かい、ドアノブに手を掛け、
「サボらないでくださいね。
書類の残り枚数、覚えてますから、すぐにわかりますよ」
「......」

脅しをかけてから部屋の外へ出た。


「失礼する」
ルディはノックをすると、その部屋に入った。
「あれ?
どうしたの、ルディ?」
ルディが青騎士団長執務室に入ると、騎士にしては少し小柄な男が振り返った。
青騎士団副団長のキッシュ=フォルテシモだ。
「マイクロトフ様が熱を出されたそうだ。
それを伝えに来た」
「うそぉ!ほんと?!」
「嘘を吐いてどうするんだ。
そういう訳で午後の執務は一人で頼む」
ルディがそう言うと、キッシュは少し困った様な顔をした。
「?
どうかしたか?」
「今日、特演なんだよね...」
「え?」
特演とは、月に一度、団長自ら騎士達に特別に演習を行う事である。
各騎士団で日は違うのだが、白騎士団は副団長が行っている。
「そうか、今日なのか...。
じゃあ、キッシュは特演に行ってくれ。
書類はこちらで引き受けよう」
「え?いいの?やったー!
じゃ、急がないと、もうすぐ時間だ!」
よろしくねー!と言うと、キッシュは剣を持って走っていった。
「......。
では、書類をこちらに回してもらう様、白騎士団の方へ行くか」
言って、ルディは無人になった部屋を後にした......。



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