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ゾンビランド
監督  ルーベン・フライシャー
出演  ジェシー・アイゼンバーグ  ウディ・ハレルソン  アビゲイル・プレスリン  エマ・ストーン
     ビル・マーレイ
 ゾンビ菌が蔓延し、人間がほとんどゾンビになってしまったアメリカで、自分なりの対ゾンビのための32のルールを作って生き残っている引き籠もりの青年、コロンバス。ある日、カウボーイハットの屈強な男、タラハシーと出会い一緒に旅をする。途中で若い女性姉妹ウィチタトリトルロックに騙されたりもするが、結局4人でゾンビがいないというロサンゼルス郊外の遊園地パシフィックランドヘ向かうこととなる。
 コロンバスが作ったルールが笑わせられます。有酸素運動、トイレに用心、シートベルトをしろ、ゾンビを発見したらまず逃げろ、英雄になるな、準備体操を怠るな、後部座席を確認しろ等々クスッとすることばかりです。でも、意外にこのルールを守ればゾンビ世界を生き抜くことができるかも。
 コロンバスを演じるのは「ソーシャルネットワーク」でフェイスプックの創設者マーク・ザッカバーグを演じたジェシー・アイゼンバーグ。「ソーシャル~」のときは、人を見下しているような表情が印象的でしたが、今回演じるのはどこか気弱な青年です(友達が少なそうという点は同じですね。)。こんな目立たない青年役だったのに、アカデミー賞にノミネートされるまでになるとは驚きです。
 姉妹の妹役を演じるのはアビゲイル・プレスリン。最近、日本の子役もうまいですけど、アビゲイルも相変わらずうまいですねえ。「リトル・ミス・サンシャイン」の頃からかなり大きくなりました。
 スペシャルゲストとして登場するのは、「ゴーストバスターズ」のビル・マーレイ。本人役での出演です。でも、本当にこの映画の中のように、ビバリーヒルズのあんな大きな屋敷に住んでいるんでしょうか?
 ゾンビが人間を食べるシーンは目を背けたくなるグロさですが、映画を全体としてみればコメディ系の作品で、怖さはありません。ゾンビ映画となれば、ロメロ監督ですが、彼の作品のように、ゾンビがうじゃうじゃいなかったですじね。
セブンティーン・アゲイン
監督  バー・スティアーズ
出演  ザック・エフロン  レスリー・マン  トーマス・レノン  メロラ・ハーディン  マシュー・ベリー
 高校生マイク・オドネルは、バスケットボールの花形選手だったが、大学のコーチが観に来る大事な試合の直前、恋人のスカーレットから妊娠を知らされ、バスケットの道を諦め彼女と結婚することを選択する。それから20年、会社員として働くマイクだったが、出世からも見放され、妻には君のためにバスケットの夢を諦めたという愚痴をこぼす毎日で、結婚生活も破綻していた。そんなある日、マイクは不思議な現象によって身体が17歳の時に戻ってしまう。彼は、これを機に人生をやり直そうとするが・・・
 こうしたタイムトラベルの設定の作品は大好きです。ただ、「ハイスクール・ミュージカル」のザック・エフロン主演なので、彼のアイドル映画で、歌ったり踊ったりの映画かなあと思ったら、ダンスシーンは冒頭だけで、あとは普通の(?)ファンタジー映画でした。
 娘が17歳の自分に恋してしまったり、妻が17歳の年下の男の子に想われてドキドキしたりと、ストーリーの展開は予想できるし、ベタな作品ですが、これが意外におもしろくて最後まで飽きずに観てしまいました。コメディ・タッチでストーリーは進みますが、そのコメディー・シーンを引っ張るのがマイクの友人のネッドです。「スター・ウォーズ」や「ロード・オブ・ザ・リング」オタクのキャラは飛び抜けて愉快です。そんなネッドがマイクの高校の女校長に一目惚れしてしまい、積極的に彼女にアタックするが、その行動は突拍子もないことばかり。相手の女性校長にも呆れられるが、実は・・・。ここは、笑いましたねえ。ラストも予定調和的で、安心して観ることができます。
 若い頃に戻りたいという気持ちは、僕らくらいの歳になると誰もが持っているのではないでしょうか。そんなことが実現した主人公に、ちょっと自分を重ねたくなってしまう映画でした。
リミット
監督  ロドリゴ・コルテス
出演  ライアン・レイノルズ
 イラクでトラック輸送の運転手をしているポール・コンロイは、何者かに襲われて意識を失い、気が付いたときには地中に埋められた木の棺の中に閉じ込められていた。棺の中にあった携帯電話で外部と連絡をとり、救助を求めようとするが・・・
 全編を通して登場するのは、棺桶の中に閉じ込められた主人公ポールだけ、というある意味低予算の映画です。1時間30分の上映時間が、彼と彼が必死に電話で話す人々の声だけで構成されます。彼が、棺桶の中になぜか残された携帯電話、ライターなどを用いて必死に外部と連絡を取って救助を求める様子を観ているだけですが、飽きません。必死に現状を訴えながら相手にしてもらえず、イラっとして手足をバタつかせたりする様子が緊迫感を増します(あ~暴れると酸素がなくなるぞ!)。ただ、棺桶の中に蛇が現れるシーンは、これは確かに恐怖のシーンですが、反面なぜここで蛇が出てくるの?元々棺桶の中に入れられていたなら、もっと早くから現れてもよさそうなものだと思ったりも。
 素直な観客ではない僕としては、本当に彼が埋められているのはイラクなのか(意識のないうちにアメリカに運ばれているのではないか)とか、散々苦労して棺桶の蓋を開けたとたん周りに皆の顔がある(いわゆるドッキリ)とか、騙されないぞと思いながら観ていたのですが・・・
 ラストは、そっちできましたかという感じです。 これだけの設定で、ここまで観させた監督に注目です。
魔法にかけられて
監督  ケヴィン・リマ
出演  エイミー・アダムス  パトリック・デンプシー  ジェームズ・マースデン  スーザン・サランドン
     ティモシー・スポール  イディナ・メンゼル  サマンサ・アイヴァース
 エドワード王子との結婚式当日に、おとぎの国から魔女であるナリッサ女王によって現実世界へと追いやられたプリンセスのジゼル。途方に暮れていたジゼルを弁護士のローガンとその娘モーガンが手を差し伸べて、彼女は現実世界で暮らし始めます。そんなジゼルを探して、リスのピップ、王子様のエドワード、そして魔女の手下のナサニエルが現実世界へとやってきてひと騒動というディズニー映画らしい作品です。
 悪人はどこか抜けていて、善人は脳天気。ミュージカルのように歌って踊ってめちゃくちゃ明るい嫌みのない映画です。たぶん、セントラルパークだと思いますが、まるでディズニーランドで歌って踊っているかのようなシーンは素敵です。
 歌うといえば、助けに来た王子様が歌うところで、ロバートが「彼も歌うんだ」と言うシーンには家族爆笑。お婆さんに化けた魔女とか毒入リリンゴ、王女を目覚めさせるためのキス(ここもストレートにいかないところが愉快です。)、忘れられたガラスの靴など童話の世界ではお馴染みのアイテム等も出てきて家族みんなで楽しめます。
 ジゼルを演じたのは、エイミーアダムスですが、おとぎの国の王女様としては歳を取り過ぎている感もあります(笑)。彼女の結婚相手、エドワード王子を演じたのは「Xメン」でサイクロップスを演じていたジェームズ・マースデン。真面目な雰囲気しかない彼がコメディを演じるとは落差が大きすぎです。役柄にぴったりだったのは、魔女役のスーザン・サランドンです。出番が少なかったのはもったいないですね。
必死剣 鳥刺し
監督  平山秀幸
出演  豊川悦司  池脇千鶴  吉川晃司  岸部一徳  小日向文世  戸田菜穂  村上淳  関めぐみ
 藤沢周平原作の“隠し剣”シリーズ中の一編の映画化です。
愛する妻を病気で亡くしたばかりの兼見三左エ門は、死に場所を求めるかのように、藩の政治に口を出し、やりたい放題の藩主の側室を城中で刺殺する。死罪を覚悟していた三左エ門に下された処分は1年間の閉門という思いもしない軽い処分であった。さらに2年後には近習頭取に取り立てられ、藩主の傍に仕えることになる。腑に落ちぬ彼を支えるのは三左エ門を慕う亡き妻の姪の里尾。いつしか、三左エ門も里尾に惹かれるようになる。そんなある日、中老の津田民部から、殿を亡きものにしようと考えている別家の帯屋隼人正は、剣の達人であり、対抗するには必殺剣鳥刺しの使い手である三左エ門が必要だと彼に話すが・・・
 冒頭の側室刺殺場面とラストの立ち回りの場面以外は淡々と物語は進んでいきます。“必死剣”とは、どういうことだと問われたときに、三左エ門は言います。「使うときには半ば死んでいるでしょう・・・」このことの意味はラストで明らかにされます。ただ、津田民部がなぜ三左エ門に必死剣という秘儀があることを知っていたのか、この映画で描かれている三左エ門の性格からして他人に吹聴するようなことはないと思うし、他人が知らない故の必死剣だと思うのですが。このあたり、ちょっと不可解です。(家でのんびり観ていると、つい細かいことが気になります(笑))
 ラストの立ち回リシーンは、まったくかっこよくありません。でも、実際にそんなに簡単に人を斬れるものではないでしょうし、逆に意外と現実感あるシーンだったのではないでしょうか。血がドバァ~と出るのはどうかと思いますが。
 それにしても、三左エ門といい、吉川晃司さんが演じた帯屋隼人正といい、武士というのはあまりに悲しいですね。
 三左エ門を演じた豊川悦司さんは、無口で孤高の武士という雰囲気を漂わす三左エ門にピッタリです。側室を演じた関めぐみさんも、気の強そうな目つきが役柄にピッタリです。それにしても、相変わらず何やらせても上手いなあと思うのは津田民部役の岸部一徳さん。善人だか悪人だかわからない演技が見事。日本映画に欠かせない役者さんです。
 地元では人気がないせいか、2週間の上映期間で観に行くことができませんでしたが、今回DVDで観て、意外に引き込まれてしまいました。
少女たちの羅針盤
監督  長崎俊一
出演  成海璃子  忽那汐里  森田彩華  草刈麻有  黒川智花  塩谷瞬  清水美砂  石黒賢  戸田菜穂

水生大海さん原作の同名小説の映画化です。原作は読者へのトリックが仕掛けられているものだったので、あれを映像化するのは難しいのではないかと思ったのですが、そこはうまく描いていました。

     原作の感想はこちら

 4人の女子高校生を演じるのは、若手女優では今は武井咲さんと双璧をなす人気の忽那汐里さん、そして成海璃子さん、草刈正雄さんの娘の草刈麻有さん、森田彩華さんです。4人の演じた女子高校生のイメージが原作とピッタリでした。気の強い瑠美役の成海さん、お嬢様タイプのかなめを演じた草刈さん、ボーイッシュな梨里子役の森田さん、実業家の隠し子である蘭役の忽那さんと、なかなかうまい配役です。
 しかし、2時間の上映時間の中では、小説の細かい部分は描き切れていなかった感はあります。特に現在を描<部分が少なすぎた嫌いがあります。もう少し、ミステリーとして観客に考えさせる場面があってもよかったのでは。
 4人の高校生時代の劇が、いかにも素人っぽい高校生の劇という感じで、ある意味よかったです。

シャーロック・ホームズ
監督  ガイ・リッチー
出演  ロバート・ダウニー・Jr  ジュード・ロウ  レイチェル・マクアダムス  マーク・ストロング  ケリー・ライリー
     エディ・マーサン  ジェームズ・フォックス  ハンス・マシソン  ウィリアム・ホープ  ブロナー・ギャラガー
     ジェラルディン・ジェームズ  ロバート・メイレット
 今週末、第2作が公開される前に、観ていなかった第1作をレンタルしてきました。
 名探偵ホームズといえば、小学生の頃、図書館に置かれた子ども向きにリライトされた名探偵ホームズと怪盗ルパンものを友だちと争うようにして借りて読んだ記憶があります。あれが、その後ミステリーを読むようになった原点です。
 そのときのホームズの印象はといえば、落ち着いたイギリス紳士というイメージが強いのですが(たぶん、その後見たテレビシリーズでジェレミー・ブレッドが演じていたホームズの印象も影響したと思うのですが)、この映画のホームズはそんな子どものときのイメージを大きく打ち破ってくれました。筋肉隆々で格闘技も強く(たぶん原作のホームズも柔道か柔術をやっていたと思いますが)、ちょっと性格がやんちゃ坊主という感じです。相棒のワトソンもただホームズの後をついて行く助手だと思っていたのに、この作品では派手な格闘もしますし拳銃もバンバン撃ちます。
 ホームズを演じたのは「アイアンマン」で復活したロバート・ダウニー・Jrです。今までのホームズのイメージだったら彼の配役は考えられないところですが、今回のホームズにはなかなかはまっています。
 映像もインパクトがありました。特にスローモーションでの爆破場面はすごかったです。今回の敵はブラックウッド卿ですが、きちんと第2作への伏線も張っており、考えられたストーリーになっています。第2作が楽しみになりました。
森崎書店の日々
監督  日向朝子
出演  菊池亜希子  内藤剛志  田中麗奈  きたろう  松尾敏伸  奥村知史  吉沢悠  岩松了 
 本好きとして、題名を見ただけで借りてしまいました。
 男に裏切られた主人公が古本屋を経営する叔父に頼まれて店番をする中で(これって、失恋から会社も辞めてしまった娘を心配してお母さんが弟に頼んだものですけどね)、叔父や店にやってくる客、町の人との出会いを通して立ち直っていく様子を描いた作品です。
 あんなお店で商売成り立つのかと余計な心配をしてしまいますが、本を読みながら店番なんて、やってみたいなあ。本に囲まれた生活なんて、嬉しくなってしまいます。それに映画の中に登場する喫茶店も雰囲気良さそうで、ああいうお店でおいしいコーヒーを飲みながら本を広げたいなあと思ってしまいます。最近、スタバとかタリーズとかばっかりで、ゆっくり時間を過ごす喫茶店という雰囲気の店は少なくなってしまいましたね。
 舞台は神保町の古本屋街。学生時代を過ごした町で、今も東京へ行くことがあるとぶらぶらするのが好きな町です。主人公の貴子を演じていたのは菊池亜希子さん。どこかで見た顔だと恩ったら、先頃観た「わが母の記」で役所さん演じる作家の次女を演じていた人でした。なかなかかわいい人です。
吉祥寺の朝日奈くん
監督  加藤章一
出演  桐山漣  星野真里  要潤  柄本佑  田村愛  水橋研二  村杉蝉之介  徳井優
 喫茶店で痴話喧嘩に巻き込まれて鼻血を出してしまった朝目奈くん。彼は喫茶店のバイトの女性を目当てに通っていたのですが、実は彼女の左手薬指には結婚指輪が。それでも、彼女からメルアドを聞き出した朝日奈くんは、彼女の娘を連れてのデートにまで漕ぎ着けます。その後、二人で芝居を見にいったり、夫婦げんかで飛び出してきた彼女を泊めたりと、しだいに関係は深まっていくようでしたが・・・。
 中田永一さん原作の同名小説の映画化です。実に丁寧に原作どおりに話が進んでいきます。主演の桐山漣くんと星野真里さんが原作の雰囲気にぴったりです。桐山くんはイケメン仮面ライダーの一人だそうですね。
 単純に年下の男の子が大人の女性に恋をするラブ・ストーリーかと思いきや、ストーリーは思わぬ方向に展開していきます。原作を読んでいない方が、ちょっとミステリーの謎解きのような雰囲気を味わえていいかもしれません。
 題名に“吉祥寺の”とついているので、吉祥寺の街並みが紹介されるのではと思いましたが、住みたい街ナンバー1としての吉祥寺の街案内にはなってはいません(定番の井の頭公園は登場しますが)。
 脚本を書いたのは日向朝子さんで、先日DVDで見た「森崎書店の日々」の監督さんでした。あちらは神田、こちらは吉祥寺が舞台ですが、街の中で生きていく若者を描いているという点が、なんとなく似ています。
アントキノイノチ
監督  瀬々敬久
出演  岡田将生  榮倉奈々  松坂桃李  鶴見辰吾  檀れい  染谷将太  柄本明  堀部圭亮  吹越満
     津田寛治  宮崎美子  原田泰造
 高校時代に友人関係から精神を病んだ青年・永島杏平が遺品整理会社に入って仕事をしていく中で、前を向いて生きていくようになるまでを描いた作品です。さだまさしさんの同名小説の映画化ですが、才能のある人って、いろいろなことができるんだなと感心してしまいます。
 遺品整理を業務とする会社があることを初めて知りましたが、一人暮らしが増加している状況を考えると、こういう会社の需要というのはこれからも増えていくことは間違いありません。孤独死で何ヶ月もたってから発見されたというニュースもよく目にする世の中ですからね。
 同じように心に傷を負ってこの会社で働いているゆきや上司の佐相と仕事をする中で、人が孤独死をするに至る様々なケースを見て、杏平は生きるということを考えていきます。観ているこちらも、いろいろ考えさせられます。ただ、ラストのエピソードはなくてもよかったのではないかと思います。いい意味に取れば、杏平がさらにこの試練を乗り越えていくということを描きたかったのでしょうけど、いかにも観客を泣かせようとしている感じです。これで評価が下がってしまいました。
 杏平を演じたのは岡田将生くん。精神を病んでしまう線の細さが出ています。ゆき役の榮倉奈々さんは、今までにない影のある女の子をがんばって演じています。ああいう格好をすると、本当に普通の女の子ですね。上司役の原田泰造さんがなかなかいい味出していますよ。
サラの鍵
監督  ジル・パケ=ブランネール
出演  クリスティン・スコット・トーマス  メリュジーヌ・マヤンス  ニエル・アレストリュブ  エイダン・クイン
     フレデリック・ビエロ
(ちょっとネタバレ)
 1942年、パリでユダヤ人の一斉検挙が始まる。ナチス寄りのヴィシー政権だったため、検挙を行ったのはフランス警察。警察が来たとき、サラは、弟を納戸に隠して鍵をかけ、すぐ迎えにくるから隠れているようにと言い残して父母と家を出る。父母が強制収容所へ送られる中、サラは収容所を脱走し、途中でサラを助けた老夫婦と共にアパートヘ向かい、納戸を開けるが・・・。2009年のパリでは、ジャーナリストのジュリアが、ユダヤ人の検挙事件を取材する中で、義父母のアパートの部屋にかつてサラの一家が住んでいたことを知り、サラたちの行方を捜す。
 映画は納戸にいる弟を助けようと収容所を脱走するサラと、彼女の足跡を追うジュリアとを交互に描きながら、サラという女性の人生と、ジュリアが選ぶ人生を描いていきます。
 責任を感じて弟を助けようとするサラの行動に心を打たれます。果たしてサラは弟を教えるのか。弟は一人で納戸から出られたのか。前半はその一点でぐいぐい観客を引っ張っていきます。
 ジュリアもサラを探す中で、夫の反対を押し切って赤ちゃんを産むかどうかという決断に迫られます。ラストでサラの息子と話すジュリアが、あることを彼に告げます。ちょっと感動のラストです。
 映画の冒頭で弟と遊ぶサラの笑顔が印象的です。それゆえ、その後あの笑顔を見せないサラの心の痛みの深さが思いやられます。ナチスによるユダヤ人虐殺は歴史上の事実として誰もが知っでいますが、フランスもそれに手を貸していたことは知りませんでした。今までの映画で描かれるのはドイツに立ち向かうフランスのレジスタンスの話ばかりでしたから。1995年になって、ようやくシラク大統領がこの事実を認めた際の実際の映像が出てきますが、フランスの恥部だったのでしょう。
 収容施設のヴェルディブ(冬季競輪場)に送られるユダヤ人に対し、罵声を浴びせかけるフランス人女性に対し、「馬鹿を言うな!次は俺たちの番だ!」と言う男性はフランスの良心でしょうか。
横道世之介
監督  沖田修一
出演  高良健吾  吉高由里子  池松壮亮  伊藤歩  綾野剛  朝倉あき  柄本佑  堀内敬子  國村隼
     余貴美子  井浦新  きたろう 
 ほんと~に、どおってことない映画なんですよねえ。でも見終わったあとに心が温かくなる映画です。
 舞台は80年代。長崎から法政大学に入学するために上京してきた横道世之介。そんな彼と人々との関わりを描いていきます。何が起きるわけでもありません。何となく入部してしまったサンバサークルでサンバを踊ったり(これには笑わせられます)、女の子とデートしたりという普通の大学生の学生生活を描いていくだけです。
 原作は吉田修一さんの同名小説です。大好きな作品でしたが、映画も原作のよさを十分表している作品でした。同性愛者である綾野剛さん演じる加藤が学生時代のことを振り返って、同性愛の相手に「世之介に会ったというだけで得をした気がする」と言いますが、この映画の描きたいことを言っている気がします。
 いつもはきりっとした高良くんが80年代ファッションに身を包んで、ちょっと軽い感じの世之介を演じています。脇汗がすごくて、いつも汗の匂いを嗅いでいるところや、汗をかかないよう腕が脇につかない姿勢をとっているところには笑ってしまいました。高良くん、だいぶこれまでの印象と違います。
 意外といいなと思ったのは、世之介とつきあうお嬢様・与謝野祥子役を演じる吉高由里子さん。お嬢様で世間の感覚とはどこか違うところがありますが、ツンとしたところはなく真面目な感じが今までの役の中で僕としては一番好きです。
箱入り息子の恋
監督  市井昌秀
出演  星野源  夏帆  平泉成  森山良子  穂のか  大杉漣  黒木瞳  古館寛治
 市役所に勤める35歳の天雫健太郎。昼休みには自宅に帰って母親の作った昼食を食べ、夕方は時間どおりに帰るという毎日。趣味はカエルの飼育とテレビゲームという、周りから見ればまったくおもしろくない男。それは自分自身でも自覚しており、結婚はせずに一人で生きていくための生活設計をしている。両親はそんな健太郎に結婚してもらいたくて、親を対象にした代理見合いに赴くがうまくいかない。今日も娘の結婚相手を探す夫婦が彼らの前に座るが、相手の父親は息子の性格をものの見事に言い当ててまったく相手にしない。そんなある日、あるきっかけで、健太郎は婚活会場で相手にもされなかった男の娘・奈穂子と見合いをすることとなるが、その席で彼女の目が見えないことを知る・・・。
 趣味はカエルの飼育とテレビゲームで、終業時間になればまっすぐ家に帰るという男では女性と交際する機会がないのはもちろん、女性からとても好意を持ってもらえそうな男ではありません。そんな男が初めて自分のことを理解してくれる女性に会い、彼女と結婚するために自らも変わろうと決意する姿にがんばれと応援したくなります。
 純な男と女の恋を話のわからぬ父親が邪魔をするという、ある意味定型的なパターンの話ですが、星野源と夏帆がとってもいい感じの二人を演じます。ただ、いくら愛し合っているかとはいえ、ラストはちょっとやり過ぎではないでしょうかねえ。
 それにしても、親同士の代理見合いがあるとはびっくりです。
エスター 
監督  ハウメ・コジェ=セラ 
出演  ヴェラ・ファーミガ  ピーター・サースガード  イザベル・ファーマン 
 三人目の子どもを死産で亡くしたケイトとピーターの夫婦は養護施設から聡明で大人びたエスターという名の女の子を養女として引き取るが、やがて彼女の周りで不審な事故が起き始めます。
 「ピエロがお前を嘲笑う」公開にあたり、ラストで観客をあっと言わせる映画特集の中で挙げられていたので、レンタルしてきました。でも、ラストであっと言わせる前に、自分の秘密を暴こうとする人を躊躇なく殺すエスターが恐いです。子どもたちを守ろうとするケイトに対し、ピーターはすっかりエスターを信じ切って、まったく役に立ちません。この辺りはお約束です。
 彼女がなぜあの服装に拘るのか、風呂に入る姿をケイトに見せようとしないのか、歯医者に行くのを嫌うのか等々観客の前に様々な謎が提示されます。彼女が持っている聖書の中に挟んであった男性たちの写真がエスターの秘密を解くキーになるのですが、それが何を意味するのか最後までわかりませんでした。
 エスターを演じたイザベル・ファーマンは、当時12歳。とても12歳とは思えない演技です。「エクソシスト」を演じたリンダ・フレアーもそうでしたが、こうした特異な役を演じた子役は大成していません。彼女はどうなんでしょうか。 
THE WITCH 魔女 
監督  パク・フンジョン 
出演  キム・ダミ  チョ・ミンス  パク・ヒスン  チェ・ウシク
 とある研究所から幼い少女が逃走。彼女は倒れているところを牧場を営む夫婦によって保護される。それから時が過ぎ、彼女はジャユンと名付けられ、夫婦の子どもとして育てられ、高校生となっていたが、母親は病気がちで牧場経営が苦しい中、家計を助けるためテレビのオーディション番組に参加し、評判となる。しかし、テレビに出たことにより、彼女の行方を追う者の目に留まり、彼らは彼女の前にやってくる。
 遺伝子操作によってその能力を極限まで伸ばされ、いわゆる超能力、サイコキネシスまで使えるようになった者たちの戦いを描きます。韓国映画らしい派手な血まみれのバイオレンスアクションシーンも凄いですが、終盤、“実は”というどんでん返しもあり、ストーリーもよく練られています。
 韓国の俳優さんたちは背も高くてカッコいいですね。ジャユンを演じたのは当時新人のキム・ダミ。私自身は観たことがないのですが、この作品で主役を演じた後、テレビドラマの「梨泰院クラス」でブレークしたそうです。 
THE WITCH 魔女 増殖 
監督  パク・フンジョン 
出演  シン・シア  パク・ウンビン  ソン・ユビン  ソ・ウンス  イ・ジョンソク  チン・グ  チョ・ミンス  キム・ダミ
 遺伝子組み換えによる超人的能力を持った人間を作ることを目的とする“魔女プロジェクト"を実施していた秘密研究所“アーク"が何者かに襲われ、一人の少女だけが生き残る。研究所を出た少女は牧場を経営する女性・ギョンヒに助けられ、彼女の牧場に匿われる。“魔女プロジェクト"の創始者であるペク総括は少女を危険視し、組織本社の工作員・チョ・ヒョンに彼女を抹殺するよう命令する。一方、“アーク"の責任者であるチャンや上海ラボの“土偶"と呼ばれる4人の超能力者たちも少女を探していた。やがて、牧場を乗っ取ろうとする地元ヤクザも加わり、少女を巡っての壮絶な戦いが始まる・・・。
 2018年制作の「THE WITCH 魔女」の続編です。 とはいっても、主役は前作のジャユンから名前がない少女に変わります。前作の主役であったジャユン役のキム・ダミが今回主役にならなかったのは、キム・ダミがその後「梨泰院クラス」で大人気になってしまったせいもあるだろうし、前作を制作したワーナー・ブラザースが韓国から撤退してしまったことも影響あるかもしれません。前作のラスト、ジャユンがペク総括と対峙したところで話は終わっていますが、ストーリーとしてはその後両者の間で争いが起こって、ジャユンはかなりの重傷を負ったということがベク総括の口から語られています。今作ではラストにジャユンもちょっと登場しますが、次作ではどうなるのでしょう。
 最初はなかなか登場人物たちの関係性が把握できず、ストーリーについていけません。冒頭の襲撃シーンがアークの襲撃なのか、だとすれば次のシーンでチョ・ヒョンが襲撃していたのはどこなのか、その辺りが頭の中で整理がつきませんでした。組織も内紛があるようで、ペク総括のユニオン派やチャンの超人間主義派に分かれており、その派間がどういう考えをもっているかも説明されないので、誰が誰を襲撃しているのか最後まで理解できません。ラストでようやく“土偶"の正体、目的だけはわかりましたが。今後のシリーズの展開が待たれます。
 少女を演じたのは、 1400人ものオーディションを勝ち抜いたシン・シアという新人女優さんです。前作のキム・ダミもオーデイションを勝ち抜いた女優さんでしたが、彼女も今後同様に活躍の場を広げていくのでしょうか。牧場主のギョンヒを演じるのはネットフリックスのドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」で自閉症の弁護士を演じ評判になったパク・ウンビンですが、今回は男勝りの牧場主ですから、そのときとは全く雰囲気が異なります。また、チョ・ヒョンを演じたソ・ウンスさんは、強烈なインパクトを残しました。次回も登場しそうなので期待したいです。