▲2023映画鑑賞の部屋

そして僕は途方に暮れる(2023.1.13) 
監督  三浦大輔 
出演  藤ヶ谷太輔  前田敦子  中尾明慶  毎熊克哉  野村周平  香里奈  原田美枝子  豊川悦司 
 監督の三浦大輔さんと主演の藤ヶ谷太輔さんが2018年に舞台で行った作品を映画化した作品だそうです。
 定職にも就かずフリーターの菅原裕一は鈴木里美と5年間同棲をしていたが、その間も別の女性との浮気を重ねていた、ある日、浮気を知った里美から問い詰められたが、裕一は彼女と話し合うこともせず部屋から逃げ出してしまう。とりあえず幼馴染の今井伸二の部屋に転がり込んだ裕一だったが、自分の部屋でもないのに何もせずに伸二に指示ばかりする裕一に腹を立てた伸二から責められて、部屋からまた逃げ出してしまう。その後、バイト仲間の先輩の部屋や姉の部屋に転がり込むが、結局相手に何か言われると逃げ出してしまい、行先のなくなった裕一は北海道の実家で一人暮らしをする母のもとに向かう。しかし、そこでも母が怪しげな団体に入っていることを知った裕一は、それをやめさせようとはせず、またも逃げ出してしまう。行先なくベンチに座っていた裕一は、母と離婚し行方不明だった父に偶然会い、彼の部屋へ行くこととなる・・・。
 はっきり言って、どうしようもないダメ男の物語です。何か問題が起こるとそれに立ち向かうことをせずに、すぐに逃げ出してしまう男です。私自身、あまり他人のことをとやかく言えませんが、それにしても、裕一はあまりにひどすぎます。こんな男とは友人になりたくないですねえ。
 しだいに人間関係が狭まり、父親のところに行く裕一ですが、この父親が裕一そっくり。というより、この父親にしてこの子ありなんでしょう。二人とも困難なことがあると逃げてしまうというキャラがそっくりです。「ぬるま湯だよ。世の中は」と言ってのける父親は、ある意味凄いですよねえ。演じた豊川悦司さんがうまいのなんのって。適役です。
 最後にはハッピーエンドかとも思いましたが、思わぬしっぺ返し。やむを得ないですよねえ。バイト先の先輩はある意味慧眼でした。
 ラストシーンは場所はTOHOシネマズ新宿に向かう歩道だと思いますが、裕一が振り返って微笑らしき表情を見せたのはどうしてでしょうか。あの状況で微笑むなんて、どういう意味なのか、理解できませんでした。 
イチケイのカラス(2023.1.21) 
監督  三浦大輔 
出演  竹野内豊  黒木華  小日向文世  斎藤工  向井理  山崎育三郎  柄本時生  尾上菊之助  宮藤官九郎  吉田羊  西野七瀬  田中みな実  桜井ユキ  水谷果穂  平山祐介  津田健次郎  八木勇征   
 2021年にフジテレビで放映していた連続ドラマの映画化です。ドラマでは東京地裁第3支部第1刑事部が舞台となりましたが(第1刑事部なので「イチケイ」ですね。)、最終回で主人公の入間みちおは熊本に異動となり、先のスペシャルドラマで更に岡山地裁秋名支部に異動になることが語られていました。
 瀬戸内海で貨物船と海上自衛隊のイージス艦との衝突事故が起こり貨物船は沈没して死者が出る。貨物船が回避行動をとらなかったことが原因だという事故調査委員会の結果が出るが、納得できない船長の妻は墓参りに来た最年少で防衛大臣となった鵜城に詰め寄り、その際、持っていたナイフで止めようとした人を傷つけてしまう。傷害事件を担当した入間は刑事訴訟法第128条に基づく職権を発動し、事件に関わりのある海難事件の調査を裁判所独自で行うこととするが、鵜城の圧力により、入間は事件の担当から外されてしまう。一方、坂間千鶴は裁判官の他職経験制度により、入間の隣町で弁護士を開業していた。ある日、人権派弁護士の月本信吾と組んで地元の大手企業・シキハマ株式会社の水質汚染の調査をするが、調査結果の発表の段階で月本に裏切られてしまう。しかし、子どもが水質汚染が原因で病気になった親の依頼で坂間はシキハマ株式会社を相手取って裁判を起こす。その裁判の裁判長として担当することとなったのは入間だったが・・・。
 地元に住む人の7割が企業の関係で働いているとなれば、それを相手取って訴訟を起こせば訴訟を起こした側が悪者にされるのはよくある話。となれば、事件の真相はだいたい見えてきます。また、悪いことを隠し通すのに自己嫌悪を感じる人が出てくるのもよくある話です。しかし、あの人物(ネタバレになるので伏せます。)までもが事件に関わっているとは思いませんでした。そして、向井理さんが演じる最年少防衛大臣がどう関わっているのか。ここは予想とはちょっと違いましたね。
 事件自体は深刻な問題をはらんでいましたが、クスっと笑う場面も随所に挿入されています。とにかく法に真っ直ぐな坂間とそれをからかう入間のコンビが愉快です。ちょっとしたエピソードで観客を笑わせてくれます。冒頭、入間のお目付け役で東京地検から異動してきた井出検事が、入間が「職権発動します」と宣言した時に「防げなかったぁ~」と天を仰いだシーンには笑ってしまいました。また、坂間は入間が職権発動をするのではないかと期待しましたが、入間から民事なので自分で調べなさいと言われてがっかり。ドラマファンは堪能したのではないでしょうか。
 居眠りをしていて坂間に怒られる裁判官がいましたが、何と庵野秀明さんでしたね。
 テレビドラマと同じく、ロケ地に地元が含まれていたせいもあるのか、珍しく田舎の映画館が7,8割の入りで混んでいました。 
イニシェリン島の精霊(2023.1.28) 
監督  マーティン・マクドナー 
出演  コリン・ファレル  ブレンダン・グリーソン  ケリー・コンドン  バリー・コーガン  ゲイリー・ライドン  パット・ショート  ジョン・ケニー  シーラ・フリットン 
 先日発表になったアカデミー賞ノミネートでは作品賞をはじめ、マーティン・マクドナーが監督賞、コリン・ファレルが主演男優賞、ブレンダン・グリーソンが助演男優賞、ケリー・コンドンが助演女優賞など主要部門にノミネートされたほか、全9部門にノミネートされました。
 アイルランドのどんよりとした空模様の中、映画の内容自体も暗く、後味も悪くて、その後どうなるのだろうということを観客に考えさせる映画でしたね。アカデミー賞といえば、こうした文学的な作品が気に入られていましたが、今回は「トップガン マーヴェリック」というエンターテイメント満載の作品も選ばれていますから、どうなりますか。でも、男優賞部門で選ばれているコリン・ファレル、ブレンダン・グリーソンは有力ではないでしょうか。
 物語は、1923年、アイルランド本土で内戦が勃発しているときのアイルランドの沖合の島インシェリンを舞台としています。その島には仲の良いパードリックとコルムという二人の男がいたが、ある日、いつものようにパブに行こうと誘いに来たパードリックにコルムが突然絶交を告げるところから始まります。理由はコルムがパードリックに何をやったというわけではなく、「お前のつまらない話に時間を取られたくないから」というもの。年配のコルムは残された人生を有意義に好きな音楽と思索に費やしたいと思ったからですが、確かに馬の糞の話を2時間も聞かされるのはかないませんが、それまで楽しくそういう話で時間を費やしていたのですから、パードリックに言うにしても、もう少し、言いようがあるでしょうと個人的には思ってしまいます。その上、これ以上自分を煩わせれば自分自身の指を1本ずつ切るというのですから(実際切るのですから)、パードリックがコルムは鬱ではないかと思うのももっともです。自分を煩わせればお前の指を切るぞというならわかりますが、好きな楽器を弾くのに必要な自分の指を切るというのですから、誰もがコルムは異常だと思うでしょう。一方、パードリックも小学生ではないのですから、つきまとうなと言われたらいつまでも追いかけずに、自分の方から交際を断ち切ればいいのにねえ。パードリックの音楽の友人を嘘をついて追いやったり、まったく子どもとしか言いようがありません。
 とにかく、理解できない二人の男の話で、理解できないまま終わってしまいました。  
仕掛人・藤枝梅安(2023.2.3) 
監督  河毛俊作 
出演  豊川悦司  片岡愛之助  菅野美穂  天海祐希  柳葉敏郎  早乙女太一  高畑淳子  小林薫  小野了  中村ゆり  石丸謙二郎  板尾創路  でんでん  鷲尾真知子  田中涼成  大鷹明良  田中奏生  六角精児  若林豪 
(ネタバレあり)
 池波正太郎生誕100年を記念して企画された池波正太郎さん原作小説の映画化です。
 個人的には、藤枝梅安といえば、テレビの必殺シリーズの第1作である「必殺仕掛人」の緒形拳さんの演じた藤枝梅安が一番です。テレビ放映当時、鍼治療の長い針を梵の窪に刺して殺害する梅安の技は、強い印象を与えました。テレビドラマは私の住む地方では夜ではなく、土曜日の昼の1時から放映されていました。その当時、土曜日は半日授業が12時半ころまであったのですが、急いで自転車をこいで帰ってきてテレビの前に座ったものです。
 池波さん原作の梅安のキャラとしては今回豊川悦司さんの演じた梅安の方が合っているそうですが、やっぱり、緒形拳さんの演じた、普通は女好きの砕けたキャラだけど、仕掛けるときは表情が180度変わり、眼光が鋭くなる緒形さんの梅安の方が好きでしたねえ。
 映画はこの作品と4月に公開される作品との二部作となっています。この第一作で梅安が殺しの標的として依頼されるのは料理屋・万七の後妻、おみの。実はこのおみのという女は幼い頃に生き別れた妹という設定なのですが、さて梅安は妹を殺すことができるのか。この妹が仕掛の標的という設定はドラマの「必殺仕掛人」の中でもあり、当時中学生だった私にとって「必殺仕掛人」の中でも今でも記憶に残る強い印象を残した回でした。ドラマで妹役を演じたのは加賀まりこさん。色気ということでは今回、おみのを演じた天海祐希さんを遥かに凌いでいましたね(天海さん、ごめんなさい。)。
 第二作は、梅安の相棒というべき仕掛人の楊枝職人彦次郎が主体となる話のようです。 
シャイロックの子供たち(2023.2.17) 
監督  本木克英 
出演  阿部サダヲ  上戸彩  玉森裕太  柳葉敏郎  杉本哲太  佐藤隆太  佐々木蔵之介  柄本明  橋爪功  渡辺いっけい  忍成修吾  近藤公園  木南晴夏  酒井若菜  森口瑤子  前川泰之  徳井優  松岡健造  安井順平  吉見一豊  吉田久美   
 池井戸潤さん原作の同名小説の映画化です。ただし、映画は原作とは異なるストーリーになっており、独自のキャラクターも登場する完全オリジナルストーリーだそうです。なので、原作を読んでいる人も楽しむことができます。まあ、私自身もそもそも原作自体を読んだのはかなり前になるので、まったくストーリーは覚えていなかったので、心配はいらなかったのですが。
 舞台となるのは池井戸作品ではお馴染みの東京第一銀行。その長原支店で、ある日100万円の帯封をしたままの現金が紛失する。帯が営業課相談グループの北川愛理のロッカーから見つかったことから、彼女に疑いがかかる。彼女の上司である課長代理の西木は、日頃の彼女の仕事ぶりから彼女が犯人ではないとかばう。事件を調べる西木は、ひょんなことから、支店が行ったある大口融資が現金紛失事件に関わっていることに気づく・・・。
 阿部サダヲさんが演じる西木という男は、兄の借金の連帯保証人となって闇金のヤクザたちから脅かされる人物。池井戸作品に登場する堺雅人さんが演じる半沢直樹のような銀行員といったらこんな男というような硬派な男ではありません。闇金からの借金があるなんて、銀行としては一番嫌がる行員ですよね。というわけで、西木の事件解決は正面突破ではなく搦め手からのものとなります。いやぁ~こんなことしていいんですかね。というよりダメでしょう。とはいえ、悪は滅びるわけですから結果としては爽快ですけどねえ。やっぱり、阿部さんが演じる役らしいですね。
 そうそう、この映画の中でも、半沢直樹ではないですが、西木が「倍返しだ!」というセリフを吐きます。もちろん、これは映画独自のオリジナル。池井戸作品では「倍返しだ!」は半沢直樹だけですよね。 
アントマン&ワスプ クアントマニア(2023.2.17) 
監督  ペイトン・リード 
出演  ポール・ラッド  エバンジェリン・リリー  ジョナサン・メジャーズ  ミシェル・ファイファー  マイケル・ダグラス  キャスリン・ニュートン  ビル・マーレイ  デビッド・ダストマルチャ  ウィリアム・ジャクソン・ハーパー  ケイティ・オブライエン 
 アントマンシリーズ第3弾になります。私自身はアントマンは「アベンジャーズ」シリーズで見たことはありましたが、アントマン単独シリーズとしては初めてです。
 アントマンであるスコットの娘・キャシーは量子世界に興味を持ち、ワスプであるホープの父・ハンクの家で研究を行っていた。ハンクの家に皆が集まったとき、キャシーは自分が開発している量子世界を観察する衛星を披露し、起動させるが、突然光が広がり、スコット、ホープ、キャシー、ハンク、そしてホープの母であるジャネットの5人は量子世界に引き込まれてしまう。量子世界ではどこからかやってきたカーンという男が君臨し、元の住人たちを席巻していた・・・。
 この作品、マーベル・シネマティック・ユニバースとしてはフェーズ5に突入する作品だそうです。このところ、マーベル・シネマティック・ユニバースも映画だけでなく、ディズニープラス配信のドラマがラインナップに加わったため、ディズニープラスを観ることができない人にとってはフェーズ〇というのがよく理解できなくなりました。とはいえ、今回登場した征服者カーンはマーベル・シネマティック・ユニバースの中でも最強の大物ヴィランだそうですから、ここから新しい展開が始まっていくのですね。もちろん、カーンは死んではいず、再登場するのでしょう。エンドロールのときのカーンの顔をした男たちとの関係がどうなるのか気になるところです。
 スコットの恋人のホープ・ヴァン・ダインの母・ジャネットを演じていた女優さん、どこかで見たことあるなあと思ったらミシェル・ファイファーでした。久しぶりに見ましたねえ。私が見たのは「バットマンリターンズ」のキャットウーマン以来かなあ。そのほか、ホープの父のハンクを演じるのはマイケル・ダグラスですし、ジャネットが助けを求めたクライスラーはビル・マーレイと、懐かしい顔が登場しています。
 スコットたちが引き込まれた量子世界の映像美は素晴らしかったです。世界観は完全にスターウォーズです。クローン兵のような兵士も登場するし、量子世界の住人、量子世界人ともいうべき存在は、スターウォーズの世界の宇宙人の造型に似ています。
 初めて観たアントマンシリーズでしたが、なかなか面白いです。前2作も観たいし、次作にも期待です。 
別れる決心(2023.2.18)
監督  パク・チャヌク
出演  パク・ヘイル  タン・ウェイ  イ・ジョンヒョン  コ・ギョンピョ  パク・ヨンウ  キム・シニョン    
 山登りに行った男性が山頂から転落死する事件が起きる。捜査に当たった刑事のヘジュンは事故ではなく殺人の可能性が高いと考え、夫が死んだにも拘らず驚く様子もない被害者の妻である中国出身のソレを疑うが、介護士をしていた彼女には夫の転落死した時間帯に介護士の仕事をしていたというアリバイがあった。取り調べを進めるうちに、ヘジュンはしだいにソレに惹かれるようになっていく。事件は出入国・外国人庁で働いていた夫が、わいろをもらっていたと告発する文書に抗議して自殺するという遺書も発見され、事件は自殺で解決したが・・・
 韓国の人気グループBTSのメンバーが何回も観たというほど、前評判が良かったので、観に行ってきました。というよりなにより、監督があのカンヌでグランプリを獲得した「オールド・ボーイ」のパク・チャヌク監督だったというのが一番の理由でしょうか。しかし、正直のところ「オールド・ボーイ」のようなミステリとしての衝撃度には遥かに及びません。この作品、ミステリとしてより刑事と容疑者という立場にある者の禁断の愛を描いた恋愛映画と言った方が適切かもしれません。それにしても、ヘジュンはソレのどこに惹かれたのでしょうか。
 ラスト、バケツであんな穴は掘ることはできないでしょうし、あれで自殺は苦しそうでできそうもないと思うのですが。
バビロン(2023.2.22) 
監督  デイミアン・チャゼル 
出演  ブラッド・ピッド  マーゴット・ロビー  ディエゴ・カルバ  ジーン・スマート  ジョバン・アデボ  リー・ジュン・リー  トビーマグワイア  オリビア・ハミルトン  ルーカス・ハース  P・J・バーン  マックス・ミンゲラ  ローリー・スコーベル  キャサリン・ウォーターストーン  ジェフ・ガーリン  エリック・ロバーツ  イーサン・サプリー  サマラ・ウィービング  オリビア・ワイルド 
 1920年代のハリウッド黄金時代から、やがて映画がサイレントからトーキーへと変わっていく時代を舞台に、サイレント時代の映画界を牽引してきたスター俳優のジャック、映画界で生きようとメキシコから夢を抱いてやってきた青年マニー、そしてバカ騒ぎのパーティー会場でマニーと出会ったスターを夢見る新人女優のネリーの三人の生き様が描かれていきます。
 ラストでマニーが夢を捨てハリウッドを去って30年近くが過ぎ、家族とハリウッドにやってきて、妻子をホテルに帰した後で一人で入った映画館でスクリーンに映った昔の映画のシーンを見て涙する場面があります。その際、観客には様々な映画のワンシーン(「マトリックス」や「アバター」までありましたね。)が次々と見せられていたのですが、ここは「ニュー・シネマ・パラダイス」のラストシーンを思い出しました。
 ジャックを演じるのはブラッド・ピッドです。サイレントでは人気俳優だった彼が声が甲高いということでトーキーの映画界で生き残れなかったという役どころを演じますが、割と低音のブラビが演じているのが何とも皮肉です。
 ブラビ以上に輝いていたのはネリー役のマーゴット・ロビーです。「スーサイド・スクワット」のハーレイ・クインなどもそうですが、派手な役どころは彼女にお似合いです。人気女優に上り詰めていくためのスタイルの良さは相変わらずです。
 彼ら以外ではカジノ・オーナーでギャングのボスを演じていたトビー・マグワイアの怪演が見ものです。トビー・マグワイアといえば「スパイダーマン」役など、いつも好人物を演じるという印象が強いのですが、今回はベビーフェイスがかえって不気味です。
 題名の「バビロン」はハリウッドのことを指しているそうです。 
エンパイア・オブ・ライト(2023.2.24) 
監督  サム・メンデス 
出演  オリビア・コールマン  マイケル・ウォード  トヒー・ジョーンズ  コリン・ファース  トム・ブルック  ターニャ・ムーディ  ハンナ・オンスロー  クリスタル・クラーク 
 イギリスの静かな海辺の街マーゲイトにある映画館・エンパイア劇場。過去の辛い経験からメンタルに不安を抱えるヒラリーは、そこでマネージャーとして働いていたが、支配人のエリスと不倫関係にあった。ある日、大学で建築を学ぶ夢に破れた黒人青年のスティーヴンがスタッフとして働くようになる。二人はやがて母子ほどの年齢差や人種の違いを超えて愛し合うようになる。しかし、サッチャー政権下の不況の中、排他主義がまん延し、各地で暴動が起き、その波はやがてマーゲイトにもやってくる・・・。
 ヒラリーが支配人のエリスと不倫関係にある理由がわからないし、母子ほどの年齢差がある二人が、心を通わせるにしても、恋愛関係に陥るのも説明不足のような気がします。それではあまりに短絡的な感じです。
 映画館が舞台になっているため、作品中に多くの映画が登場します。エンパイア劇場でプレミア上映されたのが「炎のランナー」。アカデミー賞を受賞しますが、ヴァンゲリスの音楽が印象的でした。そのほかポスターの中に「9時から5時まで」や劇場前の看板にはロバート・デ・ニーロの「レイジング・ブル」もありましたねえ。映画館で働きながら上映中の映画を決して観ようとしなかったヒラリーが映写技師に映画を見せてと頼み、映写技師が上映した映画が「チャンス」。ピーター・セラーズが演じる庭師が大統領候補にまでなるストーリーですが、スクリーンに映ったのはチャンスが池の上を歩くラストシーンでした。素晴らしいシーンでしたねえ。 
#マンホール(2023.2.26) 
監督  熊切和嘉   
出演  中島裕翔  奈緒  永山絢斗     
(ちょっとネタバレ)
 社長の娘との結婚式を翌日に控えた川村は、同僚が開いてくれたお祝いの飲み会で酒を飲み、帰る途中で意識を失う。気がつくと、マンホールの底に横たわっていた。右足はひどいケガをし、地上に続く梯子も壊れていて、登ることができず、独力で抜け出せないとわかった川村は、友人たちに助けを求めて電話をするが誰も出ない。雨も降り出し寒さに震える中、やっとつながったのは、かつての恋人の舞。GPSの位置情報で渋谷にいると話し、舞に渋谷に来てくれるよう頼む。しかし、渋谷に来た舞の口からは渋谷には工事中のマンホールらしき穴は見当たらないし、そもそも渋谷に雨は降っていないと言う。川村は女性を騙って“マンホール女”の名でSNSのアカウントを立ち上げ、この場所はどこなのかの情報を求め、助けを請うが・・・。
 突っ込みどころ満載の映画です。飲み会の場所に同僚たちに混ざって川村をこんな状況に落とした犯人がいたのですが、フードを目深にかぶった人物がいたら、誰かがおかしいと気付くでしょう。また、一次会が終わるような時間の渋谷なら周囲に大勢の通行人がいるでしょうに、大人の男を犯人一人で拉致し、マンホールのある場所まで運ぶことができるでしょうか。更に、いくら場所を知りたいからといって、外部との唯一の通信手段であるスマホを宙に投げ上げるなんて馬鹿なことを考えるでしょうか。落ちて壊れたり、穴の外に落ちてしまうということを考えることができなかったのでしょうか。それに、ラストで現れる小学生のような男の子は何者?あの時間にあの場所まであの年齢の彼はどうやって来たのでしょうか等々。ほとんどの舞台がマンホールの中というワンシチュエーション映画に期待していたのですが、ちょっと残念な結果となりました。
 最初、どうして早く警察に電話しないのかと疑問に思っていたのですが、このことがこの映画のビックリに繋がっていたんですね。これだけは納得です。
 チラシとかには掲載されていないある俳優さんが大きな役割を担っています。よくあの俳優さんがこの役を引き受けましたねえ(上の出演欄にも掲載していません。)。 
フェイブルマンズ(2023.3.3) 
監督  スティーブン・スピルバーグ 
出演  ミシェル・ウィリアムズ  ポール・ダノ  セス・ローゲン  ガブリエル・ラベル  ジャド・ハーシュ  ジュリア・バターズ  キーリー・カルステン  ジーニー・バーリン  ロビン・バートレット  クロエ・イースト  サム・レヒナー  オークス・フェグリー  イザベル・クスマン  デビッド・リンチ    
 サミー・フェイブルマンは両親と妹2人で暮らすユダヤ系アメリカ人。両親と初めて映画館で観た「地上最大のショウ」の列車と自動車の衝突シーンに魅せられ、おもちゃの列車と車の衝突シーンを父の8ミリカメラで撮ってから、妹たちを被写体に映像を撮ることに夢中になる。やがて、一家は父の転職で父の親友のベニーとともにニュージャージーからアリゾナに引っ越すが、その地で家族と父の友人であるベニーと楽しんだキャンプの映像を編集している際、サミーは映像から母とベニーが愛し合っていることを知る。その後、IBMにヘッドハンティングされた父と家族はカリフォルニアに引っ越すが、そこでサニーはユダヤ系ということから同級生たちからいじめの対象とされる・・・。
 監督のスティーブン・スピルバーグの自伝的作品です。スピルバーグは1946年生まれですから、今は76歳。そろそろ自分の人生を振り返りたくなったのでしょうか。
 作品ではスピルバーグがカメラを通した映像についてどう考えているかがうかがわれます。例えば、家族とベニーで行ったキャンプの映像では、二人の映像から母とベニーが愛し合っているという真実が明らかになりますし、大学卒業前の同級生たちが浜辺で遊ぶひとときを撮った映像には彼をいじめていた首謀者の学生をヒーローのように描き、人々に虚構を事実として信じさせます。果たして、本当にこういう事実があったのかはわかりませんが、スピルバーグは映像は時として真実を浮かび上がらせることもできるし、虚構を事実にしてしまうこともできることを知ったのではないでしょうか。
 ラスト、ある大監督(演じるのがデビッド・リンチです。)に会ったサミーがスタジオが並ぶ道を歩いていくシーンが、のちにスピルバーグが映画界で監督として成功することを暗示しているようでいいですねえ。 
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2023.3.4) 
監督  ダニエル・クワン 
出演  ミシェル・ヨー  ステファニー・スー  キー・ホイ・クァン  ジェイミー・リー・カーチス  ジェニー・スレイト  ハリー・シャム・Jr.  ジェームズ・ホン  タリー・メデル  アンディ・リー  ブライアン・リー 
 コインランドリーを経営するエブリン。父親のゴンゴンの誕生日と春節のお祝いを兼ねたパーティーの準備と税金の申告で国税庁に行かなければならないのに、夫のウェイモンドは優しいだけで何の役にも立ってくれないし、娘のジョイはカミングアウトしガールフレンドを連れてやってくるという状況の中イライラが募っていた。夫のウェイモンドと父親のゴンゴンを連れ、国税庁に行くが、監査官のディアドラからはカラオケの購入代金を経費に入れていることを追及される。ところが、突然用具室にワープし、ウェイモンドから自分は別の宇宙に生きるウェイモンドで、全宇宙にカオスをもたらそうとしている強大な悪ジョブ・トゥバキを倒さないと宇宙は破滅する、そのジョブ・トゥバキはエヴリンでなければ倒せないと言われる。そのジョブ・トゥバキは何と娘のジョイ。果たしてエブリンはマルチバースの世界を救うことができるのか・・・。
 この作品“マルチバース”の世界を描きますが、“マルチバース”といえば、マーベル・シネマティック・ユニバースの映画ですっかり有名になってしまいました。でも、今回はよくわからなかったですねえ。エブリンがウェイモンドと駆け落ちしない世界ではカンフーを体得してアクションスターとなったり、歌手になったり、鉄板焼きのシェフになったり、ピザ屋になったりしています。人間であるならまだしも、指がソーセージの世界やエブリンとジョイが人形の世界やあげくには岩(それも目がついている)になっている世界もあります。う~ん・・・
 エヴリンは別の世界へ“バース・ジャンプ”して異次元の自分とリンクすることでその次元の自分が持つ技能にアクセスできるというもの。バースジャンプするには紙で手をきるとか、お漏らしをするとか、とにかく変な行動をすることが必要という、まったくもってバカバカしい。
 明日発表になるアカデミー賞で10部門11ノミネートという、一番受賞に近い作品という評判を聞いて観に行ってきました。でも、別にアカデミー賞が重厚な人間を考えさせるものであるべきだとはいいませんが、正直のところ「これが、アカデミー賞最有力?」と思ってしまいました。今回の「マーヴェリック トップガン」のようなエンタテイメント性の高い作品がアカデミー賞作品賞にノミネートされるのは嬉しいことですが、それにしてもこの作品はなあと個人的には思います。そう思うのは私の感性が一般の人とズレているためかと思ったのですが、皆さんのレヴューを読むと同じような感想を持つ人が多くひと安心です。
 それにしても、気がついたら号泣という感動作だとテレビの映画紹介コーナーで言っていましたが、いったいどこが号泣シーンなのでしょう。 
オットーという男(2023.3.10) 
監督  マーク・フォスター 
出演  トム・ハンクス  マリアナ・トレビーニョ  マヌエル・ガルシア=ルルフォ  レイチェル・ケラー  トルーマン・ハンクス 
 妻を亡くして一人で暮らすオットー。曲がったことが大嫌いで、毎日近所を歩いてゴミの出し方や駐車の仕方など、ルールを守らない人に口うるさく注意をしている。そんなオットーを職場の皆も毛嫌いし、オットーは退職を余儀なくされる。愛する妻を失い、職を失ったオットーは、自らの人生を終わらせようと首を吊ろうとしたが、向かいの家に引っ越してきたメキシコ人家族によってタイミング悪く邪魔され、再度試みようとするとロープをかけた金具が天井から外れて失敗してしまう。その後も、車内でのガス自殺や駅のホームからの飛び込み自殺を試みるが、ことごとく失敗する。そんな中で、引っ越してきた家族との交流が始まっていくが、奥さんのマルソルは、手料理を押し付けてきたり、子どもたちの世話を頼んだり、平気でオットーの生活の中に踏み込んでくる・・・。
 いつもは善人役ばかりするトム・ハンクスが、この映画では町内一の嫌われ者を演ずるというのが宣伝文句ですが、とはいえ、トム・ハンクスが悪人を演じるというわけではありません。実際にもこういう口うるさいおじいさんは近所にいそうですが、その言うことが決して間違っているわけではありません。ただ、少しでも間違っていることは許せないんですね。融通が利かないし、確かに付き合うには面倒くさいです。でも、その裏には愛していた妻を亡くしたという事情があったのでしょう。きっと、彼女が生きている時には、こうまでうるさくなかったのではと想像してしまいます。だから、マルソルらとの関りが生まれることによって、彼の心も穏やかになっていったのでしょう。やっぱり、今回の役もトム・ハンクスです。 
シャザム! 神々の怒り(2023.3.20) 
監督  デビッド・F・サンドバーグ 
出演  ザッカリー・リーヴァイ  アッシャー・エンジェル  ジャック・ディラン・グレイザー  レイチェル・ゼグラー  アダム・ブロディ  ロス・バトラー  ミーガン・グッド  D・J・コトローナ  グレイス・キャロライン・カリー  フェイス・ハーマン  イアン・チェン  ジョバン・アルマドロ  ルーリー・リュー  ジャイモン・フンスー  ヘレン・ミレン 
 魔術師から神の力を与えられ、「シャザム!」と唱えると、マッチョなヒーローに変身することになった少年ビリー。今日もビリーから力を分け与えられた里子仲間の5人の少年少女とともに、崩壊する橋から人々を助け出す。そんな彼らの前に神の3人の娘たち、ヘスペラ、カリプソ、アンテアが現れ、神々の世界を復興するため、ビリーたちから神の力を奪おうと迫る・・・。
 シリーズ第2弾です。もちろん、前作を観ていればより楽しむことができるでしょうけど、観ていない私でも十分楽しむことができました。
 マーベル・コミックに対抗するDCコミックスの映画化です。神々の一番上の娘ヘスペラがヘレン・ミレン、3番目が昨年公開されたリメイク版「ウエスト・サイド・ストーリー」で評判のレイチェル・ゼグラーと、ちょっと見た目は姉妹とは思えないのですが、神だからあまり年齢の観念はないのでしょう。神といっても善人とは限らず、ルーシー・リューが演じる次女のカリプソは破壊の限りを尽くします。
 ラストには思わぬ人物が現れて、その力でハッピーエンドに。昨年公開の「ブラックアダム」にはヘンリー・カビル演じるスーパーマンが登場したので、てっきり、今後の作品でヘンリー・カビル演じるスーパーマンが登場するかと思ったら、彼はスーパーマンからは降りるようです。そうなると、今回登場した人物はどうなるのか、気になります。
 エンドクレジットには二つのおまけ映像がありましたが、あとの方は前作を観ていないと出てきた人物が誰なのか、何のことかが理解できないようです。 
シン・仮面ライダー(2023.3.20) 
監督  庵野秀明 
出演  池松壮亮  浜辺美波  柄本佑  塚本晋也  松尾スズキ  手塚とおる  西野七瀬  本郷奏多  上杉柊平  長澤まさみ  仲村トオル  安田顕  市川実日子  松坂桃李  大森南朋  竹野内豊  斎藤工  森山未來 
 「シン・エヴァンゲリオン」、「シン・ゴジラ」、「シン・ウルトラマン」に続く“シン”シリーズ第4弾です。
 世界征服を企むショッカーによってバッタの能力を持つ改造人間に改造されてしまった本郷猛は、恩師・緑川博士に助けられてショッカーのアジトから脱出し、以後ショッカーと戦うことになるという石森章太郎原作のテレビドラマが放映されたのは、私がたぶん小学生だった頃。毎週上映が始まると、テレビ画面の前で夢中で見ていました。ウルトラマンのようにビームは出さないし、パンチとキックだけだったのに、なぜあんなに夢中になれたでしょう。振り返ってみれば不思議です。
 ただ、今度の「シン・仮面ライダー」のパンチとキックはえげつないです。パンチ一発で血しぶきが飛び、顔がつぶれてしまうという強烈さです。さすがにこの年齢になると、それほど夢中にはなれませんでした。
 画面が暗くて何が起こっているのかわからないシーンもありましたが、これもテレビ放映時のテレビの画面が暗くてよくわからなかったことに対する監督のこだわりのようです。NHKのドキュメンタリーで公開の2年前から追ってきた製作現場の様子が放映されましたが、庵野監督のこだわりが強く、見ている私たちにとっては「庵野監督は何を言おうとしているんだ?」と思うようなことも多くて、これは撮影現場、特にアクションを担当した人は大変だっただろうなあと思わざるを得ませんでした。
 主要登場人物が仮面ライダーを演じる池松壮亮さん、仮面ライダー2号を演じる柄本佑さん、仮面ライダー0号を演じる森山未來さんという、癖のある役者だったがゆえに、庵野監督の要望に応えられた気がします。
 ヒロイン役の浜辺美波さん。やはり、彼女の持っている雰囲気には緑川ルリ子のキャラは似合いません。長澤まさみさんは、「シン・ウルトラマン」では巨大化していましたが、今回はサソリ女。スタイルの良さは見せてくれましたが、あっけない退場でした。でも、長澤さん、ノリノリの感じですね。
 ハチ・オーグを演じる西野七瀬さん。個人的には「あの棒演技は何?」と思ってしまうのですが、これだけ色々な作品に起用されるのは監督たちが彼女を起用する何かを持っているのですね。
 懐かしいなあという感想は持ちますが、やはり大人になった目からは、決して面白いとは感じませんでした。 
ロストケア(2023.3.24) 
監督  前田哲 
出演  長澤まさみ  松山ケンイチ  鈴鹿央士  坂井真紀  戸田菜穂  峯村リエ  加藤菜津  やす  岩谷健司  井上肇  綾戸智恵  梶原善  藤田弓子  柄本明 
 2012年に第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕さん原作の同名小説の映画化です。
 ある朝、一人暮らしをする認知症を患う老人の家で、老人と老人に介護士を派遣していた訪問介護事業所の所長の死体が発見される。所長の家から介護に入っている老人たちの預金通帳等が発見されたため、所長が老人を殺害し、誤って階段から転落死したと思われた。しかし、検事の大友は、所長の介護事業所が他の事業所と比較して介護をしている老人の死亡率が高く、また、ある介護士の休日に死が集中していることに気づく。その介護士、斯波宗典を取り調べると、彼は、自分は老人やその家族を「救った」と殺人を認める・・・。
 介護をするにもお金は必要であり、いくら介護認定を受け、その介護度ならこれだけのサービスを受けることができるとなっても、一部負担があるのですから、生活の余裕がなければ目いっぱいのサービスを受けることができません。どうしても家族に介護の負担がかかることになります。
 また、斯波が父親の介護のために思うように働くことができず、生活保護を受けようとしても「あなたが働くことができるでしょう」と行政から冷たく言われてしまうことは、現実でしょう。
 とはいえ、斯波が介護老人やその家族を“救った”ということは、ある意味、自己満足であるような気がします。もちろん、坂井真紀さん演じるシングルマザーの洋子のように、母が亡くなったことでホッとする人もいるでしょうけど、戸田菜穂さん演じる美絵のように外部からは介護で大変だと思われていても、家族としては生きていてほしいと思う人もいるのですから。
 本人だけでなく介護に苦しむ家族も助けたんだと主張する斯波に対し、認知症が進む母親を十分な介護ができる老人ホームに入居させている大友が論破することができない難しさがあります。 
エスター ファースト・キル(2023.3.31) 
監督  ウィリアム・ブレント・ベル 
出演  イザベル・ファーマン  ジュリア・スタイルズ  ロッシフ・サザーランド  マシュー・アーロン・フィンラン 
 2007年、エストニアの精神科療養所にリーナという、低身長症のため見た目は少女だが、31歳の残酷でずる賢いサイコパスの女性が収容されていた。ある日、リーナは職員の男性を殺害して療養所を脱走し、更に帰宅する療養所の職員の女性の車に潜み、殺害して彼女の家に身を隠す。そこでパソコンで調べたアメリカで行方不明になっている自分と似た少女を装い、保護を求める。その少女、エスターの母はモスクワのアメリカ大使館に向かい、そこで行方不明になっていた娘のエスター(実はリーナ)に会い、彼女をアメリカに連れ帰るが・・・。
 孤児院からある一家に養女として迎えられたエスターという少女が引き起こす事件を描いた2009年公開の「エスター」の続編です。とはいえ、今回描かれるのはエスターが孤児院に入る前日譚です。
 前作のエスターより年齢が下のエスターが描かれるのに、演じているのは前作でエスターを演じたイザベル・ファーマン。前作が公開された2009年から13年が過ぎているのですから、前作の公開時に実年齢が12歳だったイザベル・ファーマンも撮影時には25歳の女性。いくらメーキャップでごまかそうが、やはり成長しているのは否定しようがありません。それにウィキペディアによるとイザベル・ファーマンの身長は160センチとアメリカ人にしては小柄ですが、そうはいっても少女というわけにはいきません。もちろん、幼い子どもに見せるために、子どもの体に彼女の顔をつけたりというようなCGを利用したでしょうけど、そのほか、彼女以外の人物が厚底の靴を履いたり、台に乗ったりと、色々なトリックが駆使されたようです。そうまでして、エスターをイザベル・ファーマンが演じたのは、やはり、前作でエスターを演じた彼女の印象があまりに強烈だったからなのでしょう。
 今回の作品、前作同様にサイコパスなキャラのエスターが、彼女の正体を明らかにしようとする人を殺害していく怖ろしさを描いていきますが、今作ではそれに加えてもうひと捻り、エスターも簡単には思いどおりにはなりません。  
生きる LIVING(2023.3.31) 
監督  オリバー・ハーマナス 
出演  ビル・ナイ  エイミー・ルー・ウッド  アレックス・シャープ  トム・バーク  バーニー・フィッシュウィック  パッツィ・フェラン  エイドリアン・ローリンズ  ハーバート・バートン  オリヴァー・クリス  マイケル・コクラン  ゾーイ・ボイル  リア・ウィリアムズ  ジェシカ・フラード 
 日本が世界に誇る黒澤明監督が志村喬さん主演で1952年に公開した「生きる」のリメイクになります。ノーベル賞作家のカズオ・イシグロさんが脚本を書いています。オリジナルは名作と言われていますが、私自身は観たことがなく、知っているのは志村喬さんが雪降る中、ブランコに乗って「命短し恋せよ乙女」と、ゴンドラの唄を歌うシーンだけ。
 ピン・ストライプの背広に山高帽のいかにも英国紳士然としたウィリアムズは市役所の市民課長。今日も市役所内をたらい回しにされて市民課にやってきた女性たちの公園づくりの陳情書を「支障ない」と書類箱に置くだけのいかにもな公務員。そんなウィリアムズが癌で余命半年という宣告を受ける。息子にそのことを話そうとするが、息子夫婦はウィリアムズの財産を自分たちの家の新築費用にあてにするばかりで、父の話を聞こうともしない。ウィリアムズは今までの自分の人生は何だったのかと悩む。遊び歩いても心が晴れないウィリアムズだったが、目標をもって市役所から転職した若いマーガレットと会って話をするうちに自分も生きているうちに何かを成し遂げたいと思うようになる・・・。
 ウィリアムズは女性たちが陳情した公園建設に余生をかけようとしますが、映画では大雨の中現場を観に行こうとした次のシーンが、なんとウィリアムズの葬儀場。この転換にはびっくりです。普通はウィリアムズが頑張って公園が完成した後で皆に惜しまれながら死んでいくという流れかと思うのですが、葬儀から回想する形とは、やられましたねえ。これは黒澤作品と同じ構成のようですね。
 この作品にも、もちろん雪の中でのブランコのシーンがあります。歌はさすがにゴンドラの歌ではなく、スコットランド民謡でしたが。
 ウィリアムズを演じたのはビル・ナイです。英国紳士然とした姿が様になっていますが、ちょっと年齢が行き過ぎという気がしないでもありません。
 ウィリアムズの死の直前の頑張りに感激し、今後自分たちも見習わなくてはと言っていた部下たちが、時が過ぎれば結局従前のような事なかれ主義になっているところが何とも皮肉です。 
ノック 終末の訪問者(2023.4.7) 
監督  M・ナイト・シャマラン 
出演  デイヴ・バウティスタ  ジョナサン・グロフ  ベン・オルドリッジ  ニキ・アムカ=バード  クリステン・キュイ  アビー・クイン  ルパート・グリント 
 ゲイのカップル、アンドリューとエリック、そして養女のウェンは閑静な森の中にある山荘で休暇を過ごしていた。そこに4人の男女がやってくる。彼らは地球滅亡のビジョンを見たと言い、地球滅亡を救うためにはアンドリューら3人のうち犠牲になる者を1人選び、その者を残りの2人が殺害しなければならないと、3人に決断を迫る。理不尽な彼らの要求に反発するアンドリューらだったが、4人は一人ずつ仲間を殺し、それに伴い、地球上で災害が起こっていく。果たして彼らの言うことは真実なのか、アンドリューらは誰か1人を犠牲にするのか・・・
 相変わらず、シャマラン監督の作品はよくわかりません。なぜアンドリューらの家族が選ばれ、決断しなければならないのか。その説明は最後までありません。彼ら家族が幸せうんぬんという話がありましたが、そんな家族はどこにでもいるでしょう。彼ら当事者にとっては、なぜ自分たちがという思いが強いのは当たり前です。その説明もなく、誰か一人を殺せですからねえ。
 訪れた4人はヨハネの黙示録の“四騎士”だそうですが、キリスト教徒ではないので、何のことやらで理解もできません。また、最初に4人が山荘を訪れたときのノックですが、普通は2回か3回だと思いますが、これが7回。この“7”という数字もヨハネの黙示録からのようです。そもそも4人はなぜ仲間を殺さなければならないのか、その点も全く理解できません。
 結局、最初から最後までよく理解できないまま映画は終わってしまいました。今回もM・ナイト・シャマラン監督には期待を裏切られました。
 養女・ウェン役を演じた子役のクリスティン・キュイの演技力は印象に残ります。ゲイのカップル、アンドリューとエリックはそれぞれ実生活でもゲイであることをオープンにしている役者さんだそうです。わざわざ、そういう役者さんにこだわる必要があったのかという気はします。
 今回もシャマラン監督はカメオ出演。テレビ番組の中の出演者でしたね。 
サイド・バイ・サイド(2023.4.14) 
監督  伊藤ちひろ 
出演  坂口健太郎  市川実日子  齋藤飛鳥  浅香航大  磯村アメリ  茅島成美  不破万作  津田寛治  井口理   
 はっきり言って、よくわからない映画でした。いったい何を描きたかったのでしょう?
 そこに存在しない“誰かの想い”が見えるという特殊な能力を持つ主人公の青年・未山ですが、彼がいったいどういう人物で、なぜ倉を借りてそこに住み、時に恋人である看護師の詩織の家で過ごすのか説明がまったくありません。どうも以前恋人だった莉子を誤ってエスカレーターから転落させて逃げてしまったようですが、なぜ逃げたのかもわからないし、莉子が現在、後輩でミュージシャンの草鹿と住んでいる状況も理解できません。草鹿の生き霊が自分についていると知って彼に会いに行き、彼の部屋にいた莉子を連れて帰るのですが、詩織が二人を自分の部屋に住まわせるのも理解不能。挙句の果て、なんという結末なんでしょう!
 村の人々は未山の能力を認めていて彼に色々な頼みごとをしてきます。普通、田舎である意味、魔法的な能力を持っていれば逆に村八分になるような気がします。そもそも、そんな能力があることを自ら明らかにしないでしょう。
 眠らずに最後まで観た自分自身に拍手を送りたいです。 
ヴィレッジ(2023.4.21) 
監督  藤井道人 
出演  横浜流星  黒木華  一ノ瀬ワタル  古田新太  中村獅童  木野花  西田尚美  杉本哲太  矢島健一  奥平大兼  淵上泰史  作間龍斗  戸田昌宏 
 かつてごみ処理場建設を巡り賛成派からいじめを受けていた反対派の男がいじめの急先鋒だった人物を殺害し自殺するという事件があった霞門村。その男の息子である片山優は、村人から後ろ指をさされながらも、母親がギャンブルで作った借金返済のため、今は建設され稼働しているごみ処理場で働き、村長も知る違法投棄作業にも従事していた。そんなある日、東京で働いていた幼馴染の美咲が村に帰ってきたことから、代り映えのしなかった優の日常が動き出す。
 父親の行ったことで、村人から白い目で見られ、なんの生きる希望も持っていなかった優が、ごみ処理場の広報担当になったことから、広報の“顔"として、 もてはやされるようになり、次第に変わっていく様子が描かれていきます。それにしても、彼が今の生活から抜け出すためには母親を捨てて村から出て行くのが最善の解決方法だと思うのですが。映画の中では母親を捨てられないほど母親のことを思っているようには見えませんでした。
 村祭りで“能”が行われることが描かれますが、いったい、この映画に“能”を描くことは必要だったのでしょうか。村人がみんな能面をつけて祭り会場に歩いていくのは何とも異様な風景ですが、このことがこの映画で描かれるテーマと関係があるのでしょうか。例えば村の閉鎖性とか同調圧力の強さとか・・・。そこもよくわかりません。
 厳しく言えば、広告塔となって周囲から注目を浴びることになり、自分を見失った勘違い男の末路を描く映画ですね。まあ子どもの頃からの他人からの仕打ちを考えれば、彼が今の地位を失いたくないと考えるのも無理ないですが。 
東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-(2023.4.28) 
監督  英勉 
出演  北村匠海  吉沢亮  山田裕貴  永山絢斗  村上虹郎  間宮祥太朗  磯村勇斗  今田美桜  清水尋也  高杉真宙  鈴木伸之  高良健吾  杉野遥亮  眞栄田郷敦 
 シリーズ第2弾です。今作は6月末公開の後編との2部作の前編です。原作漫画でも人気の高い「血のハロウィン編」の映画化だそうです。
 前作でドラケンの命を救うことによってヒナタが死ぬことを防いだタケミチ。ヒナタとのデートの途中、タケミチがトイレに行っている間にヒナタが乗った車にアッくんが運転する車が突っ込み、炎上。ヒナタは死んでしまう。ドラケンはキサキを殺害しようとして警察に逮捕され、死刑囚として刑務所に収監されていた。タケミチはヒナタを救うため、再び過去にタイムリープする。そこでは東京卍會とバルハラという集団との抗争が起こっており、キサキは東京卍會の参番隊隊長として指名されるところだった。タケミチは突然バルハラに入るとマイキーの元から去った壱番隊隊長であり東京卍會創設メンバーでもある場地を連れ戻すことを条件にキサキを東京卍會から追い出すようマイキーに求めるが。・・。
 今作ではバルハラとの抗争と東京卍會の結成時のこと、また、前作でマイキーの口からちょっと語られていたマイキーの兄のことや結成時のメンバーでありながら今ではバルハラの幹部となっている一虎のバルハラに入るきっかけとなる悲しい事件が描かれていきます。
 前作から出演している北村匠海さん、吉沢亮さん、山田裕貴さん、磯村勇斗さん、真栄田郷敦さん、杉野遥亮さん、わずかな出番だった間宮祥太朗さん、清水尋也さんも出番が増え、更に、今作から永山絢斗さん、村上虹郎さん、高杉真宙さんなど今人気の若手俳優が勢ぞろいです。劇場内も原作の漫画が好きな人はもちろんでしょうが、彼ら若手俳優ファンらしい女性の姿も日立ちました。まあ、これだけイケメンが出演しているのでは無理ないですね。
 後編を待ちきれずに原作漫画を読んでしまいました。ストーリー展開はわかってしまいましたが、でも早く観たい気持ちは変わりません。
 一虎を演じる村上虹郎さん。心を病んで今体業中ですが、こんな役にのめり込んでしまえば心を病みもしますよねえ。期待の俳優ですから早い復帰が待たれます。 
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVOLUME3(2023.5.6)(2023.5.8) 
監督  ジェームズ・ガン 
出演  クリス・プラット  ゾーイ・サルタナ  ポム・クレメンティエフ  デイヴ・バウティスタ  カレン・ギラン  ショーン・ガン  ウィル・ポールター  チュクーディ・イウジ  エリザベス・デビッキ  シルベスター・スタローン  ヴィン・ディーゼル(声の出演)  ブラッドリー・クーパー(声の出演)  マリア・バカローヴァ(声の出演) 
  シリーズ第3弾です。強敵サノスは倒したが、最愛の人、ガモーラを失ったピーター・クイルはガーディアンズのメンバーと本拠地のノーウェアに戻り、ショックから立ち直れず洒浸りの日々を送っていた。そんなときガーディアンズに恨みを持つソヴリン人のアイーシャの息子・アダムが彼らを襲撃し、ロケットが瀕死の重傷を負ってしまう。治療を試みるが、ロケットの体にはキルスイッチが仕込まれており、治療をしようとすると逆に死に至ってしまうことがわかる。ピーターらはキルスイッチを無効にするパスコードを奪うため、ロケットを作った企業、オルゴ・コープ社へ向かう・・・。
 今回の作品は。アライグマのロケットがどうして今の状況に至ったのかを描く物語になっています。これが泣かせます。まさか、このシリーズでうるっときてしまうとは思いませんでした。シリーズものはなかなか第1作を超える作品は作れないのですが、この作品、個人的にはシリーズ中一番の出来だと思います。
 死んだはずのガモーラも登場しますが、設定としては、ピーターと出会う時代のガモーラということでピーターとは恋愛関係になく、ちょっと笑ってしまいます。それにしても、マルチバースというのはわかりにくい設定です。
 とにかく、涙あり、笑いあり、音楽あり、アクションありと内容は盛りだくさん。上映時間2時間29分があっという間です。
 この作品でガーディアンズ。オブ・ギャラクシーは解散、エンドロールの映像では新たなメンバーによるガーディアンズ。オブ・ギャラクシーの姿が映し出されます。でも一番最後に、「スター・ロードは戻ってくる」の文字が出ます。3作を監督したジェームズ・ガンはライバル会社のDCスタジオの共同会長兼CEOに就任してしまうし、果たして、スター・ロードが戻ってくる作品が映画化されるのでしょうか。
TAR ター(2023.5.14) 
監督  トッド・フィールド   
出演  ケイト・ブランシェット  ノエミ・メルラン  ニーナ・ホス  ソフィー・カウアー  ジュリアン・グローヴァー  アラン・コーデュナー  マーク・ストロング 
 ベルリンを本拠地とする世界的に有名なベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の女性として初めて首席指揮者とな
って7年が過ぎたリデイア・ター。現在は、マーラーの交響曲第5番のライブ録音を控えて練習をする毎日を送っており、自伝の出版も控えていた。レズであることを公言するターの現在の相手は楽団のコンサートマスターであるシャロンだったが、家事や養女の世話は彼女に任せきりだった。かつて指導していた女性若手指揮者・クリスタとの間には何かあったらしく(映画の中では具体的に語られていません。)、各所にメールを送って彼女を誹謗中傷し、彼女が他で働けないようにしていたが、彼女が自殺してしまったことから、ターの周りに暗雲が立ち込めてくる・・・。
 首席指揮者まで上り詰めただけあって、自信に満ちているのはともかく、どうも性格的には自分勝手で権力者故にやりたい放題という感じがします。養女をいじめていた女の子への脅しは子ども相手なのに怖いです。副指揮者の交代も自分の権限だと、楽団員の投票によることを拒否し、その後釜を自分の秘書役としていいように使っていたフランチェスカではなく、外部から招聘し、次は自分だと思ってターの指図に我慢して従ってきたフランチェスカの気持ちを簡単に切り捨てます。フランチェスカにしっぺ返しをされるのも仕方ないですね。
 この映画の見どころは、何といってもターを演じたケイト・ブランシェットの演技でしょう。個人的にはアカデミー主演女優賞はミシェル・ヨーではなく、ケイト・ブランシェットで良かったのではと思います。指揮のシーンはカッコイイのはもちろんですが、ジュリアード音楽院での授業風景のシーンがありましたが、ものすごい量のセリフを立て板に水のごとく話すシーンは圧巻です。あれってワンカットで撮っていたとしたら凄いです。
 映画は次第に夜中に戸棚の中で動いているメトロノーム、ジョギング中に聞こえる女性の悲鳴、アパートの隣室の不可解な住人、ロシアから来たチェロ奏者の住む廃墟のような建物等ホラーのような雰囲気になっていきます。その謎解きが最後までなされないままで終わり、そこはちょっと消化不良。
 ラストの舞台は「川にワニがいるのは地獄の黙示録の名残」というセリフからすると、ベトナムということでしょうか。最後のシーンはどうもゲームの音楽の演奏シーンのようですが、まだ彼女の心の中にはここから這い上がろうという気持ちがあるのでしょうか。 
最後まで行く(2023.5.19) 
監督  藤井道人 
出演  岡田准一  綾野剛  広末涼子  磯村勇斗  杉本哲太  柄本明  駿河太郎  山中崇  黒羽麻璃央  駒木根隆介  山田真歩  清水くるみ 
 年の瀬も押し迫る12月29日の雨の夜、刑事の工藤は妻からの母親が危篤という連絡を受け、病院に向かっている途中、突然、車の前に飛び出した男を蝶いてしまう。動揺した工藤は死んだ男をトランクに入れ、途中で検問に引っかかるが何とかやり過ごし、病院に向かうが母親は既に亡くなっていた。工藤は死体を母親の棺に入れ、母とともに焼却しようとするが、そのときスマホに「お前は人を殺した。知っているぞ」というメッセージが入る。送り主は県警の監察官の矢崎で、彼は県警本部長の命を受け、政治家たちのマネーロンダリングの金を保管していたが、保管場所の鍵をもって逃げた男・尾田を追っており、その男が工藤が轢いた男だった・・・。
 2014年に公開された韓国映画を「新聞記者」の藤井道人監督がリメイクした作品です。警察の裏金作りに関与したり、ヤクザの組長の仙葉から賄賂をもらっている汚れた刑事の工藤とエリーでありながら出世のために汚れた仕事をする矢崎というワル同士の争いが描かれるのですが、この争いが凄いのなんのって、びっくりです。
 工藤を演じた岡田准一さんは、相変わらずの鍛えた体でアクションに臨みます。「ヘルドックス」でも警察官 (あ のときは潜入捜査官でしたが)を演じましたが、それとはキャラがかなり違います。沈着冷静とは程遠く、よく考えずに行動してしまいます。一方、綾野剛さんの演じる矢崎は切れたら何をするか自分でも制御できない男です。その上、不死身ですね。爆弾で車ごと吹き飛ばされるのに生きているなんて、あり得ないです。そんな2人が争うのですから、2人とも破滅は免れそうもありません。ラスト、その後2人はどうなるのでしょう。 
宇宙人のあいつ(2023.5.20) 
監督  飯塚健 
出演  中村倫也  伊藤沙莉  日村勇紀  柄本時生  関めぐみ  細田善彦  山中聡  平田貴之  千野珠琴  井上和香(声・ビッグ鰻)  山里亮太(声・ジャガ)  設楽統(声・司会者) 
 真田家は焼き肉店を営む長男の夢二、それを手伝う次男の日出男、市のごみ処分場で働く長女の想乃、ガソリンスタンドで働く三男の詩文の四人暮らし。ある日、日出男が実は自分は23年前に木星からやってきた宇宙人であり、 一月後には木星に帰らなくてはならないと告白する。しかし、日出男には彼らに話していないことがあった。木星に 戻るときには家族の中の誰か1人を連れていかねばならないことを・・・。高校時代の同級生からあだ名をつけたことを根に持って嫌がらせをされる詩文。自分勝手な恋人に振り回され、彼の子どもを身籠ってしまった想乃。出会いパーティーに行っても浮いてしまい、相手が見つからない兄弟の親代わりの夢二。それぞれが悩みを抱える中、日出男の旅立ちの日は迫ってくる・・・。
 次男を演じるのは最近日本テレビの水卜アナウンサーとの結婚を発表した中村倫也さん、三男を演じる柄本時生さん、長女を演じるのは伊藤沙利さんと芸達者な役者さんを揃えているし、長男を演じるバナナマンの日村勇紀さんも相変わらず煩いですが自然な演技で、なかなかいいですよ。
 彼らの悩みはどう解決されるのか。そして木星に連れていかれるのは誰になるのか。笑いと涙の中で家族の大切さを描きながら物語は進んでいきます。たまにはこういう単純に楽しむことができる映画を観るのもいいですよねえ。観終わった後、何だか心がホッとしました。気持ちが優しくなりたい方にお勧めです。 
岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023.5.26) 
監督  渡辺一貴 
出演  高橋一生  飯豊まりえ  木村文乃  美波  安藤政信  長尾謙杜  白石加代子  池田良  前原滉  中村まこと  増田朋弥 
 NHKでこのところ年末にドラマ化されていた荒木飛呂彦さんの「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ作品である「岸辺露伴は動かない」の映画化作品です。出演者はドラマ同様、岸辺露伴を高橋一生さん、編集者の泉京香を飯豊まりえさんが演じます。今回岸辺露伴は“動かない"のではな く、大いに動いて日本から海外へ、フランスのルーヴル美術館に行きます。
 少年の頃淡い思いを抱いていた女性から聞いた「最も黒い絵」がルーヴル美術館にあると聞いた露伴は編集者の泉 とパリを訪れる。美術館の職員は誰もその絵のことを知らなかったが、キュレーターの一人が謎の死を遂げ、彼がルーヴルのZー13倉庫にその絵を見つけていた形跡が明らかとなる。露伴はキュレーターらとともにZー13倉庫に向かうが、そこで見たものは・・・。
 露伴の少年期の話が描かれるほか、彼のルーツも明らかになる作品です。ただ、主人公の露伴以上に印象的なキャラが編集者の泉京香。相変わらず泉のつかみどころのないキャラが最高です。原作では彼女は常に物語に登場しているわけではないそうですが、テレビドラマから入った私としてはこのシリーズは泉抜きでは考えられません。演じる飯豊さんが役にビッタリですね。実は彼女は露伴以上の強い能力を持っているのではと思わせることも描かれ、テレビドラマファンとして堪能しました。ただ、この作品、独特の雰囲気を持っていますので、高橋一生さんのファンでなければ、好き嫌いがあるかもしれません 
怪物(2023.6.2) 
監督  是枝裕和  
出演  安藤サクラ  永山瑛太  黒川想矢  柊木陽太  高畑充希  角田晃広  中村獅童  田中裕子 
 先のカンヌ映画祭でパルムドールは逃しましたが、脚本賞とクィア・パルム賞を受賞しました。クィアという聞きなれない言葉なので調べたら昨今「LGBT」が話題になる中、それに加えて「LGBTQ」と言われる最後の「Q」のことのようです。でも、その賞を受賞したことで、観る前に内容が少しわかってしまいましたね。
 観る前から「怪物」とは誰のことなのか、何のことなのかが一番のテーマであり、それを知りたかったのですが、結局よくわかりませんでした。怪物=子どもではよくあるパターンすぎて驚きはないし、誰もが怪物の部分を持っているという理解でいいのでしょうか。
 物語は学校で起きた出来事を母親の視点、先生の視点、そして子どもの視点で描いていきます。これって芥川龍之介の「藪の中」(映画では黒澤明監督の「羅生門」)の形式で、いったい真実を語っているのは誰かということになるのでしょうけど、視点が変わるごとに描かれる人物のキャラが大きく変わっており、いったいこれはどういうこと?って理解に苦しみました。特に永山瑛太さんが演じた教師の保利は子どもたちに理解のある優しい先生に描かれたのに、安藤サクラさん演じる母親の視点のシーンでは、心のこもっていないのが明らかにわかるような謝罪の仕方をしたり、母親に対し、子どもがいじめをしていると非難したり、キャラが大きく変わります。田中裕子さんが演じた校長先生もしかり。学校に説明を求めに来た母親に対し、マニュアルどおりの謝罪をしたり、彼女の同情をかおうと、不慮の事故で死んだばかりの孫の写真を母親から見えるように置いたりと思えば、子どもに理解を示すように楽器の指導をしたりします。どちらもキャラが崩壊していますよね。
 ラストもよくわかりません。2人の小学生は本当に助かったのでしょうか。何だかあまりにファンタジックすぎますよね。是枝作品ということで期待して観に行ったのですが、個人的には今ひとつでした。 
ウーマン・トーキング 私たちの選択(2023.6.2) 
監督  サラ・ポーリー 
出演  ルーニー・マーラ  クレア・フォイ  ジェシー・バックリー  ジュディス・アイビ  シーラ・マッカーシー  ミシェル・マクラウド  ケイト・ハレット  リブ・マクニール  オーガスト・ウィンター  ベン・ウィショー  フランシス・マクドーマンド  キーラ・グロイオン  シャイラ・ブラウン 
 今年度のアカデミー賞脚色賞受賞作です。
 キリスト教のある一派の信者たちが暮らす村で男たちによるレイプ事件が起きる。それまでも事件は起きたが、それは「悪魔の仕業」や「作り話」だと男たちに言われ、レイプを否定されてきた。しかし、今回、逃げていく男を見た女性たちは、それが真実の犯罪だと知り、彼女たちは犯人の男たちが保釈金を払って釈放されるまでの間に、何もしないか、残って男たちと闘うか、この村を出ていくかを決めるための投票を行う。多かったのは、残って闘うとこの村を出ていくこと。女たちは代表を決めて話し合いを続ける。・・。
 実話をもとにした作品だそうです。いったいいつの時代の話かと思ったら、そんなに音ではない2010年を舞台にしています。やはり、信者だけが暮らすという閉鎖性が昔の男性優位の考えを維持させているのでしょうか。そもそも、キリスト教ってそんなに女性蔑視の宗教なのでしょうかねえ。弟でさえ、姉を性のはけ口の対象としてみるな
んて、ある意味この村は異常です。
 ラスト、ある程度成長して女性蔑視の考えが染みついている男子たちは残して村を去る決心をした女性たちの行動に拍手を送りたくなります。
 アカデミー賞女優であるフランシス・マクドーマンドが出演しているけど、ちょい役でもったいないなあと思ったら、彼女は製作に回っていたのですね。 
ザ・フラッシュ(2023.6.23) 
監督  アンディ・ムスキエティ 
出演  エズラ・ミラー  サッシャ・カジェ  マイケル・シャノン  ロン・リビングストン  マリベル・ベルドゥ  カーシー・クレモンズ  アンテュ・トラウェ  マイケル・キートン  ベン・アフレック 
 バリー・アレンはセントラル・シティ警察の鑑識官として働いている青年。大学生の時に研究室に雷が落ち、更に薬品を浴びた結果、光速を超えるスピードで走る能力を持つことになる。バリーはこの能力を使い、“フラッシュ"として“ジャスティス・リーグ”の一員となって正義のために戦っていたが、ある日、自分の能力を使えば時間も超越し、過去に行くこともできると気づく。子どもの頃、母を何者かによって殺害され、父がその犯人として、未だに無実を訴えて裁判中という状況の中、フラッシュは過去に遡って父が買い物に出かける過去を変えるが、元の世界に戻る途中、何者かによって時間の流れからはじき出されてしまう。はじき出された世界は母も生きており、フラッシュが18歳の世界。18歳の自分自身と出会ったフラッシュは、この世界の自分が超スピードの能力を持たないと未来が変わってしまうと考え、18歳の自分を自分が能力を持った時と同様に雷に打たせる。その結果、18歳のフラッシュは能力を持ったが、自分自身が能力を失ってしまう。そんなとき、そこにスーパーマンが倒したはずのゾッド将軍が現れる。フラッシュはバットマンに助けを求めに行くが、そこにいたバットマンは中年のくたびれたオヤジだった・・・。
 マーベル・シネマティック・ユニバースと同様、DCコミックスもマルチバースの世界での話になってきました。元の陛界のバットマンを演じたのはベン・アフレックですが、やってきた世界でのバットマンを演じたのは何と、マイケル・キートンです。私の世代では、やはりバットマンはティム・バートン監督の「バットマン」と「バットマン リターンズ」でバットマン役を演じたマイケル・キートンの印象が強いです。できるなら、クリスチャン・ベールのバットマンも登場して欲しかったですが。
 マルチバースの世界のスーパーマンとして、今は亡きクリストファー・リープのスーパーマンも登場します。悲運のスターでしたね。そして、びっくりしたのは、マルチバースのスーパーマンでニコラス・ケイジも登場。実はティム・バートン監督作品でニコラス・ケイジのスーパーマンの構想も実現はしませんでしたが、かつてあったそうです。
 やってきた世界にはスーパーマンはいませんでしたが、スーパーウーマンが存在。演じたサッシャ・カジェはキリっとした美人の女優さんですが、この1作だけで退場はもったいない気がします。また、ガル・ガドットのワンダーウーマンが冒頭少しだけ登場しましたが、これも、こんなわずかな出演ではもったいないですね。 
東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編ー決戦ー(2023.6.30) 
監督  英勉   
出演  北村匠海  吉沢亮  山田裕貴  杉野遥亮  今田美桜  鈴木伸之  真栄田郷敦  清水尋也  磯村勇斗  永山絢斗  村上虹郎  高杉真宙  間宮祥太朗  高良健吾 
 4月に公開された「血のハロウイン編―運命―」の後編です。今作で描かれるのはハロウィンの日に行われた東京卍會とバルハラとの決戦です。
 刑務所に収監されているドラケンに面会したタケミチは、東京卍會とバルハラとの戦いの中で、マイキーが一虎を殺害したことを知り、何とかそれを食い止め、ヒナタが死ぬ事実を変えようと過去に戻る・・・。
 上映時間の半分以上が東京卍會とバルハラとの乱闘シーンです。動きが激しすぎて、誰だ誰だかよくわかりません。タケミチが弱いのだけは確認できますが。
 場地役で出演している永山絢斗さんが大麻取締法違反で逮捕されてしまい、公開がどうなるのかやきもきしましたが、実際に作品を観てみると、場地はこの作品ではほとんど主役といってもいい位置を占めていましたから、他の役者で撮り直しというわけにはとてもいかなかったでしょうね。公開されてよかったです。
 ラスト、タケミチはこの世界に残ることを決断しますが、では未来のタケミチはどうなってしまうのでしょう。過去に戻っている間、意識を失っているのではなかったのでしょうか。「え!どうなの?どうなの?」と思っている間に映画は終わってしまいました。それに、間宮祥太朗さんが演じるキサキは結局、東京卍會に残っていますし、このあとどうなるのでしょう。この辺りは消化不良です。
 それにしても、若手人気男優が総出演という贅沢な映画でしたねえ。 
インディ・ジョーンズと運命のダイヤル(2023.7.2) 
監督  ジェームズ・マンゴールド 
出演  ハリソン・フォード  フィービー・ウォーラー=ブリッジ  アントニオ・バンデラス  ジョン・リス=デイビス  トビー・ジョーンズ  ボイド・ホルブック  イーサン・イシドール  マッツ・ミケルセン  シャウネット・レネー・ウィルソン  オリビエ・リヒダース 
(ちょっとネタバレ)
 シリーズ第5作にして、ハリソン・フォードがインディ・ジョーンズを演じる最終作になります。
 今回、インディが争奪戦を繰り広げるのは、時間を飛び越えることができる道具であるアルキメデスが作ったとされる“運命のダイヤル”です。インディと争奪戦を繰り広げるのは、お馴染みのナチです。
 前半は第二次世界大戦中の時代を舞台にインディとナチとの“運命のダイヤル”の争奪戦が描かれます。さすがに現在80歳を超えるハリソン・フォードが若き頃のインディを演じるのは無理だろうと思ったら、ルーカスフィルムが保管していた膨大な撮影フィルムをAI技術でコンピューターに取り込んだものを使って若き頃のハリソン・フォードを実現したようです (どうやっているのか具体的にはわかりませんが)。映像技術というのは凄いですね。
 後半はアポロ11号の月着陸成功の時代が舞台です。インディ・ジョーンズも年齢を重ねて70歳となり、大学を定年となります。そこに現れたのが旧友の娘で、インディが名付け親のヘレナ。インディは彼女とともに“運命のダイヤル”探しにいくことになります。そんな二人に対峙するのは、元ナチでかつてインディと“運命のダイヤル”を 奪い合った今はアメリカのNASAでロケット開発に携わユルゲン・フォラー。彼は第2次世界大戦時に戻り、ヒトラーの間違いを修正してドイツ勝利の歴史へと変えようと考えています。両者の“運命のダイヤル”を巡る戦いが再び始 まります。
 前作では宇宙人とUFOが登場するトンデモ映画になっていましたが、今回は過去へのタイムトラベルです。年老い、すっかり目的を失ったインディが過去に留まると言うシーンは、ちょっと寂しいものがありますね。やはリインディ・ジョーンズ歳をとっても常に冒険の中にあってほしいです。
 前作ではインディ・ジョーンズの息子として息子として、シャイア・ラブーフ演じるマット・ウィリアムズが登場
しましたが、今回の作品には姿を見せません。悲しい現実が語られます。その代わりに (といっては何ですが)ラス トにはある人物が姿を見せ、シリーズファンを喜ばせます。
 42年にわたってインディ・ジョーンズを演じたハリソン・フォードに拍手です。 
1秒先の彼(2023.7.7)
監督  山下敦弘
出演  岡田将生  清原果耶  荒川良々  羽野晶紀  加藤雅也  福室莉音  伊勢志摩  片山友希  しみけん  笑福亭笑瓶  松本妃代  柊木陽太  加藤柚凪
 台湾映画「1秒先の彼女」を主人公を男性に変更してリメイクした作品です。脚本は宮藤官九郎さん。
 ハジメは人よりワンテンポ動きが速い郵便局員。ある日、彼は路上ライブをしていた桜子に惹かれ、やがて交際を始める。病気の弟のために40万円が必要と桜子から聞いたハジメはデートの日、40万円を準備し、バスに乗ったはずだったが、目が覚めたときはいつも目が覚める6時59分ではなく8時35分。それもなぜかポロシャツを着て真っ赤に日焼けしていた。郵便局にやってくると日曜日なのになぜか営業しており、同僚たちは今日は月曜日だという。ハジメの日曜日はどうなってしまったのか・・・。
 最初、この映画はハジメと路上ライブをしていた桜子との恋の物語かと思いましたが、実は、目立たなくもう一人の主人公がいたのですね。それが、ハジメとは対照的に何事にも人よりワンテンポ遅いレイカ。後半に彼女の視点でハジメの消えてしまった日曜日の謎が解き明かされていきます。
 ハジメを演じる岡田将生さんがいつもの二枚目とは異なる、ちょっと軽い三枚目を演じているところが見ものです。
 ラストは宮藤さんにうまく騙されました。こういうほっこりする話って好きですねえ。時が止まっているのに風は吹き、人の来ている服が風になびく等々「あれ?」と思うものが多々ありますが、あまり深いことは抜きにして楽しむのが一番です。
ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE 
監督  クリストファー・マッカリー 
出演  トム・クルーズ  ヘイリー・アトウェル  ヴィング・レイムス  サイモン・ペッグ  レベッカ・ファーガソン  ヴァネッサ・カービー  イーサイ・モラレス  ポム・クレメンティエフ  ヘンリー・ツェー二ー  マリエラ・ガリガ  シェー・ウィガム  グレッグ・ターザン・デイヴィス  チャールズ・パーネル  ケイリー・エルウィズ  マーク・ゲイティス  インディラ・ヴァルマ   
(ちょっとネタバレ)
 シリーズ第7弾です。今作2部作の前編です。最近、生成AIが話題となっていますが、この作品で語られるのは意思をAIです。
 AIが暴走し、ロシアの原潜が自らの魚雷によって沈没してしまう。そのAIを制御するためには二つの鍵が必要で、それを巡ってのトム・クルーズ演じるイーサン・ハントとかつてハントと因縁のあったガブリエルとの争奪戦が始まります。
 上映時間2時間30分以上という長尺の作品ですが、最後まで観客をまったく飽きさせません。徹底的に観客を楽 しませてくれます。公開前からオートバイで崖から飛び降りるシーンが話題になっていましたが、それだけではありません。相変わらずのカーチェイスやオリエント急行の屋根の上での格闘シーン、更には橋が爆破され谷底へと落ちていく列車内からの脱出など、手に汗握るシーンの連続です。トム・クルーズも60歳を超えているのに、まったく年齢を感じさせません。
 今回もいつものメンバーが集結します。1作目から登場しているヴィング・レイムス演じるルーサーはもちろん、サイモン・ペッグ演じるベンジー、そして何と言ってもレベッカ・ファーガソン演じるイルサです。カッコいいですよねえ。ジャンプして相手の首に足を巻き付けて三角締めする技は今回も健在です。映画の初めの頃のシーンでアイパッチをして長距離ライフルを撃つシーンはしびれますねえ。彼女の凛々しい表情に惹かれます。まさかそういう展開になるとは・・・。がっかりです。
 新たな出演者としてヘイリー・アトウェルが演じるグレースが登場。ハントに助けられたのに、簡単に裏切ったり
して嫌な女だなあと思いましたが、後編ではIMFに入り、ハントらのメンバーに加わるようですね。
 そのほか、シリーズ第1作に登場したCIAエージェントのキドリッジが再登場します。何と、CIA長官にまで上り詰めているのですから驚きです。強烈な印象を残すのはガブリエルの部下であるパリス。演じたのは「ガーディァンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズでどこかテンポがゆったりとしていたマンティス役を演じていたポム・クレメンティエフ。「ガーディァンズ・オブ・ギャラクシー」のときとは、まったく印象が違います。ハントを追い詰める表情が怖いです。
 今年、これまで観た映画の中で、個人的には1番です。全米映画俳優組合のストの影響で後編の撮影が遅れるのではという予想がされています。待ちきれない、早く観たいです。 
キングダム3 運命の炎(2023.7.28) 
監督  佐藤信介 
出演  山崎賢人  吉沢亮  橋本環奈  清野菜名  杏  山田裕貴  片岡愛之助  山本耕史  長澤まさみ  玉木宏  佐藤浩市  大沢たかお  満島真之介  真壁刀義  要潤  平山祐介  岡山天音  濱津隆之  加藤雅也  浅利陽介  三浦貴大  高嶋政宏  高橋光臣  杉本哲太  小栗旬  吉川晃司 
(ネタバレあり)
 シリーズ第3弾です。今回の秦の敵は趙です。かつて、秦が趙と戦った際に、降伏した趙の兵士や民、40万人を虐殺したことから秦に対し強い恨みを抱いている趙は、今回征服した秦の都市の民を虐殺する。えい政は王騎を総大将に任命するが、王騎はそれを受諾するに当たって、えい政にどうして天下統一を図ろうとするのかを問い質す・・・。
 物語の前半は、えい政が天下統一を図ろうとする理由、幼い時に趙に人質となっていた際、趙からの脱出を手助けしてくれた闇商人の紫夏と交わした約束が描かれていきます。紫夏を演じた杏さん、かっこよかったですね。それと、紫夏の仲間であり一緒に脱出を手伝った浅利陽介さん演じる亜門にも泣かせられます。
 後半は、王騎将軍率いる秦軍対趙軍の戦い、馬陽の戦いが描かれます。100人将となった信に王騎が命じたのは趙軍の将軍・馮忌の首を取ること。しかし、それはたった100人で20000人の敵の中に突撃していくことだった・・・。
 前半の紫夏との出会いの時、えい政は9歳のようですが、さすがに吉沢亮さんでは9歳には見えませんね。ただ、吉沢さんは9歳のえい政の役も自分がやりたいと手を挙げたそうです。
 馬陽の戦いでの、たった100人で20000人の敵では、いくら何でも無理でしょうと思うのが当然。信と羌瘣は凄いにしても、あとは皆、農民兵ですからねえ。正直のところ説得力はないですが、こうでないと面白くなりませんから、あまり深くは考えずに楽しむのが一番ですね。
 いつもの出演者だけでも豪華なのに、今回更に豪華な出演陣となっています。紫夏を演じた杏さんを始め、趙の将軍を演じた山本耕史さん、片岡愛之助さん、山田裕貴さん、そしてネタバレになりますが、パンフレットにも載っていないシークレットだった出演者の小栗旬さんと、吉川晃司さん。凄い出演陣ですね。小栗さんの役は、原作を読んでいない私には、まだどんな役なのかはわかりません。吉川晃司さん、あの羌瘣の攻撃を受け止めて反撃するのですから相当の使い手です。いいところで、次作に続くですが、果たしてどうなるのでしょうか。
 相変わらずの王騎役の大沢たかおさん。ムキムキマンなのに、なぜかオネエ言葉で話すというギャップが強烈な印象を残します。前2作と異なり、ようやく話の中心に出てきてくれました。
 ところで、楽しみにしていた楊端和役の長澤まさみさんですが、再登場は予告されていましたし、パンフレットにも載っていたのに、同想シーンの中に登場するだけでなかなか出てきません。看板に偽りあるかと思ったら、あんな形で登場するとは。ちょっと予想外。う~ん・・・個人的には物足りませんねえ。次回に期待です。 
リボルバー・リリー(2023.8.11) 
監督  行定勲 
出演  綾瀬はるか  長谷川博己  豊川悦司  羽村仁成  シシド・カフカ  古川琴音  清水尋也  佐藤二朗  ジェシー  板尾創路  阿部サダヲ  橋爪功  石橋蓮司  吹越満  内田朝陽  野村萬斎   
  長浦京さん原作の同名小説の映画化です。関東大震災から1年がたとうとする大正時代を舞台に、ひとりの少年を守って日本陸軍と戦う女性・小曾根百合を綾瀬はるかさんが演じます。
 百合はかつて台湾で特殊能力を持ったスパイを養成する幣原機関の元暗殺者。内部抗争で夫と子どもを殺され、以降引退して東京墨田区の歓楽街・玉の井でカフェーを経営していた。ある日、新聞に掲載されていたかつての仲間が犯したとされる殺人事件が気にかかり、事件の起きた秩父に向かうが、その帰りの列車内で陸軍軍人に追われている少年を助ける。少年は父から東京の玉の井の小曾根百合の元に行くよう言われていたという。陸軍から横領した金の行方のカギとなる少年を血眼になって探す陸軍、かつて夫婦だった男の子ども守る百合、そして陸軍の金を手に入れようとする海軍の三者が入り乱れて少年の争奪戦を繰り広げる・・・。
 もう、これは完全に百合を演じる綾瀬さんのカッコよさを見せるための映画です。百合と仲間の奈加の二人に陸軍の部隊がやられてしまうなんて、本当はありえないだろうけど、御愛嬌です。また、海軍省の門前に陸軍が百合と 少年を迎え撃つために土嚢を積んで部隊で待ち伏せるなんて、本当にやったら海軍が許さないでしょぅ。それに百合は刺されても撃たれても不死身ですからねえ。こうした突っ込みどころ満載の映画ですが、綾瀬さんのかっこ良さを見るための映画と割り切って観た方がいいですね。
 百合を演じる綾瀬はるかさんですが、テレビで演技をしていないときの綾瀬さんを見ると、ふわっとした雰囲気で、テンポが少しズレているような感じですが、この映画の綾瀬さんはそれとは180度印象が異なるキリっとした女性を演じます。綾瀬ファンとしてはリボルバーを持つ姿に惚れ惚れしてしまいますねえ。百合を助ける奈加を演じるシシド・カフカさんもカッコいいです。
 陸軍の金を奪い取ることで戦争が起こるのを遅らせようとする海軍の軍人・山本五十六を阿部サダヲさんが演じます。阿部さんには申し訳ないですが、阿部さんのキャラでは山本五十六の重厚感が出ないですねえ。ちょっと小物感が出てしまいます。陸軍大尉の津山ヨーゼフ清親を演じる役者さん、最初登場した時の演技が芸達者な役者の中で浮いているなあと思ったらジャニーズの人だったんですね。
 ラスト、ある有名俳優さんがカメオ出演したのには、びっくりです。
スイート・マイホーム(2023.9.1) 
監督  斎藤工 
出演  窪田正孝  蓮佛美沙子  奈緒  窪塚洋介  中島歩  里々佳  吉田健悟  磯村アメリ  松角洋平  岩谷健司  根岸季衣 
 神津凛子さんの第13回小説現代長編新人賞を受賞した同名小説の映画化です。
 スポーツジムのインストラクターの清沢賢二は妻のひとみと娘との三人暮らし。寒いアパート住まいから家を建てようと住宅展示場に見学に行く。そこで見た地下に強大な暖房設備のある住宅を気に入り、説明をしてくれた女性1級建築士の本田に設計を任せる。無事に家が完成し、二人目の娘もできて幸せな毎日を送っていたが、賢二のかつての不倫相手から、賢二が彼女の部屋に入る動画が夫や夫の家族に送られてきたと連絡が入る。賢二は気になる言葉を吐いた住宅展示場にいた住宅メーカーの社員・甘利がその送り主ではないかと詰め寄る。その後、賢二の近所の林の中で甘利が殺害死体となって発見され、彼と揉めていた賢二の元にも刑事がやってくる。新築の家に遊びに来たひとみの友だちの子どもが家の中で幽霊を見たと言ったり、ひとみ自身が家の中に誰かがいると怯えるようになるなど、不審な出来事が起きるが・・・。
 俳優の斎藤工さんが監督をやり、テレビドラマの「臨床犯罪学者 火村英生の推理」で斎藤さん演じる火村の相棒のアリス役を演じた窪田正孝さんが主人公の賢二を演じています。ジャンルとしてはホラーですが、幽霊や怪物で驚かす作品ではなく、人間の怖ろしさを描く作品となっています。
 この人が出るなら、こういう役をするのはこの人だろうなあと思ってしまうのは奈緒さん。彼女がブレークした「あなたの番です」でのキャラの印象が強くて、今回も裏切られることなく、人間の怖ろしさを演じてくれます。奈緒さん、こういう役やらせたら一番ですよねえ。
 引き籠りの賢二の兄、聡を演じているのは窪塚洋介さんですが、最初は窪塚さんとは思えませんでした。ちょっと今までの窪塚さんの役どころとは違う役柄でしたね。
 ラスト、これで一件落着と思ったら、更に恐怖に突き落とされます。斉藤監督、そこまでやるのと思ってしまいます。 
名探偵ポアロ ベネチアの亡霊(2023.9.15) 
監督  ケネス・ブラナー 
出演  ケネス・ブラナー  カイル・アレン  カミーユ・コッタン  ジェイミー・ドーナン  ティナ・フェイ  ジュード・ヒル  ミシェル・ヨー  エマ・レアード  ケリー・ライリー  リッカルド・スカマルチョ   
 「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」に続く、ケネス・ブラナーが監督・主演を務めるアガサ・クリステイの名探偵ポワロシリーズ第3弾です。
 今回の原作は「ハロウイーン・パーティ」ですが、アガサ・クリスティの中ではそれほどの知名度がないせいか、私自身は未読というか、そもそも題名すら知りませんでした。原作では舞台はロンドンですが、映画では水の都ヴェニスに変わっています。
 探偵を引退し、ヴェニスで悠々自適の生活を送っているボワロの元を、友人の作家、アリアドニ・オリヴァが訪ねてきて、ドレイク家で催されることになっている降霊会へ出席して霊媒師のトリックを暴こうと誘う。ドレイク家では以前娘のアリシアがベランダから身を投げて死んだという事件があり、母であるロウィーナ・ドレイクは娘の霊を呼んでもらいたいと願っていた。降霊会に参加したボアロは降霊のトリックを見破るが、その夜、何者かによって殺 されそうになり、更に霊媒師のジョイス・レイノルズが殺害される・・・。
 ポアロが幽霊らしき少女の姿を目撃したり、ほかの人には聞こえない音を聞いたりと、ミステリというよリホラー風味の強い作品になっています。「オリエント急行殺人事件」のような豪華キャストではなく、前作の「ナイル殺人事件」のような舞台が豪華客船とは違い、幽霊がいるという噂のある館での一夜の事件という、より地味な作品になった印象が強いです。今年のアカデミー賞で主演女優賞を受賞したミシェル・ヨーが霊媒師役で出演していますが、あっけない退場となっており、受賞前の製作だったのか、アカデミー賞女優にしては印象が薄いです。シリーズ3作 の中では一番つまらなかったというのが正直な感想です。 
ミステリと言う勿れ(2023.9.16) 
監督  松山博昭 
出演  菅田将暉  松下洸平  町田啓太  原菜乃華  萩原利久  柴咲コウ  鈴木保奈美  滝藤賢一  伊藤沙莉  尾上松也  筒井道隆  松坂慶子  松嶋菜々子  角野卓造  段田安則  永山瑛太 
 昨年初頭にフジテレビで放映していた菅田将暉さん主演の「ミステリと言う勿れ」の映画化です。
 広島県立美術館で開催している展覧会を観るために広島にやってきた久能整は美術館を出たところで女子高校生の狩集汐路にアルバイトをしないかと声を掛けられる。お金と命がかかっていると言う汐路に整は強引に祖父の遺言書の内容が発表される会場に連れていかれる。狩集家には相続のたびに死人が出ているという。実は汐路は狩集家の謎を解くのに相応しい人物として我路から整を推薦されていた。4人の子どもたちは交通事故で亡くなっており、狩集家の相続人である汐路ら4人の孫を前に顧問弁護士によって開封された遺言書には「それぞれの蔵においてあるべきものをあるべき場所へ過不足なくせよ」というお題が書かれており、4人には4つの蔵のカギがそれぞれ渡され、お題を解いた者に遺産が渡されることになっていた。4人の孫たちはそれぞれの蔵の謎を解こうとするが・・・。
 舞台が現代なのに、遺産相続は前近代的で、ストーリー的には横溝正史さんの「犬神家の一族」「悪魔が来りて笛を吹く」等のおどろおどろしい雰囲気の作品と一緒です。この作品は整の淡々とした話しぶりと、彼のいわゆる語録が印象的ですが、今回の映画の雰囲気は久能君というキャラが醸し出す雰囲気とは合いません。横溝作品のように戦後間もなくの頃ならまだいざ知らず、今の時代にあんな言い伝えを信じて行動する人物がいるとは思えません。説得力ないですよねえ。
 ところで、祖父が残したお題の正解はどういうことだったんでしょうか。汐路に残された蔵は人形をすべて集めればよかったと思うのですが、他の蔵の正解は? 
ジョン・ウィック コンセクエンス(2023.9.23) 
監督  チャド・スタエルスキ 
出演  キアヌ・リーブス  ドニー・イェン  ビル・スカルスガルド  ローレンス・フィッシュバーン  真田広之  シャミア・アンダーソン  レンス・レディック  リナ・サワヤマ  スコット・アドキンス  クランシー・ブラウン  イアン・マクシェーン  マルコ・サロール  ナタリア・テナ 
  シリーズ第4弾です。
 主席連合を裏切り、逃亡を続けるジョン・ウィックだったが、主席連合から全権を与えられたグラモン侯爵は、ジョンを守ってきたニューヨークのコンチネンタルホテルを爆破し、コンシェルジェのシャロンを殺害し、ジョンに盲目の暗殺者ケインを差し向ける。ジョンは大阪にいる友人のシマヅの助けを求め、大阪のコンチネンタルホテルに現れる。ジョンとシマヅは主席連合の暗殺者たちに立ち向かって戦うが、シマヅはケインによって殺されてしまう・・・。
 戦いのシーンの連続です。いくら何でもあれだけ撃たれて当たらないはずないだろうと思ってしまうのですが、防弾スーツに守られるんですよねえ。でも、防弾チョッキを着ていても銃弾が当たった衝撃は凄いと言われるのに、スーツで顔を隠しているだけで銃弾から防げるものなんでしょうかねえ。それに顔を隠していても少なくとも足や手には当たるでしょうと思ってしまうのは野暮でしょうか。
 最後のパリの戦いでの階段落ちも凄いです。蒲田行進曲の39段の階段落ちとは段数が桁違いです。222段だそうです。あれで転がり落ちても大丈夫なんですから、ジョン・ウィックという男、不死身としか言いようがありません。
 ストーリー展開ではこれでシリーズ終了という形なんですが、どうなんでしょうか。キアヌ・リーブスも年齢を重ね、アクションシーンでのキレがいまひとつに見えてしまうのですが・・・。
 シマヅを演じたのは真田広之さん。ハリウッド映画で刀を振り回すとなったら真田さんです。それにしても、日本となればなぜか銃ではなく刀というのも、相変わらずの認識です。
BAD LANDS バッド・ランズ(2023.9.29) 
監督  原田眞人 
出演  安藤サクラ  山田涼介  生瀬勝久  宇崎竜童  吉原光夫  江口のりこ  大場泰正  サリngROCK  淵上泰史  天童よしみ 
 黒川博行さん原作の「勁草」の映画化です。
 ネリ(橋岡煉梨)は大物投資家の胡屋の恋人として、彼が会長を務める東京の投資会社で働いていたが、胡屋の狂的な愛情が怖くなり、彼から逃れて日本中をさまよっていたが、結局、特殊詐欺グループの名簿屋をしている父親・高城を頼って大阪に来て、今では高城の特殊詐欺グループの受け子のリーダー、通称「三塁コーチ」をしていた。ところが、父親を異にする弟のジョーが思わぬ行動に出たことから、ネリを取り巻く事態は急展開する・・・。
 ネリを演じるのは安藤サクラさん。彼女の演技力は抜群で、こうした汚れ役もぴったりです。というより、この映画、彼女を輝かせる映画ですね。カッコいいですよねえ。異母弟のジョーを演じたのは山田涼介さん。彼は「グラスホッパー」でもそうですが、危険なキャラがお似合いです。岡田准一くんがカメオ出演しています。カメオ出演でも目立ちますよねえ。 
沈黙の艦隊(2023.9.30) 
監督  吉野耕平 
出演  大沢たかお  玉木宏  江口洋介  上戸彩  水川あさみ  ユースケ・サンタマリア  中村倫也  中村蒼  前原滉  松岡広大  橋爪功  夏川結衣  酒向芳  笹野高史  アレクス・ポーノヴィッチ  リック・アムスバリー 
 かわぐちかいじさん原作の同名コミックの映画化です。観終わった感想が「え!ここで終わり?」。ストーリー的には尻切れトンボで終わりましたが、確かに全32巻のストーリーを2時間で描くなんて到底無理ですよね。ただ、予告でもシリーズ化されるとか、シリーズ第1弾とか謳っていなかったので、どうまとめるのだろうとは思ってはいましたが、続編ありきのラストでしたね。
 海上自衛隊の潜水艦「ゆうなみ」がアメリカの原子力潜水艦と接触して沈没、乗組員は全員死亡という事故が起きる。潜水艦「たつなみ」の艦長である深町は、かつての上司であった艦長・海江田がそんなミスを起こすはずがないと訴えたが、実は乗組員は沈没前にアメリカの原潜に移っており、そこには、秘かにアメリカ第7艦隊に加わる日本が製造費を出した原子力潜水艦「シーバット」の乗組員として「ゆうなみ」の乗組員を乗船させるという日米間の
密約があった。ところが、艦長の海江田は訓練で日本海域に向かう途中、「シーバット」を独立国「やまと」と宣言する。アメリカは「シーバット」を攻撃しようとするが、海江田は「シーバット」には核が積んであると告げる・・・。
 非核三原則のため、原子力潜水艦を持つことができない日本が防衛上の理由から秘かにアメリカ船籍として原子力潜水艦を所有するという、あってはならないことを前提にストーリーは進みます。更には国の構成要素には「領土」がなくてはならないのに、「領上」とは言えない世界の海をどこでも航行できる原潜を「独立国」と宣言するのですから、「え?」と思ってしまいます。この独立宣言がストーリー上、世界にどう影響を与えるのかは今回のこの作品だけではわかりませんね。
 それにしても、核弾頭は厳重に管理されているのでしょうから、「シーバット」が核を積んだかどうかをアメリカが把握できないわけがありません。それで脅すのは無理ある気がします。
 また、自衛隊の通常型潜水艦「たつなみ」の艦長・深町が海江田の行動を阻止すると言いますが、潜航能力だけでなく攻撃能力にも大きな差がある原子力潜水艦に通常型潜水艦がかなうわけないでしょう。こんな艦長に付き合わされる乗組員がかわいそうです。
 色々理解できないところは次作で説明がなされていくのでしょうから、評価はそのあとですね。 
アナログ(2023.10.13) 
監督  タカハタ秀太  
出演  二宮和也  波留  桐谷健太  浜野謙太  藤原丈一郎  坂井真紀  筒井真理子  宮川大輔  佐津川愛美  鈴木浩介  板谷由夏  高橋惠子  リリー・フランキー 
  デザイナーの水島悟は、ある日、自分が内装をデザインした喫茶店「ピアノ」で、偶然出会った女性・美晴みゆきから素敵なデザインだとほめられる。再び訪れた「ピアノ」で彼女と再会して言葉を交わした悟は彼女に惹かれ、意を決して携帯番号を聞くが、彼女は携帯を持っていないという。その代わりに二人は毎週木曜日に「ピアノ」で会う約束を交わす。やがて悟は彼女にプロポーズしようとするが、約束の日、彼女は姿を現さず、それ以降彼女が「ピアノ」を訪れることはなかった。失意の悟は大阪への転勤を受け入れる。それから1年がたち、悟の友人の山下は、妻が貰ってきたCDを見て驚く・・・。
 感涙必至のど真ん中のラブストーリーです。この作品の原作がビートたけしさんが書いた小説とは想像もつきません。いつも皮肉なことばかり言うビートたけしさんが、こんな真っ直ぐなラブストーリーを書くとは本当にびっくりです。
 水島悟を演じるのは二宮和也さん。そして美晴みゆきを演じるのは波留さん。悟の友人である高木と山下を演じる桐谷健太さんと浜野謙太さんのコンビがいい味出しています。こんな気のおけない友人がいたらいいですよねえ。羨ましい限りです。「ピアノ」のマスター役のリリー・フランキーさんもセリフは少ないですが存在感抜群でした。悟の苦しさを知っていても、なまじ色々声をかけないところがいいですよね。
 彼女が来なかった理由は、お涙頂戴ストーリーにはよくあるパターンですし、ラストも「え|それはあまりに都合良すぎでしょう|」と思ってはしまうのですが、まあ、たまにはこんな心が洗われる映画を観るのもいいかもしれません。
ザ・クリエイター(2023.10.20)
監督  ギャレス・エドワーズ
出演  ジョン・デヴィッド・ワシントン  マデリン・ユナ・ヴォイルズ  アリソン・ジャネイ  渡辺謙  スタージル・シンプソン  アマール・チャーダ=パテル
 AIによリロサンゼルスで核爆発が起き100万人以上の死者が出た事件を契機に、アメリカはAIの排除に乗り出し、AIとの共存関係を築いていたニューアジアとの戦争状態に入っていた。AIの創造者であるニルマータの居場所を探るため、ニューアジアに潜入していた特殊部隊のジョシュアだったが、アメリカ軍の侵攻により、現地で結婚し妊娠をしていた妻のマヤを亡くし、失意の日を送っていた。そんな彼のもとに、軍のハウエル大佐が訪れ、ニューアジアを勝たせることのできる新たな武器“アルファ・オー”を作ったニルマータの殺害の部隊に同行するよう求める。現地で撮影された映像に死んだはずの妻の姿が映っていたのを見たジョシュアは部隊に同行することを決心する。部隊と共に敵基地に潜入したジョシュアはそこで新たな兵器というのが少女の姿をしたAI“アルフィー"であることを知る。彼はアルフィーを連れて、妻を探しに出るが・・・。
 AIとの戦いとあったので、未来の都市空間を想像していたのですが、戦闘の舞台となるニューアジアは牛が畑を耕しているような農村風景で、かつてのアメリカとベトナムの戦いを想起させます。一瞬ですがアメリカに攻撃される日本らしき光景も見られましたので、日本はアメリカ側でなくニューアジア側だということですね。AIを嫌いながら、アメリカが自爆ロボットを戦闘に投入するのですが、このロボットが出撃するときの哀愁感といったら泣けてきます。
 ジョシュアを演じたのは「TNET」の主役を演じたジョン・デヴィッド・ワシントン。デンゼル・ワシントンの息子さんです。ニューアジア側のAI戦闘員役で渡辺謙さんが出演しています。監督のギャレス・エドワース作品にはアメリカ版「ゴジラ」で出演して以来だそうです。セリフを日本語で言うところもありますので、日本人という設定なんでしょう。
 気になったことが二つ。 一つは、AIロボットでありながら、眠るシーンがあり、眠っているうちに電源をオフにされてしまいます。ちょっと笑ってしまいます。AIも眠るというのは初めてです。そして、二つ目はジョシュアの髪の色ですが、冒頭、金髪だったのが黒になるのですが、途中、一瞬金髪に変わります。私の見間違いなのか、ここで金髪になるのはおかしいだろうと気になって映画に没頭できませんでした。ネットでそんな話題も出ていないので、私の勘違いですかねえ。
おまえの罪を自白しろ(2023.10.21)
監督  水田伸生
出演  中島健人  堤真一  池田エライザ  山崎育三郎  中島歩  美波  尾野真千子  金田明夫  角野卓造  浅利陽介  中村歌昇  尾美としのり  小林勝也  三浦誠己  佐藤恋和  池田成志  菅原大吉  矢柴俊博  アキラ100%  橋本じゅん  升毅  柏原収史  山崎一  春海四方  平泉成
(ネタバレあり)
 国会議員の宇田清治郎の孫娘が誘拐される。犯人からの要求は身代金ではなく記者会見を開いて「自分の罪を自白しろ」というもの。宇田は法務大臣の指揮権発動を求め、自分が罪を認めたとしても逮捕されないことを望むが確約が得られないまま時間がきてしまう。宇田は記者会見を開いて「事務所の資金を横領した元秘書を殴って怪我をさせた等々」2つの罪を告白し、副大臣の辞任と離党すると発表するが、犯人は満足せず孫娘は解放されず、再度の会見を要求する。現在、宇田は国会で建設予定の上荒川大橋の建設地が当初予定されていた場所から総理の友人が持つ土地を通るルートに変更されたことが宇田の圧力によるものではないかと追及されており、犯人はそれを認めることを要求しているものと思われた・・・。
 真保裕一さんの同名小説の映画化です。孫娘のために果たして自分の罪を認めるかのタイムリミット・サスペンスというので、もう少し終盤まで緊張感あふれる展開があるのかと思ったら、途中で宇田は孫娘のために罪を認め、孫娘は戻ってきます。何だかあっけない展開となってしまいました。緊迫感もここで終わりです。その後は犯人探しになるのですが、この役者さんがこの端役のわけがないだろう、きっとこの人が犯行に関わっているのだろうなあと思ったらその通り。演じる役者さんで犯人がわかってしまうという最悪のパターンです。そこは残念です。動機もよくあるパターン。犯人もこうなる前にどうにかできそうだと思うのですがねえ。
 なぜ、宇田が長男より次男を評価するのか、そこは明らかにしませんでしたが、それを陰で聞かされる長男の思いは如何ほどのものか。ラストシーンも「なぁ~んだ、結局こういうことに落ち着くのか」と言いたくなってしまいます。長男があまりにかわいそう。
ドミノ(2023.10.27) 
監督  ロバート・ロドリゲス 
出演  ベン・アフレック  アリシー・ブラガ  J・D・バルド  ハラ・フィンリー  ダイオ・オケニイ  ジェフ・フェイヒー  ジャッキー・アール・ヘイリー  ウィリアム・フィクトナー   
 刑事のダニー・ロークは、娘を連れて遊びに行った公園で、ちょっと目を離した隙に娘を誘拐されてしまう。犯人として少年が逮捕されるが、彼は記憶をなくしており、娘の行方は杳としてわからなかった。事件以降、心に傷を抱え妻とも離婚しセラピーに通うダニーのもとに、銀行の貸金庫に強盗が入るとのタレコミがあったと連絡が入る。犯人らしき男より早く、貸金庫室に入ったダニーは問題の貸金庫の中にレブ・デルレーンという名前が書かれた娘が写った写真が入っているのを発見する。そこに来た犯人らしき男を追って同僚の2人の刑事が逮捕しようとしたとき、男がつぶやくと、同僚二人はお互いを撃ってしまい、男は屋上から飛び降りて姿を消してしまう。ダニーは同僚のニックスの力を借り、タレコミの電話をしたのが占い師であるダイアナ・クルーズであることを突き止め、彼女に会いに行く。彼女は銀行で会った男こそ写真に名前が書かれていたレブ・デルレーンであり、デルレーンは人の心を操る能力を持っていると言う・・・。
 何を話してもネタバレになってしまいそうです。観客を最初からだます映画だという触れ込みだったので、騙されないぞと思いながらじっと見ていたのですが、ものの見事に騙されました。人の心を操る能力を持つ者を描く映画ですが、実は映画を観ている観客自身も騙されているんですよね。
 ダニーがデルレーンから逃げるときに変わっていく街の情景シーンはクリストファー・ノラン監督の「インセプション」の映像のようですが、ここにこの映画の謎を解くヒントが隠されています。果たして娘はどこに行ったのか。デルレーンはなぜダニーを追ってくるのか。種明かしがされると、私たちが観ていたこの物語の姿が根底から覆ります。 
唄う六人の女(2023.10.27) 
監督  石橋義正 
出演  竹野内豊  山田孝之  水川あさみ  アオイヤマダ  服部樹咲  萩原みのり  桃果  武田玲奈  大西信満  津田寛治  白川和子  竹中直人 
 フォトグラファーをしている萱島森一郎のもとに父母の離婚以来会うことのなかった父が亡くなったという訃報が入る。遺産として残された山を、彼はすぐに開発業者の宇和島に売り払ってしまう。契約後に宇和島の車で駅に向かう途中、道路の真ん中に立っていた女性に宇和島が悪態をついて前を見ていなかったため、道路上にあった大きな落石にぶつかり萱島は意識を失う。目覚めると、彼は森の中の一軒家で手を縛られていた。家には6人の女性がいたが、なぜ拘束されているのかの理由もわからず、やはり拘束されていた宇和島を助けて逃げ出すが、同じ場所に戻ってきてしまい、森から抜け出ることができなかった・・・。
 果たして6人の女性たちの正体は何なのか。魔物なのか、精霊なのか。彼女らは言葉を話さないし、最初から最後まで仰向けに横たわっている女性はそもそも萱島たちとの関わりもないし、何なのかまったくわかりませんでした。エンドロールで出演者の役名が出て、だから、水川あさみさん演じる女性は萱島を棒で突くのかぁとやっと納得です。とにかく幻想的なストーリーでした。もっとおどろおどろしいホラー作品かと思っていましたが、予想が違いました。結局、この作品のテーマは人間と自然との共存ということでしょうか。
 水川あさみさんは現在NHKの朝ドラで大阪のおかあさんを演じて大阪弁で話しまくっていますが、この作品では一言も口を利かないという役でイメージが大きく違います。宇和島を演じる山田孝之さんは、こんな嫌な役がビッタリです。というより、そういう役をものの見事に演じてしまうという演技力が凄いのでしょうね。 
愛にイナズマ(2023.10.27) 
監督  石井裕也 
出演  松岡茉優  窪田正孝  池松壮亮  若葉竜也  仲野太賀  趣里  高良健吾  MEGUMI  三浦貴大  芹澤興人  笠原秀幸  鶴見辰吾  北村有起哉  中野英雄  益岡徹  佐藤浩市 
 折村花子は駆け出しの映画監督。幼い頃家を出て行った母をモデルにした自分の家族の物語が映画化される話が決まったが、結局、花子は監督を降ろされ、彼女の作品はプロデューサーの覚えがめでたい助監督の荒川が監督することになる。腹を立てた花子は、自分の実際の家族を集めて映画を撮ろうと決心する。がんで余命1年を宣告された父親、口が達者で社長秘書をしている長男、真面目で神父(見習い?)になった次男を呼び寄せ、更に花子が出会った赤い自転車に乗っていた舘正夫も加わり撮影が行われていく・・・。
 家族の再生の物語といっていいのでしょうか。バラバラだった家族が集まって撮影をしていく中で、花子が幼い頃家を出て行った母親のこと、父親の傷害事件の裏に隠されていた本当の理由が明らかになっていきます。赤色がなぜか好きな折村家。みんなが赤のポロシャツやTシャツ等を着ているのには笑ってしまいます。
 物語はコロナ禍の状況を色濃く描いていて、舘のマスクは“アベノマスク"ですし、中学生(高校生?)が路上飲酒をしている若者に注意をし(それはいいのですが)、挙句の果て彼らの人格や家族のことを否定するようなことも言って争いになるシーンがあります。行き過ぎた正義感からのいわゆる自粛警察のエピソードですね。
 父親・治を演じるのが佐藤浩市さん、長男・誠一を池松壮亮さん、次男・雄二を若葉竜也さん、長女・花子を松岡茉優さん、舘を窪田正孝さんと、皆芸達者な役者さんが演じます。また、現在NHK朝ドラで主演中の趣里さんもわずかなシーンですが出演しています。直接の顔合わせをしませんが、中野英雄、仲野大賀の親子共演もあるという豪華な出演陣です。
 ビルから飛び降りようとしている人を老人が「早くしろよ|」と煽ります。花子が映画の中にこのシーンを入れようとしたところ、荒川はそんなことを言う人はいないと彼女の案を頭ごなしに批判しますが、実際いるでしょう、こういう人。今は事故とか事件があると、救護するよリスマホで撮影してネットに流す人がいる世の中ですからねえ。荒川の方が現実を知りません。 
ゴジラ-1.0(2023.11.3) 
監督  山崎貴 
出演  神木隆之介  浜辺美波  山田裕貴  青木崇高  吉岡秀隆  安藤サクラ  佐々木蔵之介  飯田基祐  田中美央   
 山崎貴監督の手によるゴジラ映画です。電車とか三丁目の夕目を思い起こさせるCGです。
 戦争で焼け野原となり何もなくなった、いわゆる“0"の状況の中の日本が、更にゴジラの襲来によって破壊されていくということで“-1.0"と題名が名付けられたようです。
 敷島浩一は特攻隊だったが、死ぬことを恐れ、機が故障したと偽って大戸島に着陸する。その夜、現地の住民が“ゴジラ"と呼ぶ巨大生物に襲われ、戦闘機の機銃で撃ってくれと頼まれた敷島だったがが、怖ろしさで機銃を撃つことができず、島の部隊は敷島と整備士の橘を残して全減してしまう。生きて日本に帰った敷島はひょんなことから闇市で赤ん坊を連れた大石典子と出会い、一緒に住むようになり、敷島は3人の生活費を稼ぐため、戦争中に海に投函された地雷の引き揚げ作業に携わることになる。アメリカの爆実験による放射能で更に巨大化したゴジラが日本を目指して進んできたが、アメリカはソ連との兼ね合いの中、攻撃部隊は出さず、日本は自分たちだけで立ち向かわるざるを得なくなり、連合軍に接収されていた元軍艦を返却してもらい、ゴジラに立ち向かうがまったく相手にならならず、ついにゴジラは東京に上陸する・・・。
 今回のゴジラは今まで以上に筋肉モリモリで、表情も怖いし、熱線の威力もものすごいです。これまでのゴジラの中で最強といっていいでしょう。物語はゴジラに襲われるパニック映画の要素と共に、自分のせいで多くの人を殺してしまったと悩む敷島浩一の姿や、浩一と典子の恋愛模様という人間ドラマの部分がクローズアップされます。
 敷島浩一を演じるのは神木隆之介さん、大石典子を演じるのは浜辺美波さんと朝ドラコンビです。でも、作品としてはこちらの方の撮影が早かったそうです。
 なお、橋爪功さんがゴジラに驚愕する路上の人でカメオ出演しています。
 ラスト近くである人物の首元に痣が見えるシーンがありました。何らの説明もありませんが、これって、もしかしたらゴジラの放射能の影響でしょうか。 
理想郷(2023.11.4)
監督  ロドリゴ・ソロゴイェン 
出演  ドゥニ・メノーシェ  マリナ・フォイス  ルイス・サエラ  ディエゴ・アニード  マリー・コロン 
 実際に起こった事件をモデルにしているそうです。
 フランス人のアントワーヌは理想郷を求めて、妻のオルガとスペインの農村に移住し、有機野菜を作って生活しながら、廃屋の再生で村おこしをしようとしていた。しかし、村に風力発電施設を作るという話が持ち上がり、貧しい生活を嫌った村人たちは土地を売ろうとするが、アントワーヌはそれに反対して、対立する。村人の中のもう一人の反対者が亡くなり、唯一の反対派になってしまったアントワーヌに対し、隣人のシャンとロレンンの兄弟は脅しや嫌がらせをする。ついには井戸にバッテリーを投げ入れられ、知らずに使った汚染された水で栽培していた作物は全減してしまう・・・。
 田舎に限らず、新住民と旧住民の対立はどこにでも多かれ少なかれあります。ここではその対立にお金の問題が絡むのですが、貧しい生活に耐え兼ね、補償金を貰って村を出ていきたいと考える昔からの村人たちと、この村を自分の理想郷と考え、ここで生活していきたいと考えるアントワーヌとオルガ夫婦のどちらにも言い分はあります。どちらが正しいとか間違っているとかの判断はできません。ただ回答の出ない両者の対立は悲惨な結果をもたらすことになります。どちらにとってもいい結果とはなりません。冒頭で男たちが馬と格闘しているシーンがあるのですが、なぜ、このシーンから始まったのかと思ったら、ある出来事の伏線になっていたんですね。 
正欲(2023.11.10) 
監督  岸善幸 
出演  稲垣吾郎  新垣結衣  磯村勇斗  佐藤寛太  東野絢香  山田真歩  坂東希  宇野祥平  渡辺大知  徳永えり  岩瀬亮  山本浩司 
(ネタバレあり)
 朝井リョウさん原作の同名小説の映画化です。原作は読んでいるのですが、その時も主人公たちの思いがよくわからないなあと思ったのですが、今回の映画を観てもやっばり彼らを理解することまではできませんでした。
 物語は、自分は他人とは違うと感じている桐生夏月と佐々木佳道、神戸八重子と諸橋大地、そしてそんな彼らを理解できない寺井啓喜という3人をそれぞれ描きながら進んでいきます。
 桐生夏月はモールの寝具売場で働く女性。中学校の同級生だった佐々木佳道が地元に戻ってきており、同級会に出席すると聞いて夏月も出席することにする。夏月も佳道も異性への興味はなく、ただ同じように水フェチだということを中学生の時にお互いにわかっていた。他人には理解されない共通の水フェチによって結ばれた二人はやがて一緒に暮らすようになる。検事の寺井は息子が不登校で、同様に不登校のユーチューバーに共感し、自分もYouTubeで発信することに生きがいを感じるようになることに対し、生きることから逃げていると感じてしまう。神戸八重子は近くに男性がいるだけで過呼吸になってしまう男性恐怖症の女子大生。しかし、唯一大学のダンスサークルの諸橋だけに対しては男性という恐怖を感じないが、彼女の思い切った告白を諸橋は手ひどく拒否する・・・。
 最初は群像劇のようにそれそれが描かれていくのですが、やがて、佳道がSNSで見つけた同じ水フェチの仲間と会ったことから、思わぬ事件が起こり、彼らに繋がりが生じていきます。
 最近は多様性の尊重が叫ばれ、LGBTQへの理解も求められています。LGBTQに限らず、 自分と違った考えや性向を持つ人たちの思いを「そういう人もいるんだ」と尊重することはできるにしても、その思いを理解するということまではなかなか難しいです。今作の夏月と佳道は水に対し、欲望を感じる人ですが、彼らの気持ちは到底理解できません。そんな私たちに対する彼らの気持ちが夏月が寺井に言った「自分がどういう人間か人に説明できなくて息ができなくなったことってありますか?」なんでしょう。
 夏月は佳道を見捨てないと言いましたが、寺井は今後どう息子に対処していくのでしょうか。そして諸橋に拒否された八重子はどう生きていくのか。これからのことが気になります。 
マーベルズ(2023.11.11) 
監督  ニア・ダコスタ 
出演  ブリー・ラーソン  テヨナ・ハリス  イマン・ベラーニ  ゾウイ・アシュトン  パク・ソジュン  サミュエル・L・ジャクソン 
 “マーベル・シネマティック・ユニバース"の1作です。
 正直のところ、私が観た“マーベル・シネマティック・ユニバース"の作品の中で個人的には一番つまらなかったです。とにかく、キャプテン・マーベルのほかにミズ・マーベルとモニカ・ランボーが主要キャストとして登場するのですが、この二人がどういう人物かがよくわかりません。パンフレットで見ると、デイズニー・プラスで配信している「ミズ・マーベル」と「ワンダヴィジョン」の登場人物のようです(モニカ・ランボーはキャロル・ダンヴァースことキャプテン・マーベルの親友マリア・ランボーの娘で「キャプテン・マーベル」では幼い子どもとして登場はしていたようです。)。この二つの配信を観ていることを前提にしているのか、キャラの紹介がいまひとつですし、更にはキャプテン・マーベルを含めた3人がなぜか入れ替わってしまうという理屈が理解できませんでした。最初から退屈で少し寝落ちしてしまったので(これまで寝落ちした“マーベル・シネマティック・ユニバース"作品はありませんでした。) 、その間に詳細な説明があったのでしょうか。それに加えて、途中はミュージカルになってしまうし、いったいどこに向かってしまうのか、勘弁してくれよと言いたくなりました。
 ラストに登場してくるのも配信サービスの登場人物のようですね。更に、エンドクレジットに登場してくるのは何とあのシリーズの登場人物です。この作品も“マーベル・シネマティック・ユニバース"の中に取り込まれるのでしょうか。
 猫の姿をしたグースには楽しませてもらいました。 
法廷遊戯(2023.11.14) 
監督  深川栄洋 
出演  永瀬廉  杉咲花  北村匠海  戸塚純貴  黒沢あすか  倉野章子  やべけんじ  タモト清嵐  柄本明  生瀬勝久  筒井道隆  大森南朋 
 五十嵐律人さんの第62回メフィスト賞を受賞した同名小説の映画化です。五十嵐さんはこの作品を執筆していた際は司法修習生で今は弁護士として活躍中。二足の草軽とは凄いですよねえ。
 久我清義は司法試験合格を目指す法科大学院の学生。ある日、清義には自分が育った児童養護施設の所長を刺して殺人未遂で逮捕された過去があるというビラが同級生たちにまかれる。清義は法科大学院で行われていた“無辜ゲーム"という在学中に司法試験を合格した結城馨が裁判長を務める模擬法廷に事件を告発して犯人探しをする。その結果、同級生の一人が頼まれて配布したということが分かったが、依頼人が誰かは判明しなかった。それから2年が経ち、清義は司法試験に合格し弁護士として働いていたが、法曹にならずに大学に残った馨から無辜ゲームに誘われる。指定の場所に行くと、そこにはナイフで刺された馨の死体と、服を血だらけにして佇む同じ児童養護施設出身で法科大学院の同級生だった織本美鈴がいた。美鈴は殺人容疑で逮捕され、馨が弁護人となって裁判が始まる・・・・
 そもそもなぜ馨は清義を呼び出したのか、馨と○の間には清義が来る前に何があったのか、なぜ馨は殺されなければならなかったのかが次第に明らかにされていきます。
 もう何といってもこの映画は物語のキーマンとなる織本美鈴を演じる杉咲花さんに注日です。とにかく彼女の演技が凄すぎます。若いながらも“怪演"とも評していいかもしれません。はっきり言って清義を演じた永瀬廉さんは圧倒されてしまっています。
 ラストで清義はある決断をしますが、それだけでは済まされないと思うのですが。これから彼はどうするのでしよう。
 ストーリーとは関係ないですが、清義のビラを見た同級生たちの態度は何だ!という感じです。彼らが法曹になるとは、考えたくないですね。 
怪物の木こり(2023.12.2) 
監督  三池崇史 
出演  亀梨和也  菜々緒  吉岡里帆  染谷将太  中村獅童  渋川清彦  柚希礼音  みのすけ  堀部圭亮 
 頭を斧でたたき割り、脳を持ち去るという猟奇殺人事件が連続して起きる。そんなとき、弁護士の二宮は駐車場で仮面をかぶり斧を持った男に襲われ、頭がい骨骨折という重傷を負うが、人が来たため犯人は逃走し、命は助かる。彼は強盗に襲われたと警察には話し、自ら復讐することを誓う。実は、二宮はサイコパスで、目的のためには殺人も厭わない男であり、つい先頃も婚約者の父親で事務所の所長である弁護士を自殺に見せかけて殺害していた。二宮は同じサイコパスである医者の杉谷の助けを借りて犯人を捜すが、怪我をした二宮の頭の中に脳チップが埋め込まれていることがわかったことから、30年以上前に子どもを誘拐し、脳手術を行っていた脳外科医の事件の生き残りであることが判明する。連続殺人の被害者たちも脳チップが埋め込まれていたことがわかり、犯人は誘拐事件の生存者を狙ったものであることが浮かんでくる・・・。
 原作は2019年の第17回「このミステリーがすごい|」大賞受賞作です。ストーリーは猟奇殺人鬼対サイコパスの弁護士という構図です。果たして犯人は何者なのか。なぜ事件の生存者たちを襲うのか。この犯人の動機がこの映画の肝となっています。ラストの落としどころは多くの人が想像がついてしまうのでは。
 二宮の協力者である病院の医師の杉谷もサイコパスですが、サイコパス同士の二宮と杉谷がどう知り合ったのかが映画でははっきり描かれていません。この辺り、2時間の映画の中では描き切れなかったのでしょうか。でも、原作を読んでいない人にとつては「この医者は何者?」と思ってしまいますよね。
 とにかく、登場人物たちがみんなサイコパスですが、演じた人がまたサイコパスをうまく演じています。中村獅童さんや染谷将太さんなんて、見た目がもうサイコパスっぼいです。警察のプロファイラーである戸城を演じる菜々緒さんは、男物の靴を履いたりして、いつもの色気は抜きに演じていましたね。 
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら(2023.12.8) 
監督  成田洋一 
出演  福原遥  水上恒司  伊藤健太郎  嶋﨑斗亜  上川周作  小野塚勇人  出口夏希  松坂慶子  中嶋朋子  坪倉由幸 
 父親を幼い頃亡くし、母と二人暮らしの女子高校生の加納百合は、進路を巡って母と喧嘩になって家を飛び出し、子どもたちが秘密基地にしている防空壕跡に入って眠ってしまう。目覚めると、防空壕の外は立ち並んでいた家は消え田畑となっていた。疲れ果てて倒れた百合はたまたま通りかかった青年・佐久間彰によって助けられ、食堂に連れていかれる。そこにあった新聞の日付が昭和20年だと知った百合は、自分が昭和20年の世界にタイムトラベルしてしまったことに気づく。絶望していた百合を救ったのは食堂の女将・ツル。彼女にここで働かないかと言われた百合はその日から食堂を手伝うことになる・・・。
 ストーリーは大平洋戦争中にタイムトラベルした女子高校生が特攻隊の若い兵士と恋仲になるという、泣かせる結末になることがわかっているベタな恋物語です。更に特攻隊員の中に志願したものの、田舎に置いてきた許嫁が空襲で下半身不随になってしまったという者もいて、彼がどうするか、そんな彼に対し特攻隊員の仲間がどう対応するのかというところも泣かせます。
 タイムトラベルというSF設定となっていますが、どうしてタイムトラベルしたのか、どうやって現代に戻るのかは、まったく説明がされません。それはこの映画にとってはさほど問題ではないのでしょう。それよりとにかく、この映画を観る人には、現在のウクライナやガザで起きている戦争は愛する人を失うという悲惨な結果をもたらすものだということを強くわかってもらうことに主眼があったのではないかと思うし、そう感じてほしいですね。
 百合を演じるのは福原遥さん。父親を亡くし、スーパーで働く母と二人という経済的に苦しい中、進学したいのに就職しなければならないという自分の状況にやるせなさを感じる女子高校生を演じます。特攻隊員の彰を演じるのは水上恒司さん。事務所との契約問題で芸名を変えたりしてあまり顔を見ませんでしたが、先日からはNHKの朝ドラに出演したりと、また出てきましたね。彰の特攻隊仲間の石丸を演じるのは伊藤健太郎さん。いろいろ問題がありましたが、そろそろ表舞台に復帰が叶ったようです。 
PERFECT DAYS(2023.12.22) 
監督  ヴィム・ヴェンダース 
出演  役所広司  柄本時生  アオイヤマダ  中野有紗  麻生祐未  石川さゆり  田中泯  三浦友和  松居大悟  甲本雅裕  長井短  犬山イヌコ  モロ師岡  あがた森魚  安藤玉恵  研ナオコ 
  渋谷区で「THE TOKYO TOILET」プロジェクトが実施され、クリエイターたちによる斬新なトイレが区内に設置されましたが、この映画は元々はこのプロジェクトのPRをするための短編映画の制作構想から始まったそうです。
 主人公・平山はトイレの清掃人。古びたアパートに住み、毎日老女が道路を掃く箒の音で目が覚め、布団をたたみ、洗顔をし、口ひげを整え、出かける前には自動販売機でコーヒーを買う。 トイレ掃除に向かう車の中では60,70年代の洋楽をカセットテープで聞き、 トイレ掃除をした昼間は神社らしき敷地内のベンチで昼食を取り、木漏れ日の風景を写真に撮る。仕事が終わった後は銭湯に行き、地下街の飲み屋で軽く酒を飲んで帰り、布団の中で古本屋で買った文庫本を読みながら眠る。休日には近くのスナックで文庫本を読みながら静かに酒を飲む。こんな平山の日常生活が淡々と描かれていきます。
 途中で姪が家出をしてきて、彼の部屋で暮らし、姪の母である平山の妹が運転手付きの車で娘を迎えに来た際に平山と交した言葉から、平山が実は裕福な家の出であり、父親と衝突した過去があったことが窺われるのですが、それだけで、それ以上彼のバックグラウンドは語られません。
 大きな事件が起きるわけではありません。姪が家出してきた以外は、日常の中で、起きるようなことが描かれていくだけです。ただ、行きつけのスナックのママが男と抱き合っているところを見て、店に入るのをやめ、コンビニで酒とタバコを買って、川岸でやけ酒を呷るシーンには笑ってしまいました。人生を達観して生きているように見えた平山も、ママを想う恋心を持っていたんですね。
 ラスト、平山が車を運転しながら泣き笑いのような表情を浮かべたり、様々な表情をする顔のアップで終わりますが、いったい彼は何を考えていたのでしようか。気になります。あの表情は観させます。
 観る前は退屈で途中で眠ってしまうかなあと思っていたのですが、意外にも最後まで引き込まれて観てしまいました。ヴィム・ヴェンダースが監督ということもあったでしょうけど、それ以上に第76回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞した役所広司さんの演技あっての作品です。