昼下がり
夏が来る。
日差しは長くなって、窓を開けても温かくて、申し分ない風が軽々と部屋の中を通り抜けていく。
日の高い外の通りに、人の気配は薄くてかすかに花の匂いがする。
窓枠に腰掛けて、うとうととしていたらしい。
耳の中で木霊のように繰りかえす名前。
リーマス、
呼ばれて、声のほうにもたもたと向き直ると、唇に何かが当たる感触があった。
今日は食料の配達も来客の予定もまったく無かったから、シリウスは人の姿のままだ。
洗濯は済んだのかい?
とっくに終わった
昼食から2時間はたっている、といわれて、自分は完全に眠ってしまったらしいと気づく。
それから彼の腕が背中をつつんで顔が近付いてくる。
ようやく視界がはっきりしてきて、ああ、長いまつげだな、とぼんやり考え、キスの最中に目を開けたままなのもどうかと考え、一応眼を閉じた。
彼の口唇が少し離れたところで聞いてみる。
これは夜の時間にする類のキスじゃないか、と。
シリウスはちょっと可笑しそうな顔をして、ずいぶん気持ちよさそうだったから、と言った。
起こさないでくれてもよかったのだけど、と呟いたが彼はまったく意に介さなかった。
結界を張っているので、通りからこちらを見るものがいても、彼らは何も気にしない。
窓際に立ってはいるが、何を見ても意識しない。
だからといって、中年の男同士のキスを見せたいわけではないので少し身体をずらして窓の影に下りた。
シリウスの腕がそのまま、自分の動きについてきた。
風が止まってしまった様だ。
シャツのボタンは外されていたが、なんだか熱くてのぼせそうだ。
足が崩れそうなのに、頼れるのは壁だけで、姿勢の不安定さがさらに眩暈を起こす。
右隣は切り取られた様に光の入る窓があって、自分たちのいるところは暗い。
窓は開いたままなのに、鳥の声も虫の羽音も聞こえなくなった。
視界はさっきからゆらゆらしている。
いや、カーテンだって揺れているから風がとまったわけじゃない。
もっと自分をしっかり支えたかったけれど、カーテンにつかまったら破けそうだ。
だがいくら結界があって外から認識されないとわかっていたって、
開けたままの窓枠に身体を預けるのは願い下げだった。
仕方なくシリウスのシャツを握っていた手を首と背中に回す。
腕はもう上手く動かなくて、足が震えて、目が回って床に落ちそうだった。
それに気がついたのか、キスが止まって、彼の手が引き寄せるように私の体を支えた。
何を考えてる?
…この状態で何を考えられるのかな
どうやらろれつも回らなくなっている。
ぐらつく頭を支えたくて指先に力を入れる。
どうして欲しい?
…つかまってていいかな…
立っていられない、というとシリウスが、笑顔になった。
それは学生時代の会心のいたずらが決まったときの得意げな顔によく似ていた。
つぶやき
シリウスの笑顔を見て、先生は仕返しを誓います。
黒田が反省する話も何時かはあがるかも(笑)
10.03.10(UP 03.28)
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