『工藤〜! きたで〜! 開けて〜な!』


 それはまたしても始まる嵐の幕開けだった。










〜西の迷探偵受難編2〜










「快斗」
「なあに?」
「行ってこい」


 俺は朝っぱらからあいつの相手をするのは嫌だ。
 ベットの中に居ても聞こえてくる声に耳を押さえ、新一は快斗をベットから蹴り落とした。


「新ちゃん…それ人にモノを頼む態度じゃ無い」
「うるせえ」

 大体誰のせいで身体がダルイと思ってんだ。

「うっ…」

 そりゃ確かに昨日は無理させ過ぎたけどさ〜。


 思うところがあり過ぎる程ある快斗は、渋々ながらベットから起き出して着替えを始める。


「新一〜服借りるよ」
「何でだよ。お前のでいいだろ」
「あのねえ…俺の服じゃばれちゃうでしょ?」


 その発言に、新一はどうやら快斗が前回と同じ作戦で行く事に決めたらしい事を悟った。


「そうか? じゃあ別にいいけど…。」

(やった♪新一の服〜♪)


 快斗さんしっかり役得してます(笑)


「着替えたらさっさと行け!」


 新一の服を着てすっかりご満悦の快斗の足が、ベットから出た新一の足におもいっきり蹴られる。


「い…っぅ…。新一…」


(それだけ元気あるなら大丈夫じゃん…ι)


 そう思っても言えない辺りが新一にべた惚れの快斗の弱みなのだが。


「さっさと行け」
「…はい」


 渋々ながら玄関に向かう快斗に新一が一言。


「こないだみたいに踏み過ぎるなよ」
「………はいι」


 約1ヵ月前の事を思い出し快斗は素直に頷くと部屋を出て行った(詳しくは『西の迷探偵受難編』参照)





「はぁ…何でこんな朝っぱらからあいつの相手しなきゃなんないのかねぇ…」


 快斗は階段を下りながら溜め息をついた。
 現在時刻は午前6時。
 本来なら人のお宅を訪ねる時間ではない。


「それに…あいつ学校はどうしたんだよ…ι」


 今日は特に何もない平日である。
 同じ高校生である彼が学校が休みな筈がない訳で…。


(わざわざ今日の為に休んできたんだな…)

 その気持ちは解らなくもないけどさ…。


 と心の中で付け足しつつも、


「悪いけど…今回もきっちり追い返させてもらうとしますか」


 そこら辺は手加減するつもりはないらしい。


『工藤〜!!』


「まったく…大人しく待てないのかねぇ…」


 玄関の外でから聞こえる大声に溜め息をつきつつ、快斗は新一になりきるために玄関にある姿見で髪を整える。
 そして前回同様勢い良くドアを開けた。


「うわっ!!」


 と、やはり前回同様みっともない叫びと共に騒音の元が無様にそこに倒れる。
 が、次の瞬間には復活し…


「工藤〜!! 1ヵ月ぶりやな〜!!」


 と抱き着いてこようとする。


「うるせえ」


 それを見事に新一のふりを決め込んでいる快斗は右足で(一応黄金の右足を意識したらしい)蹴り捨てる。


「く…くどう…」
「てめえはこんな朝っぱらから人んち訪ねてくんじゃねえよ!」

(まったく…もうちょっと新一とベットの中でくっついてたかったのに…)


 なんとか本音を押さえつつ、快斗はなおも新一のふりを続ける。


「せやかて、工藤だって学校があるやろ?」

 だから早い方がええかと思って…。

「お前もだろうが!!」
「俺はええんや」

 それに…。

「それに?」
「工藤のためなら学校の一日やふつ………ぐはっ……」


 みなまで言う前に快斗は思いっきりその騒音の元を上から踏みつけた。



(それが迷惑なんだよ!!)



 快斗は血圧がじわじわと上がっていくのを感じていた。


「く…くどう………」
「何だ?」


 結構な力で踏まれながらもなおも何か喋ろうとする平次の様子に、快斗は少し足の力を緩めてやる。


「今日何の日か解るか?」
「今日? 今日って確か9月10日だったよな…?」

 何かあったか?


 と、前回同様自分でも白々しいと思う程、あくまで気付いていないふりを通す。


「9月10日ゆうたら910、つまり今日はわいの工藤の日やー! ………ぐへっ………」



(新一がいつてめえのものになったんだよ!!・怒)



 平次の『わいの工藤』発言に快斗は緩めていた足の力を最初に踏みつけた時より更に強いものにする。


「く……く…どう…」


 苦しげに足の下の物体がうめいているが、その声もきれかけている快斗の耳には届いていなかった。


「……く…ど……。」


 そのまま平次が気を失って暫くたったその時…



「貴方何時までそれを踏んでる気なの?」



 爽やか(…)に声をかけてきたのは誰あろうお隣の可愛らしい(…)科学者。


「あ、哀ちゃんおはよう♪」
「おはよう。で、いいかげんそれから足をどけたらどう?」

 いい加減にしておかないと貴方昼の顔でも犯罪者になるわよ?


 冷静な哀の言葉に我に返った快斗が足をどければ、そこには思いっきり伸びきった黒い塊が出来あがっていた。


「あ………ι」
「まったく、騒がしいと思ってきてみればこれなのだから…」

 困ったものよね…。


 そう言って睨み付けてくる哀の瞳が非常に厳しいものである事に快斗は冷や汗を流す。


「……あ、哀ちゃん! よ、良かったらこれ実験材料として持っていかない?」
「あら、提供してくれるの?」

 丁度新薬の実験をしたかったところなのよ。

「うんうん。もう、何してもいいから!」


 哀のお怒りをかったら自分が実験材料にされかねない快斗は必死だった(爆)


「そう…じゃあ頂いて帰ろうかしら…」

 もちろん家まで運んでくれるんでしょう?

「も、もちろん!」


 そう言うがはやいか、快斗はその黒い塊をずるずると引きずるとアガサ邸へと運び入れに行った。




 数時間後、またしても隣の家から凄まじい断末魔が聞こえたのは言うまでもない…。









END.


新一君の日なのに黒い人が必要以上に出張ってしまったのは何故でしょう?(爆)
ま、まぁ…そんな日も…ね☆(逃)


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