『工藤〜! 来たで〜! 開けて〜な!』


 けたたましい騒音が玄関の外からは響き渡っていた。










西の迷探偵受難編










「って言ってるけど?」
「駄目!! 絶対駄目!!」

 今日は絶対に駄目なの!!


 いつも以上に頑なに騒音の元を拒絶する快斗に新一は首を傾げる。


「何でそんなに…」


『工藤〜!!』


「…新一。ここでゆ〜っくり座っててね♪」


 新一の言葉が外からの騒音に掻き消された後、快斗はにっこりと微笑んで新一をソファーに座らせると急ぎ足で玄関の方へ向かって行った。


「何でそんなに俺に会わせたくないんだ?」


 快斗の後ろ姿を見送りながら新一は一人不思議そうに再び首を傾げる。


(まあ、快斗があいつの相手してくれるなら面倒臭くなくていいんだけど)


「静かに本読めるし」


 新一さん…本音はそこですか…ι


「…………」


 既に本の世界の住人になってるし…。



 さ、さて新一さんは旅立ってしまわれたので、気を取り直して今度は快斗君の様子を見てみましょう♪


「…さて、どうやって追い返すかな」


 こちら何やら玄関で考え込んでいる快斗君。
 どうやら追い返すのは既に決定事項のようです。


「…やっぱりここはあれだよな♪」


 どうやら何か思い付いたようです。
 それではここからは快斗視点でお楽しみ下さい(爆)



「さて、これで完璧♪」



 快斗は玄関にある姿身で髪形をしっかりと整え、ガンガンと無遠慮に叩かれているドアを一気に開けた。


「うわっ!!」


 みっともない叫びと共に騒音の元がぶざまにそこに倒れる。
 が、次の瞬間には復活し、満面の笑みで


「工藤〜! 会いたかったで〜!!」


 と直ぐに抱き着いてこようとする。


「俺は会いたくなかった」


 それをおもいっきり蹴り捨てて、新一のふりを決め込んだ快斗はさらっと拒絶の言葉を口にする。


「くどう〜! そんな殺生な〜!!」


 なおも抱き着いてこようとする平次を今度こそおもいっきり蹴ると、上から踏み付ける。


「知るか。だいたい来るんなら電話の一本ぐらいしろよな」


 と言いつつも…。


(電話してきたら来させないけどな)


 と快斗は心の中で付け足す。


「それで何の用なんだよ」

 下らない用件だったら追い返すぞ。

「工藤、今日何の日か知っとるか?」
「今日って8月10日だったよな」

 一体何の日だ?


 自分でも白々しいと思うが、あくまで気付いていないふりを通す。


「8月10日ゆうたら810、つまり今日はわいの日やー!」


 快斗の足に踏まれながらも平次はおもいっきりガッツポーズを作り熱弁を奮い続ける。



「わいと工藤の愛を深めるにはちょうどいい日やないかVv」



 平次のその言葉に、快斗は血圧がじわじわと上がって行くのを感じていた。



(なんで新一がてめえなんかと愛を深めなきゃいけねえんだよ…(怒))



 平次を踏み付ける足に、ぎりぎりと力がこめられる。


「くっ…くどぅ……」


 快斗の足の下でくぐもった声が上がっていたが、完全に頭に血が上っている快斗にの耳には聞こえていなかった。


「……くど…ぅ…」


 平次の声が弱く小さくなり、今にも聞こえなくなりそうになった時…。


「快斗!! お前何やってる!!」


「えっ…? 新一?」
「快斗! お前早く足退けろ!!」


 新一の切羽詰まった顔と声に驚いて、快斗は足を退かした。
 そして、今まで足で踏んでいた物体を見れば何やら苦しそうにもがいていた。


「やばっ…加減忘れてた…ι」


 冷静に戻ってみれば、結構強い力で踏み付けてことことに気付いて流石の快斗も少しやりすぎだったかなぁ、と反省する。


「ったく、いつまで経っても戻ってこないと思ったら…何やってたんだよ…」


 快斗が平次から足を退かしたのを確認して、新一は呆れたようにそう言い放った。


「だって〜」
「うるせえ。言い訳はきかねえからな」

 さっさとそれ捨ててこい!


 『それ』を指差してきっぱりとそう告げる。


「新一…『それ』って…ι」

 物扱い?
 いや、俺は全然構わないんだけど…。

「く…く…どぅ…」


 『それ』とすっかり新一に物扱いされてしまった平次は目から激流の涙を流していた。


「お前が悪い!」


 そんな平次のこと等気にも止めず、びしっ!と快斗を指差して新一はそう言い放った。


「え? 俺?」

 なんでまた…。

「そんなもん構ってないで俺のコーヒーさっさと淹れろ!」


 あくまで命令口調で告げことた言葉の中に、別の意味が含まれていることに気付いた快斗は途端にやに下がった顔になる。


「新一、俺が『これ』にばっかり構ってたから寂しくなっちゃった?」
「………早くコーヒー淹れやがれ…///」
「あっ、待ってよ新一〜Vv」


 真っ赤になって、さっさと家の中へと引き上げてしまった新一を快斗は慌てて追おうとする。
 が、最後にこれだけは言っておかなければならない。


「服部君。これにこりたら『俺の新一』に気軽にちょっかい出さないでよね?」

 次は本気で殺すよ?


ニッコリと満面の笑みで、けれど瞳は本当にそれを実行しそうなほど底冷えするもので、平次はその視線の圧力だけで気を失ってしまった。


「まったく…この程度で新一にちょっかい出そうっていうんだから…」

 悪いけど、俺に叶う訳ないじゃん♪
 まあ、いっか。やきもち焼く可愛い新一が見れたしVv
 その点については感謝かもね。

(そのお礼はしなくちゃいけないかな)


 心の中で静かにそう思うと、快斗はポケットから携帯を取り出した。
 この状況でかけるべき相手は決まっている。


『もしもし?』
「あ、哀ちゃん? 今さ家の前に実験材料が一個落ちてるんだけど回収しにきてくれない?」
『あら、さっき騒いでた黒い鳥かしら?』
「そうそう。伸びきって大人しくなってるから連れて行くの楽だと思うし」
『解ったわ。すぐ博士に拾いに行って貰うから』
「うん、じゃあ存分に使ってね♪」
『ええ、そうさせてもらうわ』


 ニヤリ、と不敵に笑って快斗は電話を切る。
 これで邪魔者の始末もすぐつく事だし…。


「新一君に早く美味しいコーヒー淹れてあげなくちゃねVv」

 あ、それより構ってあげる方が先かな〜Vv


 ルンルンとしながら家の中に入って行く快斗。
 玄関の外には黒い塊だけが残されていた。




 数時間後、隣の家から凄まじい断末魔が聞こえたのは言うまでもない…。










END.


所詮鳥は鳥…(爆) 実験材料が関の山〜♪(酷)


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